喘息と胃食道逆流症の関係とは?
喘息の症状がなかなか改善しない場合、その背後に胃食道逆流症(GERD)が潜んでいる可能性があります。
これら二つの病気は、まったく関係ないように思われるかもしれませんが、喘息の患者さんは、胃食道逆流症を合併していることが多いのです。
この記事では、なぜ胃食道逆流症が喘息を悪化させるのか、そしてどのようにして対処できるのかについて、くわしく解説します。
目次
1.喘息とはどんな病気か
喘息とは、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が生じることで引き起こされる病気です。
この病気の原因は、アレルギーによるものと、アレルギー以外のものがあります。
アレルギーの原因には、ダニやペットの毛、花粉などがあります。一方、アレルギー以外の原因には、過労やストレス、風邪などの呼吸器感染症、タバコ、気候の影響などがあります。
喘息の人の気道は、炎症により過敏になっているため、冷たい空気や強い匂いなどのわずかな刺激にも反応し、以下のような症状が現れます。
・激しい咳
・喘鳴(ぜんめい:ゼイゼイ、ヒューヒューという呼吸音)
・息苦しさ
・胸の痛み
喘息発作を繰り返すと気道の炎症が悪化し、治療がますます難しくなります。また、発作が重症化すると、命に関わることもあります。
そのため、治療によって喘息発作を予防し、しっかりと症状をコントロールすることが重要です。
2.胃食道逆流症とはどんな病気か
胃食道逆流症とは、胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで起こる病気です。
胃と食道の境目には、下部食道括約筋という筋肉があります。この筋肉は、食事の時以外はしっかりと閉じられ、胃酸や胃の中の飲食物の逆流を防いでいます。
しかし、何らかの原因によって下部食道括約筋がうまくはたらかないと、逆流が生じます。
例えば、加齢によって下部食道括約筋がゆるんでしまうと、うまく閉じられなくなるため、食道に胃の内容物が逆流しやすくなります。
また、食べ過ぎや食べる時の姿勢、力の入れ過ぎによって胃の圧力が高まると、下部食道括約筋が締まる力よりも、胃の圧力が上回ることで逆流することもあります。
さらに、消化不良で胃に内容物が長くとどまったり、食事によって胃酸が多く分泌されたりすることも、逆流の原因になります。
このような逆流があると、胃酸に対する刺激に食道が耐えられずに、以下のような症状が引き起こされます。
・胸焼け
・呑酸(どんさん)
・のどの痛み
・咳
・声枯れ
呑酸とは、胃酸が逆流して口や喉に苦味や酸味を感じる症状のことです。
【参考情報】『患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023』日本消化器病学会
https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/gerd_2023.pdf
3.喘息と胃食道逆流症の関係
胃食道逆流症で刺激を受ける食道と、空気が通る気道や気管は近い位置にあるため、お互いに影響を及ぼすことも少なくありません。
3-1.胃食道逆流症の喘息への影響
胃食道逆流症が喘息を悪化させる理由には、以下のようなものがあります。
・胃食道逆流症によって胃酸が逆流すると、気道の粘膜が刺激され、喘息の人にもともと生じている気道の炎症が悪化します。
・胃酸の逆流によって、食道粘膜にある迷走神経が刺激されると気道が過敏になり、咳が出やすくなります。
・逆流した胃酸や胃の内容物を誤嚥(ごえん:飲食物が誤って気管や肺に入る)すると、気道に刺激が加わり、咳が出ることが多くなります。
このように、胃食道逆流症の症状は、気道の炎症を悪化させたり咳を誘発するため、喘息の症状のコントロールが難しくなります。
3-2.喘息の胃食道逆流症への影響
反対に、喘息の症状や喘息の治療によって、胃食道逆流症の症状が悪化することもあります。
・喘息により激しい咳が続くと、咳の刺激で胃の内容物が逆流することがあります。その結果、食道の炎症が広がり、胃食道逆流症が悪化します。
・喘息の治療薬にはテオフィリン系(キサンチン系)と呼ばれる薬がありますが、この種類の薬は胃食道逆流症の症状を悪化させることがあります。
【参考情報】『Theophylline (Oral Route)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/drugs-supplements/theophylline-oral-route/description/drg-20073599
・胃食道逆流症の治療で使われるプロトンポンプ阻害薬という薬は、テオフィリン系の薬と一緒に服用すると、血液中の薬の濃度が下がって作用が弱まることがあります。
【参考情報】『Proton Pump Inhibitors』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/proton-pump-inhibitors
これらの理由から、胃食道逆流症のある喘息患者には、テオフィリン系の薬の投与量を減らしたり、中止を検討することがあります。
ただし、胃食道逆流症の症状があるからといって、勝手に喘息治療薬の量を減らしたり、服用を中止することは絶対にしないでください。
気になることがあれば、自分だけで判断せず、医師に相談することが大切です。
【参考情報】『Asthma and acid reflux: Are they linked?』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/expert-answers/asthma-and-acid-reflux/faq-20057993
4.喘息の症状は胃食道逆流症の治療で改善するのか
胃食道逆流症の治療には、プロトンポンプ阻害薬と呼ばれる薬がよく使われています。この薬は胃酸の分泌量を抑え、逆流による症状を改善させる作用があります。
ほかには、消化管の運動を促す薬や、食道の粘膜を保護する薬などを服用することもあります。
ただし、これらの治療は根本的な治療ではないため、薬の内服を止めてしまうと再び症状が現れます。症状がよくなっても、継続して薬を飲み続けることが必要です。
もし、胃食道逆流症が喘息を悪化させている場合、これらの治療を行うことで喘息の症状が軽減する可能性があります。また、喘息治療に用いているステロイド薬などの使用量を減らせることも期待できます。
ただし、胃食道逆流症の薬物療法は、根本的な治療ではないため、薬の服用を止めてしまうと再び症状が現れます。ですから、症状がよくなっても油断せず、継続して薬を飲み続けることが必要です。
胃食道逆流症の原因によっては、生活習慣の改善も併せて行う必要があります。
例えば、「食後すぐに横にならない」「暴飲暴食をしない」といったことが大切です。これらの注意により、食べ物がしっかりと胃に留まり、食道への逆流を防ぐことができます。
5.おわりに
胃食道逆流症は、喘息に悪影響を及ぼします。もし、喘息の患者さんに、胸焼けや声枯れなど胃食道逆流症のような症状があるようなら、主治医に相談してみましょう。胃食道逆流症の合併は、喘息を診察している医師にとって非常に有用な情報です。
胃食道逆流症の症状が、薬物治療などで改善すれば、喘息の症状も改善される可能性があります。
適切な治療を受けることで、喘息の発作を抑えやすくなる場合もあります。さらに、生活習慣の見直しや薬物治療などを組み合わせることで、より良いコントロールが期待できるでしょう。