糖尿病による汗の異常!気になる量やにおいについて
これまでより汗の量が増えたり、逆に減ったり、においが気になってきた場合は、糖尿病の影響で汗に変化が生じた可能性があります。
糖尿病になると自律神経に影響が及び、発汗の異常が起こることがあります。このため、体温調節が難しくなり、熱中症のリスクも高まります。
この記事では、糖尿病による汗の変化について説明します。「暑くないのに汗が出る」「体の一部だけ汗をかく」などの症状がある人は、ぜひ読んでください。
目次
1.糖尿病とはどのような病気か
糖尿病は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが不足したり、働きが悪くなることで、血糖値が高い状態が続く病気です。
<診断基準>
空腹時の血糖値が126mg/dL以上、
または食後2時間後の血糖値が200mg/dL以上
糖尿病には、免疫の仕組みが誤って自分のすい臓を攻撃してしまうことが原因の1型と、食べすぎなどの生活習慣の乱れや遺伝が原因の2型があります。
糖尿病は、基本的には一度発症してしまうと治らない病気です。さらに、発症後は全身の動脈硬化が進行し、さまざまな合併症が引き起こされる恐れがあるため、注意する必要があります。
2.糖尿病による汗の変化
糖尿病になると、汗に以下のような変化が現れることがあります。
・汗をかきやすくなる
・汗をかかなくなる
・汗がベタベタする
・汗が甘酸っぱい
・体の一部だけ汗が出る
健康な人でも、汗のべたつきや匂い、量で悩んでいる人は多いのですが、糖尿病の人は、「暑くなくても汗が出る」「体の左右で汗の出方が違う」など、通常とは明らかに異質な発汗が見られることがあります。
3.なぜ糖尿病で汗の異常が現れるのか
この章では、糖尿病が原因で汗の異常が現れる理由について説明します。
3-1.自律神経の障害
糖尿病になると、合併症の一つである糖尿病性神経障害を発症することがあります。この神経障害は、腎症や網膜症と並んで「三大合併症」と呼ばれ、比較的早い段階で現れると言われています。
神経障害が起こると、感覚神経、運動神経、自律神経が主に影響を受けます。この中で、発汗に関係するのは自律神経です。
【参考情報】『Sweating』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/003218.htm
自律神経は、交感神経と副交感神経の働きによって、体のバランスを保つ役割を担っています。しかし、糖尿病性神経障害が進行すると、交感神経がうまく機能せず、発汗の調整ができなくなります。
そのため、暑くないのに大量に汗をかいたり、逆に暑いのに汗が出にくくなることがあります。また、「普段汗をかかない場所で汗をかく」「体の一部だけ汗をかく」「体の左右で汗の出方が異なる」こともあります。
3-2.多飲の影響
糖尿病になると、血糖値が高い状態が続き、血液中の糖分が多くなります。すると、血液の濃度が濃くなるのでそれを薄めようと、体は細胞から血液内に水分を引き込み、濃度の調整を行います。
その結果、細胞内の水分が不足し、口や喉が渇いて水分を欲するようになるので、患者さんは水分をたくさん飲むことで、汗をかきやすくなります。
【参考情報】『Thirst』NHS inform
https://www.nhsinform.scot/illnesses-and-conditions/nutritional/thirst/
3-3.血液中のブドウ糖が多くなる
汗は血液から作られます。さらに詳しくいうと、血液には赤血球や白血球などの細胞が含まれていますが、汗はそれらを除いた血しょうという成分から作られます。
【参考情報】『血液について』日本血液製剤協会
http://www.ketsukyo.or.jp/blood/blo_01.html
糖尿病になると、血液中にブドウ糖が増えるため、作られる汗にもやはり糖分が含まれるようになります。すると、皮膚表面にも糖分が出てくるため、べたつきや甘さを感じることがあります。
3-4.体内でアセトンが生成される
糖尿病によりインスリンの分泌が低下したり、働きが悪くなると、糖分が体のエネルギーとして利用できなくなります。
すると、肝臓は中性脂肪を分解してエネルギーを作り出そうとするのですが、その過程でケトン体という物質が生成されます。
ケトン体にはアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸の3種類があります。このうち、アセト酢酸の一部とβ-ヒドロキシ酪酸は血液中に取り込まれ、体内で利用されます。
一方、残りのアセト酢酸はアセトンに変わり、呼気や汗、尿などを通じて体外に排出されます。
アセトンは、甘酸っぱい特有の「ケトン臭」を発します。このにおいが汗に混じると、くさいと感じることがあります。
【参考情報】『Relationship between skin acetone and blood β-hydroxybutyrate concentrations in diabetes』ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S000989810500584X
4.汗の異常がもたらすリスク
汗は体温調節や代謝など、体にとって重要な役割を担っています。そのため、汗に異常が生じると、体にさまざまな悪影響が生じることがあります。
4-1.熱中症
私たちの体は、体温が上昇すると自律神経が交感神経に指令を送り、汗をかくよう促します。すると、交感神経が汗腺を刺激して汗が分泌されます。
分泌された汗は皮膚の表面で蒸発し、水分が気体になる際に周囲の熱を吸収します。この仕組みによって、体温が下がるのです。
【参考情報】『Sweat』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/sweat
しかし、糖尿病では自律神経が障害を受けるため、汗による体温調節がうまく機能しません。その結果、体内に熱がこもりやすくなり、体温が上昇しやすくなって熱中症のリスクが高まります。
【参考情報】『熱中症について』全日本病院協会
https://www.ajha.or.jp/guide/23.html
特に高齢者では、加齢によっても汗腺の機能が低下したり、暑さを感じにくくなったりするため、汗をかきにくくなることが多いです。また、体が熱くなっていることに気づけない場合もあるため、熱中症が重症化しやすい傾向があります。
【参考情報】『高齢者のための熱中症対策』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/pdf/heatillness_leaflet_senior_2022.pdf
4-2.脱水
健康な人でも、大量に汗をかくと体内の水分が不足し、脱水症状を引き起こすことがありますが、糖尿病の人は、血液中のブドウ糖の影響により、さらに脱水になりやすい状態にあります。
ですから、激しい運動や自律神経の乱れなどによって大量に汗をかくと、脱水症状が起こり悪化しやすくなります。
脱水が進むと血糖値が上昇しますが、適切に水分を補給することで、血糖値の過剰な上昇を防ぐことができます。一方で、水分補給が不足すると血糖値がさらに上がり、高血糖高浸透圧症候群(HHS)を引き起こす危険があります。
【参考情報】『Hyperosmolar Hyperglycemic State (HHS)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21147-hyperosmolar-hyperglycemic-state
高血糖高浸透圧症候群になると、昏睡やけいれん発作といった深刻な症状を引き起こし、命に関わる場合もあります。
特に高齢者は喉の渇きを感じにくく、水分摂取量が不足しがちなため、脱水や高血糖状態に陥りやすい傾向があります。
また、ステロイド薬や利尿剤を服用している人は、薬の影響でさらに血糖値が上昇しやすくなることもあります。
4-3.皮膚の乾燥、かゆみ
汗をかきにくくなると、皮膚の水分量が減少し、乾燥しやすくなります。乾燥した皮膚はカサカサになり、かゆみを伴ったり、粉をふいたような状態になることがあります。
一方で、汗をかいた後に糖分を含む汗をそのままにしておくのも危険です。汗の成分や糖分が肌を刺激したり、細菌が繁殖しやすくなることで、皮膚に赤みやかぶれが生じることがあります。
糖尿病の人は免疫のはたらきが低下しているため、わずかな皮膚の傷からでも細菌やウイルスが入り込みやすくなります。
また、神経障害により傷の痛みを感じにくかったり、血流が悪いために傷の治りが遅くなることもよくあります。
その結果、傷が悪化して重い感染症を引き起こしたり、細胞が壊死(えし:細胞が死ぬこと)することもあります。
汗を多くかく場合は、汗をこまめに拭き取り皮膚を清潔に保つことが大切です。逆に汗をかきにくい場合は、保湿をしっかり行うことで皮膚トラブルを予防できます。
【参考情報】『Diabetes and Your Skin』CDC
https://www.cdc.gov/diabetes/signs-symptoms/diabetes-and-your-skin.html
5.おわりに
糖尿病が進行すると、「汗が大量に出る」「甘酸っぱいにおいの汗が出る」などの発汗異常が生じることがあります。
汗の変化に気づいたら、糖尿病が悪化している可能性があるため、早めに主治医に相談しましょう。放っておくと皮膚の病気につながり、傷口から細菌などの病原体が侵入する恐れがあります。
糖尿病による汗の変化を抑えるには、血糖値を適切に管理することが重要です。血糖コントロールをしっかり行うことで、汗の量やにおいが改善する場合があります。