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タバコが糖尿病のリスクを高める原因と対策

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年10月15日

タバコには、ニコチンやタールなど何種類もの化学物質が含まれています。その影響で、さまざまな病気のリスクが上がる可能性があります。

喫煙の影響が大きい病気としては肺がんが有名ですが、実は糖尿病の発症にもタバコが関係していることをご存知でしょうか。

この記事では、糖尿病とタバコの関係について解説します。血糖値が気になる人も、既に糖尿病を発症している人も、ぜひ読んでください。

1.糖尿病とは


私たちが食事をすると血糖値が上がりますが、すい臓から分泌されているインスリンというホルモンのはたらきにより、食事で上がった血糖値が下がって適正な値に戻ります。

しかし、インスリンが何らかの原因によって、十分に効果を発揮できなかったり、分泌量が減ってしまうと、血糖値が下がらなくなります。

このように、インスリンの異常により血糖値が高い状態が続くと、糖尿病が引き起こされます。

<診断基準>
空腹時の血糖値が126mg/dL以上
または食後2時間後の血糖値が200mg/dL以上

糖尿病には、1型と2型がありますが、1型はインスリンの分泌量の不足により血糖値が上がります。原因ははっきりしていませんが、体を守る免疫のシステムが、誤ってすい臓の細胞を攻撃することによって発症すると考えられています。

一方、2型は肥満や遺伝などが原因で、インスリンの分泌量が減るだけでなく、インスリンの効果も十分に発揮されなくなり、血糖値が上昇します。

◆「糖尿病と遺伝」の関係>>

この病気は、一度発症してしまうと完治が難しい病気なので予防が重要です。また、発症後は動脈硬化が進むため、心筋梗塞や狭心症、脳出血など血管に関する合併症が現れることがあります。

さらに、「三大合併症」と呼ばれる糖尿病性の神経障害、網膜症、腎症が生じる恐れもあります。

【参考情報】『Diabetes』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetes/symptoms-causes/syc-20371444

2.タバコが健康に与える影響


タバコは糖尿病だけでなく、さまざまな健康への悪影響を及ぼします。

以下、タバコが健康に与える影響について解説します。

2-1.病気のリスクを高める

タバコには多くの化学物質が含まれています。

タバコの煙は、肺や喉などに直接影響を与えるだけでなく、有害物質が体に取り込まれることで全身に悪影響を及ぼします。

その結果、下記のような呼吸器疾患や心血管疾患のリスクが上がります。

 ・肺がん

 ・食道がん

 ・咽頭がん

 ・COPD(慢性閉塞性肺疾患)

◆「COPD」についてくわしく>>

 ・狭心症

 ・心筋梗塞 など

喫煙している本人だけでなく、周りにいる人たちが受動喫煙でタバコの煙を吸った場合も、これらの病気のリスクが高まります。

2-2. ニコチン依存症

タバコを吸うと、煙の中に含まれるニコチンが肺から脳へと伝わります。すると、脳内神経伝達物質の一種であるドーパミンが放出され、一時の快感が得られます。

しかし、ニコチンが切れると、イライラしたり気持ちが落ち着かなくなったりして、強い不快感が生じます。

この不快感を解消しようとタバコを吸い、ニコチンが切れるとまたタバコを吸って……と喫煙を繰り返しているうちに、タバコがやめられなくなり、ニコチン依存症へと陥ります。

【参考情報】『ニコチン依存症』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-052.html

2-3.母体や胎児、乳児への影響

妊娠中にタバコを吸うと、タバコに含まれる化学物質が血管を通じて母体や胎児に影響を及ぼします。その結果、早産や前置胎盤、常位胎盤早期剥離のリスクが高まることがわかっています。

さらに、ニコチンや一酸化炭素の影響で胎児が十分な酸素を得られず、低酸素状態が続きます。その結果、低体重児や胎児発育遅延のリスクが高まります。

また、出産後に乳児の近くでタバコを吸っていると、乳幼児突然死症候群のリスクも増加します。

【参考情報】『女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-003.html

2-4.皮膚への影響

喫煙はシミやシワ、肌荒れなど、皮膚に悪影響を与えることが多いとされています。

皮膚は弾力やハリを保つためにコラーゲンを作っていますが、タバコを吸うとコラーゲンの生成が減少し、肌の老化が進んでしまいます。

また、喫煙者は非喫煙者と比較すると、皮脂が多くなりがちです。その影響で、毛穴が目立ったりニキビができやすくなったりするため、肌荒れの原因となります。

【参考情報】『タバコの喫煙と皮膚老化』CiNii Research
https://cir.nii.ac.jp/crid/1040000782008965504

【参考情報】『女性の肌状態と喫煙』日本禁煙学会誌 第4巻第4号
http://www.nosmoke55.jp/gakkaisi/200908/gakkaisi0908_109.pdf

3.糖尿病とタバコの関係


これまでタバコが健康に与える影響について説明してきましたが、喫煙は糖尿病とも深い関係があります。

3-1.タバコを吸っている人は糖尿病になりやすい

喫煙者は非喫煙者と比べると、糖尿病のリスクが高まると言われています。

タバコはインスリンの働きを妨げるので、喫煙の習慣がある人は血糖値のコントロールが難しくなります。

また、喫煙により交感神経が刺激されると、インスリンの分泌量が低下するので、血糖値が高くなります。

これらのリスクは、タバコの本数が多いほど高くなることが報告されています。

【参考情報】『A Prospective Study of Passive Smoking and Risk of Diabetes in a Cohort of Workers: The High-Risk and Population Strategy for Occupational Health Promotion (HIPOP-OHP) study』American Diabetes Association
https://diabetesjournals.org/care/article/31/4/732/25511/A-Prospective-Study-of-Passive-Smoking-and-Risk-of

3-2.喫煙者は糖尿病治療の効果が上がりにくい

糖尿病の患者さんがタバコを吸っていると、治療の効果が現れにくくなる恐れがあります。

糖尿病の治療では、上がりすぎた血糖値を下げるために、皮下注射によってインスリンを投与し、血糖値のコントロールを行います。

しかし、タバコを吸っていると、インスリンを注射しても吸収が遅くなり、血糖値が下がりにくくなります。

また、非喫煙者よりも多くのインスリンが必要となるので、その影響によっても治療が難しくなることがあります。

3-3.喫煙により合併症のリスクが高まる

もともと糖尿病は、さまざまな病気を合併しやすいのですが、タバコを吸っていると、さらに合併症のリスクが高まります。

例えば、糖尿病も喫煙も血管を傷つけてしまうので動脈硬化が進みます。その結果、狭心症や心筋梗塞、脳出血などの心血管疾患を引き起こす可能性が高くなります。

また、喫煙は腎機能を悪化させるので、糖尿病性腎障害になるリスクも上がります。

3-4.新型タバコにも注意

新型タバコは、紙巻タバコより健康に与える影響が少ないと思っている人もいるかもしれません。しかし、実際に健康被害が少ないかどうかは、はっきりとはわかっていません。

新型タバコの中には、ニコチンが含まれている製品もあります。それらを吸っていると、紙巻タバコと同様に糖尿病を発症するリスクが高くなると考えられます。

【参考情報】『Heated tobacco product use and abnormal glucose metabolism: a working population-based study』PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36527503/

【参考情報】『The Association Between E-Cigarette Use and Prediabetes: Results From the Behavioral Risk Factor Surveillance System, 2016–2018』American Journal of Medicine
https://www.ajpmonline.org/article/S0749-3797(22)00024-1/abstract

4.禁煙の方法


タバコは糖尿病に悪影響があるとわかってはいるけれど、禁煙は難しいと考えてしまうかもしれません。

自力での禁煙が難しいと思う人や、禁煙に挫折した経験のある人は、禁煙補助薬やアプリを試してみてはいかがでしょうか。

4-1.禁煙外来を受診する

禁煙したいのにタバコが止められない人は、まずは禁煙外来を受診して医療のサポートを受けてみましょう。

禁煙外来では、薬物療法やカウンセリングなど、その人に合った治療により禁煙を目指します。

禁煙治療は、一定の条件を満たせば保険適応で受けられます。また、パソコンやスマホでのオンライン診療が可能な場合もあります。

◆当院の禁煙治療について>>

4-2.禁煙補助薬

禁煙で最も悩ましいのが離脱症状です。タバコが吸いたくてたまらない気持ちになり、イライラや頭痛、倦怠感などの症状に襲われます。

これらの離脱症状を和らげるのが禁煙補助薬です。禁煙補助薬を使用すると、禁煙治療の成功率が7~8割になるといわれています。

【参考情報】『禁煙のおくすりってどんなもの?』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-06-006.html

4-3.禁煙アプリ

禁煙をサポートするアプリもあります。条件を満たせば、保険診療での処方が可能です。

アプリを利用すると 自分が吐いた息の中に含まれる一酸化炭素の濃度が測定できるため、禁煙ができているという達成感が得られ、モチベーションの維持にもつながります。

【参考情報】『禁煙治療用アプリってどんなもの?』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-06-010.html

4-4.新型タバコと禁煙

これまで吸っていた紙巻タバコから、新型タバコに切り替えることで禁煙しようとする人もいます。

しかし、加熱式タバコには、紙巻タバコと同様にニコチンが含まれていますし、電子タバコに切り替えても、禁煙は難しいとの調査報告があります。

【参考情報】『紙巻タバコの禁煙方法と有効性を調査 電子タバコでの禁煙は有効性が低い』国立研究開発法人 国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2017/1212/index.html

◆「新型タバコ(加熱式・電子)がもたらす健康被害」>>

5.おわりに

タバコは糖尿病発症のリスクを高めます。また、既に糖尿病を発症した人の治療効果を下げ、合併症を招く恐れがあります。

糖尿病の人や糖尿病予備軍の人は、できるだけ早く禁煙して、自身の健康を守りましょう。市販されている禁煙補助剤のニコチンガ厶も利用できますが、禁煙が難しいと感じる場合は、禁煙外来に相談してみましょう。

◆横浜市で糖尿病の検査と治療ができる病院をお探しなら>>

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