鉄のおもな特徴とアレルギー疾患を改善するはたらき
鉄が不足して貧血になると、皮膚や呼吸器の健康にも影響が現れ、アトピー性皮膚炎や喘息が悪化する恐れがあります。
この記事では、鉄のおもな特徴と、アレルギー性疾患を改善するはたらきについてまとめました。鉄を効率よく摂取する方法も紹介しますので、病気の予防や症状の緩和にぜひ役立ててください。
1.鉄とはどのような栄養素か
鉄は、血液中にある赤血球の大部分を占めているたんぱく質・ヘモグロビンの主な成分です。赤血球は、頭のてっぺんからつま先まで全身に酸素を運ぶ大切な役割を果たしています。
【参考情報】『Iron』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/iron.html
鉄が不足すると、質の良い赤血球をつくることができなくなり、体のすみずみまで酸素を十分に送ることができなくなります。
すると、酸素が末端まで満足に行きわたらず手足が冷えます。また、酸素が不足した状態で、血液を十分に行きわたらせようと血管が激しく伸び縮み、頭痛や胸の痛みが起こります。これが貧血です。
鉄が不足している人は、めまいや立ちくらみが起こったり、疲れやすくなることがあります。また、睡眠中に足がむずむずするような不快な感覚があったり、氷を無性に食べたくなることもあります。
2.鉄はなぜアレルギー疾患の改善に必要なのか
鉄が不足すると、皮膚や粘膜が酸素不足になります。すると、健康な粘膜や皮膚が作られない・再生されないことから、乾燥肌やアトピー性皮膚炎の引き金となります。
特に、小児のアトピー性皮膚炎では大人よりもたくさんの栄養素が必要になるため、積極的に鉄を補充することが大切です。
妊娠中、授乳中の女性に鉄が不足すると、お子さんも鉄不足になります。胎児や乳幼児に鉄が不足すると、全身の血流が悪くなり、喘息などのアレルギー疾患にかかる可能性も高くなります。
鉄は妊娠が分かった時点から、十分に摂っておくことをおすすめします。
3.鉄を効率よく摂取する方法
推奨される1日の鉄の摂取量は、以下となります。
・成人男性:7.0~7.5mg
・生理のない女性:6.0~6.5mg
・生理のある女性:10.5mg
・妊娠初期の女性:8.5~9mg
・妊娠中期、後期の女性:21~21.5mg
・授乳期の女性:8.0~8.5mg
20歳以上の日本人女性の1日あたりの平均鉄摂取量は7.8mgです。女性は毎月の生理で約30mgの鉄が失われていますから、生理のある年齢の女性のほとんどは鉄不足です。
鉄不足改善のためには毎日の食事が大切ですので、より鉄を効率よく摂る食べ方を紹介します。
3-1.食事で摂取する
鉄には、肉や魚などの動物性食品に含まれている「ヘム鉄」と、ほうれん草やプルーンなどの植物性食品に含まれている「非ヘム鉄」の2種類があります。
2種類の鉄の違いは、体への吸収率です。ヘム鉄が10~30%に対して、非ヘム鉄は5%以下しかありません。食事から鉄を摂るなら、吸収されやすいヘム鉄が豊富な肉や魚を意識して食べましょう。特にレバーには豊富に含まれています。牛肉、あさり、かつお、ぶり、まぐろもおすすめです。
ビタミンCも一緒に摂ると、より効率よく鉄分を摂取できます。たとえば、肉や魚にレモンをしぼったり、ビタミンCが豊富に含まれる野菜と一緒に調理することで、鉄の吸収率が高まります。
3-2.サプリメントで摂取する
食事で鉄分10mgを摂取するには、およそ以下の量になります。
・納豆: 10パック
・ほうれん草のおひたし: 10皿(1皿100g)
・牛ステーキ: 5皿(ヒレ・赤身1皿100g)
・かつお: 5皿(春獲り1皿100g)
これだけの量を食べるのは少し大変なので、サプリメントで効率よく鉄を摂取するのもいいでしょう。食事と同じように、サプリメントも「ヘム鉄」の製品を選んでください。
「非ヘム鉄」のサプリメントは体への吸収が悪く、胃のむかつきや便秘が起きやすくなります。また、吸収されない非ヘム鉄が体内に増えると、腸内の悪玉菌が鉄を奪って繁殖し、腸内環境が悪化してしまいます。
腸内環境が悪化すると腸の粘膜が傷つき、体のあちこちに炎症やアレルギーが起こる状態にもなりかねません。体に吸収しやすいヘム鉄なら、悪玉菌に栄養を与えることなく、鉄を効率的に補給できます。
◆「アレルギー体質の人が知っておきたい、食事と腸の関係」>>
ただし、サプリメントで過剰に鉄を摂り続けると、嘔吐などの症状を引き起こしてしまうこともあります。
部活などで激しい運動をしている人は、貧血予防のために鉄を積極的に摂っていることも多いでしょうが、摂り過ぎには注意しましょう。通常の食事から摂取する分には、鉄の過剰摂取を心配する必要はありません。
【参考情報】『マラソン選手の貧血対策から鉄中毒になる健康管理上の問題』日本陸上競技連盟
https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/publish/2006/2006_23.pdf
信頼できる製品を選ぶには「GMP認定工場」で作られているものかどうかを確かめると良いでしょう。GMPとは「Good Manufactuiring Practice=適正製品規範」の略で、原材料の受け入れから製造、出荷に至るまで、製品が安全に作られ、一定の品質が保たれるために設けられた、医薬品レベルの厳しい製造工程管理基準です。
【参考情報】『GMPとは』日本医薬品原薬工業会
http://www.jbpma.gr.jp/bulk-pharmaceuticals/gmp
4.おわりに
病院で貧血と診断された場合は、鉄剤が処方されることがあります。しかし、通常病院で処方される鉄は「非ヘム鉄」なので、体への吸収率はヘム鉄に比べると劣るのが難点です。
「最近疲れやすい」「皮膚の乾燥が気になる」「体のあちこちがかゆい」など、鉄が不足しているサインに気づいたら、鉄が豊富な食材を増やしたり、ヘム鉄のサプリメントを摂取して、貧血が悪化する前に体を整えてください。
自分に合った食事やサプリメントを知りたい方は、当院の管理栄養士に相談することもできます。興味のある方は、診察時または受付で「栄養カウンセリングを受けたい」と、お気軽にお申し出ください。
【参考情報】『Iron』Harvard T.H. Chan School of Public Health
https://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/iron/