新型コロナウイルス感染症の基礎知識
世界的な大流行となった新型コロナウイルス感染症。適切に対処するには、まずは正しい知識を得ることが大切です。
くれぐれも根拠のない情報や、不安をあおる報道には惑わされないようにしましょう。
この記事では、知っておきたい基本的な知識を紹介します。
目次
1.新型コロナウイルス感染症とは
そもそも「コロナウイルス」というのは、風邪の原因となるウイルスとして以前から知られていた、ごくありふれたウイルスです。
主な感染経路は、ウイルスを含んだ飛沫が口・鼻・目などの粘膜に付着する「飛沫感染」と、感染した人の手についたウイルスが手すりやドアノブなどに付着しそれに触れることで感染してしまう「接触感染」であると言われています。
なお、感染者の咳やくしゃみ、会話、呼吸により空中に広がった飛沫は数分から数時間にわたり浮遊するとされています。この飛沫を吸い込んでしまうことでの感染は「エアロゾル感染」と呼ばれています。
感染しても鼻水やくしゃみ、微熱などの症状が出るだけで、命にかかわるようなことはまずありません。
しかし、動物に感染したコロナウイルスが変異して、ヒトに対する感染力を持つようになったものは、時として重い肺炎などの深刻な症状を引き起こすことがあります。
動物からヒトに感染するコロナウイルスによる感染症のうち、2002~2003年に中国から広がった重症急性呼吸器症候群(SARS:サーズ)は、コウモリやハクビシンなどの野生動物のウイルスが人に感染した可能性があると考えられています。
【参考情報】『SARS(重症急性呼吸器症候群)とは』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/414-sars-intro.html
また、2012年よりサウジアラビアを中心に広まった中東呼吸器症候群(MERS:マーズ)は、ヒトコブラクダのウイルスが人に感染したものだということがわかっています。
【参考情報】『中東呼吸器症候群(MERS)について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mers.html
そして、2019年の終わりから現在にかけて流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、中国・武漢市の野生動物、おそらくコウモリのウイルスが人に感染したものだと推測されています。
2.新型コロナウイルス感染症の症状
日本ではコメディアンの志村けんさんや、女優の岡江久美子さんといった有名な方々が、新型コロナウイルス感染症によって亡くなったと報道されました。
報道に衝撃を受けた方は多いと思いますが、新型コロナウイルスに感染した人の約8割は、軽症あるいは無症状だとされています。
2-1.どんな症状が出るのか
軽症の時の症状は、発熱や咳、全身の倦怠感などで、風邪とほとんど変わりません。
嗅覚障害や味覚障害を訴える患者さんもいますが、風邪や鼻炎などほかの病気でも同じような症状が現れることがあるので、それらの症状だけでコロナに感染したと判断するのは早計です。
軽症の方は、風邪の時と同じように安静にしていれば、1週間くらいで自然に治ってしまいます。
しかし残り2割の方は、症状が出て5~7日くらい経った頃から急に悪化して、高熱や肺炎、呼吸困難などの症状が現れることがあります。
たとえ悪化したとしても、約半数の方は回復しています。イギリスのボリス・ジョンソン元首相も、新型コロナウイルスに感染して集中治療室で治療を受けていましたが、2020年4月に退院しました。
2-2.どんな人が重症化しやすいのか
タバコを吸う習慣のある人や、糖尿病、高血圧、心臓病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの基礎疾患がある人は、重症化のリスクが高いと考えられています。
また、免疫抑制剤や抗がん剤の治療を受けている人も、薬の服用によって免疫機能が抑えられるため、リスクが高いと考えられます。
子どもは重症化しにくく、高齢者は重症化しやすいとされています。また、BMI30以上の肥満も重症化のリスクとなります。
【参考情報】『Obesity, Race/Ethnicity, and COVID-19』CDC
https://www.cdc.gov/obesity/data/obesity-and-covid-19.html#:~:text=More%20than%20900%2C000%20adult%20COVID,hospitalizations%20were%20attributed%20to%20obesity.
3.感染が疑わしい時はどうすればいいのか
「もしかして、新型コロナウイルスに感染したのでは?」と疑いを持った時は、国が承認した抗原検査キットを用いて検査をしてみましょう。
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の一般用抗原検査キット(OTC)の承認情報』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27779.html
結果が「陽性」だった場合、症状が軽ければ自宅で療養しながら様子を見ます。
症状が重い方や、重症化リスクの高い方(高齢者、基礎疾患のある方、妊婦)は、かかりつけ医や近隣の医療機関に事前に連絡し、受診の相談をしましょう。
新型コロナウイルス感染症治療の支援策は2024年3月で終了し、4月から通常の医療体制に移行しました。それに伴い、国や自治体が設けていた相談センターの多くは終了しています。
4.新型コロナウイルス感染症の検査と治療
病院で検査を受けたい場合は、まずは電話で相談しましょう。
4-1.新型コロナウイルス感染症の検査
当院では、患者さんに唾液を専用の容器に出してもらい、その中にウイルスが存在するかどうかを調べています。
鼻の奥に長い綿棒を入れて粘液を拭い取り、検体を採取する方法もありますが、唾液を採取する方が患者さんの体への負担も軽く、安全に検査を行うことができます。
PCR検査の結果が陽性なら新感染、陰性なら感染なしと判断されますが、検査の結果が100%正しいわけではありません。
インフルエンザの検査も同じですが、検査のタイミングなどによっては十分な数のウイルスを採取することができず、本当は感染していても陰性という結果が出ることがあるからです。
医師の判断によっては、PCR検査のほか、CT検査などの画像検査が行われることもあります。
検査の結果、新型コロナウイルスに感染していると判断された場合、軽症なら自宅で療養するようにしましょう。
重症化リスクが高い人など、医師が必要だと判断した場合は、入院して治療を受けることがあります。
4-2.新型コロナウイルス感染症の治療
軽症の場合は、熱が高ければ解熱剤、咳がひどければ咳止めの薬など、つらい症状を和らげる治療が中心となります。
重症の場合は、人工呼吸器やECMO(エクモ)と呼ばれる体外式の人工心肺装置を使用して、肺に酸素を送りこみます。
厚生労働省に認定されているコロナ治療薬には、以下のようなものがあります。
【抗ウイルス薬】
・ゾコーバ
【中和抗体薬】
・ロナプリーブ
・ゼビュディ
・エバシェルド
それぞれ、重症度や基礎疾患の有無などにより、対象となる患者は変わってくるので、医師の判断で処方します。
5.おわりに
コロナの流行は落ち着いたと感じるかもしれません。しかし、感染して激しいのどの痛みやしつこい咳に苦しめられた人は「やはりただの風邪とは違う」と思ったのではないでしょうか。
自身や身近な人がつらい思いをしないために、そして、重症化リスクの高い人を感染から守るためにも、手洗いやワクチン接種などの基本的な対策は、これからも続けていきましょう。
【参考情報】『新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
【参考資料】
・『呼吸器内科医が解説! 新型コロナウイルス感染症 — COVID-19 —』(粟野暢康、出雲雄大/医療科学社)
・『新型コロナウイルスの真実』(岩田健太郎/KKベストセラーズ)
・『【図解】新型コロナウイルス 職場の対策マニュアル』(亀田高志/エクスナレッジ)