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咳がなかなか治らない理由と考えられる病気

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年06月13日

咳が「なかなか治らない」「しつこい」「市販薬ではよくならない」――そんなときは、ただの風邪ではない可能性が高いです。

長引く咳の原因は、呼吸器の病気であることが多いのですが、鼻や心臓の病気が原因の場合もあります。

この記事では、咳が治らない時に考えられる病気や、病院を受診する目安などを解説します。

咳がつらいときにできる対処法も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

1.咳が治らない場合に病院を受診する目安


咳が治らない場合に病院を受診する目安は、咳が「2週間」以上続いているときです。

医学的には、咳のことを咳嗽(がいそう)と呼ぶのですが、3週間以上8週間未満咳が続いていれば遷延性咳嗽、8週間以上だと慢性咳嗽と分類し、何らかの病気の可能性が高いと判断します。

しかし、3週間には満たなくても、咳が2週間以上続いているのなら、咳のし過ぎで疲れたり、睡眠不足になるなど、心身への影響も大きくなっているのではないでしょうか。

そのため、2週間以上咳が続いている場合は、病院を受診して原因を調べることをおすすめします。

◆「その咳の原因、呼吸器内科で検査しましょう」>>

2.咳が治らない時に考えられる病気|感染症

咳がなかなか治らないときにまず考えられるのは、呼吸器の病気です。

その中から、代表的な感染症を紹介します。

2-1.新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルスに感染することで、咳や発熱、鼻水、喉の痛みなどの症状が引き起こされる病気です。

軽症の場合は、特に治療をしなくてもよくなることが多いのですが、激しい咳がしつこく続く場合もあります。

また、病気そのものは治っても、後遺症として咳がなかなか治らないことがあります。後遺症の咳は、通常、時間が経つにつれて徐々に改善することが多いのですが、中には1年以上など、長期間咳が残る人もいます。

【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kouisyou_qa.html

◆「新型コロナウイルス感染症の咳の特徴」>>

2-2.肺炎

細菌やウイルスが肺に侵入し、炎症を引き起こす病気です。激しい咳が続き、熱や痰が出ます。

治療には、抗菌薬や抗ウイルス薬が使われます。加齢や持病などで免疫力が低下している人は重症化することがありますが、その場合、人工呼吸器を用いた治療も行われます。

◆「肺炎」についてくわしく>>

2-3.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ・ニューモニエという特殊な病原体に感染して発症する病気です。

発熱など風邪のような症状が現れた後、痰の絡まない乾いた音の咳が出てきます。咳は徐々に激しくなり、1カ月程度続くことが多いです。

治療には抗菌薬を用います、また、咳がつらい時には、咳止め薬で症状を和らげます。

◆「マイコプラズマ肺炎」についてくわしく>>

2-4.百日咳

百日咳菌に感染して発症する病気です。初期は風邪のような症状ですが、「コンコンコン」と短い咳が続いた後、「ヒュー」と息を吸い込む特徴的な音が出るようになります。咳は次第に落ち着いてきますが、100日程度と長く続きます。

治療には、マクロライド系の抗菌薬を用います。

◆「百日咳」についてくわしく>>

2-5.肺結核

結核菌という細菌による感染症です。咳は2週間以上続き、病気が進行すると、血痰や倦怠感、体重減少などの症状も現れます。

治療には、複数の抗結核薬を用います。服用期間は、通常6カ月~9か月と長期になります。

◆「肺結核」についてくわしく>>

3.咳が治らない時に考えられる病気|感染症以外


咳がなかなか治らない場合、感染症以外の病気を発症している可能性もあります。

3-1.喘息

空気の通り道である気道に慢性的な炎症が起こることで、激しい咳や息苦しさなどの症状が現れる病気です。

咳は夜間から早朝にかけて激しくなることが多く、「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」という特徴のある呼吸音(喘鳴:ぜんめい)がすることもあります。

治療には、主に吸入ステロイド薬と気管支拡張薬を用います。なかなか症状がよくならない場合や重症化した場合は、経口ステロイド薬や生物学的製剤と呼ばれる薬を用いることもあります。

◆「喘息」についてくわしく>>

3-2.咳喘息

喘息とよく似た病気ですが、息苦しさや喘鳴はなく、咳だけが長期間続く病気です。風邪などの呼吸器感染症などをきっかけに発症することがあります。

治療には、喘息と同じように、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬を用います。

咳喘息を未治療のまま放っておくと、喘息に移行することがあるので、早めの治療が肝心です。

◆「咳喘息」についてくわしく>>

3-3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)

タバコの煙などの化学物質に長期間さらされることで肺に炎症が起こり、咳や痰、息苦しさなどの症状が現れる病気です。

治療には、気管支拡張薬などの薬を用いるほか、運動療法や栄養療法も取り入れて、病気の進行を抑えていきます。

◆「COPD」についてくわしく>>

3-4.アトピー咳嗽

会話や運動などの弱い刺激で咳が出る病気です。アレルギー素因を持っている人に多いとされています。

咳のほか、イガイガ、ムズムズ、かゆみなど、喉の違和感を訴える人もいます。

治療には、抗ヒスタミン薬や吸入ステロイド薬などを使用します。

◆「アトピー咳嗽」についてくわしく>>

3-5.間質性肺炎

肺の間質という部分に炎症が起こり、硬くなる病気です。「肺炎」という名前がついていますが、一般的な肺炎とは違い、感染症ではありません。

咳はしつこく、病気が進行すると、少し動いただけでも息切れが生じます。

主な治療法は、ステロイド薬や免疫抑制剤、抗繊維化薬の服用です。息苦しさがつらい時には、在宅での酸素療法も行われることがあります。

◆「間質性肺炎」についてくわしく>>

3-6.肺がん

肺がんは、初期の段階では症状がほとんど現れないのですが、進行すると咳や血痰、息苦しさなどが現れます。

治療には、手術療法、放射線療法、化学療法などがあります。がんの部位やステージ、患者さんの状態などを見ながら、治療法を決めていきます。

◆「肺がん」についてくわしく>>

3-7.呼吸器以外の病気

呼吸器以外にも、耳鼻科や循環器、消化器などの病気が原因で咳が続くことがあります。

副鼻腔炎など鼻の病気があると、鼻水が喉に垂れ込み、その刺激で咳が出ることがあります。

【参考情報】『副鼻腔炎|鼻の病気』日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=21

心不全などの心疾患があると、体内に水が溜まりやすくなります。その結果、肺にも水が溜まり、息苦しさや咳などの症状が現れることがあります。

【参考情報】『心不全で咳や痰がでるのはなぜですか?|心不全Q&A』心不全のいろは
https://heart-failure.jp/faq/answer-024/

胃食道逆流症(GERD)があると、胃からの逆流物によって喉が刺激され、咳が出ます。さらに、喉の痛みや声枯れが生じることもあります。

【参考情報】『Gastroesophageal reflux disease (GERD)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/gerd/symptoms-causes/syc-20361940

3-8.その他

薬の副作用やストレスが原因で咳が出ることもあります。

ACE阻害薬という高血圧の薬を服用している人は、副作用として咳が出ることがあります。薬を止めると咳は治まりますが、自己判断で止めることはせず、まずは医師に相談してください。

【参考情報】『一部の血圧降下剤(ACE阻害剤)の空咳について』まつやく|松戸市薬剤師会
http://www.matsudo-yaku.or.jp/qanda/2639/

ストレスなどの精神的な問題によっても咳が出ることがあります。この場合、ストレスや不安を軽減する療法が選択肢となります。

4.呼吸器内科で行う検査

咳がなかなか治らないときは、呼吸器内科で検査を行い、原因を調べましょう。

4-1.画像検査

レントゲン(X線)やCTで肺の画像を撮影し、異常や炎症など確認します。肺炎や肺結核などの病気が見つかることがあります。

4-2.血液検査

血液の中にある成分や抗体などを調べます。

アレルギーの有無が確認できるため、咳の原因がアレルギーではないかと疑われるときによく行われます。

4-3.呼吸機能検査

肺や気道の状態を調べる検査です。スパイロメトリーやモストグラフなどの種類があります。

喘息や咳喘息、COPDが疑われるときに、行われることがあります。

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>

5.咳がつらいときの対処法

咳が続くと毎日がつらく、周囲からも心配されるため、できるだけ抑えたいと思う方が多いでしょう。

病院をすぐに受診するのが難しい場合は、一時的な対処法を試してみましょう。

5-1.水分を摂る

喉が乾燥していると、気道の粘膜が刺激に弱くなり、わずかな刺激でも咳が出やすくなります。

そんな時は、水分をこまめに摂るのがよいでしょう。一度にたくさん飲むのではなく、少量ずつ何度かに分けて飲むと、喉の潤いが保ちやすくなります。

5-2.部屋を加湿する

部屋が乾燥していると、やはり気道の粘膜が乾燥して刺激に弱くなります。

空気が乾燥する時期は、加湿器などを用いて、部屋の湿度を40~60%程度に保ちましょう。

◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>

5-3.ハチミツの摂取

子どもの咳にはハチミツが有効だという研究報告があります。お子さんが嫌がらなければ、ハチミツをお湯で溶いたものを与えてみましょう。

ただし、1歳未満の乳児は、ハチミツを摂取すると乳児ボツリヌス症という病気を発症する危険があるので、絶対に食べさせないでください。

【参考情報】『Honey for acute cough in children』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25536086

5-4.寝姿勢を変える

横向きの姿勢で寝ると、仰向けやうつ伏せに比べて気道が開きやすくなるため呼吸がラクになり、咳が出にくくなることがあります

小さいお子さんなら、縦に抱っこしてあげると、同じように気道が開きやすくなります。

6.咳が出るときに使う薬

どうしても咳がつらいときは、咳止め薬を使って症状を抑えることも検討します。

以下、咳が出る時に使う薬を説明します。

6-1.市販薬

風邪かな?と思ったときは、まずは市販の風邪薬や咳止め薬を服用してもいいでしょう。

ただし、咳止め薬と風邪薬には似たような成分が含まれていることがあるため併用はせず、どちらか1つだけを使ってください。同時に使うと、副作用が強く出る恐れがあります。

市販薬を服用して3~4日経っても咳がよくならない場合は、咳の原因が風邪ではない可能性があります。

◆「市販の咳止め薬は効く?効かない?」>>

6-2.処方薬

病院では、咳がひどい患者さんに対して、以下のような咳止め薬を処方することがあります。

・メジコン
錠剤、粉薬、シロップがあります。一般用医薬品としても販売されています。

◆「メジコン」についてくわしく>>

・リン酸コデイン
咳を止める作用は強いのですが、使用上の注意点が多い薬でもあります。

◆「リン酸コデイン」についてくわしく>>

・アスベリン
1歳未満の赤ちゃんから成人まで幅広く使用できる薬です。

◆「アスベリン」についてくわしく>>

6-3.咳止め以外の処方薬

咳の原因によっては、吸入ステロイド薬や抗アレルギー薬などを処方します。

喘息や咳喘息の場合、咳止め薬では咳が治まらないのですが、上記のような薬を継続して服用すると、症状が軽減することが多いです。

◆「吸入薬の種類と特徴、副作用」>>

7.おわりに

咳がなかなか治らないときは、「2週間」を目安に病院を受診しましょう。ただの風邪なら、通常1週間程度で咳は治まってくるので、それ以上咳が続いていたり、だんだんひどくなってくるときは、要注意です。

咳の原因となる病気は数多くあります。原因を特定し、それに合った薬を処方してもらうことで、市販薬や家庭のケアでは改善しない咳も治まる可能性があります。

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