ビタミンDで危険なウイルスに抵抗する力をつける
ビタミンDには免疫力を調整するはたらきがあり、ビタミンDの血中濃度を上げると、風邪やインフルエンザなどのウイルスによる呼吸器感染症に抵抗する力をつけることができます。
ビタミンDは食品にも含まれていますが、紫外線を浴びることにより、体内でもつくられます。あまり外出をしない人や夜型の生活を送っている人、北国に住んでいる人、UVケアに熱心な人は、日光を浴びることが少ないため、体内で作られる分が不足しがちです。
目次
1.ビタミンDとはどのような栄養素か
ビタミンDはカルシウムの吸収を高め、骨を丈夫にするはたらきがあります。そのため、不足すると骨がもろくなり、骨粗しょう症になるリスクが高くなります。
また最近、ビタミンDには免疫を調整するはたらきがあることが明らかになってきました。ビタミンDを十分に摂取していると、風邪やインフルエンザ、がん、心臓病、認知症など、さまざまな病気のリスクを低下させるという研究結果が報告されています。
2.ビタミンDがウイルス感染を予防
ビタミンDと免疫に関する研究には、次のようなものがあります。
・ルイジアナ州立大学健康科学センター・ニューオーリンズの研究では、新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化は、ビタミンD欠乏症が関係していることを示唆しています。
【参考文献】『Vitamin D Insufficiency is Prevalent in Severe COVID-19』medRxiv
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.24.20075838v1
【参考文献】『Scientists link vitamin D deficiencies to higher COVID-19 mortality rates』ZME Science
https://www.zmescience.com/science/news-science/scientists-link-vitamin-d-deficiencies-to-higher-covid-19-mortality-rates/
【参考文献】『Low levels of vitamin D may be linked to severe COVID-19』News Medical
https://www.news-medical.net/news/20200429/Low-levels-of-vitamin-D-may-be-linked-to-severe-COVID-19.aspx
・2008年~2009年にかけて日本で行なわれた、ビタミンDとインフルエンザの感染に関する調査結果では、ビタミンDを摂取している人ほどインフルエンザの発症率が低くなることがわかりました。
【参考文献】『ビタミンD と日光が健康に及ぼす有益な影響』nature asia
https://www.natureasia.com/ja-jp/reviews/highlight/36983
・アメリカ人女性を対象にした研究では、ビタミンD1000IU(アイユー ※ビタミンDの量を表す国際単位)を1年間摂取した女性と、ビタミンDが入っていない偽薬(プラセボカプセル)を摂取した女性では、風邪やインフルエンザにかかった人数に約3倍の開きがありました。
【出典】『Epidemiology and Infection 2009;137:1396-1404』Cambridge Core
https://www.cambridge.org/core/journals/epidemiology-and-infection
・コロラド大学救急医療科によって行われた研究では、ビタミンD濃度が低い群は、正常な群に比べて呼吸器感染症になる確率が36%高かったと報告されています。
【参考文献】『Demographic Differences and Trends of Vitamin D Insufficiency in the US Population, 1988-2004』JAMA InternalMedesine
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/414878
その他、ビタミンD欠乏と結核の関係など、ビタミンDが風邪や新型コロナウイルス、インフルエンザなどの呼吸器感染症を予防することを示す研究結果が相次いで報告されています。
◆「新型コロナウイルス感染症が呼吸器の病気に及ぼす影響」>>
3.ビタミンDの摂取量が重大な病気に及ぼす影響
ハーバードメディカルスクール教授で医師であるサンジブ・チョプラ氏が、世界最先端の研究データから信頼できる情報を選んでまとめた本『ハーバード医学教授が教える 健康の正解』(ダイヤモンド社)によると、ビタミンDについて次のような研究結果が報告されています。
3-1.がん
アメリカの研究者・ガーランド兄弟が、シカゴ在住の男性を20年間追跡した研究によると、ビタミンDの摂取量が最も多い人たちは、最も少ない人たちに比べて結腸がんの発生率が半分でした。
同じくアメリカの研究者であるゲイリー・シュワルツは、日光を浴びる時間が長い男性は、前立腺がんと診断される確率が低いことを示す科学的根拠を発見しました。さらに、日光照射量が少ない北の地方へ行くほど、前立腺がんの患者が増える傾向があることを指摘しました。
イギリスの医学誌『Journal of the National Cancer Institute』に掲載された論文では、日光照射量が少ないアメリカ北部の州ほど、乳がん、前立腺がん、大腸がんの死亡率が高いことが報告されました。
3-2.心臓病・脳卒中・高血圧
循環器関連の医学専門誌『Circulation』に掲載されたハーバードメディカルスクールの研究では、ビタミンDが不足している人は正常な人に比べて、心臓発作、心不全、脳卒中のリスクが2倍以上であったことが指摘されました。
デンマークのコペンハーゲン市が行った心臓の研究では、血中ビタミンD濃度が最も低い群は、心筋梗塞などの虚血性心疾患で死亡する確率が81%高かったことが報告されました。
糖尿病・内分泌学の医学専門誌『Lancet Diabetes & Endocrinology』電子版に掲載された2014年の研究では、血中ビタミンD濃度が低いと血圧が高くなることが発表されました。
3-3.認知症
アメリカの内科学会誌『Archives of Internal Medicine』に掲載された高齢者を対象にした研究では、血中ビタミンD濃度が最低の群は、正常な群と比べて認知機能低下を示す確率が60%高かったことが報告されています。
臨床神経学の学会誌『Neurology』に掲載された研究では、血中ビタミンD濃度が低い人は正常濃度の人に比べて、何らかのタイプの認知症を発症するリスクが高いという結果が発表されました。
4.ビタミンDの血中濃度を上げる3つの方法
ビタミンDの血中濃度を高く保つことで病気を予防する効果があることは、数多くの研究からわかっています。では、ビタミンDを効率よく体内に取り入れるにはどうしたらいいのでしょうか。
4-1.日光にあたる
ビタミンDは、皮膚に紫外線があたることから合成されるので、日光浴を習慣にすると血中濃度が上がります。
紫外線の量は季節や場所、時間帯によって変わりますが、日焼け止めを塗らずに15~30分、屋外で過ごすのがよいでしょう。半袖や半ズボンで肌を露出すると、皮膚にあたる紫外線の量が増えるので、より効率的です。
4-2.食品から摂取する
ビタミンDは、タラの肝臓からとれる油・肝油に多く含まれています。肝油小さじ1杯で、1360IUのビタミンDが摂れますが、そのままでは生臭くて食べにくいので、栄養補助食品やサプリメントの材料として利用されていることが多いです。
肝油以外では、鮭、うなぎ、さばなどの魚や、まいたけ、干ししいたけ、きくらげなどのきのこ類から摂ることができます。また、卵にも含まれています。
4-3.サプリメントで摂取する
ビタミンDを得るために最も有効な方法は、太陽の光を浴びることです。しかし、歳をとると皮膚が薄くなって代謝が低下するため、日光を浴びても体内で十分な量のビタミンDをつくるのが難しくなります。そのようなときは、サプリメントを利用するのもいいでしょう。
米国食品栄養委員会によると、1日当たりのビタミンD所要量は、1歳から70歳までは600 IU、71歳以上は800 IUとされていますが、十分な量については専門家の間でも意見がわかれています。風邪やインフルエンザを予防するには、少なくとも1日1000 IUを摂取するのが望ましいという意見もあります。
『ハーバード医学教授が教える 健康の正解』著者のサンジブ・チョプラ氏は、1日あたり4000 IUのビタミンDを摂取していることを、本の中で告白しています。しかし、摂り過ぎによる副作用もありえますので、ビタミンDのサプリメントを積極的に摂取したい人は、くわしい知識を持った医師や薬剤師、栄養士と相談することをおすすめします。
ビタミンDは摂りたいけれど、日焼けはしたくない人にもサプリメントはおすすめです。紫外線はシミやシワ、たるみなど皮膚の老化を招く原因にもなるので、美肌を保ちたい人はサプリメントで補うのも一案です。
信頼できるサプリメントを選ぶには「GMP認定工場」で作られているものかどうかを確かめると良いでしょう。GMPとは「Good Manufactuiring Practice=適正製品規範」の略で、原材料の受け入れから製造、出荷に至るまで、製品が安全に作られ、一定の品質が保たれるために設けられた、医薬品レベルの厳しい製造工程管理基準です。
【参考情報】『GMPとは』日本医薬品原薬工業会
http://www.jbpma.gr.jp/bulk-pharmaceuticals/gmp
5.おわりに
ビタミンDは、さまざまなウイルスの感染症を予防する効果があるので、年齢とともに体力の低下が心配になってきた人や、喘息など呼吸器の持病がある人には、特に意識してほしい栄養素です。
厚生労働省による食事ガイド「日本人の食事摂取基準」2020年版では、フレイル(健常から要介護へ移行する中間の段階)を予防するため、1日のビタミンD摂取量を5.5µg(マイクログラム ※ビタミンDの量を表す新しい国際単位)から8.5µgに引き上げることが発表されています。
いくつになっても骨や筋肉を丈夫に保ちたい人も、ぜひビタミンDを積極的に取り入れてみてください。
自分に合った食事やサプリメントを知りたい方は、当院の管理栄養士に相談することもできます。興味のある方は、診察時または受付で「栄養カウンセリングを受けたい」と、お気軽にお申し出ください。