喘息でも激しい運動に挑戦したい!安全に楽しむための注意点と対策

「喘息があるから、激しい運動はあきらめたほうがいいのかな…」
そう感じて、好きなスポーツを控えている方は少なくありませんが、
✅ 昔からスポーツが好きで、できれば続けたい
✅ 体重が気になるので、しっかり運動したい
✅ 学生時代のように、思い切り体を動かしたい
という気持ちも、とても自然なものです。
現在の喘息診療では、正しく管理された喘息であれば、むしろ運動は推奨されるというのがが一般的な考え方です。
ただし、どんな運動でも、いくらでもやっていいというわけではありません。
この記事では、喘息があっても、なるべく安全に強めの運動を楽しむ方法をテーマに、ポイントを整理していきます。
目次
1.知っておきたい!運動誘発性喘息(EIA)とは
まずは、運動誘発性喘息の基本を押さえておきましょう。症状が出やすい場面や対策を知れば、安心して体を動かせます。
1-1.運動誘発性喘息の症状
運動誘発性喘息とは、運動をきっかけに気道が狭くなり、咳・息苦しさ・喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音)などが出る状態です。
特に、冷たい空気や乾燥した環境での激しい運動では症状が起こりやすくなりますが、多くの場合、適切な吸入薬の使用や十分なウォーミングアップで予防が可能です。
【参考情報】『Exercise-induced asthma』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/exercise-induced-asthma/symptoms-causes/syc-20372300
1-2.症状が出やすい場面
喘息をお持ちの方の中には、
・ランニングの後半になると咳が止まらない
・冬場のジョギングで、ゼーゼー・ヒューヒューしやすい
・激しく動いた後に、胸が苦しくなる
といった経験をされた方もいるかもしれません。
ポイントは、
・普段の生活ではあまり症状がない、もしくは軽い
・運動中〜運動直後、または運動後しばらくして症状が目立つ
・気温・湿度・花粉やホコリなどの環境条件で悪化しやすい
といった特徴があることです。
運動そのものが「体に悪い」というよりも、激しい運動で呼吸が速くなり、冷たく乾燥した空気や、ホコリや花粉の混じった空気を一気に吸い込むことが、敏感な気道への刺激になってしまうとイメージすると分かりやすいと思います。
【参考情報】『Exercise-Induced Bronchoconstriction』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK557554/
2.なぜ注意が必要か
「苦しくなったら、そこで運動をやめれば大丈夫でしょう?」と考えてしまいがちですが、運動誘発性喘息を繰り返している場合、いくつかのリスクがあります。
2-1. 主なリスク
・急な発作で強い呼吸困難が出る可能性
ランニングや登山など、すぐには休憩・帰宅できない状況だと、慌ててしまうことがあります。
・仕事や生活に影響するレベルの悪化につながることがある
「運動のときだけだから」と放っておくと、普段の階段昇降程度でも息切れするような状態に進んでしまう場合があります。
・救急受診や入院が必要になるケースもある
もともとの喘息のコントロールが不十分なところに、激しい運動が重なると、症状が強く出やすくなります。
2-2. 注意すべきサイン
特に、次のようなサインがある場合は、「少し無理をしているかもしれない」目安になります。
・ランニングやサイクリングのたびに咳やゼーゼーが出る
・吸入薬を使っても症状が落ち着くまでに時間がかかる
・運動後の苦しさが気になり、活動量を落とすようになってきた
・運動をしていないときにも、咳や息苦しさが出ることが増えた
こうしたサインがある場合、「運動が悪い」のではなく、「今の喘息コントロールと運動のバランスを見直した方がよい」状態かもしれません。
喘息を持つ方でも、運動は上手に取り入れれば体力維持やストレス解消に役立ちます。ただし、運動の種類によって注意点が少しずつ異なります。
次の章では、代表的な4つの運動シーンに分けて解説します。
3. ランニングでの注意点
ランニングは呼吸が速く浅くなりやすく、特に冬場や早朝の冷たい空気は気道に大きな負担をかけます。
乾燥した空気を勢いよく吸い込むことで気道の粘膜が冷え、気管支が反射的に収縮しやすくなるため、発作のきっかけになりやすい運動です。
3-1.冬のランニングで取り入れたい工夫
以下の対策は、冷たい空気による刺激を軽減するのに有効です。
・寒い時期はできるだけ昼間に走る
・屋内トラックやジムのランニングマシンを利用する
・マスクを着ける
・会話ができる程度のペースを目安に走る
3-2.おすすめの段階的アップ
いきなり強度の高い運動を始めると、気道が急激に広がり、その後に反射的な収縮が起きやすくなります。これは運動誘発性喘息の典型的なパターンです。
以下のような段階を踏んで、運動前に5〜10分かけて体を慣らし、気道を準備状態にしておくことが大切です。
・ゆっくり歩く(約3分)
・軽いジョグ(2〜3分)
・ストレッチや深呼吸(2分)
・少しずつスピードを上げる
これだけでも、発作が起こるリスクを大きく下げられます。
3-3.マスクを着けるメリット
マスクには息苦しいイメージがありますが、喘息のある人には以下のようなメリットがあります。
・冷たい空気の直接吸入を防ぐ
・砂埃や花粉などの刺激物をブロック
・喉や気道の湿度を保つ
ただし、運動強度が高いと熱がこもりやすいため、息苦しさを感じたら無理せず外すことも大切です。
4. 自転車・サイクリングでの注意点
サイクリングは持久力を使う一方で、坂道や向かい風などの場面では急に呼吸が激しくなりやすい運動です。体力に合わせてこまめに休憩を入れることが大切です。
4-1.負荷を抑えるための走り方
・坂道ではギアを軽くして、一定のペースを保つ
・息が「ゼーゼー」してきたら無理をせずペダルを緩める
こうした調整で気道への負担を減らせます。
4-2.屋外での刺激に注意
屋内でエアロバイクを漕ぐ場合は刺激が少ないのですが、屋外のサイクリングでは、排気ガス、花粉、黄砂、砂埃といった外的刺激が症状の引き金になることがあります。
特に風の強い日や花粉の多い時期は、いつも以上に注意が必要です。
<外的刺激を避ける工夫>
・マスクを着用して防御する
・車通りの少ないコースを選ぶ
・帰宅後は顔・鼻・喉を洗って刺激物を洗い流す
簡単な対策ですが、発作のリスクを下げられます。
【参考情報】『Exercise-induced bronchoconstriction in adults with asthma–comparison between running and cycling and between cycling at different air conditions』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10680952/
4-3.水分補給と吸入薬の管理も重要
長時間のサイクリングでは、脱水によって気道が乾燥し、症状が悪化しやすくなります。30分に1回を目安に、少しずつ水分を補給しましょう。
<吸入薬の使い方>
・運動で症状が出やすい人は、医師の指示通りに運動前に予防吸入を行う
・発作時に使う吸入薬は必ず携帯しておく
安全にサイクリングを楽しむためには、事前の準備とこまめな対応が欠かせません。
5. 登山・ハイキングでの注意点
登山は長時間にわたって体力を使う運動で、標高が上がるほど薄い空気の影響で酸素を取り込みにくくなります。
喘息のある方は、低酸素環境で気道が過敏になりやすいため、無理のないペースで進むことが重要です。
5-1.登山時の基本的な目安
・息が弾んでも会話ができる強度をキープ
・標高1,500mを超える山では特にこまめな休憩
・夜間や寒冷地での登山は避ける
これらを意識することで、気道への負担を抑えられます。
5-2.砂埃・花粉・黄砂による刺激に注意
登山道では、舞い上がる砂埃や花粉が症状の誘因となることがあります。
<外的刺激の対策>
・マスクを活用して吸い込む空気をやわらげる
・人が多い時間帯や乾燥した斜面では歩行ペースを落とす
一方で、標高が高い場所では大気中のアレルゲンが少なくなるので、症状が出にくくなる場合もあります。
【参考情報】『既存疾患のある人々の登山』日本登山医学会
https://jsmmed.org/_userdata/no13.pdf
5-3.運動強度の調整と休憩の取り方
喘息を持つ人の登山では、「予定の8割の力で登る」くらいがちょうどよいとされています。グループ登山の場合でも、自分の体調を最優先しましょう。
<体調管理のポイント>
・息苦しさを感じたら早めに休む
・吸入薬はすぐ取り出せる位置に携帯する
・山頂にこだわらず、安全に下山できる体力を確保する
無理をしない判断が、安全で快適な登山につながります。
6. 体育・部活動での注意点
子どもや学生は、周囲のペースに合わせようとして無理をしがちです。
特に体育の授業や部活動では、気づかないうちに呼吸が苦しくなり、発作につながることがあります。
6-1.注意が必要なシーン
・冬のマラソン大会
・体育館でのダッシュ練習
・長距離走やリレー
こうした運動は呼吸が急に激しくなり、気道への負担が大きくなるので、症状を我慢して続けるのは危険です。
6-2.教師・保護者の事前共有が安全につながる
お子さんに喘息があることを学校側に知らせ、どんな状況で症状が出やすいのかを理解してもらうことが大切です。
<伝えておくと良いポイント>
・使用している吸入薬の種類と使うタイミング
・発作が起きたときの対応方法(休憩・保健室へ行くなど)
・体調が優れない日の運動制限の目安
事前に情報を共有しておけば、無理をせず運動に参加できる環境が整います。
6-3.吸入薬の携帯と運動前の予防吸入
運動の前に予防的に吸入しておく、授業や部活に吸入薬を必ず持参するなど、タイミングに合わせた管理が重要です。
学校側の理解やサポートがあれば、安心して運動に取り組めます。
7.運動前・運動中・運動後の管理
運動による気道のトラブルを防ぐため、無理のない運動ルーティンを組み立てることが安全につながります。
7-1. ピークフローメーターの活用
喘息の自己管理には、ピークフローメーターが役立ちます。
【参考情報】『ピークフロー測定とぜん息日記』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/condition/peakflow.html
思いきり息を吐いたときの空気の勢い(最大呼気流量)を数値で示し、日々の呼吸状態を客観的に確認できます。
<チェックの要点>
・運動前後にピークフローを測定する
・最も調子が良いときの値の80%以上なら、概ね安全
・70%を下回る場合は、無理な運動を避ける
例として、普段400 L/minの人がその日は320 L/minしか出ない場合、軽めの運動にとどめる判断ができます。
ピークフローは継続して記録しておくと、発作の兆候を早めに察知する助けにもなります。
7-2. 運動前の吸入薬
医師の指示がある場合、運動前に予防的な吸入を行うことがあります。
これは、運動によって気道が収縮するのを防ぐためのもので、特に運動誘発性喘息が起きやすい方に有効です。
<予防吸入の目安>
・運動開始の15〜30分前に行う
・医師の指示に従い、毎回決められた量を使用
・使用後は口をすすぐ
また、発作時に使用する吸入薬も必ず携帯してください。持っているだけでも心理的な安心につながります。
7-3. 発作時の対応
運動中に咳や息苦しさを感じたら、まずはすぐに運動を中止しましょう。その後は、落ち着いて以下の対応を行います。
・安全な場所で休む(座って深呼吸)
・発作時用の吸入薬を使用する(医師の指示回数を守る)
・数分経っても症状が改善しなければ、すぐに医療機関や救急に連絡
無理に我慢したり、「少し様子を見よう」と運動を続けるのは危険です。
また、運動後1〜2時間してから発作が出ることもあるため、帰宅後も注意が必要です。
7-4.安全な運動ルーティンの例
喘息のある方が安心して運動するためのモデルとして、次の流れを参考にしてください。
・朝・運動前:ピークフローを測定し、呼吸が安定しているか確認
・運動開始15〜30分前:必要に応じて予防吸入
・運動中:息苦しさを感じたらペースを落とす/こまめに水分補給
・運動後:軽いストレッチ → ピークフロー再測定
・夜:症状や数値を記録
このように「体調チェック → 吸入 → 運動 → 確認」という一連の流れを習慣化することで、安全に運動を継続できます。
8.日常生活・環境での工夫
運動を安全に楽しむには、日常の生活環境が大きく影響します。特に喘息のある方は、空気の状態や季節の変化に敏感です。
この章では、症状を悪化させないための環境調整や日々の工夫についてご紹介します。
8-1. 屋外環境に注意する
喘息症状を悪化させる主な外的要因には、以下のものがあります。
・花粉
・黄砂
・PM2.5
・砂埃
対策としては、次のような工夫が有効です。
・天気予報アプリで花粉やPM2.5の情報を確認する
・風の強い日や寒冷日は屋内トレーニングに切り替える
・外出時はマスクを着用する
・帰宅後はうがい、鼻洗浄、衣服の着替えを行う
こうした小さな対策を日常に取り入れることで、症状の悪化を防ぎやすくなります。
8-2. 室内環境の整え方
室内でも、空気の乾燥やほこりは喘息に悪影響を与えます。以下のポイントを意識して、快適な環境を整えましょう。
・加湿器を使い、湿度を40〜60%に保つ
・空気清浄機でハウスダストや花粉を除去する
・寝具・カーペット・カーテンは定期的に洗濯する
・掃除機はHEPAフィルター付きのものを使用する
喘息は気道の炎症がベースにあるため、こうした刺激物を減らすことが、根本的な予防につながります。
8-3.室内トレーニングの活用
屋外での運動が難しい日には、室内トレーニングがおすすめです。室内なら気温や湿度を自分で調整でき、花粉や砂埃などの環境リスクを避けられます。
<取り入れやすい運動例>
・エアロバイクやトレッドミル
・ヨガ、ピラティス、ストレッチ
・屋内プールでの水泳
・軽い筋トレ(腕立て伏せ、スクワット、プランクなど)
これらの運動は、有酸素運動と筋力維持の両方に効果的です。短時間でも毎日続けることで、心肺機能が安定し、発作の出にくい体づくりにつながります。
9.おわりに
喘息を持つ方にとって、運動は体を鍛えるだけでなく、呼吸のリズムを整える良い機会にもなります。
正しい知識と管理のもとで行えば、発作を恐れずにスポーツを楽しむことは十分可能です。
しかし、自己判断で挑戦するのではなく、必ず主治医に相談してください。重症度やタイミングによっては、いったんストップすることも必要です。
不安を感じたときは、ぜひ一度ご相談ください。あなたの運動を楽しむ時間と習慣を、私たち医療スタッフも一緒に支えていきます。



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