睡眠時無呼吸症候群の精密検査について

病院で「睡眠時無呼吸症候群の疑いがある」と判断されたら、診断に必要な検査を行うことがあります。
検査には、「簡易検査」と、「精密検査」があります。この記事では、精密検査の方法と、結果の見方について説明します。
検査の前に手順を確認しておきたい人や、検査を不安に感じている人は、ぜひ読んでください。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは、寝ている間に気道が狭くなり、無呼吸や低呼吸を繰り返す病気です。毎日いびきをかく人、日中の眠気で仕事などに集中できない人、起床時の疲れや頭痛がある人などはこの病気の疑いがあります。
◆「昼間の眠気が耐えられないなら、睡眠時無呼吸症候群を疑いましょう」>>
放っておくと、睡眠不足による居眠り運転や、心筋梗塞など命にかかわる合併症を引き起こす恐れがあります。
厚生労働省によると、「1時間に20回以上呼吸が止まる中程度以上の睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、心筋梗塞や脳梗塞、生活習慣病、眠気による事故などを起こしやすくなり、命にかかわることもあるので、すぐに治療が必要」とされています。
【参考文献】『睡眠時無呼吸症候群』厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-026
【参考情報】『Sleep apnea』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sleep-apnea/symptoms-causes/syc-20377631
2.簡易検査
病院の問診で、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあると判断されたら、まずは簡易検査を行います。
簡易検査では「アプノモニター」という小型の機械を使用します。患者さんは、アプノモニターを自宅に持ち帰り、夜寝る前にご自身でセットします。
簡易検査の結果は、睡眠1時間当たりの無呼吸と低呼吸の合計回数である「AHI(無呼吸低呼吸指数)」という指標をもとに見ていきます。
AHIが5未満なら、睡眠時無呼吸症候群ではないと判断されます。40以上なら明らかに重症なので、すぐに治療を開始します。
3.精密検査
簡易検査の結果、さらに詳しい検査が必要だと判断された場合は、ポリソムノグラフィー(PSG)という精密検査を行います。
精密検査は、医療機関や検査施設に一泊して行うことが多いのですが、当院では入院せずに自宅で検査を受けることも可能です。
ポリソムノグラフィーでは、体にたくさんのセンサーをつけて一晩眠ることで、以下のような項目をチェックします。
・脳波
・眼球運動
・筋電図
・心電図
・血液中の酸素の量
・鼻や口の中の空気の流れ
・胸部や腹部の動き
・いびきの音
例えば、脳や眼球が活発に動いているなら、眠っている間も脳が休まらず、疲れがとれていないことがわかります。
胸部や腹部の動きを見れば、睡眠時無呼吸症候群のタイプが、気道が狭くなったことで起こる「閉塞性」なのか、脳や神経、心臓の病気が原因で起こる「中枢性」なのかが推測できます。
また、周期性四肢運動障害(睡眠中に脚や腕がピクピクと動き、睡眠の質を低下させる病気)やナルコレプシー(日中に強い眠気に襲われ、突然寝てしまう病気)など、ほかの睡眠障害があれば、そちらの診断にも役立ちます。
【参考情報】『睡眠障害』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-027.html
3-1.精密検査が必要になるとき
精密検査は、すべての人に必要というわけではありません。
医師は以下のような場合に「精密検査を受けましょう」と勧めます。
<心臓の病気がある人>
心臓に病気がある人は、呼吸が止まる原因が複雑になることがあります。簡単な検査だけでは正確にわからないので、より詳しい検査が必要です。日本の心臓病の専門学会(日本循環器学会)も「心臓病がある人は精密検査を受けるべき」と決めています。
【参考情報】『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン2023年改訂版』日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_kasai.pdf
<CPAP(シーパップ)という治療を保険で受けるため>
CPAP(シーパップ)は、夜寝るときに鼻にマスクをつけて空気を送る治療法です。この治療を健康保険で受けるには、精密検査で「1時間に20回以上呼吸が止まる」という結果が必要です。簡単な検査だけでは「1時間に40回以上」でないと保険が使えません。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群診療ガイドライン2020』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf
<簡単な検査では病気かどうかはっきりしない場合>
簡単な検査では、実際に眠っている時間がわからないため、正確な診断ができないことがあります。症状があるのに「異常なし」と出た場合は、より詳しい検査が必要です。
4.精密検査の流れ
当院では、自宅で精密検査を行うことができます。
精密検査の流れはこのようになっています。
①診療
日頃の睡眠に関する問診を医師が行い、精密検査(PSG検査)の手配をいたします。
②検査機器の受け取り
検査機器をご自宅(またはご希望の場所)にお届けします。 マニュアルに従って装着方法を確認してください。
③自宅でセンサーを装着
就寝前に、ご自宅でセンサーを装着します。
在宅PSG検査では、以下の10項目を測定します。
・脳波・眼球運動
・呼吸、呼吸努力(胸及び腹の動き)
・いびき
・酸素飽和度、脈拍数
・オトガイの筋電
・体位、体動
④就寝
マニュアルに従って装着し、2日間検査を行ってください。 眠ると、自動で記録が開始されます。寝ている間に検査が終わります。 慣れた自宅のベッドで検査できるため、リラックスして眠ることができます。
⑤起床・センサーを外す
朝起きたら、ご自身でセンサーを外します。
⑥検査機器の返却
測定後は同梱されている伝票を使用してご返却ください。 検査キットの送料は検査料金に含まれています。
⑦検査結果を確認
検査機器の返却後、2週間ほどで当院に検査結果が届きます。 結果が届きましたらご連絡いたします。
その後、検査結果と治療方針を決めるため診察を行います。
<検査結果による対応>
AHI≧20: CPAP治療の対象となります
AHI<20: 医師と相談の上、治療方針を決定します
4-1. 検査前の準備
精密検査を安全に、正確に行うために、以下のような準備が必要です。
<検査前の注意事項>
・装着方法を正しく理解する: マニュアルをよく読んで正しく装着しましょう
・普段通りの生活を: 特別なことはせず、いつも通りの時間に就寝してください
・飲酒について: 日頃からアルコールを飲まれる方は、軽度であれば飲酒した状態で検査を受けていただいても結構です
・機器の取り扱いに注意: 精密機器ですので、丁寧に扱ってください
4-2. 自宅での精密検査のメリット・デメリット
自宅での精密検査(PSG検査)は、医療機関による適切な指導のもとで実施されます。
自宅で精密検査を行う具体的なメリット・デメリットは以下の通りです。
<メリット>
・自宅でリラックスしながら検査できる
・費用は約11,000円で入院検査(3〜4万円程度)に比べて費用負担が軽く、仕事や日常生活への影響も最小限に抑えられる
<デメリット>
・睡眠時無呼吸以外の疾患を特定できない
・自分で装着する手間がある
5.検査後の治療について
AHIが20以上なら、睡眠中の呼吸をサポートする医療機器・CPAP(シーパップ)による治療が保険適応となります。
CPAPのほか、マウスピースやASVなど、結果に応じて適切な治療を検討・開始します。
睡眠時無呼吸症候群と診断されたら、月1回程度通院し、治療の効果が出ているかどうかを確認します。
まじめに治療に取り組めば、ぐっすり眠ってスッキリ起きられるようになり、AHIの数値も下がってきます。
5ー1.検査結果の見方
精密検査の結果は、世界共通のルールに基づいて判定されます。
<睡眠時無呼吸症候群の診断基準>
・症状があること(昼間の眠気や、朝の疲労感、寝つきの悪さなど)
・検査で1時間に5回以上呼吸が止まる または、症状がなくても1時間に15回以上呼吸が止まる
<重症度(病気の程度)の分類>
呼吸が止まる回数で、病気の程度を3つに分けます。
・軽症:1時間に5回以上15回未満
・中等症:1時間に15回以上30回未満
・重症:1時間に30回以上
<検査でわかること>
・実際に眠っていた時間
・ぐっすり眠れていたかどうか
・1時間に何回呼吸が止まったか
・血液中の酸素がどのくらい下がったか
・どんな理由で呼吸が止まったか
<呼吸が止まる原因の種類>
・のどが狭くなるタイプ
・脳からの呼吸の指令が止まるタイプ
・両方が混ざったタイプ
・この詳しい結果をもとに、あなたに一番合った治療方法を決めます。
◆「睡眠時無呼吸症候群は自分で治せる?原因別の対処法と治療について」>>
6.おわりに
精密検査は、眠っている間に終わり、痛みや苦痛はありません。会社勤めの方も、仕事帰りに入院して一泊し、翌朝退院して出勤できるので、仕事への影響は少なくて済みます。
精密検査で重症だと判断されても、治療で改善することは可能です。睡眠の質を上げ、病気による事故や合併症を防いで、健康な生活を取り戻しましょう。











