喘息で背中の痛みが出る理由と対処法
喘息は主に気道の炎症によって引き起こされる病気ですが、激しい咳が筋肉や骨に過度な負荷をかけ、背中の痛みを引き起こすことがあります。
背中の痛みが続くと、動いたり咳をしたりするたびに痛みが強くなり、日常生活にも影響を及ぼすことがあります。
この記事では、喘息と背中の痛みの関係を解説し、痛みを抑えるための対処法についても紹介します。ぜひ参考にして、症状の改善に役立ててください。
目次 [非表示]
1.喘息とはどのような病気か
喘息は、空気の通り道である気道に、慢性的な炎症が生じることで発症する病気です。
喘息の原因は、大きく分けてアレルギー性と非アレルギー性の2種類があります。
アレルギー性喘息は、アレルゲン(ダニやカビ、花粉、ペットの毛など)に対して、免疫の仕組みが必要以上に強く反応することで引き起こされます。
非アレルギー性喘息は、風邪などの呼吸器感染症、ストレス、気候の変化、運動など、アレルギー以外の要因によって引き起こされます。
喘息患者の気道は炎症により敏感になっているため、健康な人には問題のない刺激にも過敏に反応し、炎症が悪化します。
炎症が悪化すると、気道が狭くなり、呼吸がしづらくなります。すると、以下のような症状が現れます。
・激しい咳
・喘鳴(ぜんめい:ゼイゼイ・ヒューヒューという異常な呼吸音)
・息苦しさ
・胸や背中の痛み
喘息の咳は市販薬ではよくならず、処方薬での治療をしなければ改善しません。また、発作が頻繁に起こると炎症が悪化して、治療が難しくなることがあります。
2.なぜ喘息で背中の痛みが現れるのか
喘息の症状である激しい咳ですが、この咳が、背中の痛みに関係することがあります。
2-1.咳のし過ぎによる筋肉痛
激しい咳が頻繁に続くと、背中の筋肉が何度も強く縮んで、ギュッと力が入ります。
このように、背中の筋肉に大きな負担がかかり続けると、筋肉が損傷したり、疲労や炎症が起こったりして筋肉痛を引き起こすことがあります。
【参考情報】『Myalgia (Muscle Pain)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/myalgia-muscle-pain
2-2.咳のし過ぎによる筋肉の凝り
咳が続くと、筋肉がリラックスできずに緊張し続けます。この緊張が続くと、筋肉が硬くなり、血行が悪くなります。
血行が悪くなると、筋肉に酸素や栄養が届きにくくなり、老廃物もうまく回収されません。これが原因で、背中に凝りや痛みが生じることがあります。
【参考情報】『筋肉をもっと知ろう!~筋肉の基本③ 筋肉痛・筋肉が凝る仕組み~』日本成人病予防協会
https://www.japa.org/tips/kkj_2203/
2-3.咳のし過ぎによる神経痛
咳が続くと、肋間(ろっかん)神経が圧迫されたり刺激されたりして、痛みが生じることがあります。
肋間神経は、胸のあたりで肋骨に沿って走っている神経なので、痛みは肋骨の周りに感じることが多いです。
痛みは片側に現れることが多く、深呼吸や体を少し動かすだけでも痛みが強くなることがあります。
【参考情報】『肋間神経痛』徳島県医師会Webサイト
https://tokushima.med.or.jp/kenmin/doctorcolumn/hc/809-77
2-4.咳のし過ぎによる疲労骨折
長い間激しい咳が続くと、肋骨に繰り返し力が加わることで、疲労骨折を引き起こすことがあります。
特に、骨が弱くなりやすい高齢者や骨密度が低下している人は注意が必要ですが、健康な人でも発生することがあります。
2-5.喘息とは別の病気による影響
背中の痛みは、喘息以外の病気でも見られることがあります。例えば、心血管疾患、すい臓の病気、五十肩などです。
<心血管疾患>
心筋梗塞や狭心症が起こると、心臓に血液が届きにくくなり、酸素や栄養が不足します。その結果、胸が締め付けられるような激しい痛みが生じます。この痛みは胸だけでなく、肩や背中に放散して感じることもあります。
【参考情報】『Angina Pectoris』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/angina-pectoris
また、急に強い背中の痛みが現れる場合、急性大動脈解離という緊急を要する病気の可能性もあるため、迅速な治療が必要です。
<すい臓の病気>
すい臓は背中に近い場所にあり、その病気が進行すると背中に痛みを感じることがあります。
【参考情報】『急性膵炎と慢性膵炎』日本肝胆膵外科学会
https://www.jshbps.jp/modules/public/index.php?content_id=17
すい臓の病気は、症状が現れにくいため、痛みが出た時には病状が進んでいることがあります。
<五十肩(肩関節周囲炎)>
肩の関節周囲に炎症が起きて、痛みや可動域の制限が生じる病気です。
肩関節の痛みは、腕や背中まで広がることがあり、日常生活に不便を感じる場合があります。
【参考情報】『五十肩(肩関節周囲炎)』日本整形外科学会
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/frozen_shoulder.html
3.咳のし過ぎによる背中の痛みへの対処法
咳が止まらず、背中の痛みも強くなってくると、つらく感じることが多いでしょう。
この章では、少しでも楽に感じられるよう、一時的な対処法を紹介します。
3-1.咳を和らげる
まずは、背中の痛みの原因である咳を和らげる方法を試してみましょう。
<湿度の調整>
乾燥した空気は気道をさらに過敏にし、咳を悪化させる原因になります。加湿器を使ったり、湿度を適度に保つことで気道の乾燥を防ぎましょう。
◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>
<温かい飲み物>
温かいお茶や白湯を飲むことで、気道が温まり、咳の発作を和らげることができます。また、ハチミツが症状の緩和に効果的だという研究もあるので、温かい飲み物やお湯に溶かして飲むのもいいでしょう。
【参考情報】『Effectiveness of honey for symptomatic relief in upper respiratory tract infections: a systematic review and meta-analysis』National Center for Biotechnology Information
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32817011/
【注意】ただし、1歳未満の子どもは、ハチミツを食べると乳児ボツリヌス症にかかることがあるので、絶対に与えないでください。
【参考情報】『ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html
<アレルゲンの除去>
ダニやホコリなどのアレルゲンも気道を刺激します。特にアレルギー性の喘息の患者さんは、掃除や洗濯、空気清浄機の活用などでアレルゲンを減らしましょう。
3-2.背中の筋肉をリラックスさせる
激しい咳が続いて緊張した筋肉をリラックスさせることで、背中の痛みを軽減することができます。
<ストレッチ>
ストレッチを行うことで、筋肉が伸びて血行が良くなり、筋肉の回復が早くなります。また、こわばった筋肉をほぐすことで、痛みも軽くなります。
<入浴>
温かいお湯が筋肉の緊張を和らげ、血行を促進します。これにより、痛みの緩和が期待できます。
3-3.発作治療薬の使用
激しい咳が止まらないときは、病院で処方された発作治療薬を使用して気道の筋肉を広げましょう。通常、使用後5~15分ほどで効果が現れます。
症状が落ち着いた場合は、そのまま様子を見ることもできますが、発作治療薬を使っても症状が改善しない場合は、早めに病院を受診しましょう。
症状が悪化する前に、発作治療薬を適切なタイミングで使用することで、重症化を防ぐことが期待できます。
◆「喘息発作の治療に用いる気管支拡張薬・ベネトリンの特徴と効果、副作用」>>
4.背中の痛みで病院を受診する目安
背中の痛みは、咳のし過ぎ以外の原因でも生じることがあります。
どのような時に病院を受診すべきか、その目安を説明します。
4-1.すぐに病院へ行くべき症状
突然、背中に強い痛みが現れた場合、狭心症や心筋梗塞、大動脈解離、気胸などの病気が考えられます。
これらは症状の進行が速く、命に関わることもあるため、すぐに病院を受診する必要があります。
<心筋梗塞>
心臓の血管が詰まって血流が途絶え、急な痛みが引き起こされる病気です。
血流が止まると心臓の筋肉が壊死し、動かなくなってしまうため、早急に血流を回復させる治療が必要です。
【参考情報】『急性心筋梗塞』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/coronary2/disease/acute_myocardial/index.html
<大動脈解離>
大動脈の血管壁が裂けることで起こる病気です。裂ける場所によっては、脳の血流が途絶えて脳卒中を引き起こしたり、心臓の周りに血液が溜まり、命に関わる状態になることもあります。
【参考情報】『大動脈瘤と大動脈解離』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/aortic-aneurysm_dissection/
<気胸>
肺に穴が開き、空気が胸腔(肺を覆う空間)に漏れ出す病気です。突然、胸や背中の痛みが現れるほか、息切れ、咳などが生じることもあります。
気胸が重症化すると心臓が圧迫され、危険な状態になることもあります。
4-2.早めに病院へ行くべき症状
痛みが突然ではなく、徐々に強くなり、なかなか治まらない場合は、早めに病院を受診しましょう。
<疲労骨折>
喘息などによる激しい咳が続くと、肋骨に負担がかかり、疲労骨折を起こすことがあります。
安静にしていれば自然に回復することも多いですが、痛みが強い場合は医師に相談し、必要があれば湿布や鎮痛剤を処方してもらいましょう。
【参考情報】『疲労骨折』日本整形外傷学会
https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip10.html
<狭心症>
心臓の血管が狭くなり、血流が十分に届かなくなることで痛みが生じます。
完全に血管が詰まっているわけではないため、安静にすると数分で痛みが和らぐことが多いですが、放置すると心筋梗塞へと進行するリスクがあります。
【参考情報】『狭心症とは』日本心臓財団
https://www.jhf.or.jp/check/opinion/category/c4-1/
4-3.自宅で様子をみてもよい場合
背中の痛みやこわばりがあるものの、日常生活に大きな支障がない場合は、しばらく様子を見てもよいでしょう。
たとえば、ストレッチや入浴で血行が良くなり、症状が軽くなる場合や、時間の経過とともに痛みが和らいでいく場合は、すぐに医療機関を受診する必要はないことが多いです。
自宅で筋肉の緊張をほぐし、血流を促すケアを行いながら、無理のない範囲で過ごしましょう。
ただし、痛みが「どんどん強くなってくる」「思ったより長引く」場合は、別の原因が考えられるため、早めに病院を受診することをおすすめします。
5.おわりに
喘息による背中の痛みは、咳のしすぎが大きな原因となっています。
痛みが軽い場合は、筋肉の緊張をほぐすケアを行いながら、しばらく様子を見てもよいでしょう。
しかし、突然強い痛みが出たり、痛みが長引いてなかなか良くならない場合は、喘息以外の病気が関係している可能性があります。
なかには深刻な病気が隠れていることもあるため、気になる症状があれば早めに病院を受診しましょう。