睡眠時無呼吸症候群になると認知症のリスクが上がる?
睡眠は、心身を休ませるだけではなく、脳の記憶や情報を整理するためにも重要な時間です。
しかし、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、病気により睡眠が妨げられるため、脳のメンテナンスに支障が出る恐れがあります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群が脳の認知機能に及ぼす影響と、認知症のリスクについて解説します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは、寝ている間に無呼吸や低呼吸を繰り返す病気です。肥満で気道が狭くなっている人や、あごが小さい人がかかりやすい傾向があります。
この病気になると、激しいいびきや日中の眠気、起床時の頭痛などの症状が現れます、また、熟睡できないため、夜中に何度も目が覚めたり、悪夢を見ることがあります。
また、病気により、無呼吸や低呼吸を毎晩のように繰り返していると、体内の酸素が不足します。すると、体が酸素を補おうとするため、心臓や血管に負担がかかり、高血圧や糖尿病などの合併症になる恐れがあります。
2.認知症とは
認知症とは、脳の神経細胞の働きが悪くなり、記憶力や判断力が低下する病気です。
認知症には、以下の種類があります。
・アルツハイマー型
「アミロイドβ」というタンパク質が脳に溜まり、脳が萎縮する
・血管性
何らかの理由で脳への血流が途絶え、酸素や栄養が行き渡らないために起こる
・レビー小体型
レビー小体というたんぱく質が脳に溜まって起こる
・前頭側頭型
脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで起こる
認知症になると、「同じ話を何度もする」「得意だったことができなくなる」「怒りっぽくなる」などいろいろな症状が現れ、日常生活に支障をきたすようになります。
残念ながら、現代の医学では完治は難しい病気ですが、進行を遅らせるため、薬やリハビリで治療を行っていきます。
【参考情報】『認知症』こころの情報サイト|国立精神・神経医療センター 精神保健研究所
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=WwE9LLpYbVZTIDMI
3.睡眠時無呼吸症候群と認知症の関係
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放っておくと、認知症のリスクが高くなることは、さまざまな研究で指摘されています。
3-1.睡眠不足
長期的な睡眠不足は、認知機能に大きな影響を与えます。
例えば、50代、60代で睡眠時間が6時間以下の人は、その後認知症を発症する可能性が高くなることが示唆されています。
【参考情報】【参考情報】『Lack of sleep in middle age may increase dementia risk』National Institutes of Health
https://www.nih.gov/news-events/nih-research-matters/lack-sleep-middle-age-may-increase-dementia-risk
また、アルツハイマー型認知症に関与するタンパク質・アミロイドβは、睡眠中に排出される老廃物なので、睡眠不足だと、脳内に蓄積されやすくなります。
【参考情報】『Sleep deprivation increases Alzheimer’s protein』National Institutes of Health
https://www.nih.gov/news-events/nih-research-matters/sleep-deprivation-increases-alzheimers-protein
3-2.高血圧
睡眠時無呼吸症候群の合併症のひとつとして、高血圧があります。
高血圧は、血管性認知症につながる可能性があります。さらに、アルツハイマー型認知症の危険因子であることも示唆されています。
【参考情報】『Best papers in hypertension: Hypertension and dementia』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4234111/
高血圧を放置していると、脳出血や脳梗塞の引き金となる恐れがあります。脳出血や脳梗塞は、症状が軽ければ気づかないことがあるため、知らず知らずのうちに繰り返し、血管性認知症になることがあります。
3-3.糖尿病
糖尿病の患者さんが認知症になりやすい原因はいくつかあります。
通常、血糖値はインスリンというホルモンの働きでコントロールされています。しかし、糖尿病の人はインスリンが分泌されない、あるいは効きにくいため、血糖値が高くなります。
高血糖が続くと、血管の中はドロドロになり、脳出血や脳梗塞が引き起こされることがあります。その結果、血管性認知症になる恐れがあります。
また、認知症の発症に関係しているアミロイドβは、インスリンの働きが悪くなると、脳内に溜まりやすくなります。
さらに、糖尿病の患者さんは、血糖値をコントロールするための薬を服用しますが、薬が効き過ぎて、低血糖になることがあります。
低血糖は脳にダメージを与えるため、認知症のリスクとなります。特に、高齢の患者さんは低血糖になっても気づきにいため、ご家族は注意してください。
【参考情報】『Hypoglycemia and Dementia』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5503864/
4.CPAPで認知症のリスクを減らせる可能性
睡眠時無呼吸症候群を治療すると、認知症のリスクは減らせるのでしょうか。
治療では、CPAP(シーパップ)という装置で睡眠中の呼吸をサポートすることが多いのですが、このCPAPで神経認知機能が改善されたという報告があります。
【参考情報】『Insomnia and obstructive sleep apnea as potential triggers of dementia: is personalized prediction and prevention of the pathological cascade applicable?』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7429588/
ほかにも、CPAPによる治療を受けている人は、受けていない人よりも認知症を発症しにくいという研究結果があります。
【参考情報】『Obstructive sleep apnea treatment and dementia risk in older adults』SLEEP Volume 44, Issue 9, September 2021|Oxford Academic
https://academic.oup.com/sleep/article/44/9/zsab076/6189102?login=false
さらに、睡眠時無呼吸症候群およびレビー小体型認知症、レム睡眠行動障害と診断された患者が、CPAPにより睡眠中の異常行動に対する薬物療法の効果がより実感でき、認知症による症状が改善したという報告もあります。
【参考情報】『レビー小体型認知症の初期と考えられた症候性レム睡眠行動障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群の合併例の総合的な治療経験』臨床神経生理学/49巻 (2021) 3号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscn/49/3/49_124/_article/-char/ja
これらの研究からも、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、CPAPによる治療で認知機能の低下を予防し、改善できる期待が持てると言えます。
5.高齢者の睡眠時無呼吸症候群
年齢を重ねると、気道の筋肉が緩み、若い頃より気道が狭くなってきます。
そのため、高齢になると、肥満体型ではない人も、睡眠時無呼吸症候群を発症する可能性が高くなります
加齢とともに、以下のような症状が現れてきたら、呼吸器内科を受診しましょう。
・激しいいびき
・昼間の眠気
・夜中に何度も目が覚める
・睡眠中によくむせる
治療により、睡眠の質量が上がると、認知症や合併症のリスクを抑えることができます。
6.おわりに
睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、高血圧や糖尿病を発症し、その結果、認知症のリスクが上がっていきます。
また、認知症のような症状が、実は睡眠時無呼吸症候群による睡眠不足のせいで現れることもあります。
認知症が進むと、睡眠時無呼吸症候群の治療もままならなくなる恐れもあります。疑わしい症状があれば、すぐに呼吸器内科を受診して、早めに相談してください。