咳を我慢するとどうなる?体への影響と対策
咳をすると、唾液やウイルスが飛び散る恐れがあるため、周囲の目が気になることもあるのではないでしょうか。
特に、学校や会社、公共の場などで人に迷惑をかけたり、不快な思いをさせてしまうことがないよう、咳を我慢する人は多いでしょう。
しかし、無理に咳を抑えるのは、マナーの面では良くても、体にとっては良いこととはいえません。
この記事では、咳を我慢することで生じるリスクや、ひどい時の対処法について説明します。
目次
1.咳の役割
咳は、体内に入った異物を排出するための防御反応です。
空気中にはウイルスや細菌などの病原体のほか、花粉やホコリ、カビといった異物が漂っているのですが、これらは呼吸とともに体内に入り込んできます。
体内に異物が侵入すると、気道内の「咳受容体」と呼ばれるセンサーが刺激されます。この刺激が咳受容体から脳の咳中枢に伝わり、異物を排除するよう指示が出ます。すると、脳から横隔膜や呼吸にかかわる筋肉に指令が送られ、咳が出るのです。
このように、異物を咳とともに体外へ追い出すことで、私たちの体は感染症やアレルギー反応などから身を守っているのです。
さらに、気道に痰が溜まったときや、誤って食べ物が入ったときにも咳受容体が刺激され、咳が出ます。
【参考情報】『Cough』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/symptoms/cough/basics/definition/sym-20050846
2.咳を我慢するリスク
咳は異物を排出するために必要な反応なので、無理に我慢をしすぎると体に悪影響を及ぼす恐れがあります。
例えば、風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症で咳を我慢すると、体内に入った病原体や痰が排出されにくくなります。
このように、咳で排出されずに残った病原体が、気道からさらに肺にまで入り込むと、症状が長引いたり悪化したりする可能性があります。
病気の悪化を防ぐためには、できるだけ咳を我慢せずに出した方が良いでしょう。しかし、職場や学校、公共の場で咳が出ると、周囲の視線が気になることもあるかもしれません。
その場合は、「マスクを着用する」「ハンカチやティッシュで口を押さえる」などの咳エチケットをしっかりと守り、周りの人への配慮を忘れないことが大切です。
3.咳が長引く・激しい時のリスク
咳があまりにも長引いたり激しくなったりすると、我慢したくてもできなくなり、全身への負担も大きくなります。
この章では、咳が長引くまたは激しい場合のリスクについて説明します。
3-1.体力の消耗
咳をすると、1回で約2キロカロリーを消費すると言われています。咳をすることで、呼吸に使う筋肉や、呼吸を補助する筋肉の活動が増えるためです。
10回咳をすると、約20キロカロリーが消費されます。これは、体重50〜60kgの人が普通に10分歩いたときに消費するエネルギーとほぼ同じです。
1日の咳の回数が多かったり、咳が続く期間が長かったりすると、それに伴って消費カロリーも増えていきます。すると、徐々に体力が奪われ消耗してきます。
【参考情報】『咳の病態生理』JIM 13巻12号
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1414100746
【参考情報】『運動強度とエネルギー消費量』健康長寿ネット|長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/undou-kiso/undou-energy.html
3-2.筋肉痛
呼吸をするとき、横隔膜や肋骨の間、腹部などの筋肉が使われます。
咳をすると、これらの筋肉に、普段よりも大きな力が加わります。そのため、咳が激しかったり長引いたりすると、筋肉への負担が積み重なって、筋肉痛を引き起こすことがあります。
このように、咳のし過ぎで筋肉痛になると、咳をするたびに痛みを感じるようになります。
3-3.疲労骨折
疲労骨折とは、一度の衝撃によって骨が折れるのではなく、同じ場所に繰り返し力が加わり続けることによって発生する骨折です。
肺は、肋骨という骨に覆われているのですが、咳によって肋骨に大きな力が加わり続けると、疲労骨折を起こす場合があります。
健康な人でも、咳による負担が大きければ肋骨が折れることがありますが、特に骨粗鬆症の人は、骨が弱くなっているため簡単に骨折してしまうので注意が必要です。
呼吸をしたり、起き上がったりしたときなど、咳が出ていない時でも痛みがある場合は、骨に異常があるかもしれません。
3-4.睡眠不足
咳は夜間に増えることが多いため、咳で眠れずに睡眠不足になることがあります。夜、寝ているときは、自律神経の副交感神経が活発になることで気管の筋肉が収縮するため、咳が強くなるのです。
また、風邪などの感染症により鼻水が増えると、寝ている間に喉に流れ込んで咳受容体が刺激されたり、鼻が詰まって口呼吸になり、気道が空気に直接刺激されることも、咳が増える原因となります。
咳により目が覚めてしまうと、熟睡できずに睡眠の質が下がります。その結果、夜だけではなく日中の活動にも支障をきたす可能性があります。
3-5.病気の悪化
咳の原因が風邪のような一般的な病気ではない場合、治療せずに放置すると悪化する恐れがあります。
例えば、喘息で咳が出ている場合、病気に合った治療を行えば咳を抑えることは可能ですが、未治療のまま我慢していると咳がだんだんひどくなり、発作に至ることがあります。
その他にも、放置すると症状が悪化する病気は多数あります。最悪の場合、呼吸が十分にできず、命にかかわることもあるため、我慢のし過ぎは禁物です。
4.咳を一時的に抑える方法
咳が続いてつらいものの、夜間などですぐに病院を受診できない場合は、一時的に咳を抑える方法を試してみてください。
4-1.水分を摂る
喉が乾燥すると、気道が刺激に敏感になり、咳が出やすくなります。また、細菌やウイルスを排除する力が弱くなり、感染症や炎症を引き起こしやすくなります。
さらに、刺激や炎症によって気道の分泌物が増えると、それを排出しようとするため、咳が増えることもあります。
特に冬場は、もともと湿度が低いことに加え、暖房を使うことでさらに室内が乾燥するので、気道の乾燥を防ぐため、意識的に水分を摂るようにしましょう。
その際、喉への刺激を避けるために、冷たい飲み物ではなく常温または温かい飲み物を選ぶと良いでしょう。
4-2.のど飴やハチミツをなめる
医薬品として販売されているのど飴には、喉の炎症や痛みを和らげたり、咳を軽減する成分が含まれているものがあります。また、細菌の繁殖を抑えたり、痰を排出しやすくする製品もあります。
医薬品ではなく、食品として売られているのど飴にはそのような効果は期待できませんが、唾液によって喉が潤うことで、一時的に喉の乾燥が和らぐことはあるでしょう。
また、ハチミツに含まれる成分に咳止め効果があるという報告があるので、咳がつらくてしんどい時は、スプーン1杯程度のハチミツをなめたり、温かいお湯に溶かして飲んでみるのもいいでしょう。
ただし、1歳未満の子どもがハチミツを食べると、乳児ボツリヌス症という病気を発症する危険がああるので、絶対に与えないようにしてください。
【参考情報】『Identification of a New Pyrrolyl Pyridoindole Alkaloid, Melpyrrole, and Flazin from Honey and Their Cough-Suppressing Effect in Guinea Pigs』Journal of Agricultural and Food Chemistry
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.3c03864
4-3.マフラーなどで喉を温める
喉が冷えると、気道への刺激が強まり、咳が出やすくなります。また、その刺激によって痰が増えることも、咳の原因となります。
咳が気になるときは、マフラーやネックウォーマーを巻いて、喉を温めてみましょう。喉が温まることで、吸い込む空気の温度も上がり、喉への刺激が軽減されます。
喉が温められると吸い込む空気の温度も温められ、喉への刺激が軽減されます。
特に冬は、外気温と室温の差が大きいため、喉への刺激が強くなりがちです。外出する際は、しっかりと喉を温めておくのが良いでしょう。
5.病院を受診した方がよい咳
自身の対処で一時的に咳が治まることもありますが、病院を受診した方が良い場合もあります。
以下のような状況に該当する場合は、咳を我慢せずに病院を受診し、原因を調べましょう。
5-1.咳が2週間以上続く
風邪のような身近な感染症が原因で咳が出ている場合、通常は1週間ほどで改善します。
しかし、咳が2週間以上続いているなら、喘息のような感染症以外の病気や、アレルギーが原因の場合があります。
もし、喘息やアレルギー疾患が原因で咳が出ているなら、治療を行わないと症状が悪化する可能性があります。また、市販の咳止め薬では効果を感じられないことが多いです。
咳が2週間以上続いており、改善の兆しがない場合は、早めに病院を受診し、原因に応じた治療を受けることが重要です。
5-2.血痰が出る
咳とともに血痰が出る場合は、肺がんや肺結核など、深刻な病気が隠れている可能性があります。
肺がんは、発生する場所によっては気道や気管支などが傷つき、出血を伴うことがあります。肺結核は、初めは咳や痰など風邪のような症状が現れますが、進行すると血痰が出ることがあります。
鼻血や歯茎からの出血が口の中で唾液と混ざって出たものを、血痰と誤認しているケースもありますが、何度も繰り返し出る場合は、念のため病院を受診してください。
◆「血痰が気になりますか?呼吸器内科で原因を調べましょう」>>
5-3.息苦しさが強い
咳とともに息苦しさを強く感じる場合は、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、間質性肺炎などの呼吸器疾患の疑いがあります。
この場合、病気の進行に伴って息苦しさは徐々に悪化していきます。特に、COPDや間質性肺炎では肺が繊維化して硬くなっていくので、早めの治療で病状の進行を抑えることが大切です。
6.おわりに
咳は体の自然な防御反応であり、我慢せずになるべく出した方が良いです。その際、咳エチケットを行い、周りの人への配慮を忘れないようにしましょう。
咳を止めたいと思って、市販薬を服用することがあるかもしれません。しかし、原因に合わないものを服用していれば、かえって症状が悪化することがあります。
また、咳を長い間我慢していると病気が進行し、治療が難しくなる恐れもあります。2週間以上咳が続いているときは、病院を受診して咳の原因を調べ、適切な治療を受けてください。