インフルエンザ治療薬「イナビル」の特徴と効果、副作用
イナビルは、A型・B型インフルエンザの治療や予防に使う吸入薬です。
インフルエンザウイルスの増殖を防ぐ働きがあり、症状の緩和や感染予防に役立ちます。
この記事では、イナビルの効果や服用方法、副作用などについて解説します。
1.イナビルとはどのような薬か
イナビルは、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物という成分を配合した吸入薬です。
インフルエンザウイルスは体内の細胞に感染すると、新しいウイルスを作って細胞の外へ飛び出し、別の細胞に感染するということを繰り返してどんどん増殖していきます。
この、インフルエンザウイルスが細胞の外へ飛び出すときに必要なのが、ノイラミニダーゼという酵素です。
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物は、インフルエンザウイルスの表面にあるノイラミニダーゼの働きを阻害し、ウイルスの増殖を防ぎます。
【参考情報】『Role of Neuraminidase in Influenza A(H7N9) Virus Receptor Binding』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28356530/
イナビルは、以下のような、特にインフルエンザの感染リスクが高い濃厚接触者の方に対しては、予防投与も可能です。
・インフルエンザ発症者の同居家族または共同生活者
・高齢者(65歳以上)
・慢性呼吸器疾患または慢性心疾患がある方
・糖尿病などの代謝性疾患がある方
・腎機能障害がある方
ただし、イナビルの予防投与には保険が適用されないため、全額自費となります。
2.イナビルの使い方
イナビルは、水なしで服用できる吸入薬です。プラスチックの吸入容器に入っているラニナミビルオクタン酸エステルの粉末を吸うだけで、インフルエンザの治療が可能です。
成人または10歳以上の子どもは、40mg(2容器分)を1回吸入します。予防の場合は、2容器を2日間に分けて吸入することもあるでしょう。10歳未満の子どもは、1容器分を1回吸入して治療・予防ともに完了です。
<イナビルの吸入方法>
1.服用するタイミングで、アルミ袋から吸入容器を取り出します
2.吸入容器を立てて持ち、容器を軽くトントンと叩いて中の粉末を下に集めましょう
3.シールが貼ってある面を手前に向け、①と書いてある部分を右へ押し、スライドさせてください
4.背筋を伸ばして顔を正面へ向け、ゆっくり息を吐いてから吸入容器の口をしっかりくわえます(吸入容器は傾けてかまいません)
5.吸入容器の口を隙間なくくわえたら、勢いよく息を吸い込みましょう。舌を下げて喉の奥を広げると、中の粉末が気管支まで到達しやすくなります
6.吸入容器を口から外し、3〜5秒間息を止め、通常の呼吸に戻ってください
7.今度は❷と書いてある部分を左へスライドさせて、もう一度4〜6を繰り返します
8.吸い残しがあるといけないので、同じ容器で3〜7をもう一度行います
9.2容器吸入する必要のある人は、2容器目も同じように吸入しましょう
10.吸入が終わったら、うがいをするとよいでしょう
<注意>
・吸入容器をスライドさせてからは、トントンと叩かないでください
・吸入容器は、止まるまで確実にスライドさせましょう
・吸入容器の下部に空いている穴は、指などで塞がないでください
・粉末を吸えたかどうかわからない場合でも、1〜10がしっかりできていれば問題ありません
【参考情報】『<吸入器別>正しい吸入方法<インフルエンザ治療薬>イナビル』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/inhalers/method10.html
子どもなど吸入が難しい人には、ネブライザーという機器を使って、液状になった薬剤を吸入できる「イナビル吸入懸濁用」を使うこともあります。イナビル吸入懸濁用は、2019年に発売されたばかりの新しい薬剤です。
3.イナビルの副作用
イナビルの副作用としては、次のようなものがあります。
・下痢、腹痛
・吐き気
・頭痛
・めまい
・むせる
また、めったにありませんが、次のような重篤な副作用が起こることもあるでしょう。
・ショック、アナフィラキシー
・呼吸困難
・皮膚粘膜眼症候群
上記の初期症状では、じんましんや顔面蒼白、冷や汗、息切れ、発熱、目の充血、のどの痛みなどが現れます。イナビル服用後に、これらの症状が現れたら、速やかに病院を受診しましょう。
「インフルエンザの治療薬を使うと、異常行動をする場合がある」という報道を思い出し、心配な人も多いでしょう。
しかし実際には治療薬ではなく、インフルエンザという病気そのものが、異常行動の原因となっている可能性があることがわかってきました。
「突然走りだす」「部屋から出ようとする」「ベランダなどから飛び降りようとする」という異常行動は、特に子どもに多いです。
異常行動は、発熱から2日間以内に起こりやすいと言われています。家族がインフルエンザに感染したら、2日間は一人にせず、窓を確実に施錠するなどの対策をしておきましょう。
【参考情報】『インフルエンザの患者さん・ご家族・周囲の方々へ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/pamphlet181207_01.pdf
4.使用上の注意点
イナビルは、イナビルに含まれる成分でアレルギーを起こしたことがある人は使用できません。乳糖という成分が配合されているため、乳製品のアレルギーがある人は、服用前に医師や薬剤師に相談してください。
妊娠中・授乳中でも服用できますが、医師には妊娠中・授乳中であることを伝え、服用可能かどうか確認しておきましょう。
イナビルに年齢制限はありませんが、子どもへの使用可否は、症状や年齢から医師が判断します。
イナビルはアルミの袋に入ったまま渡されることが多いです。湿気に弱いので、吸入する直前まで袋は開けないようにしてください。
5.イナビルの薬価
イナビルの容器ひとつあたりの値段(2024年8月調べ)は次のとおりです。
・イナビル吸入粉末剤20mg(先発品) 2179.5円/キット
・イナビル吸入懸濁用160mgセット(先発品) 4241.5円/瓶
イナビル吸入懸濁用160mgセットは、2019年に発売されたばかりのネブライザー付属のセットとなります。
イナビルの代わりに使えるジェネリック医薬品や市販薬はありません。
6.おわりに
インフルエンザの治療薬には、イナビルのほか、タミフルやリレンザ、ゾフルーザなどがあります。
イナビルは、一度吸入するだけで治療できるため、薬の服用を忘れがちな人におすすめです。一方、「うまく吸えない」「むせやすい」など、吸入薬が苦手な人には不向きでしょう。
インフルエンザの治療薬は、症状が出始めてから48時間以内に服用することで効果が出ます。高熱などの症状が出てきたら、すみやかに医療機関を受診しましょう。