糖尿病とこころの関係|うつ病・うつ状態に陥る理由
糖尿病と診断され、生活習慣の見直しや治療に励むなかで、気分が落ち込んだり、不安を感じたりすることはありませんか?
実は、糖尿病患者がうつ病を発症したり、うつ状態になることは、そんなに珍しいことではありません。
糖尿病とうつ病は密接に関係しており、互いに悪化を招くリスクがあるのです。
この記事では、糖尿病とうつ病の関連や対策について解説し、心身ともに健康を保つためのヒントをお届けします。
目次
1.糖尿病とはどんな病気か
糖尿病とは、血糖値を下げるインスリンというホルモンが不足したり、働きが悪くなったりすることで、血糖値が高い状態が続く病気です。
<診断基準>
空腹時の血糖値が126mg/dL以上
または食後2時間後の血糖値が200mg/dL以上
糖尿病は、大きく1型と2型にわけられます。
1型は、病原体などの異物から身を守る免疫の仕組みが、誤ってすい臓を攻撃してしまうことで発症します。
2型は、食べ過ぎや運動不足などの生活習慣の乱れや遺伝などが原因で発症します。
糖尿病は、一度発症すると基本的には完治しません。さらに、発症後は合併症にも注意が必要となり、継続的な治療が欠かせません。
2.うつ病とはどんな病気か
うつ病は気分障害の一種で、精神的・身体的な症状が日常生活に支障をきたすほど強くなる病気です。
<精神的な症状>
・意欲や興味が湧かない
・集中力が低下する
・強い悲しみを感じる
・気分が落ち込む
・イライラする
<身体的な症状>
・睡眠障害
・食欲低下、過食
・頭痛
・疲れやすい
・性欲の減退
うつ病の原因は明確には分かっていませんが、脳内の神経伝達物質であるドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンが関与しているとされています。これらの神経伝達物質は、気分のコントロールに重要な役割を果たしています。
ドーパミンやノルアドレナリンは興奮を高める働きを持つ一方で、セロトニンはそれらを抑制し、リラックスさせる役割があります。このバランスが崩れることで、うつ病が発症すると考えられています。
うつ病を発症する背景には、仕事での失敗や学校でのいじめ、就職や進学に伴う環境の変化など、さまざまな精神的・身体的ストレスが関係しています。
さらに、完璧主義や自分に厳しい性格といった、ストレスを受けやすい性格も影響しているとされています。
うつ病になると、精神的な症状よりも先に身体的な症状が現れることが多いです。また、症状は朝に強く出て、午後から夕方にかけて落ち着いてくることがあります。
ただし、症状の現れ方は人それぞれで大きく異なります。そのため、周囲から「やる気がないだけ」「ただのサボり」などと誤解されることもあります。
【参考情報】『うつ病』国立精神・神経医療研究センター
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease01.html
3.糖尿病とうつ病の関係
この章では、糖尿病とうつ病の関係について説明します。
3-1.糖尿病がうつ病のリスクを高める可能性
糖尿病患者のうち、約30%がうつ症状を抱えているとされています。この2つの病気は互いに悪影響を及ぼし合い、症状が悪化することも少なくありません。
【参考情報】『糖尿病とこころ』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-05-006.html
糖尿病の治療には、食事療法や運動療法が欠かせませんが、好きなものを自由に食べてきた人や、運動が苦手な人にとっては負担に感じることが多いでしょう。また、外食時にも血糖値を気にする必要があり、窮屈さを感じる場面も少なくありません。
さらに、食事前の血糖測定やインスリンの注射、薬の管理が毎日続くことも大きな負担となります。
このように、治療が長期にわたることがストレスを蓄積させ、結果的にうつ病を引き起こすことがあります。
加えて、糖尿病を発症すると合併症への不安も大きくなります。治療をしっかり行っていても、発症からの期間が長いなどの理由で合併症が起こることも少なくありません。
予防に努めていたにもかかわらず合併症を発症すると、自分の努力が報われなかったことから、落胆やイライラを感じることがよくあります。
また、以下の研究では、インスリン抵抗性がうつ病発症のリスクを高めることが示されています。
【参考情報】『Incident Major Depressive Disorder Predicted by Three Measures of Insulin Resistance: A Dutch Cohort Study』American Psychiatric Association Publishing
https://psychiatryonline.org/doi/10.1176/appi.ajp.2021.20101479
インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されていても、その効果が十分に発揮できない状態を指します。この状態は主に肥満や食べ過ぎによって引き起こされ、2型糖尿病の人に多く見られます。
インスリン抵抗性は、糖尿病を発症する前の段階である糖尿病予備軍の時期から徐々に進行していると考えられています。このため、糖尿病予備軍の段階でもうつ病を発症するリスクが高まります。
3-2.うつ病が糖尿病のリスクを高める可能性
糖尿病はうつ病の発症リスクを高めますが、逆にうつ病も、2型糖尿病の発症のリスクを高める可能性があります。その理由として、生活習慣の乱れや睡眠障害、抗うつ薬の服用などがあります。
うつ病の症状は、日常生活にも影響を及ぼします。たとえば、倦怠感や無気力感が強くなると活動量が減少し、運動不足になることがあります。
また、食欲不振や過食の影響で食生活が不規則になったり、食事のバランスが偏ったりすることが、肥満の原因になります。
このように、うつ病になると生活習慣が乱れやすく、肥満になりがちなので、糖尿病を発症するリスクが高まります。
うつ病は睡眠にも大きな影響を与えます。神経伝達物質のバランスが崩れたり、不安や悩みといったネガティブな思考が頭の中で繰り返されたりすることで、睡眠障害が起こりやすくなります。
睡眠時間が短くなると、食欲を増進させるホルモンの分泌が増え、食生活が乱れて肥満につながることがあります。さらに、睡眠不足によりインスリン抵抗性が高まり、血糖値が上昇することも考えられます。
さらに、抗うつ薬の副作用で体重が増えることがあります。
薬の作用で満腹中枢への刺激が抑えられると、満腹感を感じにくくなり、満足感が得られずに食べ過ぎてしまうことが多く、これが肥満につながることがあります。
また、抗うつ薬はセロトニンを増やし、リラックス効果を高めますが、リラックスすると活動量が減少するので、普段より動かなくなって体重が増えることがあります。
このような理由で、体重が増加すると脂肪も増え、インスリンの働きが悪くなるため、糖尿病のリスクが高まります。
【参考情報】『糖尿病とうつ』老年医学会雑誌 第50巻6号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/50/6/50_744/_pdf/-char/ja
4.糖尿病とうつ病を併発するとどうなるのか
糖尿病の人がうつ病を発症すると、治療に大きな影響が及びます。
4-1.血糖コントロールが難しくなる
糖尿病の治療では、血糖値を正常に保つための血糖コントロールが非常に重要です。しかし、うつ病になると無気力感や倦怠感から治療へのモチベーションが低下することがあります。
血糖コントロールが悪化すると、合併症のリスクが高まるだけでなく、極端な高血糖や低血糖を引き起こし、緊急で病院を受診する必要が増えることがあります。
さらに、状態が悪化すると薬の量が増えるので、精神的な負担のほかに、経済的な負担も増加してしまいます。
4-2.合併症のリスクが高まる
うつ病の影響で血糖コントロールがうまくいかなくなると、動脈硬化が進み、血管が詰まりやすくなります。
心臓や脳などの太い血管が詰まると、虚血性心疾患や脳卒中を引き起こすことがあります。この場合、命にかかわることもあります。
細い血管が詰まると、神経障害によりしびれが生じたり、網膜症や腎症が引き起こされます。
網膜症によって失明したり、腎症によって人口透析が必要にすると、生活に制限がかかってしまうこともあります。
4-3.うつ病の治療で糖尿病が改善する可能性
糖尿病の人がうつ病を併発すると、治療への意欲が低下して血糖コントロールが難しくなったり、薬を自己判断で中断してしまうことがあります。その結果、糖尿病の治療が困難になります。
しかし、うつ病が治療によって改善すれば、血糖コントロールがしやすくなる可能性が高まります。
そのため、うつ病を抱える人は適切な治療を受け、糖尿病の治療も継続できるようにすることが重要です。
5.糖尿病の人がうつ病のサインに気づいたら
糖尿病とうつ病を併発している人の中で、実際にうつ病の診断や治療を受けている人は少ないと言われています。これは、うつ病の症状に気づきにくいことや、精神科への受診をためらう人が多いためです。
しかし、糖尿病の悪化を防ぐためには、できるだけ早くうつ病の治療を受けることが重要です。自分自身が気づかなくても、周りの人がうつ病のサインに気づいた場合は、まずは主治医に相談しましょう。
うつ病は、他の精神疾患やパーキンソン病、認知症など、さまざまな病気と似た症状が現れることがよくあります。そのため、自分がうつ病だと思っていても、実際には別の病気である可能性もあります。
自分の症状を主治医にしっかりと伝え、必要に応じて精神科や心療内科など、適切な診療科に紹介してもらうのがよいでしょう。
6.おわりに
糖尿病とうつ病は併発しやすく、互いに症状の悪化を引き起こすことがあります。
糖尿病の方や、糖尿病患者の周りにいる方は、うつ病のサインを見逃さないようにし、症状を感じたら主治医に相談しましょう。
うつ病の治療を受け、精神的・身体的に安定すれば、糖尿病の治療にも良い影響を与えることが期待できます。