喘息に空気清浄機は効果があるのか?
喘息には、アレルギーが原因の「アトピー型喘息」と、過労やストレスなどアレルギー以外の原因による「非アトピー型喘息」があります。
アレルギーが原因で喘息になった人は、ダニやカビなどアレルギーの原因となる物質を取り除くひとつの手段として、空気清浄機の購入を検討しているかもしれません。
この記事では、喘息をはじめとしたアレルギー疾患の患者さんやそのご家族に向け、空気清浄機がアレルゲンを減らす可能性について解説します。
目次
1.空気清浄機とは
空気清浄機とは、空気中の汚れやにおいの原因となる物質を除去するための機器です。
空気清浄機には、「ファン式」「電気集塵(じん)式」「イオン式」の3種類がありますが、現在国内で販売されている家庭用製品の主流はファン式です。
2.ファン式空気清浄機の仕組み
ファン式空気清浄機は、ファンを回すことで部屋の空気を吸い込み、フィルターを通して汚れやにおいの原因となる物質を除去してから、浄化された空気を排出します。
空気中の汚れやにおいを除去する力は、フィルターの性能や部屋の広さ、置き場所によっても変わってきます。
【参考情報】『居住環境におけるアレルゲン・ダストに対する空気清浄対策』エアロゾル研究13(1),5-12(1998)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jar/13/1/13_1_5/_pdf/-char/ja
3.家の中の代表的なアレルゲン
家の中に潜むアレルゲンのうち、喘息に影響する代表的なものを紹介します。
3−1.ダニ
ダニは高温多湿な環境を好み、人のフケやアカ、食べ物のクズをエサにしています。布団やじゅうたん、畳の中にもぐっていることが多く、死骸やフンもアレルゲンとなります。
【参考情報】『居住環境のダニとダニアレルゲン』愛知県衛生研究所
https://www.pref.aichi.jp/eiseiken/5f/dani.html
ダニを減らすには、床と寝具の掃除が効果的です。また、布製のソファやじゅうたん、ぬいぐるみはダニの棲みかとなるので、なるべく置かない方がよいです。
3−2.カビ(真菌)
空気中には、さまざまなカビの菌糸や胞子が浮遊しています。これらを吸い込むと、喘息の症状が引き起こされることがあります。
カビを減らすには、掃除をしてエサとなるホコリや食べ物のカスを取り除くこと、部屋の換気をよくすること、部屋の湿度を60%以下に保つことが効果的です。
◆「喘息・アレルギーを悪化させない、カビと掃除の注意点」>>
3−3.花粉
スギやヒノキ、ブタクサなどの花粉は、花粉症を引き起こすだけではなく、喘息の症状を悪化させることがあります。
家の中に花粉を持ち込まないためには、花粉が飛散する時期には衣服や髪をよく払ってから玄関に入りましょう。また、洗濯物は外に出さずに部屋干しにしましょう。
3−4.ペットの毛
犬や猫、鳥、ハムスターなどの毛やフケは、喘息のアレルゲンとなることがあります。
喘息の患者さんは、毛のあるペットは飼わない方が健康のためにはいいのですが、飼っている家庭ではこまめに掃除を行い、ペットの体も清潔に保ちましょう。
3−5.タバコ
タバコの煙を吸い込むと、煙の中に含まれる化学物質が刺激となり、激しい咳など喘息の症状が現れることがあります。
これらの化学物質は、タバコの火を消した後でも髪の毛や衣類、壁などに付着して有害な成分を放出し続けています。
【参考情報】『三次喫煙(サードハンド・スモーク)』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-057.html
4.空気清浄機でアレルゲンは減らせるのか
ファン式空気清浄機の効果は、部屋の空気を吸い込むファンの力と、吸い込んだ空気を通すフィルターの性能に左右されます。
4−1.ファンの大きさ
ファンが大きい製品ほど、空気を吸い込む力は強くなります。しかし、音も大きくなる傾向があるので、寝室など静かな環境では気になる方もいるでしょう。
4−2.フィルターの性能
ファン式空気清浄機には、大きめのホコリやゴミを除去するプレフィルターと、目に見えない小さなチリなどを除去する集塵フィルターが搭載されています。アレルゲンの除去には、集塵フィルターの性能がポイントとなります。
現在主流の集塵フィルターは、クリーンルームでも採用されているHEPAフィルターです。HEPAフィルターは、JIS規格で「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有しており、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルター」と規定されています。
喘息の主なアレルゲンであるダニの粉塵は5μm、カビは2~100μm、花粉は約30μm、ペットのアレルゲンは10μm前後の大きさで、いずれも、0.3μm以上です。
【参考情報】『住居とアレルギー疾患』東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/allergy/pdf/indoor06.pdf
以上を踏まえると、HEPAフィルターを搭載した空気清浄機を使用すると、理論上はほとんどのアレルゲンを捕集できることになります。
また、HEPAフィルターがついた空気清浄機でアレルゲンが低減できる可能性を示唆した研究もいくつかあります。
【参考情報】
『HEPA filtration improves asthma control in children exposed to traffic-related airborne particles』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7895332/
『Air filters and air cleaners: Rostrum by the American Academy of Allergy, Asthma & Immunology Indoor Allergen Committee』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2824428/
しかし、空気清浄機が捕捉できるのは空気中に浮遊する物質であって、床に落ちてしまったホコリや花粉、布団に潜むダニの死骸やフンを吸い込む力はありません。
床に落ちたアレルゲンを除去するには床掃除、布団の中のダニを除去するには布団掃除や乾燥が必要となります。
タバコについては、空気清浄機が置いてある場所から約20センチ以内の煙しか捕捉できず、一酸化炭素はまったく捕捉できません。
【参考情報】『受動喫煙防止のために空気清浄機を置いたんですけど..』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/nosmoking/think/caution.html
煙のにおいを除去する効果は多少期待できるものの、有害物質を除去する力はほとんどないと言えるでしょう。
5.おわりに
空気中に浮遊するアレルゲンを吸い込むリスクを減らすため、空気清浄機を使用することは問題ありません。
特に、HEPAフィルターをはじめとした空気中の粒子の捕集率が高いフィルターが搭載された製品は、ダニの死骸や花粉などを減らす効果が期待できます。
しかし、粒子の捕集率が高いフィルターは目詰まりしやすいので、こまめな掃除が必要です。また、メンテナンスを怠っていると、空気清浄機そのものがカビの温床となることがあります。
「空気清浄機を使ったら喘息が良くなる」とまでは断定できませんが、アレルゲンを減らすひとつの方法として、お手入れのしやすさや価格、家庭の事情なども考慮して購入を検討するのがいいでしょう。