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糖尿病の人が知っておきたいお酒の飲み方とは

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年11月11日

適度な飲酒は、リラックス効果やストレス緩和といったプラスの影響をもたらすことがあります。

しかし、糖尿病の人にとっては、飲酒が血糖値のコントロールに影響を及ぼすリスクがあるため注意が必要です。

この記事では、糖尿病と飲酒の関係について解説し、飲酒が血糖値や合併症にどのような影響を与えるかを説明します。

糖尿病の方でも安心して楽しめるお酒の飲み方やポイントについても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

1.糖尿病とはどんな病気か


糖尿病とは、血糖値をコントロールするホルモンであるインスリンの分泌量が低下することや、インスリンのはたらきが悪くなることで、血糖値が高い状態が続く病気です。

<診断基準>
空腹時の血糖値が126mg/dL以上、
または食後2時間後の血糖値が200mg/dL以上

この病気には、免疫の異常が原因と推測される1型と、食事や運動などの生活習慣や遺伝の影響で発症する2型がありますが、患者のほとんどは2型です。

この病気の厄介な点は、自覚症状がほとんどないことです。血糖値が少し高いだけでは症状が出ないため、異変に気づいたときには既に悪化している場合もあります。

糖尿病は、一度発症すると基本的には治らない病気です。また、発症後は早めに血糖値をコントロールしないと、以下のような合併症を引き起こす恐れがあります。

 ・動脈硬化

 ・腎障害

 ・網膜症

 ・神経障害

合併症が進行すると、心筋梗塞や脳梗塞などの命にかかわる危険があるだけではなく、人工透析や失明により日常生活に支障をきたすこともあります。

◆「糖尿病」についてもっとくわしく>>

2.過度な飲酒が健康に与える影響


飲酒は少量であれば健康に良いと聞いたことがあるかもしれません。

しかし、過度な飲酒は健康に大きな悪影響を与える可能性があります。

2-1.飲酒による影響が大きい病気

過度な飲酒は、生活習慣病のリスクを高め、さまざまな臓器に悪影響を及ぼす恐れがあります。

具体的には、高血圧、肝硬変、すい炎、痛風、がん、認知症などのリスクが増加します。特に、アルコールの分解にかかわる肝臓は影響を受けやすく、肝臓病のリスクが高くなります。

肝臓に問題が生じると、ブドウ糖の貯蔵や供給がうまくいかず、血糖値にも影響が及ぶため、糖尿病のリスクも高まります。

また、すでに糖尿病を発症している人は、合併症のリスクがさらに上がります。

【参考情報】『習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方』厚生労働省
https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/leaf-alcohol-male_a5.pdf?1682001420120

2-2. 肥満

肝臓は、アルコールや薬剤などを代謝する際に生じる有害物質を無毒化する解毒作用を持っています。

さらに、栄養分の分解や合成などさまざまなはたらきを持っていますが、体にとって有害なアルコールの分解は優先して行われるため、お酒を飲むと他のはたらきは後回しになります。

その結果、分解されずに余った脂質や糖質が中性脂肪となって、皮下や内臓に蓄積されます。

また、お酒を飲むときのおつまみにも糖分や脂質が多く含まれることがありますし、お酒そのものにも、糖分が多く含まれるものがあります。

このような理由から、アルコールの摂取が肥満につながる可能性があります。肥満は、糖尿病や高血圧、脂質異常症など、さまざまな病気の原因となることがあります。

【参考情報】『アルコールとメタボリックシンドローム』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-005.html

2-3.アルコール依存症

アルコール依存症とは、大量のアルコールを長期間摂取し続けることで、飲酒をやめられなくなる病気です。

この病気になると、飲酒を止めたいと思っても自分の意志では止められず、コントロールができなくなります。

さらに、アルコールが体から抜けると、手の震えや発汗、イライラ、不安などの症状が現れることがあります。

このような状態になると、自分の力ではどうにもならないことが多いため、適切な治療が必要です。

【参考情報】『アルコール依存症』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-016.html

3.飲酒が糖尿病に与える影響


お酒の飲み方や量によっては、糖尿病を引き起こしたり、症状を悪化させたりする可能性があります。

この章では、飲酒が糖尿病に与える影響について説明します。

3-1.お酒の適量とは

適切な飲酒量は、お酒の量や度数ではなく、中に含まれるアルコールの量である「純アルコール量」で判断します。

生活習慣病のリスクを高める純アルコール量は、男性で1日あたり40g以上、女性で20g以上とされています。そのため、飲酒量がこの基準を超えないようにすることが大切です。

主なお酒の純アルコール量20gの目安は、以下の通りです。

 ・ビール(5%) 中瓶1本(500ml)

 ・日本酒(15%)1合弱(160mlぐらい)

 ・チューハイ(7%) レギュラー缶1本(350ml)

 ・ワイン(12%) グラス2杯(200ml)

 ・ウイスキー(40%) ダブル1杯(60ml)

これらの数値はあくまで目安なので、体調や体質なども考慮しながら、飲酒量をコントロールする必要があります。

【参考情報】『健康に配慮した飲酒に関するガイドライン』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf

3-2.適量の飲酒が糖尿病に与える影響

少量のアルコールはインスリンの分泌を促し、そのはたらきを良くするため、血糖値を下げる作用があります。そのため、飲み方や量を工夫すれば、お酒は糖尿病の発症や悪化を防ぐ作用が期待できます。

お酒を少量飲む人は、まったく飲まない人より、糖尿病の発症や悪化のリスクが低いという報告もあります。

【参考情報】『アルコールと糖尿病』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-013.html

【参考情報】『アルコールの作用』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-003.html

3-3.過度な飲酒が糖尿病に与える影響

少量の飲酒はインスリンの分泌量を促しますが、過度になれば、逆にインスリンの分泌量が低下します。

また、インスリンが十分に分泌されたとしても、血糖値を正常に保つようにするはたらきが弱くなるので、血糖値が上がります。

【参考情報】『Alcohol decreases insulin sensitivity in healthy subjects』PubMed|National Center for Biotechnology Information
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3291882/

3-4.低血糖に注意

糖尿病は、血糖値が高い状態が続く病気ですが、糖尿病の人がお酒を飲むと、逆に血糖値が低くなりすぎることがあります。

お酒を飲むと、肝臓は体内に入ってきたアルコールを分解するはたらきを優先し、他のはたらきを後回しにします。

すると、肝臓に蓄えていたブドウ糖を、血液中に放出するはたらきが弱くなり、低血糖を引き起こすことがあります。

特に、インスリン投与や内服薬で血糖値をコントロールしている患者さんは、注意が必要です。

【参考情報】『低血糖』糖尿病情報センター|国立国際医療研究センター
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/050/05.html

3-5.お酒の種類によって影響は変わるのか

お酒には、糖分が多く含まれるものがあります。例えば、チューハイやカクテル、梅酒などには糖分が多く含まれているので、これらを飲むと血糖値が上昇しやすくなります。

反対に、ウイスキーや焼酎などの蒸留酒は糖分が少ないお酒ですが、度数が高いので、少量でも純アルコール量は高くなります。また、甘いジュースなどで割ると、やはり血糖値が上がりやすくなります。

お酒の代わりに楽しめるノンアルコール飲料にも、糖分が多く含まれている製品があるので注意しましょう。

4.適切なお酒の飲み方と注意点


糖尿病の発症や悪化を防ぐためには、飲酒の量や食事のカロリーを考えつつ、うまく付き合っていく必要があります。

以下、適切なお酒の飲み方と注意点について説明します。

4-1.適量を守る

既に糖尿病を発症した人は、基本的には禁酒となります。しかし、以下の条件にあてはまる人は、飲酒を楽しんでもよいでしょう。

 ・医師の許可が出ている

 ・血糖値のコントロールが良好

 ・適切な飲酒量を守ることができる

 ・合併症がない

 ・飲酒の制限が必要な他の持病がない

 ・肥満ではない

適量は、飲酒量ではなく、純アルコールの量を基準としましょう。

4-2.食事と一緒に飲む

アルコールは胃と小腸で吸収されますが、胃ではゆっくりと吸収されるのに対し、小腸では吸収スピードが速くなります。

そのため、アルコールが胃に長くとどまると吸収が遅くなり、血中のアルコール濃度が急激に上がるのを防ぐことができます。

アルコールを胃に長くとどめるには、食事と一緒にお酒を飲むのが効果的です。

食事と一緒にアルコールを摂ると、アルコールが食べ物とともに胃に長くとどまるため、アルコールの吸収が遅くなります。

それにより、肝臓やすい臓への負担が軽減され、血糖値の急激な変動を防ぐことができます。

さらに、食事をしながらお酒を飲むことで、低血糖のリスクも低くなります。

4-3.おつまみのカロリーを考慮する

糖尿病の人は、血糖値が不安定になるためカロリーの摂り過ぎには注意が必要です。しかし、お酒に合うおつまみは、脂質や糖質が多くカロリーが高くなりがちです。

おつまみは、揚げ物や味の濃い高カロリーのものではなく、焼いたり蒸したりした低脂肪のものを選ぶようにしましょう。枝豆やチーズなどタンパク質が多い食材も、肝臓のはたらきを助けるのでおすすめです。

4-4.水分を摂る

アルコールを飲むときは、水も一緒に飲むようにしましょう。そうすることで、アルコールの吸収が遅くなり、体内のアルコール濃度がゆるやかに上昇します。

さらに、アルコールの摂取量を抑える効果もあります。

4-5.休肝日を設ける

お酒を飲まない休肝日を設けることには、いくつかのメリットがあります。

・肝臓を休める
アルコール分解による負担が軽減できるので、肝障害の予防につながります。

・アルコール依存症の予防
アルコールは耐性がつきやすく、飲む量が徐々に増えがちですが、休肝日を設けることで飲む日を減らし、アルコール摂取量を抑えられます。

・肥満の予防
アルコールの摂取は肥満のリスクを高めますが、休肝日を作ることで飲む機会を減らせば、肥満の予防に役立ちます。

【参考情報】『つくろうよ 週に二日は休肝日』アルコール健康医学協会
https://arukenkyo.or.jp/health/proper/pro10/pro04.html

5.おわりに

過度な飲酒は糖尿病のリスクを高めますが、適量であれば糖尿病の発症や悪化に大きな影響はありません。お酒は、適切な量を守って楽しみましょう。

ただし、すでに糖尿病を発症している方は、飲酒が病気を悪化させる場合があるので、飲酒の可否について医師に相談しておきましょう。

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