ブログカテゴリ
外来

誤嚥性肺炎とは? 食事でむせる・咳き込む人は要注意

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年08月12日

食事中にむせてしまったり、固いものがうまく飲み込めないことが多い人は、誤嚥(ごえん)性肺炎に注意する必要があります。

飲み込む力が弱いと、食べ物や飲み物が誤って肺に入ってしまい、そのせいで肺が炎症を起こすことがあるからです。

この記事では、誤嚥性肺炎とはどんな病気なのかを説明します。原因や治療法のほか、予防法も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

1.誤嚥性肺炎とは


通常、食べ物は口から食道を通って胃に運ばれます。しかし、何らかの原因で、胃ではなく肺に入ってしまうことがあります。これを誤嚥と言います。

【参考情報】『誤嚥』日本気管食道科学会
https://www.kishoku.gr.jp/disease/aspiration/

誤嚥性肺炎とは、食べ物、飲み物、唾液などが誤って咽頭や気管に入り、そこから肺に入り込むことで、肺に炎症が起こる病気です。

誤嚥により食べ物が肺に入ると、食べ物や唾液の中に含まれていた細菌も一緒に、肺の中に入ります。

食べ物と一緒に細菌が胃に入っても、胃酸によってほとんどの細菌は殺菌されます。しかし、肺には胃のような強力な殺菌作用がないため、細菌は生き残り、炎症を引き起こすのです。

加齢に伴い飲み込む力が衰えてくる、また、誤嚥したものを吐き出す力も弱くなってくると、誤嚥性肺炎のリスクは高くなります。

飲み込む力が弱くなると、睡眠中などに唾液を少しずつ誤嚥することもあります。このような誤嚥を不顕性(ふけんせい)誤嚥と言いますが、不顕性誤嚥では、明らかな症状が現れないまま誤嚥性肺炎を発症することがあります。

誤嚥性肺炎は高齢者に多い病気ですが、若い人でも発症することがあります。例えば、泥酔状態で眠ったり、早食いをした場合に誤嚥して発症する可能性があります。

【参考情報】『誤嚥性肺炎』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.html

2.誤嚥性肺炎の原因


誤嚥性肺炎の原因は、加齢によるものが多いのですが、その他にもいくつかの原因が考えられます。

2-1.嚥下機能の低下

嚥下(えんげ)とは、食べ物を口で噛み、飲み込んで食道から胃に運ぶことを指します。この嚥下機能が加齢によって衰えてくると、食べ物を噛み砕く力や飲み込む力が弱くなり、誤嚥しやすくなります。

【参考情報】『嚥下障害』日本気管食道科学会
https://www.jibika.or.jp/owned/contents6.html

嚥下機能は、病気によって低下することもあります。例えば、脳梗塞やパーキンソン病、認知症などが原因として挙げられます。

お酒をたくさん飲む人も注意が必要です。アルコールには筋肉を弛緩させる作用があるため、飲み込む際に使う筋肉も緩んでしまい、誤嚥の可能性が高まります。

2-2.咳反射の低下

咳反射とは、異物を体外に排出しようとする体の仕組みです。この咳反射のおかげで、食べ物や飲み物が誤って気管に入った場合でも、咳をして吐き出すことができます。

【参考情報】『咳反射』日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/words/word00588.html

しかし、高齢になると咳反射が弱まり、食べ物が気管に入っても咳が出なくなることがあります。

また、脳梗塞の後遺症で麻痺がある人も、咳反射がうまく機能しないことがあります。

このように、咳反射が低下した人は、誤嚥したものを吐き出すことができずに、誤嚥性肺炎になることがあります。

2-3.口腔内の衛生状態の悪化

歯磨きなどの口腔ケアが不十分な人は、口の中に食べカスや汚れが残り、そこから細菌が増殖します。

また、加齢などで唾液が減少すると、口の中の清潔を保つための唾液のはたらきが弱まり、ウイルスや細菌の増殖を防ぐ力が低下します。

このような理由で口の中が汚れやすくなり、細菌が増えると、食べ物と一緒に細菌を飲み込んでしまい、誤嚥性肺炎になる可能性が高まります。

【参考情報】『口腔衛生(こうくうえいせい)』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-002.html

2-4.薬の副作用

抗精神病薬の中には、嚥下反射や咳反射を抑制するものがあります。これらの副作用によって、誤嚥のリスクが高くなります。

また、睡眠薬の中には筋弛緩作用を持つものがあります。この作用により、飲み込む際に使う筋肉もゆるくなるため、誤嚥の原因となることがあります。

2-5.胃食道逆流症

胃食道逆流症とは、食べ物や胃液などが、胃から食道へ逆流してくる病気です。

この病気により、胃の中の内容物が喉のあたりまで逆流すると、それらが誤って肺に入り込み、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。

【参考情報】『Gastroesophageal reflux disease (GERD)』Mayo Ckinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/gerd/symptoms-causes/syc-20361940

3.誤嚥性肺炎の症状


誤嚥性肺炎によって肺に炎症が起こると、以下のような症状が現れます。

 ・発熱

 ・咳

 ・痰

 ・呼吸がしにくい

風邪とよく似た症状が現れるため、判断しにくいことも多いのですが、「咳」「痰」「息苦しさ」に注目してください。

痰は色が濃く、粘り気があります。喉のあたりに溜まって、ゴロゴロとした感じがすることもあります。

高齢者や寝たきりの人では、症状が分かりにくいことがあります。そのような場合、以下のような症状からも誤嚥性肺炎を疑ってみてください。

 ・元気がない

 ・食欲がない

 ・食事に時間がかかる

 ・体重減少

炎症が長く続くと、全身の状態が悪化することがよくあります。普段と違う様子があれば、早めに病院を受診しておくのがよいでしょう。

◆「息苦しい・呼吸がしにくいと感じたら、呼吸器内科を受診しましょう」>>

4.誤嚥性肺炎の検査


誤嚥性肺炎を疑った場合、病院では必要に応じて以下のような検査を行います。

4-1.画像検査

胸部X線(レントゲン)やCTで肺に炎症があるかどうかを確認します。

X線では炎症がある部分が白く映ることがありますが、見えにくい場合もあります。より詳細に調べる必要がある場合は、CTを行います。

◆「レントゲン写真から、呼吸器内科でわかること」>>

4-2.血液検査

血液を採取し、炎症や全身状態を確認します。細菌による感染があると、白血球の数や炎症を示す数値が上がります。

誤嚥性肺炎の患者さんは高齢者が多いので、併せて全身状態も確認することがあります。

5.誤嚥性肺炎の治療


誤嚥性肺炎だとわかったら、主に抗菌薬による治療で炎症を鎮めます。その他、症状に合わせて去痰薬や咳止め薬を使用することもあります。

◆「去痰薬・ムコダインの特徴と効果、副作用」>>

重症化した場合は、抗菌剤とともにステロイド薬を使うことがあります。

◆「ステロイド薬・プレドニゾロンの特徴と効果、副作用」>>

息苦しさが強い場合や、呼吸の状態が悪くて酸素が十分に取り込めない場合は、酸素療法で酸素を吸入したり、人工呼吸器を使った治療を行う場合もあります。

6.誤嚥性肺炎の予防


誤嚥性肺炎は、再発を繰り返してしまうこともよくあります。

予防対策をしっかり行い、感染や再発から身を守りましょう。

6-1.口腔内を清潔に保つ

口の中を清潔にすることで、口腔内の細菌を減らし、誤嚥性肺炎を予防できます。

食後に歯磨きや義歯の手入れをしっかり行い、清潔を保つようにしましょう。

虫歯や歯周病があれば、放置せずに治療しておくことも大切です。

【参考情報】『歯周病と誤嚥性肺炎は関係あるの?』東京都立心身障害者口腔保健センター
https://www.tokyo-ohc.org/message/pdf/centerdayori/s25.pdf

6-2.オーラルフレイルの予防

オーラルフレイルとは、飲み込む力や噛む力が弱まり、口の中の機能が低下している状態を指します。

口の周りの筋肉を鍛えることで飲み込む力や噛む力を強化し、オーラルフレイルを予防することで、誤嚥のリスクを減らすことができます。

【参考情報】『オーラルフレイル』日本歯科医師会
https://www.jda.or.jp/oral_frail/

6-3.早食いをせず、ゆっくり食べる

飲み込む力が弱い人が、一度に多くの食べ物を口に入れると、誤嚥のリスクが高まります。

また、急いで食べることも危険なので、食べ物は少量ずつ口に入れ、ゆっくりとよく噛んで食べるようにしましょう。

6-4.調理法の工夫

嚥下機能が低下した人でも、おかゆやポタージュなどのとろみのある料理や、プリンやゼリーなどのツルっとした食べ物なら飲み込みやすいので、誤嚥しにくいです

反対に、水分が少なくてパサパサしたものや、固くてかみ切りにくいものは。誤嚥のリスクが高くなります。

7.おわりに

誤嚥性肺炎は、治っても再び誤嚥してしまい、再発することが多い病気です。

口腔内の衛生管理や食事の際の注意などで予防に努めることが肝心ですが、高齢になってくると自己管理が難しいこともあるので、咳や痰、呼吸の異常が続いていたら、早めに医療機関を受診してください。

◆横浜市で呼吸器内科をお探しなら>>

電話番号のご案内
電話番号のご案内
横浜市南区六ツ川1-81 FHCビル2階