糖尿病と喘息の関係|発症・重症化のリスクと対策
糖尿病と喘息はまったく違う病気ですが、実は密接な関係があります。
糖尿病の患者は、喘息を発症したり、症状が悪化するリスクがあります。反対に喘息を持つ人も、糖尿病になる可能性が高まることがわかっています。
この記事では、糖尿病と喘息の関係性や、発症を予防するための対策について説明します。
目次
1.糖尿病とはどのような病気か
糖尿病は、血糖値をコントロールするインスリンというホルモンが不足したり、その働きが低下することで、血糖値が高い状態が続く病気です。
<診断基準>
空腹時の血糖値が126mg/dL以上
または食後2時間後の血糖値が200mg/dL以上
糖尿病には、大きく分けて1型と2型の2種類があります。
1型糖尿病は、主に自己免疫が原因です。病原体などの異物を攻撃する免疫のシステムが、誤ってすい臓を攻撃してしまうことで、インスリンを分泌できなくなります。
2型糖尿病は、食べ過ぎや運動不足などの生活習慣や遺伝が原因で起こります。インスリンの分泌が不足したり、分泌されても働きが弱まったりするため、血糖値が下がりにくくなります。
糖尿病は一度発症すると、基本的には完治が難しい病気です。そのため、健康診断で血糖値の上昇が見られたり、糖尿病予備軍と指摘された場合は、十分に注意する必要があります。
2.喘息とはどのような病気か
喘息とは、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が生じる病気です。
喘息の人は、気道が炎症で傷つき過敏になっているため、健康な人なら反応しないようなわずかな刺激にも敏感に反応し、激しい咳や呼吸困難などの発作を起こしてしまいます。
喘息の原因は、アレルギー性と非アレルギー性に分けられます。
アレルギー性は、ダニや花粉、カビ、ペットの毛などのアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)に反応して症状が現れます。
非アレルギー性は、呼吸器感染症やタバコの煙、天候の変化、ストレスなど、アレルギー以外の原因がきっかけとなって発症します。
3.糖尿病と喘息の関係
糖尿病と喘息には、次のような関係があります。
3-1.糖尿病が喘息のリスクを高める可能性
以下の研究では、2型糖尿病の人はそうではない人と比べて、喘息を発症する可能性がほぼ2倍になることが報告されました。
【参考情報】『The association between asthma and type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis including 17 million individuals』European Association for the Study of Diabetes
https://www.easd.org/media-centre/home.html#!resources/b-the-association-between-asthma-and-type-2-diabetes-a-systematic-review-and-meta-analysis-including-17-million-individuals-b-904d68ac-9c3f-47aa-a008-8b83f127e9d9
私たちの体に細菌やウイルスなどの病原体が侵入すると、白血球がそれを排除します。その中でも、最初に病原体に対応するのが好中球です。
好中球は病原体を取り込み排除するだけでなく、他の免疫細胞を感染部位に呼び寄せる役割も果たしています。
しかし、血糖値が高くなると、好中球の働きが悪くなることがわかっています。好中球が正常に機能しないと病原体を十分に排除できず、感染症にかかりやすくなります。
さらに、病原体に対する抗体を作る免疫反応が弱まったり、血流が悪くなることで免疫細胞が感染部位に到達しづらくなったりすることも、感染しやすい状態を引き起こします。
このように、糖尿病の人は病気の影響で免疫にかかわる細胞の働きが低下しているため、健康な人に比べて感染症にかかりやすくなっています。
そのため、風邪などの呼吸器感染症にかかると、それをきっかけとして喘息を発症したり、悪化につながる可能性が高くなります。
【参考情報】『糖尿病患者の好中球機能異常』日本化学療法学会雑誌 第64巻 第5号
https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06405/064050735.pdf
また、糖尿病の人は肥満体型であることが多いのですが、肥満の中でも内臓型肥満は、喘息の発症や悪化につながることがあります。
3-2.喘息が糖尿病に与える影響
先に紹介した研究では、喘息のある人はない人と比べて、2型糖尿病を発症する可能性が高いことも報告されています。
また、喘息の重症度が高いほど、2型糖尿病のリスクも高くなるとされています。
喘息の人は、適切な治療を受けることで重症化を防ぎ、2型糖尿病のリスクを下げることが重要です。
治療により症状が改善したように見えても、気道の炎症は続いているため、咳や息苦しさがなくなったからといって自己判断で治療をやめず、医師の指示に従って薬の服用を続けましょう。
また、以下の研究では、全身性ステロイド薬による治療を受けている患者は、治療を受けていない患者に比べて、糖尿病を発症する可能性が2倍以上高いと発表されました。
【参考情報】『Patients receiving steroids are more than twice as likely to develop diabetes, UK study has found』EurekAlert!|American Association for the Advancement of Science
https://www.eurekalert.org/news-releases/1056953
喘息の治療では、気道の慢性的な炎症を抑えるためにステロイド薬が使用されます。このとき、通常は吸入ステロイド薬を使いますが、重症の喘息の場合には、経口あるいは点滴でステロイド薬を使用することがあります。
吸入ステロイド薬は、気道に直接作用するように作られているため、全身への影響はほとんどありません。しかし、経口や点滴でステロイド薬を服用すると、全身に作用するため副作用も強くなります。
ステロイド薬が全身に作用する副作用のひとつとして、ステロイド糖尿病を発症することがあります。これは、ステロイド薬が肝臓からの糖の放出を促進したり、インスリンの分泌を抑えたりすることで血糖値が上昇し、糖尿病が引き起こされるためです。
【参考情報】『ステロイド糖尿病』日本内分泌学会
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=99
重症の喘息患者さんで、経口または点滴でステロイド薬を長期的に服用している人は、定期的に通院し検査を受けることで、糖尿病のリスクを避けることが重要です。
さらに、喘息の症状によって過剰にストレスを感じてしまった場合、血糖値が上昇することがあります。
ストレスがかかると、コルチゾールやアドレナリンというホルモンが分泌されます。これらのホルモンは、血糖値を上昇させる働きがあります。
また、ストレス解消のために飲酒や過食、喫煙を行う人もいますが、これらの行動は生活習慣を乱し、糖尿病の原因になる可能性があります。
ストレスは交感神経を刺激して緊張感を高めるため、ストレスが強いとなかなか寝付けなかったり、夜中に目が覚めたりすることがあります。
その影響で睡眠不足になると、食べすぎを抑えるホルモンであるレプチンの分泌が減り、食欲を刺激するホルモンのグレリンが増加するため、食欲が増進され血糖値が上昇する可能性もあります。
4.糖尿病の人が喘息を予防するにはどうすればいいのか
糖尿病の人は、喘息の発症や悪化を予防するために適切な治療を行うことが大切です。また、喘息を予防するための対策も重要になります。
4-1.血糖コントロール
まず、血糖値を適切にコントロールし、免疫のはたらきを低下させないようにしましょう。血糖値を正常に保つには、食事や運動といった生活習慣の改善が大切です。
食事は血糖値の変動に大きく影響します。必要なエネルギー量を守りながら、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。また、間食を控え、決められた時間に規則正しく食べることも大切です。
運動には血糖値を下げる効果があります。特にウォーキングや水泳などの有酸素運動は全身の筋肉を使うため、たくさんの糖を消費します。効果はすぐには出ませんが、毎日コツコツ続けることで、少しずつ血糖値の改善が期待できます。
糖尿病が悪化している人は、食事や運動だけでは血糖値を下げられないことがあります。その場合は、インスリンなどの薬を使用しつつ、血糖コントロールを行う必要があります。
4-2.肥満体型なら減量する
糖尿病の患者さんには肥満体型の人が多いのですが、肥満は喘息を悪化させる要因となります。
体は脂肪が多くなると、レプチンというホルモンを分泌します。レプチンは食欲をコントロールし、適正体重を維持する役割を担っています。
しかし、レプチンが増えると、好酸球という細胞が活発化し、気道を傷つけて狭くすることで喘息の症状を悪化させることがあります。
肥満体型の人は、適正体重になるよう減量しましょう。ただし、急激な減量は体に負担をかけるうえ、長続きしにくいものです。無理のない方法で、少しずつ体重を落としていくことが大切です。
4-3.ストレスを溜めない
過剰なストレスは高血糖を引き起こす原因となりますが、日常生活でストレスを感じることは避けられません。
ストレスを感じたときは、過食や飲酒、喫煙に頼るのではなく、生活習慣を乱さない方法で解消するようにしましょう。例えば、適度な運動を行う、好きな音楽を聴く、友人や家族に話を聞いてもらうなどの方法です。
自分に合った方法を選び、ストレスを溜め込みすぎないように心がけましょう。
4-4.基本的な感染症対策を行う
糖尿病の方は、感染症にかかりやすい傾向があります。コロナのような呼吸器感染症をきっかけに喘息を発症する恐れもあるので、普段から基本的な対策を行い、感染症の予防に努めましょう。
手洗いやうがいはもちろん、インフルエンザなどの感染症が流行している時期は、外出を控えたり。マスクを着用することが大切です。
4-5.こまめに掃除する
ダニや花粉などのアレルゲンは、喘息を引き起こす原因となります。こまめに掃除を行い、アレルゲンを溜めないようにしましょう。
特に寝室は、ダニやホコリがたまりやすい場所なので、定期的に寝具を洗濯したり、空気清浄機を設置したりすると良いでしょう。
4-6.禁煙する
タバコは糖尿病と喘息の両方を悪化させるため、禁煙は非常に重要です。
喫煙すると交感神経が刺激されて血糖値が上昇し、インスリンの働きも低下するため、糖尿病が悪化します。
さらに、タバコの煙は気道を刺激して炎症を引き起こし、喘息を誘発したり悪化させたりします。
しかし、タバコには依存性があるので、禁煙したいと思ってもなかなかやめられない人も多いです。
禁煙を成功させるためには、周囲の人の協力を得たり、禁煙外来を利用したりすると良いでしょう。
5.おわりに
2型糖尿病の患者さんは、健康な人よりも喘息を発症するリスクが高くなります。糖尿病も喘息も、どちらも長期にわたる治療が必要な病気なので、二つの病気を抱えると、心身の負担も金銭的な負担も非常に大きくなります。
喘息の発症を防ぐためにも、血糖コントロールや感染対策を日ごろからしっかりと行い、健康的な生活習慣を維持していきましょう。