肺MAC症とは?原因・症状・治療法
肺MAC(マック)症は呼吸器感染症の一種で、近年増加傾向にあります。
あまり聞き慣れない病気ですが、やせ型の中高年女性に多く、「治療に時間がかかる」「根治が難しい」「再発や再感染が多い」というやっかいな性質を持っています。しかし、自然と治ってしまうこともあります。
この記事では、肺MAC症とはどんな病気なのか、原因や治療法を解説します。咳が長引いていて心配な人や、健康診断・人間ドックで病気の可能性を指摘された人は、ぜひ読んでください。
目次
1.肺MAC症とはどんな病気か
肺MAC症とは、非結核菌抗酸菌の一種であるMAC菌に感染して発症する病気です。
抗酸菌は、結核菌、非結核菌抗酸菌、らい菌の3つに分類されます。その3つのうち、非結核菌抗酸菌によって引き起こされた肺の感染症を、肺非結核菌抗酸菌症と呼んでいます。
非結核菌抗酸菌はおよそ150種類存在しますが、肺非結核菌抗酸菌症のうち約80%は、MAC菌が原因で発症します。
【参考情報】『肺非結核性抗酸菌症』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-08.html
肺MAC症の症状は、肺結核の症状とよく似ていますが、これら2つはまったく別の病気です。また、肺結核と違って、人から人へ感染することもありません。
近年、肺MAC症の患者数は増加傾向にあります。以前は肺結核の患者の方が多かったのですが、現在では逆転して、肺MAC症の方が多くなっています。
医師が患者を結核と診断すると、保健所への報告が義務付けられるため、結核の患者数は比較的把握しやすいです。しかし、肺MAC症には保健所への報告が義務付けられていないため、実際にはもっと多くの患者がいるにもかかわらず、把握されていない可能性があります。
【参考情報】『2結核|感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-02.html
この病気は、40代以上のやせ型の女性に多いと言われています。しかし、その理由ははっきりとわかっていません。
また、ステロイド薬や抗がん剤など、免疫力が低下する薬を服用している人も、かかりやすくなります。
肺MAC症の治療は長期間に及び、治ったとしても再発することが多いです。その一方で、軽症だった場合は自然治癒することもあります。
【参考情報】『MAC Lung Disease』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22256-mac-lung-disease
2.原因
肺MAC症の原因となるMAC菌は、水の中や土の中など、身近な自然環境に生息しています。
さらに、温かくて機密性の高い場所を好むため、風呂場でも感染のリスクがあります。例えば、汚れた箇所や排水溝、細菌が形成したバイオフィルムでぬめりを帯びたシャワーヘッドなどに存在し、水しぶきやミストと一緒に吸い込まれることがあります。
【参考情報】『バイオフィルム』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-023.html
また、ガーデニングや農作業などの土いじりをしているうちに、土ぼこりに含まれるMAC菌を吸い込んで感染することもあります。
MAC菌は自然環境に広く存在しているので、完全に避けることはできません。しかし、この菌は病気を引き起こす能力が比較的弱いので、吸い込んだからといって感染するとは限りません。
3.症状
肺MAC症の主な症状は、長引く咳や痰です。さらに進行すると、血痰や喀血、息切れ、体重減少などが現れてきます。しかし、この病気は初期の段階では症状が軽く、時には無症状のこともあります。
また、数年から10年以上かけて、非常にゆっくりと症状が進行するため、病気にかかっていることに気づいていない人も多いです。
そのため、健診や人間ドッグなどでX線(レントゲン)検査を受けて発見されるケースも少なくありません。
4.検査
肺MAC症の症状は、肺結核などの他の肺疾患の症状と似ています。そのため、さまざまな検査を行って診断します。
4-1.画像検査
胸部レントゲン(X線)検査やCT検査で肺とその周辺を撮影し、画像を確認します。肺MAC症だと、結核と同じような陰影や空洞が認められます。
レントゲンだけでは正確な診断が難しいこともあり、CT検査が行われることが多いです。
【参考情報】『肺MAC症の画像所見』結核Vol.84, No. 8:569_575, 2009
https://www.kekkaku.gr.jp/pub/Vol.84(2009)/Vol84_No8/Vol84No8P569-575.pdf
4-2.血液検査
血液を採取して、MAC菌に対する抗体値を調べます。
ただし、血液検査だけでは確定診断が難しいので、他の検査と併用するのが一般的です。
4-3.喀痰検査
痰を採取し、痰に含まれる非結核菌抗酸菌の有無を調べます。検査は2回行います。
非結核菌抗酸菌は、水や土の中、風呂場などにも存在する菌なので、1回の検査で陽性となっても、検査の時に誤って菌が混入した可能性も考えられます。
そのため、2回検査して、同じ菌が2回とも出た場合に診断されます。
4-4.気管支鏡検査
痰が出ない人や出せない人は喀痰検査ができないので、気管支鏡検査を行います。
先端にカメラがついた細い管を肺に挿入し、肺の中を調べます。
病変が疑われる部分に水をまき、その水を回収して非結核菌抗酸菌の有無を確認します。
【参考情報】『気管支鏡検査とはどのような検査ですか?』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q33.html
5.治療
肺MAC症は根治が難しく、長期間の服薬が必要になるため、治療は根気強く行う必要があります。
その反面、自然治癒する人もいれば、経過観察のみで日常生活を送っている方もいるので、患者さんの状態によって治療法は異なってきます。
5-1.経過観察
特に症状がなければ、経過観察のみで様子を見ます。
ただし、症状が現れた場合や、重症化した場合は治療が必要になるので、定期的な診察を行い、病状を確認します。
5-2.抗菌薬の多剤併用
MAC菌は体内から消えにくいため、以下の抗菌薬を複数・長期間服用する必要があります。
・クラリスロマイシン
・エタンブトール
・リファンピシン
クラリスロマイシンの代わりに、アジスロマイシンが使われることもあります。
薬の飲み忘れなどで、指示通りに服用できないと、薬が効きにくくなり、治療が難しくなることがあります。
また、菌が検出されなくなっても、再発や再感染が多い病気であるため、最低でも1年以上は抗菌薬を飲み続ける必要があります。
5-3.吸入薬
抗菌薬の多剤併用で治療の効果が得られない場合、アリケイス(アミカシン)という薬の吸入を行うことがあります。専用の吸入器を使って、1日1回、吸入します。
アリケイスは、かつては点滴での治療にしか用いることができなかったのですが、吸入での治療が可能になり、自宅でも服薬できるようになりました。
【参考情報】『FDA approves a new antibacterial drug to treat a serious lung disease using a novel pathway to spur innovation』FDA
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-new-antibacterial-drug-treat-serious-lung-disease-using-novel-pathway-spur-innovation
5-4.その他の薬
病気が進行し、患部が広範囲に及んでいる場合は、必要に応じてストレプトマイシンやカナマイシンを、注射や点滴で使用します。
5-5.手術
肺に空洞がある場合は、その部分に薬が効きにくいため、手術で切除することがあります。
また、重症な場合や治療が難治化する場合も手術を検討します。
6.おわりに
肺MAC症は、初期の段階では無症状なこともあり、さらにゆっくり進行するため、なかなか気づきにくい病気です。
しかし、放っておくと肺へのダメージは徐々に進行していく恐れがあります。
もし、長引く咳や血痰などがある場合は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。
診断を受け適切な治療を行い、体調を管理していきましょう。