食物アレルギーが原因で咳が出る理由とは?
食事の後に咳が出たり、特定の食べ物を口にした後に咳が出ることが多いなら、食物アレルギーが原因で咳が出ているのかもしれません。
咳以外にも、喉のかゆみや違和感、鼻水、くしゃみなどの症状が現れるなら、ますますその疑いは強くなります。
この記事では、食物アレルギーと咳の関係や、併発しやすい病気について解説します。適切に対処しないと症状が悪化することもあるため、気になる方はぜひ参考にしてください。
目次
1.食物アレルギーとはどんな病気か
食物アレルギーは、免疫の仕組みが食べ物を異物と認識し、攻撃してしまうことで発症します。
1-1.食物アレルギーの仕組み
食物アレルギーとは、特定の食べ物に含まれるアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)に対し、免疫が過剰に反応してしまう病気です。
<主な症状>
・皮膚症状:かゆみ、赤み、じんましん
・眼の症状:かゆみ、まぶたの腫れ、充血
・鼻の症状:くしゃみ、鼻水、鼻づまり
・口・のどの症状:違和感、腫れ、かゆみ
・呼吸器の症状:咳、呼吸困難、喘鳴(ゼイゼイする異常な呼吸音)
・消化器の症状:下痢、嘔吐
私たちの体には、ウイルスや細菌などの異物から身を守る免疫機能が備わっており、体内に異物が入ると抗体を作り、それを攻撃して排除します。
しかし、異物ではない食べ物に対しても抗体が作られ、自分自身を攻撃してしまうことがあります。これが食物アレルギーです。
【参考情報】『Food allergy』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/food-allergy/symptoms-causes/syc-20355095
1-2.原因となる主な食材
食物アレルギーの主な原因は、食べ物に含まれるタンパク質です。
<代表的なアレルゲン>
・鶏卵
・牛乳
・小麦
・甲殻類(エビ、カニなど)
・そば
・ナッツ類
これらの食べ物は、口から摂取するだけでなく、皮膚に触れたり、口や鼻から吸い込んだりすることで症状が現れることもあります。
1-3.食物アレルギーとアナフィラキシー
食物アレルギーの症状は、原因となる食材の摂取後わずか数分で現れ、全身に影響を及ぼすこともあります。これをアナフィラキシーと呼びます。
<アナフィラキシーの症状>
・皮膚症状:じんましん、かゆみ、赤み、腫れ
・呼吸器症状:息苦しさ、喘鳴、のどの腫れ
・消化器症状:腹痛、吐き気、嘔吐、下痢
・循環器症状:血圧低下、めまい、意識障害
・神経症状:不安感、意識混濁、けいれん
重症化すると血圧が低下し、意識を失うアナフィラキシーショックを引き起こし、命にかかわる恐れもあります。
また、アレルギーを持つ人は、その日の体調によっては、普段問題なく食べられるものでも症状が出ることがあります。
そのため、アレルゲンとなる食べ物を摂取する際は十分な注意が必要です。
【参考情報】『Anaphylaxis』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/anaphylaxis/symptoms-causes/syc-20351468
2.なぜ食物アレルギーで咳が出るのか
食物アレルギーは、免疫の仕組みが食べ物を「敵」と勘違いして攻撃してしまうことで起こります。その仕組みには、細菌やウイルスなどの異物から身を守る「IgE抗体」が関係しています。
体内に初めてのアレルゲンが入ると、免疫システムが反応し、アレルゲンを「敵」と認識するIgE抗体を作り出します。
IgE抗体は、敵と認識したアレルゲンの情報を、免疫反応を起こす「マスト細胞」に伝え、マスト細胞と結合します。
その後、再び同じアレルゲンが体内に入ると、IgE抗体がアレルゲンを認識し、マスト細胞からヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学物質が放出されます。
これらの化学物質がアレルゲンを攻撃することで、咳やじんましん、鼻水といったアレルギー症状が現れるのです。
【参考情報】『Allergies and the Immune System』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/allergies-and-the-immune-system
3.食物アレルギーの検査
食物アレルギーの疑いがあるときは、必要に応じて、以下のような検査を実施します。
3-1.特異的IgE抗体検査
特定のアレルゲンに対するIgE抗体が血液中にあるかどうかを調べるために、血液を採取して、特異的IgE抗体検査を行います。
検査で調べられるアレルゲンは多数ありますが、保険診療ではすべてを調べることができません。そのため、医師と相談して選ぶか、39項目または48項目のアレルゲンを一度に調べる検査を選んで実施します。
検査結果では、「クラス」と「数値」が表示されます。クラスは0から6の7段階で、0は陰性、1は偽陽性、2~6は陽性を示します。
2~6のクラスは、血液中のIgE抗体の量によって分かれ、クラスが高くなるほどアレルギーを発症する可能性が高くなります。また、症状が現れたときには、重症度が高くなる可能性もあります。
【参考情報】『Allergy Blood Test』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diagnostics/allergy-blood-test
3-2.皮膚プリックテスト
皮膚にアレルゲンを入れて、アレルギー症状の有無を確認する検査です。
傷がない皮膚に少量のアレルゲンを垂らし、専用の針で皮膚に軽く傷をつけます。その後、余分なアレルゲンを拭き取り、15~20分後に反応を確認します。
検査は通常、前腕の内側で行いますが、乳幼児の場合は背中の皮膚で行うこともあります。皮膚を傷つけることになりますが、血が出たり、強い痛みが伴うことはほとんどありません。
反応の判定は、皮膚に現れる赤い膨らみ(膨疹)の大きさを見て行います。この膨らみの大きさによって、アレルギー反応が陽性かどうかを判断します。
【参考情報】『皮膚テストの手引き』日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/uploads/files/gl_hifutest.pdf
3-3.経口負荷試験
実際にアレルギーを引き起こす食物を摂取し、アレルギー反応が現れるかどうかを確認する検査です。検査は医療機関で行われ、医師の管理のもとで実施されます。
この検査では、食物アレルギーの確定診断ができるだけでなく、安全に摂取できる量を確認したり、耐性獲得の有無を調べることもできます。
耐性獲得とは、成長することで、アレルゲンとなる食物を食べてもアレルギー反応が出なくなることを意味します。耐性が確認できると、日常的に食べられる量も分かります。
摂取する量は、少量、中等量、日常摂取量の3段階に分けて行われます。
・少量:誤飲などで誤って摂取する可能性がある量
・中等量:幼児から学童の1回の食事量
・日常摂取量:耐性獲得後に食べられる量の目安
検査は少量から始め、反応がなければ次第に量を増やしていきます。
陽性反応が出た場合は、それ以上の量を摂取しないように注意が必要です。検査中に異変や違和感を感じた場合は、すぐに医師に伝えましょう。
検査中に重篤な反応が起こることもありますが、医療機関で行われているため、症状に対し迅速・適切な治療を受けることができます。
【参考情報】『食物経口負荷試験の手引き 2023』食物アレルギー研究会
https://www.foodallergy.jp/manual-ofc2023/
4.食物アレルギーの治療
食物アレルギーには、根本的な治療法はありません。
原因となる食物を避けるとともに、対症療法として以下のような薬を用いながら症状と向き合っていきます。
4-1.抗ヒスタミン薬
アレルゲンが体内に入ると、マスト細胞からヒスタミンが放出され、ヒスタミンH1受容体と結びつくことでアレルギー症状を引き起こします。
抗ヒスタミン薬は、この結合を抑えることでアレルギー症状を和らげることができます。
<主な抗ヒスタミン薬>
・アレグラ
・ザイザル
・クラリチン
ただし、抗ヒスタミン薬を服用すると、眠気や集中力の低下が起こることがあるので、特に車の運転などには注意が必要です。
また、これらの薬には抗コリン作用という副作用があり、眼圧が上がったり、尿が出にくくなることがあります。そのため、緑内障や前立腺肥大のある人は服用できない場合があります。
4-2.気管支拡張薬
気管支拡張薬は、気管を広げることで咳や喘鳴などの症状を和らる薬です。
<主な気管支拡張薬>
・メプチン
気管支拡張薬には内服薬と吸入薬があり、吸入薬の方が速効性があります。ただし、気管を広げる作用に限られており、喉の腫れや呼吸困難には効果がありません。
4-3.ステロイド薬
ステロイド薬は、二相性反応を防ぐために使われることがあります。
二相性反応とは、アナフィラキシー症状が一度落ち着いた後、数時間経ってから再び症状が現れることです。
<主なステロイド薬>
・デカドロン
ただし、ステロイド薬を使っても二相性反応が現れることもあるため、症状の再発には注意が必要です。
4-4.エピペン
エピペンは、アナフィラキシーを起こしたことがある人に処方される注射薬で、自分で打つことができます。アナフィラキシー症状が現れたら、すぐに注射しましょう。
エピペンを処方されている人は、いざというときにすぐに注射できるように、エピペンの使い方や打つ部位をしっかり覚えておきましょう。
また、症状が重いと自分で打つことができない恐れもあるので、同居の家族や周囲の人にも打ち方を伝えておきましょう。
エピペンには即効性があり、注射すると症状が落ち着いてきます。その間に救急車を呼び、医療機関で治療を受けてください。
【参考情報】『アナフィラキシー時のエピペン®の使用について』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202102_2/
エピペンを処方されていない人も、症状が重いと判断したら、迷わず救急車を呼んでください。迅速に対処しないと、命に関わることもあります。
5.食物アレルギーと併発しやすい病気
アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)を持つ人は、IgE抗体を作りやすく、さまざまなアレルギー症状が出やすい傾向があります。
特に、子どもの場合はアトピー素因があると、成長とともにさまざまなアレルギー疾患を発症すること(アレルギーマーチ)があります。
5-1.喘息
喘息は、気道に慢性的な炎症が生じることで、咳や息苦しさなどの症状が現れる病気です。
喘息の原因には、アレルギーとアレルギー以外のものがありますが、子どもの喘息は、ほぼアレルギーが関与しています。
食物アレルギーがある人は、特定の食べ物が気道を刺激し、症状を引き起こすことがあります。
また、アレルゲンを摂取するとヒスタミンが放出され、喘息が悪化することもあるため注意が必要です。
5-2.アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う発疹が良くなったり悪くなったりすることを繰り返す病気です。
発症すると、皮膚が乾燥したり、赤いブツブツができたりします。また、かきむしることで皮膚が傷つき、ボロボロになってしまうこともあります。
また、病気により、外からの刺激や細菌などから体を守る皮膚のバリア機能が低下すると、アレルゲンが体内に侵入しやすくなり、食物アレルギーを引き起こすことがあります。
5-3.花粉症
花粉症は、スギやヒノキなどの特定の花粉に対して体が過剰に反応し、鼻水や鼻づまりなどのアレルギー症状を引き起こす病気です。
花粉症の人は、特定の果物や野菜を食べるとアレルギー症状が出る「花粉-食物アレルギー症候群」を発症することがあります。
【参考情報】『花粉症と食物アレルギー』藤田医科大学医学部
https://www.fujita-hu.ac.jp/~allergy/qanda2/
これは、花粉に含まれるアレルゲンと、果物や野菜に含まれるアレルゲンの構造が似ているためです。
例)
・リンゴ、モモ:シラカバ花粉
・トマト:スギ花粉
・メロン、スイカ:ブタクサ花粉
このため、原因となる食べ物を口にすると、口の中や唇のかゆみ、喉の違和感などが起こることがあります。
6.おわりに
食物アレルギーの症状のひとつに「咳」があります。特に、喘息や咳喘息のある人は、アレルゲンを摂取すると、気道が刺激されて炎症が起こり、咳や息苦しさが続くことがあります。
咳がつらいときは、我慢せずに呼吸器内科やアレルギー科を受診し、適切な治療を受けることが大切です。また、アレルゲンを特定し、避ける工夫をすることも、症状の予防につながります。