タバコを吸うと吐き気を感じる理由と対策
タバコを吸うと気分が良くなったり集中力が高まると感じ、喫煙が習慣になっている人も多いでしょう。
しかし一方で、タバコを吸うと吐き気や胸の不快感を覚え、気分が悪くなることはありませんか?
この記事では、タバコを吸った際に吐き気が生じる原因について解説します。吐き気を和らげるための対策も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
1.タバコを吸うと吐き気がする主な原因
タバコを吸うと、吐き気が現れる主な原因を紹介します。
1-1.ニコチンの影響
ニコチンとは、タバコに含まれる成分で、体に吸収されると脳に働きかけ、気分を良くしたりイライラを収めたりします。
しかし、ニコチンを吸うことが習慣になると、止めるのが難しくなり、さらに吐き気や頭痛など、体に悪い影響が及ぶこともあります。
タバコを吸うと、ニコチンが肺から血液に吸収され、脳へと伝わります。すると、脳内でドーパミンという物質が放出されます。
ドーパミンは、やる気や集中力、快楽に関わる神経伝達物質です。そのため、タバコを吸うことでイライラが軽減したり、気分が良くなったりするのです。
【参考情報】『Dopamine』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/22581-dopamine
一方で、ニコチンは自律神経を刺激し、体の不調を引き起こすことがあります。
自律神経には、体を活発にする交感神経と、リラックスさせる副交感神経があります。この2つがバランスをとって体を調整しています。
ニコチンにより交感神経が刺激されると血管が収縮し、臓器への血流が低下します。
この影響で、胃や腸への血流が低下すると、消化管の働きが悪くなり、吐き気が生じることがあります。特に空腹時には、吐き気が起きやすくなる傾向があります。
また、吐き気以外にも、自律神経のバランスが崩れることで、頭痛や冷や汗などの症状が現れることがあります。
【参考情報】『Nicotine Is Why Tobacco Products Are Addictive』FDA
https://www.fda.gov/tobacco-products/health-effects-tobacco-use/nicotine-why-tobacco-products-are-addictive
1-2.胃食道逆流症(逆流性食道炎)
胃食道逆流症とは、胃液や胃の内容物が食道に逆流し、食道が傷ついたり炎症を起こしたりする病気です。逆流性食道炎とも呼ばれています。
食道と胃の境目には「下部食道括約筋」という筋肉があり、これが食べ物や飲み物を逆流させないように働いています。しかし、何らかの原因で下部食道括約筋が緩むと、胃液や胃の内容物が逆流してしまいます。
喫煙者は、タバコに含まれるニコチンの影響で自律神経が刺激され、下部食道括約筋が緩みやすくなっています。そのため、咳などの刺激で胃酸や胃の内容物が逆流し、吐き気や胸焼けなどの症状が現れます。
【参考情報】『Smoking and the Digestive System』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/smoking-and-the-digestive-system
2.タバコによる吐き気を防ぐには
喫煙による吐き気を防ぐためには、禁煙が最も効果的です。しかし、ニコチンは依存性が高いため、タバコをやめたいと思っても簡単にはいかないと感じている人も多いでしょう。
まずは無理のない範囲で、自分にできることから始めてみましょう。
2-1.喫煙量を減らす
喫煙量を減らすと、体に吸収されるニコチンの量も少なくなり、吐き気が軽減することがあります。
どうしてもタバコが吸いたくなったときは、口寂しさを紛らわせたり、他の方法でストレスを解消してみましょう。
例えば、お茶を飲んだりガムを噛んだりして、タバコの代わりに気分を落ち着かせることができます。
また、軽い運動やストレッチ、散歩などで体を動かすことも効果的です。
【参考情報】『禁煙の準備 – 禁煙7日前から行う、禁煙のコツを教えます!《準備編》』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-06-002.html
2-2. 空腹時の喫煙を避ける
空腹時にタバコを吸うと、ニコチンの血中濃度が高くなり、吐き気がますます強くなる可能性があります。
さらに、タバコは胃酸の分泌を増やすので、空腹時に胃酸が胃を刺激すると、刺激の強さで吐き気が引き起こされる原因となります。
2-3.別の製品に切り替える
いつも同じ銘柄のタバコを吸っている人は、ニコチンが少ない製品に変えてみるのも一つの方法です。
ただし、ニコチンの量が少ない製品だからと言って、吸う回数が増えてしまえば効果はありません。
ニコチンの量が少ない製品に替えると、「もっと吸いたい」という気持ちが強くなるかもしれませんが、できるだけ他の方法で気を紛らわせてみましょう。
2-4.禁煙する
禁煙に成功すれば、ニコチンによる吐き気が収まりますし、胃食道逆流症の症状も改善します。
以下の研究では、禁煙に成功した人は胃食道逆流症の症状が約43%改善したが、禁煙に失敗した人は約18%程度しか改善しなかったと報告されています。
【参考情報】『禁煙治療が逆流性食道炎に有効であることを日本で初めて明らかに』大阪市立大学
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2015/160205
3.禁煙の方法
タバコは依存性が強いため、禁煙したいと思っても簡単にはできないとあきらめてしまう人もいるでしょう。
しかし、禁煙外来で適切なサポートを受けることができれば、成功率は格段にアップします。
3-1.禁煙外来での治療の流れ
禁煙治療を健康保険で受けたい場合は、以下の条件が必要になります。
・ニコチン依存症に関わるスクリーニングテストで依存症と診断された方
・ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上の方
例)1日20本を15年間吸っている場合 20×15=300
ただし、35歳未満はブリンクマン指数が200以上である必要はありません
・直ちに禁煙したいと考えている方
・治療を受けることを文書により同意している方
初回受診時に禁煙補助薬が処方され、12週間に5回通院して、離脱症状や禁煙補助薬の副作用などの確認を行います。また、呼気一酸化炭素濃度検査を実施し、禁煙状況の把握も行います。
自分の努力や我慢だけで禁煙するのは難しいこともありますが、禁煙外来を利用すれば、成功率は7~8割に達します。
その理由として、禁煙補助薬が離脱症状を軽減したり、医師のカウンセリングで適切な対処法を学んだりできることが挙げられます。
【参考情報】『さあ禁煙を始めましょう!』日本医師会
https://www.med.or.jp/forest/kinen/start/
3-2.禁煙補助薬
禁煙補助薬には、市販薬と処方薬があります。
<市販薬>
・ニコチンガム
・ニコチンパッチ(貼り薬)
<処方薬>
・ニコチンパッチ(貼り薬)
・バレニクリン(チャンピックス:飲み薬)
※現在、バレニクリン(チャンピックス)は出荷を停止しているので処方できません
ニコチンパッチには市販薬と処方薬がありますが、市販薬は誰でも安全に使用できるよう、有効成分の用量が少なめに設定されています。そのため、特に喫煙本数が多い人は、十分な効果を実感できない場合があります。
禁煙開始後、1~2週間にわたって続く離脱症状は、禁煙の失敗につながる大きな要因のひとつです。
この時期は、「イライラする」「眠れない」「落ち着かない」といった感覚がとても強くなり、「絶対に禁煙を成功させたい!」「でも、タバコを吸えばこのつらさから解放される」という葛藤に悩まされることも少なくありません。
このような、つらい離脱症状を抑えるのが禁煙補助薬です。
【参考情報】『禁煙のおくすりってどんなもの?』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-06-006.html
3-3.禁煙アプリ
2020年12月より、禁煙アプリを活用した治療法が健康保険の適用となり、処方している病院もあります。
アプリを使用する場合、「禁煙治療用アプリ」と「COチェッカー」という2つのツールを活用します。COチェッカーは、息に含まれる一酸化炭素の濃度を測定する機器で、禁煙の進捗を客観的に確認することができ、モチベーションの向上にも役立ちます。
禁煙外来での治療は通常12週で終わりますが、アプリは24週目まで利用可能です。そのため、禁煙外来が終了した後も引き続きサポートを受けられ、禁煙を継続するための心強い助けになります。
【参考情報】『禁煙治療用アプリってどんなもの?』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-06-010.html
3-4.禁煙の注意点
禁煙は難しいと感じる人の中には、加熱式タバコや電子タバコのような新型タバコに切り替えて、リスクを減らそうとする人もいるかもしれません。
しかし、新型タバコに切り替えたとしても、禁煙を成功させるのは難しいことが分かっています。
加熱式タバコにはニコチンが含まれているので、従来の紙巻タバコと同様、吸えば体内にニコチンが吸収されます。そのため、ニコチン依存性が軽減できるわけではありません。
また、国立がん研究センターの調査では、電子タバコを使用した場合も禁煙成功率が低下することが報告されています。
【参考情報】『紙巻タバコの禁煙方法と有効性を調査』国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2017/1212/index.html
4.喫煙でリスクが上がる病気
タバコの煙には多くの化学物質が含まれており、吐き気以外にもさまざまな悪影響を与える可能性があります。
この章では、タバコが原因で発症する可能性がある病気について説明します。
4-1.がん
タバコの煙には発がん物質が含まれています。これが体内に取り込まれると、DNAが損傷を受け細胞に異常が生じます。
このような異常な細胞が増えることで、がんが発症する可能性が高くなります。さらに、発がん物質を直接体内に取り込むことで、がんの進行が促されることもあります。
がんは、タバコの煙の影響を受けやすい肺だけでなく、咽頭、喉頭、食道、肝臓、膀胱などさまざまな部位でも発生する可能性があります。
また、禁煙している年数や吸った本数によって、がんの発症リスクが変わります。タバコを長期間吸っている人、一日に吸う本数が多い人は特に注意が必要です。
4-2.COPD
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、有害物質を長期間吸い込み続けることで肺や気管支に炎症が起こる病気です。主な原因は喫煙で、別名「タバコ病」とも呼ばれています。
この病気になると、炎症により気管支の壁が厚くなり、痰などの分泌物も溜まることから気管支が狭くなり、空気が通りにくくなります。
さらに、肺の炎症により、肺の末端にある肺胞という袋が壊れます。その結果、肺の弾力が失われ、空気をうまく吐き出せなくなるため、動いたときに息切れなどの症状が現れます。
一度壊れた肺胞は元に戻ることはないため、症状を抑えて生活の質を向上させ、病気の進行を遅らせるための治療を行います。
4-3.心血管疾患
喫煙者は、タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素の影響で、心血管疾患のリスクが高くなります。
ニコチンによって交感神経が刺激されると、心拍数や血圧が上昇するので、心臓や血管への負担が大きくなります。
また、一酸化炭素が体内に取り込まれると、体内に酸素を運ぶヘモグロビンと結びつくため、ヘモグロビンが酸素を運べなくなります。
その結果、体内の酸素が不足するため、心臓が早く動いてその不足を補おうとします。これが心臓への負担となります。
さらに、一酸化炭素は血管を傷つけるため、血栓ができやすくなり、動脈硬化を引き起こすことがあります。
このような心臓への負担や動脈硬化が進行すると、心筋梗塞などの心血管疾患を引き起こし、突然死のリスクもあります。
【参考情報】『Health Effects of Cigarettes: Cardiovascular Disease』CDC
https://www.cdc.gov/tobacco/about/cigarettes-and-cardiovascular-disease.html
4-4.糖尿病
タバコによって交感神経が刺激されると、血糖値をコントロールするホルモンであるインスリンの分泌量が低下するので、血糖値が上昇します。
また、喫煙により血管が傷つくことも、糖尿病を悪化させる原因になります。
4-5.歯周病
タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、歯肉の血流を低下させます。その結果、歯ぐきや歯周組織に酸素や栄養が十分に行き渡らなくなると、歯周ポケットの中で細菌が繁殖しやすくなるため、歯周病のリスクが高まります。
さらに、ニコチンは唾液の分泌量を減少させます。唾液の自浄作用が弱まることで、歯や歯肉に食べかすが残りやすくなり、これも歯周病を引き起こす要因となります。
【参考情報】『歯周病と煙草の関係』日本臨床歯周病学会
https://www.jacp.net/perio/cigarette/
5.おわりに
タバコを吸うと吐き気を感じる主な原因は、ニコチンの影響です。禁煙で吐き気が治まる可能性は高いですが、難しいと感じる人も多いでしょう。
禁煙は自分の意志や努力に頼るよりも、禁煙補助薬やアプリを利用して離脱症状を抑えた方が、成功率が上がり、達成しやすくなります。さらに、病院でのサポートを受けることで、禁煙のモチベーションを保ちやすくなります。
吐き気が治まって体調が改善できれば、禁煙のメリットを心から実感できるようになるでしょう。