糖尿病の合併症を知り、予防に備えよう!
糖尿病になると、長期間にわたって血糖値が高い状態が続くため、血管が傷ついてさまざまな合併症が起こります。
ところが、糖尿病になっても自覚症状がないことが多いため、気づいたときにはすでに合併症が進行している恐れもあります。
この記事では、糖尿病の合併症について詳しく説明します。記事を参考に合併症を予防し、健康管理に役立ててください。
目次
1.糖尿病とはどんな病気か
糖尿病は、血糖をコントロールするホルモンであるインスリンの働きが悪くなったり、分泌量が不十分になることで、血糖値が高い状態が続く病気です。
糖尿病は、大きく分けて1型と2型の2つに分類されます。
1型は、もともとは自分を守る免疫の仕組みに異常が生じることで、インスリンの分泌量が低下します。
2型は、食べ過ぎや運動不足などの生活習慣や遺伝の影響で、インスリンの働きと分泌量が低下します。
糖尿病の診断は血液検査で行い、以下の基準で診断します。
<診断基準>
空腹時の血糖値が126mg/dL以上
または食後2時間後の血糖値が200mg/dL以上
糖尿病は基本的に完治しない病気のため、発症後は合併症に注意しつつ、継続的な治療が必要となります。
糖尿病で高血糖の状態が続くと、血液中にブドウ糖が増えることで、血管がもろくなります。さらに、傷ついた血管にはコレステロールがたまり、プラークと呼ばれる塊が形成されます。
その結果、動脈硬化が進み、血管にかかわる合併症が現れる恐れがあります。
2.糖尿病の合併症~細小血管障害(しめじ)~
糖尿病によって血管が傷つくことで起こる合併症のうち、細い血管に影響する「3大合併症」と呼ばれるものがあります。
・糖尿病性神経障害
・糖尿病性網膜症
・糖尿病性腎症
この3つは、神経障害の「し」、目の網膜の「め」、腎症の「じ」の字をとって、「しめじ」と呼ばれています。
2-1.糖尿病性神経障害
糖尿病によって血糖値が高い状態が続くと、神経周辺の血管に動脈硬化が起こり、神経に酸素や栄養が十分に届かなくなります。また、過剰なブドウ糖が神経細胞の代謝に影響を与えることで、障害が引き起こされます。
神経障害は、感覚神経・運動神経・自律神経の症状として現れます。
感覚神経が障害されると、物に触れたときの感覚が鈍くなったり、足先にしびれや痛み、冷感が生じることがあります。
運動神経が障害されると、筋力が弱くなったり筋肉が縮んだります。そのため、歩きにくくなったり、足が変形することがあります。
自律神経が障害されると、立ちくらみや発汗異常、消化不良、下痢、便秘、排尿障害、勃起障害などが現れます。
【参考情報】『糖尿病性神経障害』日本臨床内科医会
https://www.japha.jp/doc/byoki/byoki001.pdf
2-2. 糖尿病性網膜症
網膜は眼球の奥にある透明な薄い膜で、視神経を通じて光を映像に変換し、脳に情報を伝える役割を持っています。
この網膜にある毛細血管が糖尿病の影響で傷つき、詰まったり出血したりすると、その先の酸素や栄養が不足します。すると、体は新しい血管を作って酸素や栄養を届けようとします。
しかし、新しく作られた血管はもろく、簡単に出血してしまいます。そのため、視野障害や視力低下などの影響が生じます。
糖尿病性網膜症が発症しても、初期の段階では視野障害はほとんど見られません。しかし、症状が徐々に進行すると、物がゆがんで見えることがあります。さらに進んで、網膜剥離や硝子体出血が起こると、はっきり症状が現れます。
網膜剥離が起こると、光がうまく視神経に伝わらず、失明する可能性があります。また、硝子体出血が発生すると、眼球の中に血液が混ざり、視力が低下します。
2-3.糖尿病性腎症
腎臓は、体の老廃物を尿として排出したり、体の水分を調整して血圧を維持したりする役割を果たしています。この機能を担っているのが、細い血管が集まった「糸球体」と呼ばれる部分です。
糖尿病性腎症は、この糸球体の血管が傷ついて、詰まったり出血することで発症します。初期の段階では症状が現れないことが多いですが、進行すると老廃物を正常にろ過できなくなって体内に老廃物が溜まったり、体にとって必要な成分が体外に排出されます。
糖尿病性腎症の主な症状は、タンパク尿や高血圧、むくみ、息切れです。さらに症状が進行すると、血液から老廃物や余分な水分を取り除くための人工透析が必要になることもあります。
【参考情報】『腎症』糖尿病情報センター
https://dmic.ncgm.go.jp/content/060_070_01.pdf
3.糖尿病の合併症~大血管障害(えのき)~
糖尿病によって血管が傷つくことで起こる合併症のうち、太い血管に影響する「3大合併症」と呼ばれるものがあります。
・壊疽(えそ)
・脳梗塞
・虚血性心疾患
この3つは、壊疽の「え」、脳梗塞の「の」、虚血性心疾患の「き」の字をとって、「えのき」と呼ばれています。
3-1.壊疽
下肢(股関節から足指まで)の血管が傷ついてもろくなると、足に酸素や栄養が届きにくくなります。特に足先は血管が細いため、血液の流れがさらに悪化します。
また、糖尿病性神経障害によって感覚が鈍くなっていると、足に傷があっても痛みを感じにくくなります。
このような血行障害や神経障害があると、足に靴擦れや小さな傷ができても気づかずに放置してしまい、傷口から細菌や真菌(カビ)の感染が起こることがあります。
感染が悪化すると、足の細胞や組織が破壊されて腐ってしまう「壊疽」という状態になる恐れがあります。壊疽が進行すると、他の健康な部分に広がらないように、足を切断することもあります。
【参考情報】『糖尿病足病変』糖尿病情報センター
https://dmic.ncgm.go.jp/content/060_040_01.pdf
3-2.脳梗塞
糖尿病の影響で脳の血管が傷ついてもろくなると、脳出血や脳梗塞が引き起こされる可能性があります。
脳内の呼吸や循環などを司る部分の血管に詰まりや出血が起こると、命に関わることがあります。また、命はとりとめても、麻痺や言語障害、認知症などが残ることがあります。
3-3.虚血性心疾患
糖尿病の影響で心臓の血管が傷ついたり詰まってしまうと、虚血性心疾患が引き起されることがあります。
虚血性心疾患とは、心臓の筋肉(心筋)に血液を運ぶ冠動脈が狭くなったり詰まったりすることによって、心筋に十分な血液が届かなくなる病気です。
虚血性心疾患が発症すると、突然の胸の痛みや冷や汗、息苦しさ、胃や背中の痛みなどが現れます。
虚血性心疾患になっても、糖尿病性神経障害がある人は痛みを感じにくいため、病状が重くなってから気づくことがあります。
4.糖尿病の合併症~急性合併症~
これまで紹介した合併症は、糖尿病が発症してから長い時間をかけて進行する病気ですが、糖尿病の合併症には急激な症状を引き起こす急性合併症も存在します。
4-1.糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病の患者さんは、血糖値をコントロールするホルモンであるインスリンが不足します。
インスリンが不足すると、血液中のブドウ糖をエネルギーに変えることができなくなるため、体はブドウ糖の代わりに脂肪を分解してエネルギーに変えるようになります。
この過程で、ケトン体という物質が作られるのですが、ケトン体が過剰になると、通常は弱アルカリ性を保っている血液が酸性に傾き、ケトアシドーシスという状態になることがあります。
糖尿病性ケトアシドーシスの主な症状は、脱水や喉の渇き、全身倦怠感、腹痛、嘔吐などです。重症化すると意識障害が起こり、命にかかわることもあります。
糖尿病性ケトアシドーシスは、1型糖尿病の人が、治療に必要なインスリンの投与を中断した場合に引き起こされることが多いです。
しかし2型糖尿病でも、感染症で体調が悪かったり、甘い食べ物や飲み物を摂り過ぎた場合に起こることがあります。
【参考情報】『Diabetic ketoacidosis』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetic-ketoacidosis/symptoms-causes/syc-20371551
4-2.高血糖高浸透圧症候群(HHS)
糖尿病患者の血糖値が異常に上昇することで引き起こされる合併症です。血糖値は600mg/dl以上、場合によっては2000mg/dlまで上がり、著しい脱水が引き起こされます。
肺炎や尿路感染症などの感染症、術後で多くのインスリンが必要になる場合、ステロイド薬や高カロリーの点滴を使用した場合などがきっかけで発症します。
主な症状は、高度な脱水に伴う口や喉の渇き、倦怠感です。高齢者に多く、命にかかわる恐れもある合併症ですが、高齢者は喉が渇いていても気づきにくいため注意が必要です。
【参考情報】『Hyperosmolar Hyperglycemic State (HHS)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21147-hyperosmolar-hyperglycemic-state
5.合併症を予防するには
糖尿病発症後、年数が経てば経つほど合併症のリスクも増えてきます。そのため、日頃から以下の方法で、血糖コントロールを良好に保つことが大切です。
・血糖値の管理
定期的に血糖値を測定し、医師の指示に従って適切に管理しましょう
・バランスの取れた食事
糖分や脂肪分の多い食品を控え、野菜やタンパク質をバランスよく摂取することが大切です
・定期的な運動
ウォーキングや水泳などの有酸素運動のほか、余裕があれば筋力トレーニングも取り入れると良いでしょう
・体重管理
健康的な体重を維持することで、インスリンの効果が向上し、血糖コントロールが改善されます
・禁煙
喫煙は血管を傷める原因となるため、禁煙しましょう
◆「タバコが糖尿病のリスクを高める原因と対策」>>
血糖値の日内変動が大きくなると、動脈硬化になりやすいという研究結果も発表されています。普段から血糖値を目標の値に保つことが大切です。
合併症の早期発見に努めることも重要です。定期的な診察や検査を実施し、できるだけ早く異常に気づくようにしましょう。
【参考情報】『大きな血糖変動が血管硬化に関連することを明らかに-糖尿病治療における血糖変動管理の重要性-』日本医療研究開発機構
https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20210115-02.html
6.おわりに
糖尿病を発症すると、長い時間をかけて血管が傷つけられ、心疾患や脳卒中、腎不全、神経障害、視力障害などさまざまな合併症が引き起こされる恐れがあります。
これらの合併症を防ぐためには、適切な治療と生活習慣の見直しが大切です。定期的な通院と食事や運動で、血糖値を良好にコントロールしていきましょう。
また、検診で血糖値などの異常を指摘された場合は、必ず医師にご相談ください。