喘息治療に用いる注射薬「ファセンラ」の特徴と効果、副作用
薬を毎日しっかりと使っていても、なかなか喘息の症状がコントロールできない場合、「生物学的製剤」と呼ばれる薬を注射すると、効果を感じられる可能性があります。
ファセンラは、皮下注射することで喘息のつらい症状をコントロールする生物学的製剤です。発売当初は成人しか使用できない薬でしたが、2024年3月から、6歳以上の子どもにも承認がおりました。
この記事では、ファセンラのはたらきや使い方、副作用などについて解説します。
1.ファセンラとはどのような薬か
ファセンラはベンラリズマブ(遺伝子組換え)を主成分とした皮下注射薬です。4週間〜8週間ごとに打ち、喘息の症状をコントロールします。
現在、ファセンラはベンラリズマブを10mg配合したシリンジ(注射器の筒の部分:この中に薬が入っている)と、30mg配合したシリンジが発売されています。
ファセンラの成分であるベンラリズマブは、免疫系ではたらくNK(ナチュラルキラー)細胞を引き寄せ、気管支に炎症を起こす好酸球を除去します。さらに、ベンラリズマブは好酸球を活性化させるインターロイキン5(IL-5)のはたらきを阻害します。
【参考情報】『Benralizumab Injection』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/druginfo/meds/a618002.html
好酸球は、本来は体を守ってくれる大切な細胞です。しかし、異常に増加するとアレルギー症状が重く出てしまい、喘息の発作がなかなか治らない状況につながります。
ファセンラは、このような難治性の喘息の方に対して定期的に使用する薬です。例えば、吸入ステロイド薬をたくさん使用しても症状がコントロールできず、ステロイドの飲み薬を出さないといけないくらい重症の患者が対象です。
そのため、ファセンラはステロイドの飲み薬を減らしていきたい場合や、喘息発作による緊急受診や入院の頻度を減らしていきたい場合に処方されるでしょう。
ファセンラが発売された当初は、成人のみが対象の薬でした。ですが、2024年3月に小児の重症喘息への適応も承認され、6歳以上の子どもから使用できるようになりました。
【参考情報】『「小児気管支喘息・治療管理ガイドライン2023」の表5-3の一部改訂について』日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/news/both/20240402-4678/
2.ファセンラの使い方
ファセンラの服用方法は以下となります。
<体重が35kg以上かつ6歳以上の子どもや成人>
ファセンラ皮下注30mgシリンジを1回1本、皮下注射します。
<6歳以上12歳未満で体重が35kg未満の子ども>
ファセンラ皮下注10mgシリンジを1回1本、皮下注射します。
いずれの場合も、初回に皮下注射を行い、その後4週間後と8週間後にも1回ずつ皮下注射します。その後は、8週間ごとに皮下注射を続けます。
ファセンラの皮下注射は、受診先の医師や看護師が行います。注射する箇所は、基本的に腕・太もも・お腹のいずれかです。
3.ファセンラの副作用
ファセンラの副作用には次のようなものがあります。
・頭痛
・発熱
・注射部位の赤み、腫れ、痛み
また、めったにありませんが以下の重篤な副作用が起こる可能性があります。
・アナフィラキシー
【参考情報】『アナフィラキシー』アレルギーポータル
https://allergyportal.jp/provision/anaphylaxis/
ファセンラの皮下注射は受診先で行うので、注射後にじんましんや全身のかゆみ、息苦しさなどの異変を感じたら、その病院の医師や看護師にすぐに報告してください。
4.使用上の注意点
ファセンラは、基本的に6歳以上の子どもから使用できる薬です。
妊娠中・授乳中の場合は、医師の判断で使用するかどうかを決めます。妊娠中の人や、妊娠している可能性がある人は、必ず医師に相談しましょう。
ファセンラは、ステロイド薬や他の喘息治療薬と一緒に使用することがあります。ファセンラの使用を始めたからといって、自己判断で他の治療薬の使用量を減らすことはしないでください。
ファセンラは、寄生虫感染の治療薬の効き目をなくしてしまう可能性があります。ファセンラの使用期間中に寄生虫に感染した場合やその疑いがある場合は、医師や薬剤師に相談してください。
5.ファセンラの薬価
ファセンラのシリンジ1本あたりの薬価(2024年9月調べ)は次のとおりです。
・ファセンラ皮下注30mgシリンジ 319,342円/筒
・ファセンラ皮下注10mgシリンジ 134,121円/筒
ファセンラにはジェネリック医薬品はありません。また、同じ成分の市販薬もありません。
喘息の治療は、市販薬では行えません。咳などの症状が強いときは、発作治療薬(リリーバー)を使用するか、病院を受診してください。
ファセンラは高価な薬剤なので、患者さんの金銭的な負担が生じることもあるでしょう。
治療費が高額になる場合は、高額療養費制度や保険組合の付加給付が利用できることもあります。また、子どもの場合も、自治体による助成制度や小児慢性特定疾病医療費助成制度が利用できる場合があります。
【参考情報】『高額療養費制度を利用される皆さまへ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
6.おわりに
ファセンラが合わない場合は、似たような作用のある注射薬・ヌーカラを使用できる場合がありますので、医師へ相談するのが良いでしょう。
また、ファセンラのような喘息治療に用いる生物学的製剤には、ゾレアやデュピクセントなどがあります。
重症の喘息患者さんは、ファセンラのような皮下注射薬を使用することで、吸入薬や飲み薬の服用頻度を減らすことが期待できます。
ただし、他の治療薬をすべて中止して良いわけではないので、医師の指示をしっかりと確認しながら治療を続けましょう。