いびきが心臓に負担をかける理由と心疾患につながるリスク
いびきは、心臓に悪影響を及ぼす恐れがあります。
たまにいびきをかく程度なら、そのような心配は無用ですが、毎晩のようにいびきをかいているのなら、心臓や血管に負担がかかり、最悪の場合、心筋梗塞のような命にかかわる病気が引き起こされることがあります。
この記事では、いびきが心臓に負担となる理由と、引き起こされる可能性のある心血管疾患について解説します。
心臓の病気は徐々に進行するため、重症化するまで気づかないことも多いです。小さなサインも見逃さず、迅速に対応できるよう、ぜひ参考にしてください。
目次
1.いびきが出る理由
いびきは、鼻からのどにかけての上気道が、何らかの理由で狭くなると発生します。空気が通るたびに、狭くなった気道の粘膜が振動して音が鳴るのです。
いびきの原因には、疲れやお酒の飲み過ぎ、風邪などによる鼻づまりがあります。これらの場合、原因が改善されれば、いびきは治まります。
一方で、病気によって毎晩のようにいびきが出る場合もあります。その場合は、原因となる病気を治療しないと、いびきは改善しません。
いびきに悩む人は、老若男女問わずみられますが、年齢とともにかく人が増える傾向にあります。
【参考情報】『Snoring』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/snoring/diagnosis-treatment/drc-20377701
2.心臓病を招く動脈硬化とその原因
心臓病は、心臓の働きに異常が起こることで発症します。原因としては、先天的なものもありますが、多いのは動脈硬化により血液の流れに支障が出ることです。
動脈が硬くなると、弾力や柔軟性を失って血液の流れが悪くなり、以下のような病気を引き起こす原因となります。
2-1.高血圧
血圧が高い状態が続くと、血管に大きな圧力がかかります。すると、動脈は次第に弾力を失って厚く硬くなり、動脈硬化へとつながっていきます。
【参考情報】『高血圧』国立循環器病センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/hypertension-2/
2-2.脂質異常症(高脂血症)
脂質異常症とは、血液中の脂質のバランスが崩れる病気です。
血液中の脂質には、コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸の4種類があり、さらにコレステロールは、LDL(悪玉)コレステロールとHDL(善玉)コレステロールの2種類に分けられます。
このうち、LDL(悪玉)コレステロールと中性脂肪が増加すると、余分な脂が溜まって血管が硬くなり、動脈硬化が引き起こされます。
一方、HDL(善玉)コレステロールは動脈硬化を予防する働きがあるため、減少すると動脈硬化の原因となります。
【参考情報】『脂質異常症/高脂血症』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-029.html
2-3.糖尿病
糖尿病になり高血糖の状態が続くと、血管が傷つきやすくなります。すると、傷ついた部分にコレステロールが溜まり、動脈の壁が硬くなります。
2-4.喫煙
タバコにはさまざまな化学物質が含まれていますが、特にニコチンや一酸化炭素は血管に大きな影響を与えます。
たとえば、ニコチンにより交感神経が刺激されると、心拍数や血圧が上昇します。これにより、心臓や血管に負担がかかり、動脈硬化や心臓病の原因となります。
【参考情報】『喫煙と循環器疾患』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-03-002.html
2-5.肥満
肥満体型の人は、動脈硬化の原因となる高血圧や脂質異常症、糖尿病になるリスクが高いので、心臓病のリスクも高くなります。
3.いびきと睡眠時無呼吸症候群、動脈硬化の関係
毎晩のように激しいいびきをかく人は、睡眠時無呼吸症候群という病気にかかっている可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群になると、動脈硬化のリスクが上がるので、心血管疾患のリスクも上がります。
以下、睡眠時無呼吸症候群と動脈硬化の関係について説明します。
3-1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは、寝ている間に空気の通り道である気道が狭くなることが原因で、呼吸が浅くなったり止まったりすることを繰り返す病気です。
3-2.なぜ睡眠時無呼吸症候群だといびきが出るのか
睡眠時無呼吸症候群は、肥満などが原因となる閉塞性と、心臓や神経の病気が原因となる中枢性に分けられます。
中枢性ではいびきはほとんど出ませんが、閉塞性の場合、以下のような原因によって就寝中に気道が狭くなり、いびきが発生します。
・肥満:のど周辺の脂肪に圧迫され気道が狭くなる
・あごが小さい:舌の付け根が気道に落ち込んで狭くなる
・扁桃腺やアデノイドの肥大:気道がふさがれて狭くなる
いびきは、一晩中断続的に出ることが多く、止まった呼吸が再開する時に「フガッ!」「ガガッ!」という音がすることもあります。
3-3.睡眠時無呼吸症候群が動脈硬化を招く理由
睡眠中に呼吸が妨げられると、寝ている間に体内の酸素が不足します。すると、心臓が必要な量の酸素を送ろうとするため心拍数が上がります。
このように、毎晩のように心拍数が上がってしまうと、血管に負担がかかり続けるため、血管がもろくなったり硬くなったりしていくのです。
4.動脈硬化により発症する心臓病
睡眠時無呼吸症候群が動脈硬化を引き起こした結果、発症する恐れがある心臓病を紹介します。
4-1.不整脈
動脈硬化により血管が硬くなると、心臓から血液を押し出すために、強い力が必要となります。
このように、強い力で脈を打ち続けることで血圧が上がって心臓に負担がかかり、不整脈が引き起こされることがあります。
健康な人は、脈が一定のリズムで刻まれますが、不整脈になると、脈が早くなったり遅くなったり、リズムが不安定になります。
【参考情報】『不整脈』国立循環器病センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/arrhythmia/
4-2.狭心症
心臓に酸素を送っている冠動脈が硬くなり狭くなることが原因で、一時的に血流が止まってしまう病気です。
狭心症になると、胸痛や圧迫感などの症状が現れます。痛みは10分程度で治まりますが、狭心症が進行すると、心筋梗塞になる恐れがあります。
【参考情報】『Angina Pectoris』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/angina-pectoris
4-3.心筋梗塞
動脈硬化が進んで冠動脈が硬くなると、冠動脈が詰まって必要な酸素が心臓に届かなくなってきます。その結果、心臓の筋肉が壊死して心筋梗塞を発症することがあります。
心筋梗塞になると、締め付けられるような胸の痛みが急激に現れます。さらに、呼吸困難や冷や汗、失神などが生じ、最悪の場合命を落とすこととなります。
【参考情報】『Heart Attack (Myocardial Infarction)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/16818-heart-attack-myocardial-infarction
5.睡眠時無呼吸症候群の検査と治療
睡眠時無呼吸症候群を発症しても、早いうちから治療を開始すれば、心血管疾患のリスクを減らすことができます。
以下、検査と治療について説明します。
5-1.検査
睡眠時無呼吸症候群の検査には、簡易検査と精密検査があります。
簡易検査は、「アプノモニター」という小型の医療機器を用いて自宅で行います。
簡易検査の後、より詳しい検査が必要だと判断された場合は、精密検査を行います。
精密検査では、「ポリソムノグラフィー」という機械を装着し、いびきの音や心電図、脳波など、さまざまな視点から睡眠に関するデータを収集します。
精密検査は、医療機関や検査施設に一泊して行うことが多いのですが、当院では入院せずに自宅で検査を受けることも可能です。
5-2.治療
治療には、主にCPAP(シーパップ)を用います。CPAPとは、眠っている間に気道が閉塞しないように、空気を送り込んで呼吸をサポートする医療機器です。
そのほか、症状や原因によっては、マウスピースやASVを用いて治療することもあります。
6.おわりに
睡眠時無呼吸症候群は、心臓病のほか、糖尿病やEDなどさまざまな合併症を引き起こします。しかし、治療により合併症を防ぐことは可能です。
周りの人からいびきを指摘されたり、日中の眠気に悩まされているのなら、早めに病院を受診して原因を確かめましょう。
睡眠時無呼吸症候群の恐ろしさは、いびきや眠気というありふれた症状の裏で動脈硬化が進み、命にかかわる合併症が生じる点にあります。
治療により眠りの質量が上がると、いびきが軽減され熟睡感も得られるようになり、健康的な生活を取り戻すことができるでしょう。