喘息治療に用いる注射薬「デュピクセント」の特徴と効果、副作用
吸入薬を使用しても喘息の発作がなかなか改善しない場合、新しい治療法として注射薬が選択されることがあります。
デュピクセントはそのような注射薬のひとつです。12歳以上の方が使用でき、自宅での自己注射が可能なアレルギー治療薬です。
この記事では、デュピクセントの使用方法や注意事項についてくわしく解説します。
1.デュピクセントとはどのような薬か
デュピクセントはデュピルマブという成分を配合した注射薬です。デュピルマブは、体の中でアレルギーを引き起こす働きを弱める成分です。
私たちの体内では、細胞同士が情報をやりとりするために、インターロイキンと呼ばれるタンパク質が使われています。
【参考情報】『インターロイキン』日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/words/word00057.html
インターロイキンは、免疫の働きを助けたりコントロールしたりする重要な役割を持っているのですが、増えすぎるとアレルギー反応を起こすことがあります。
デュピルマブは、IL(インターロイキン)-4とIL-13が、特定の受容体(体の中のスイッチのようなもの)に結合できないようにしてアレルギー反応を抑える「ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体」という薬剤です。
デュピクセントは、吸入薬や気管支拡張薬などの基本的な治療を試しても効果が見られない重症の喘息に使用されます。また、治りにくい慢性じんましんやアトピー性皮膚炎にも適応される薬です。
喘息の治療に使う注射薬の中には、医師や看護師が注射するよう決められているものもありますが、デュピクセントは自宅での自己注射も可能です。また、ご家族の方がお子さんに注射してあげることもできます。
【参考情報】『Dupilumab Injection』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/druginfo/meds/a617021.html
2.デュピクセントの使い方
デュピクセントには、ペンとシリンジ(注射筒)の2つのタイプがあります。
<用法用量>
初回のみ、300mgペンまたはシリンジ2本分を皮下注射します。
その後は2週間に1回、1本を皮下注射します。
ペンタイプの自己注射方法は、以下を参考にしてください。
シリンジタイプは、基本的には補助具に注射器の筒をセットして注射します。
<注射部位>
・腹部(へそ周り5cm以内は避ける)
・太もも
・二の腕(自分で注射するときは避ける)
<自己注射の仕方>
①薬は冷蔵庫に保管しておきます。
②使用する45分前までに冷蔵庫から取り出し、平らな場所で室温に戻します。
③緑色のキャップをまっすぐ引っ張って外します。
④ペン本体にある確認窓が見えるように持ち、注射部位に垂直になるようにあてます。
⑤ペン先の黄色い針カバーが見えなくなり、「カチッ」と音がするまで押しあててください。
⑥音が鳴ったら20秒以上そのままにします。
⑦確認窓が黄色に変わり始めるので、確認窓全てが黄色になったら、押しあてたままゆっくり5秒数えてください。
⑧ペンをまっすぐに持ち上げて皮膚から離します。
⑨注射した部位はこすらないでください。出血した場合には、消毒用アルコール綿で軽くおさえましょう。
<注意点>
・緑のキャップはねじらないでください。
・黄色い針カバーには触らないでください。中には針が入っています。
・注射部位に押しあてたらすぐには抜かずにいてください。押しあてている間に薬が体内に入っていきます。
・万が一、すぐに抜いてしまい薬が残っていても、再利用したり2本目を注射したりしないでください。一度医師に連絡して、対処法を聞くようにしましょう。
・一度注射したペンは再利用しないでください。
注射する時間帯は、特に決められていません。ご自身の都合の良い時間か、医師に決められたタイミングで注射しましょう。
3.デュピクセントの副作用
デュピクセントを使用すると、以下のような副作用が起きることがあります。
・注射部反応(赤み、腫れ、かゆみなど)
・頭痛
・アレルギー性結膜炎
・関節痛
・ヘルペス
【参考情報】『ヘルペスと帯状疱疹』日本皮膚科学会
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa5/index.html
注射時に痛みを感じることがありますが、薬が冷たいと痛みが強くなることがあります。そのため、使用する45分以上前には冷蔵庫から取り出し、しっかり室温に戻しておきましょう。
めったにありませんが、アナフィラキシーを起こすことがあります。注射後に急な血圧低下(ふらつき)や呼吸困難、吐き気などがあらわれたら、すぐに医療機関を受診してください。
【参考情報】『アナフィラキシー/Q&A』日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=14
4.使用上の注意点
デュピクセントは、他の薬との併用はほとんどの場合可能なので、現在使っている吸入薬や飲み薬は医師からの指示がない限り、通常どおり続けてください。急に吸入薬などを止めると、喘息の症状が悪化する恐れがあります。
デュピクセントは、基本的に妊娠中・授乳中の方や12歳未満の子どもには使用しません。
デュピクセントを使用する際に注意が必要な病気として、寄生虫感染症があります。デュピクセントによって寄生虫に対する体の防御力が弱まる可能性があるため、もし寄生虫に感染した場合は、医師にデュピクセントを使っていることを伝えてください。
代表的な寄生虫として、刺身に付着する可能性があるアニサキスや、レバーに付着しやすいサナダムシが挙げられます。
【参考情報】『寄生虫による食中毒に気をつけましょう』農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/parasite.html
デュピクセントは保管方法に注意が必要な薬です。持ち帰った後は箱ごとすぐに冷蔵庫(2〜8℃)に保管しましょう。また、凍らせたり温めたりしないでください。
以下に該当する場合は、使用しないでください。
・ラベルの使用期限が切れている
・注射液が濁っている(通常は無色または薄い黄色)
・注射液に粒子のようなものが浮いている
・破損がある
・緑色のキャップが取れていた
なお、注射液は確認窓から見ることができます。
5.デュピクセントの薬価
デュピクセントの1本あたりの価格(2025年2月調べ)は以下のとおりです。
・デュピクセント皮下注300mgペン 53,659円/キット
・デュピクセント皮下注300mgシリンジ 53,493円/筒
・デュピクセント皮下注200mgシリンジ 39,549円/筒
喘息の患者さんに使用するのは、300mgペンと300mgシリンジです。200mgシリンジは、アトピー性皮膚炎のような皮膚疾患にのみ使用します。
デュピクセントは高額なため、高額療養費制度や「多数該当」が適用される場合があります。
「多数該当」は高額療養費制度の一つで、高額な医療を継続して受ける場合に、自己負担上限額をさらに引き下げてもらえる制度です。
具体的には、直近12ヶ月以内に3回以上の高額療養費制度の適用を受けた場合、4ヶ月目以降はさらに自己負担上限額が下がります。
高額療養費制度(「多数回当」含む)の適用は、マイナ保険証の場合には自動で行われますが、それ以外の場合は、事前申請もしくは払い戻し申請が必要です。
【参考情報】『高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)』全国健康保険協会
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/
また、健康保険組合によっては、独自の付加給付がある場合もあります。ご自身の医療費については、加入している健康保険組合に相談してみてください。
デュピクセントにはジェネリック医薬品や市販薬はありません。使い切ってしまったら、かかりつけ医を受診して処方してもらいましょう。
6.おわりに
デュピクセントのような喘息に使う注射薬には、ヌーカラ(メポリズマブ)やファセンラ(ベンラリズマブ)などがあります。
デュピクセントが合わないと感じた場合は、他の薬が使用できないかどうか、医師に相談してみましょう。
喘息の注射薬は、症状がなかなか改善しない方にとって、治療の希望となる薬かもしれません。加えて、吸入薬や飲み薬もコツコツと続けながら、発作の少ない生活を目指していきましょう。