睡眠時無呼吸症候群を放置すると死亡につながる理由と対策
睡眠時無呼吸症候群は寝ている間に症状が現れるため、気づきにくい病気です。
また、仕事で多忙な中年男性の患者が多いこともあり、うすうす病気に気づいている人も、病院への受診が遅くなりがちです。
しかし、この病気を放っておくと、心筋梗塞のような命にかかわる合併症が引き起こされる危険があるので、甘く見てはいけません。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群が死亡リスクを増加させる原因について説明します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは、寝ている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。
医学的には、10秒以上の呼吸停止や低呼吸が、1時間あたり平均で5回以上あれば、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
この病気の原因は、閉塞性と中枢性に分けられますが、患者のほとんどは閉塞性です。
・閉塞性:就寝中に気道がふさがれたり狭くなることで呼吸が妨げられる
・中枢性:脳や神経、心臓の病気によって呼吸中枢が正常に働かなくなる
閉塞性の患者の主な症状は、いびきです。毎日のように激しいいびきが生じるため、一緒に寝ている人は安眠が妨害され、「うるさい」と指摘されることも少なくありません。
また、自分では気づかなくても呼吸が一瞬止まっているため、一緒に寝ている人が不安になってしまい、心配をかけることもよくあります。
2.睡眠時無呼吸症候群の合併症
睡眠時無呼吸症候群により、寝ている間に呼吸が止まっても、そのまま死んでしまうことはまずありません。呼吸は止まっても、すぐに再開します。
しかし、病気を治療せずに放っておくと、命にかかわる合併症が進行し、突然死に至ることがあります。
また、合併症により重い後遺症が生じたり、がん発症のリスクが高まる危険もあります。
2-1.心筋梗塞・心不全
睡眠中に呼吸が妨げられると、体内の酸素が不足します。すると、酸素を多く取り込もうとして、心臓が強くはたらきます。
このように、心臓や血管に過剰な負担がかかり続けることで動脈硬化が進み、心筋梗塞を発症したり、心不全に陥る恐れがあります。
心臓や血管に負担がかかっても、すぐに症状が現れるわけではありません。しかし、気づかぬうちに徐々に症状が進行し、病院を受診した時には、既に心臓の動きがかなり弱くなっていることも珍しくありません。
特に、心筋梗塞を起こすと、心臓の筋肉に血液が届かず、突然死に至ることがあります。
2-2.脳梗塞・脳卒中
睡眠中の酸素不足により血管に負担がかかり続けると、脳梗塞や脳卒中の発症リスクも高くなります。
無呼吸により体内の酸素が不足すると、血液の流れが悪くなり、脳に酸素や栄養が届きにくくなるからです。
さらに、睡眠が妨げられることで血圧が高くなり、しかも、高い状態から下がりにくくなってしまうこともあります。
このような原因が重なった結果、脳の血管が詰まって脳梗塞が引き起こされたり、脳の血管が破れて突然死につながる恐れがあります。
また、梗塞や出血の範囲によっては、たとえ命はとりとめても麻痺や言語障害などの後遺症が残り、生活の質が著しく下がるケースもあります。
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2-3.高血圧
通常、睡眠中は体を休めるために、心身をリラックスさせるはたらきを持つ副交感神経が優位となります。
しかし、睡眠時無呼吸症候群の人は、呼吸が止まるたびに体が覚醒するため、活動時に優位にはたらく交感神経が刺激され、睡眠中に血圧が上がります。
さらに、無呼吸により不足した体内の酸素を補うため心臓が過剰に働くことでも、心臓や血管に負担がかかり、血圧が上がります。
睡眠時無呼吸症候群によって高血圧が引き起こされると、降圧剤が効きにくい「治療抵抗性高血圧」になりやすいため、症状をコントロールするのが難しくなります。
【参考情報】『Resistant Hypertension』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/high-blood-pressure-hypertension/resistant-hypertension
薬による治療が難しい高血圧は、心血管疾患のリスクも増すので、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症のリスクも高くなります。
2-4.糖尿病
病気のため熟睡できずに睡眠の質が下がると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンのはたらきが悪くなり、糖尿病のリスクが増します。
また、睡眠不足になると、満腹感をもたらすホルモンであるレプチンが減り、反対に食欲を増すホルモンのグレリンが増えます。そのため食欲が増し、食べ過ぎてしまうことで太りやすくなります。
肥満になると、血糖値を下げるホルモンがうまく機能せず、体内の糖分が制御しにくくなります。その結果、糖尿病を発症するリスクが高まります。
糖尿病になると、血管内にコレステロールの塊であるプラークができやすくなります。その結果、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上がります。
また、糖尿病の人はがんにかかりやすいとされています。糖尿病とがんの関係は、まだ完全にはわかっていませんが、糖尿病により多くのインスリンが分泌されることで、腫瘍細胞の成長が促進される可能性が推察されています。
【参考情報】『糖尿病とその後のがん罹患との関連について』国立がん研究センター
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/288.html
3.睡眠時無呼吸症候群により高まる事故のリスク
睡眠時無呼吸症候群になると、睡眠の質量が下がるため、昼間に眠くなることが増えます。この眠気が我慢できないほど強くなると、運転事故を起こすことがあります。
2003年2月、JR山陽新幹線の運転士が居眠り運転し、駅の手前で電車が自動停止したことがありました。この居眠り運転の原因は、睡眠時無呼吸症候群にあると報道されています。
また、2012年に起きた関越自動車道高速バスの居眠り運転による事故では、乗客に死傷者も出ました。このバスの運転手は、事故後に睡眠時無呼吸症候群だと診断されています。
このように、病気による異常な眠気から交通事故を起こし、取り返しのつかない事態に陥ることもあります。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)問題対策』内閣府
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h15kou_haku/h15gait2.html
4.治療で命にかかわる病気のリスクは減らせるのか
睡眠時無呼吸症候群と診断されたら、主にCPAP(シーパップ)という医療機器を用いて、寝ている間に鼻から空気を送り込み、呼吸をサポートします。
CPAPを使用すると、睡眠中に呼吸が止まることがなくなるため、心臓や血管への負荷が軽減され、合併症の予防・改善に役立ちます。
また、睡眠の質が大幅にアップするため目覚めが良くなり、日中の眠気も改善していきます。そのため、居眠り運転のリスクも減らすことができます。
特に、重症の患者さんほど効果がはっきりとわかるようで、「もっと早くから使用していれば」という感想を聞くことが多いです。
5.おわりに
睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、心筋梗塞など命にかかわる病気のリスクが上がり、突然死に至ることがあります。また、合併症である糖尿病や高血圧でも、突然死につながる病気のリスクが増加します。
いびきや昼間の眠気が激しい人は、疲れや加齢のせいだと決めつけず、睡眠時無呼吸症候群の検査や治療ができる病院を受診して相談してください。
早めに治療を行えば、心筋梗塞や脳卒中のリスクが健康な人と同じ程度まで抑えられ、大切な命を守ることができます。