長引く咳の原因|考えられる病気と受診の目安
風邪のような身近な病気で、咳が出ることはよくあります。
通常、このような咳は1週間ほどで治まりますが、症状が長引く場合は、ただの風邪ではなく、他の病気が原因で咳が出ている可能性があります。
この記事では、長引く咳の原因と考えられる病気について説明します。しつこい咳にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 咳が「長引く」とは、どれくらいの期間なのか
当院では、咳が2週間以上続いている場合「長引いている」と考えています。
医学的には、咳が始まってから3週間未満は「急性咳嗽(がいそう:医学用語で咳のこと)」、8週間以上は「慢性咳嗽」とされ、3週間以上咳が続いていたら、風邪ではない病気かもしれないと疑います。
しかし、単なる風邪で2週間以上も咳が続くことはまずありません。また、咳が長引くと体力を消耗したり、夜眠れなくなったりすることもあるため、つらい症状を和らげて早くラクになりたいと思う方も多いのではないでしょうか。
したがって、咳が長引いていると感じる場合に病院を受診する目安は、「2週間以上咳が続いている場合」と考えるのが良いでしょう。
【参考情報】『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20190412145942.html
2.咳が長引いている場合に考えられる呼吸器の病気
咳は、心疾患やストレスが原因で出ることもありますが、やはり多いのは、呼吸器の病気が原因である場合です。
以下、咳が2週間以上続いているときに考えられる呼吸器の病気を紹介します。
2-1.喘息
空気の通り道である気道に慢性的な炎症が起こることで、激しい咳や息苦しさ、喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー・ゼイゼイという呼吸音)などが現れる病気です。
喘息の咳は、夜間から早朝にかけて悪化することが多いです。また、季節の変わり目や特定の場所、例えば寝室やペットのいる場所などで悪化することがあります。
喘息の咳は、市販の咳止め薬や風邪薬ではよくなりません。治療には、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬や、気管を広げて症状を緩和させる気管支拡張薬などの処方薬を用います。
2-2.咳喘息
喘息とよく似た病気ですが、息苦しさや喘鳴はなく、咳だけが長く続く病気です。風邪やコロナなどの呼吸器感染症をきっかけに発症することが多いです。
咳喘息は、未治療のまま放っておくと喘息に移行することがあります。治療には、喘息と同様、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などを用います。
2-3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
主に、長期間の喫煙が原因で肺に炎症が起こって硬くなり、呼吸がしにくくなる病気です。
この病気になると痰が増えるため、痰を吐き出そうとして咳が出ます。また、「階段を上る」「重いものを持って歩く」などの軽い動作でも息苦しさが現れるようになります。
一度硬くなった肺は元に戻らないため、症状の進行を抑える治療や、症状を和らげる治療を行います。重症化すると、在宅酸素療法が必要になることもあります。
2-4.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ・ニューモニエという病原体により引き起こされる病気です。咳のほか、発熱や倦怠感、頭痛などの症状があります。
咳は1カ月程度続くこともあり、特に夜間や早朝に激しくなることが多いです。
治療には抗菌薬を用います。また、咳止め薬や解熱剤でつらい症状を和らげることもあります。
2-5.アトピー咳嗽
咳に対する感受性が高くなり過ぎて、通常なら反応しないわずかな刺激でも咳が出るようになる病気です。
痰の絡まない乾いた咳が続くほか、のどにかゆみやイガイガなどの違和感を訴える人が多いです。
アトピー性咳嗽は、アレルギーの病歴がある人や、アレルギー体質の家族がいる人に多い病気です。
治療には、アレルギー反応を抑えるヒスタミンH1受容体拮抗薬のほか、吸入ステロイド薬などが使用されます。
2-6.百日咳
百日咳菌に感染して発症する呼吸器感染症です。軽い咳から始まってだんだん症状が強くなり、咳が治まるまでに要する期間が約100日程度と長くかかります。
乳幼児は症状が強く激しい咳が出ますが、大人は感染してもあまり症状が出ないこともあります。
治療には、抗菌薬を用います。薬で症状は改善しますが、服薬しても咳はしばらく続きます。
2-7.肺結核
結核菌に感染することで発症する病気です。
初期は風邪と同じような症状なので、結核だと気づくのは難しいのですが、咳は2週間以上続き、病状の進行とともに、血痰や胸痛、体重減少などが見られます。
治療では、抗結核薬を複数組み合わせ、6カ月ほど服用します。
2-8.間質性肺炎
肺の間質という部分に炎症が起こり、硬くなる病気です。
症状は、痰の絡まない乾いた咳や、動いたときの息切れなどです。咳はしつこく長引き、重症になると、日常生活の中でのちょっとした動きだけでも息が苦しくなります。
治療には、ステロイド薬や免疫抑制剤、抗繊維化薬を使用します。息切れが強い場合は、酸素ボンベを用いて鼻から酸素を吸入する在宅酸素療法も検討します。
2-9.肺がん
肺がんの初期症状は、咳や痰など他の呼吸器疾患とあまり変わりません。ただ、咳がなかなか治まらないので、ただの風邪ではないと疑いを持つことはあるでしょう。
がんが進行すると、息苦しさや血痰、胸の痛みなどの症状が現れます。
治療法には、手術療法、放射線療法、化学療法があります。がんの部位や進行度などを見ながら、医師と相談して治療法を決めます。
2-10.コロナ後遺症
新型コロナウイルス感染症にかかった後、後遺症として咳が長引くことがあります。
咳のほか、倦怠感、頭痛、集中力の低下などの症状も現れることがあります。
後遺症として咳が続いていても、時間とともに改善することが多いのですが、なかなか良くならない場合は、喘息の治療薬である吸入ステロイド薬を用いることもあります。
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kouisyou_qa.html
2-11.その他
その他、誤嚥性肺炎や肺MAC症など、咳が長引く呼吸器疾患はいくつかあります。
3.咳が長引いている場合に考えられる呼吸器以外の病気
咳は、呼吸器以外の病気でも現れることがあります。
以下、長引く咳が症状として現れる呼吸器以外の病気について説明します。
3-1.副鼻腔炎
鼻の内部にある副鼻腔に炎症が起こる病気です。風邪をきっかけに発症することが多いです。
副鼻腔炎になると、粘り気のある鼻水が出るのですが、その鼻水がのどに垂れ込むと、体外へ排出するために咳が引き起こされます。
副鼻腔炎の疑いがある人は、耳鼻咽喉科を受診してください。治療には、抗菌薬や炎症を抑える薬を使用します。
【参考情報】『副鼻腔炎|鼻の病気』日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=21#fukubiku
3-2.胃食道逆流症(GERD)
胃酸や胃の内容物が食道に逆流し、咳やのどの痛み、声枯れなどの症状が現れる病気です。食後や横になって寝たときに咳が悪化することが多いです。
胃食道逆流症の疑いがある人は、消化器内科か内科を受診してください。治療では、主に胃酸の分泌を抑える薬を用います。
【参考情報】『胃食道逆流症』神奈川県立こども医療センター
https://kcmc.kanagawa-pho.jp/diseases/ger.html
3-3.心不全
不整脈や狭心症などの心疾患で心不全の状態になると、血液の流れが悪くなることで肺に血液が溜まります。すると、肺に溜まった血液の水分から痰が生じ、痰を排出するために咳が出ます。
心不全の治療は、循環器内科で行います。治療には、体に溜まった水分を出す利尿剤や、心臓の負担を軽減する薬を用います。
【参考情報】『心不全の初期サイン-早期発見のために-』日本心臓財団
https://www.jhf.or.jp/check/heart_failure/09/
3-4.薬の副作用
高血圧の薬であるACE阻害薬の副作用によって、痰の絡まない空咳が現れることがあります。症状は夜間に出やすく、女性や非喫煙者に多いという特徴があります。
薬の内服を止めると咳は治まりますが、自己判断で止めることはせず、必ず医師や薬剤師に相談し、止めても問題ないか確認してください。
【参考情報】『ACE阻害剤による副作用の咳はどんな咳か?』福岡県薬剤師会
https://www.fpa.or.jp/johocenter/yakuji-main/_1635.html?blockId=39347&dbMode=article
3-5.心因性咳嗽
ストレスなどの精神的要因によって引き起こされる咳です。さまざまな検査を行っても咳の原因がはっきりしない場合は、心因性咳嗽の疑いがあります。
心因性咳嗽の咳は、緊張している時や日中に出やすいとされています。反対に、集中している時や寝ている時にはあまり出ません。
心因性咳嗽の疑いがあっても、背後に呼吸器疾患が隠れている恐れもあるため、まずは画像検査など各種検査が必要です。
検査の結果、心因性咳嗽の疑いが強ければ、心療内科や精神科で相談するのがよいでしょう。
【参考情報】『Somatic cough syndrome or psychogenic cough—what is the difference?』Journal of Thoracic Disease
https://jtd.amegroups.org/article/view/12440/html
4.呼吸器内科で行う基本的な検査
咳が長引いている時は、咳の原因を突き止めるために検査を行います。
まずは、よく行われる基本的な検査について説明します。
4-1.画像検査
レントゲン(X線)やCTで肺の画像を撮影し、異常がないかどうかを確認します。
炎症などがある場所は白く写るため、異常のある部位や範囲が分かります。
4-2.血液検査
血液を採取し、成分を調べることで異常を発見します。
炎症があれば、炎症データや白血球などの値に変化が見られます。また、アレルギーで咳が出ているなら、原因となる物質(アレルゲン)を調べることができます。
5.呼吸器内科で行う専門的な検査
さらに詳しい情報が必要な時は、専門的な検査を行います。
5-1.呼気NO検査
吐いた息に含まれる一酸化炭素の量を測定する検査です。
喘息などで気道に炎症が起こると、吐いた息の中に含まれる一酸化炭素の量が増えます。
5-2.スパイロメトリー
スパイロメーターという機械を使って息を吸ったり吐いたりし、肺の機能や呼吸の状態を調べます、
喘息や咳喘息、COPD、間質性肺炎などの疑いがある時に行います。
5-3.モストグラフ
専用の機器を用いて呼吸をすることで、気道や気管支が狭くなっていないかどうかを調べる検査です。
喘息やCOPDの診断に役立てる検査です。
6.おわりに
咳が長引いていてつらい場合は、呼吸器内科を受診して原因を調べましょう。
症状が軽くても、2週間以上続いているなら呼吸器疾患の疑いがあります。また、2週間未満でも、咳により日常生活に支障が出ているなら、市販薬でしのいでいるより、病院で原因を調べて自分に合った薬を処方してもらった方が、早くラクになる可能性があります。
咳が長引いていると、体力が奪われ体に負担がかかり、いつもの力が出せなくなることも多いでしょう。
咳の原因が呼吸器疾患ではない場合も、適切な診療科を紹介しますので、おかしいと思ったら遠慮なく専門家に相談してください。