睡眠時無呼吸症候群の手術について
睡眠時無呼吸症候群の治療のため、手術を検討している方もいるのではないでしょうか。
手術ができるかどうかは、患者さんの健康状態や病気の原因によって判断しますが、他の治療法より体に負担がかかるため、効果とリスクを知っておくことが大切です。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に呼吸が浅くなったり止まったりすることを繰り返す病気です。主な症状としては、激しいいびきや寝汗、昼間の眠気、起床時の頭痛などがあります。
原因は大きく、閉塞性と中枢性の2つに分けられます。閉塞性は肥満やアゴの骨格などが原因で気道が狭くなること、中枢性は心臓や脳の病気が原因となります。
治療せずに放っておくと、心臓や血管に負担がかかり、脳梗塞や心不全などの心血管疾患のリスクが高まります。
また、夜間の熟睡感がないことで日中に眠気におそわれ、そのため、運転中に居眠りをして事故を起こすケースも報道されています。
タクシーやトラックの運転手など、運転業務に従事している方は、会社で検診が義務づけられていることが多いです。
2.基本の治療法
最も一般的な治療法は、CPAP療法です。
CPAPとは、空気を鼻から送り込むことで、睡眠中の無呼吸を防ぐ医療機器です。気道を拡げて空気の通り道を確保し、スムーズな呼吸をサポートします。
閉塞性の患者さんに有効で、特に重症の方ほど効果をはっきり実感できます。一方で、「毎晩使うのが面倒」「旅行の際に荷物になる」などの不満を持つ人もいます。
その他、医療機器を用いた治療法には、ASVとマウスピースがあります。
3.手術療法
基本の治療法や生活習慣の改善では効果が感じられない場合、手術を検討することもできます。
3−1.口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)
口蓋垂(のどちんこ)やその周囲にある口蓋扁桃、軟口蓋の一部を取り除き、のどの周りを縫い直して気道を広げる手術です。
約50%の患者さんに効果があると報告されていますが、術後に無呼吸が再発することもあります。特に、体重が増えると再発しやすくなります。
全身麻酔で行う手術のため、1週間程度の入院が必要となります。忙しい人にとっては、長期間の拘束が負担になるかもしれません。
術後は出血や痛みがあります。また、水を飲むと鼻に逆流したり、鼻声になることもあります。
【参考情報】『口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)の術式に関する検討』口咽科18:3; 393~400,2006
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology1989/18/3/18_3_393/_pdf/-char/ja
3−2.レーザー口蓋垂軟口蓋形成術(LAUP)
口蓋垂の下半分と軟口蓋の一部をレーザーで焼き切って、気道を広げる手術です。
局所麻酔で行うことができ、術後の出血も抑えられるため、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術より体への負担が少ない治療法です。日帰りでできる点もメリットです。
ただ、いびきは手術で軽減できるかもしれませんが、睡眠時無呼吸症候群の治療法としては推奨されていません。
【参考情報】『Practice parameters for the use of laser-assisted uvulopalatoplasty: an update for 2000』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11480657/
3−3.その他の手術方法
病気の原因によっては、以下の手術を行う場合もあります。
・鼻中隔矯正術:鼻の中の骨が曲がっている患者さんに行います
・アデノイド切除術:上咽頭の「アデノイド」が大きい患者さんに行います
・口蓋扁桃摘出術:俗にいう「扁桃腺」が大きい患者さんに行います
・アゴの外科手術:アゴの骨格が原因で症状が出る患者さんに行います
原因となる部分を取り除いたり、狭くなっている部分を広げたりすることで、寝ている間の無呼吸を防ぐことができます。
アデノイド切除術と口蓋扁桃摘出術は、主に子どもの患者さんに対して行います。
【参考情報】『睡眠呼吸障害(SDB)の外科的治療』日大医誌 69 (1): 38–41 (2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/69/1/69_1_38/_pdf
4.睡眠時無呼吸症候群は手術で完治するのか
子どもの場合、アデノイド肥大が原因なら、アデノイド切除術を行うことで症状がよくなることが多いです。
成人の場合、一時は症状がよくなっても、再発することはよくあります。例えば、術後に傷が分厚くなったり硬くなったりすることや、切除したアデノイドがまた肥大することで、再び気道が狭くなることがあります。
手術をしても、症状が残っていた場合や再発した場合は、CPAPが必要になることもあります。
「いびきがよくなった」からと言って、「睡眠時無呼吸症候群が治った」とは言えない場合もあるので、手術後も専門医の診察を受け、今後の治療について相談してください。
5.おわりに
睡眠時無呼吸症候群の原因が、鼻やのどにある場合、手術も選択肢のひとつとなります。しかし、たとえ手術でよくなったとしても、肥満などが原因で再発することもあり得ます。
手術後は、食事のたびに痛みが出るので、少しつらいかもしれません。いずれの手術も、CPAP療法や減量など、基本の治療や生活習慣の見直しでは症状が改善しない場合に検討しましょう。