呼吸器感染症の主な種類と予防法
ウイルスや細菌に感染して発症する病気はたくさんありますが、中でも多いのは、やはり風邪でしょう。
ほかにも、インフルエンザやコロナなど風邪とよく似た症状が現れる病気がありますが、これらの病気は「呼吸器感染症」にあたります。
この記事では、呼吸器感染症の種類やよく似た病気について解説します。予防法も紹介しますので、ぜひ役立ててください。
1.呼吸器とは何か
呼吸器とは、呼吸にかかわる臓器の総称で、上気道、下気道、肺で構成されています。
上気道は、鼻から喉にかけての鼻腔、咽頭、喉頭になります。この部分は、外から入ってくる空気を加湿したり、病原体の侵入を防ぐフィルターのような役割を果たしています
下気道は、気管、気管支、細気管支で構成されています。気管には「繊毛(せんもう)」という小さな毛のようなものが生えているのですが、これが病原体を体外へと排出し、肺への侵入を防いでいます。
そして肺は、呼吸によって空気中から酸素を取り入れ、不要になった二酸化炭素を排出しています。
このような呼吸の仕組みによって、私たち人間は体内に酸素を取り入れ、生きるために必要なエネルギーを生み出しています。
【参考情報】『Respiratory System』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/21205-respiratory-system
2.呼吸器感染症とは
呼吸器感染症とは、呼吸器がウイルスや細菌のような病原体や真菌(カビ)などに感染して発症する病気です。
呼吸器感染症を引き起こす代表的な原因は以下の通りです。
・ウイルス:インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス など
・細菌:肺炎球菌、結核菌、黄色ブドウ球菌 など
・真菌:アスペルギルス、クリプトコッカス、カンジダ など
・その他の病原体:マイコプラズマ・ニューモニエ など
これらの病原体に呼吸器が感染すると、咳、痰、息苦しさ、喉の痛み、胸の痛み、発熱などの症状が現れます。
呼吸器感染症は、軽症で済む場合も多いのですが、免疫力が低下した高齢者や、肺の機能が未熟な乳幼児が感染すると、重症化することもあるので注意が必要です。
3.呼吸器感染症の種類
この章では、主な呼吸器感染症の特徴や症状について説明します。
3-1.風邪
風邪の原因のほとんどはウイルスです。鼻から喉までの上気道に感染を起こし、発熱や咳、鼻水などの症状が現れます。
風邪を根本的に治す薬はありませんが、安静にしていれば、1週間程度で回復に向かいます。
症状がつらいときは、解熱剤や咳止め薬などを用いて症状を和らげます。
3-2. インフルエンザ
インフルエンザウイルスに感染して発症する病気です。38度以上の高熱や頭痛、全身のだるさ、筋肉痛、関節痛などの症状が、急激に現れます。
病院で検査をすれば感染の有無がわかりますが、検査のタイミングによっては、正しい結果が得られないことがあります。
治療には、タミフルなどの抗インフルエンザウイルス薬を用います。
3-3.新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルスにより引き起こされる病気です。主な症状は、発熱や喉の痛み、鼻水、全身のだるさなどですが、感染しても症状がほとんど現れないこともあります。
軽症の場合は、何もしなくても徐々に改善していくことが多いですが、症状がつらい時は、解熱剤や咳止め薬による対症療法を行います。
持病があるなど、重症化するリスクのある方には、ラゲブリオなどの抗ウイルス薬を用いることがあります。
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症 診療の手引き』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/001248424.pdf
3-4.急性気管支炎
風邪などの呼吸器感染症を引き起こすウイルスや細菌によって、気管や気管支に炎症が広がった状態です。
主な症状には、咳、痰、発熱、全身のだるさなどがあります。
◆「咳が止まらない。もしかして、気管支炎かもしれません」>>
3-5.RSウイルス感染症
RSウイルスに感染して発症する病気です。主な症状は、咳や発熱、鼻水などです。
子どもに多い病気で、2歳までにほとんどの子が感染すると言われています。初めて感染した場合は重症化することがあるので、注意が必要です。
治療は、咳止め薬などを用いた対症療法を行いますが、重症化した場合は入院して酸素投与を行うことがあります。
3-6.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ・ニューモニエという特殊な病原体に感染して発症する病気です。
発症すると、発熱や全身のだるさ、咳など風邪のような症状が現れます。発熱などの症状は徐々に改善しますが、咳だけはしつこく残ることが多いです。
3-7.百日咳
百日咳菌に感染して発症する病気です。
症状は、病状の進行とともに徐々に変化していきます。初めに風邪のような症状が現れた後、特徴的な強い咳が現れ、その後回復へと向かいます。
治療には、マクロライド系の抗菌薬を使用します。
3-8.肺炎
ウイルスや細菌などにより、肺に炎症が引き起こされる病気です。
主な原因菌は、肺炎球菌やインフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは別のもの)です。
症状は、咳や発熱、痰、息苦しさなどですが、高齢者は症状が現れにくく、気づいたときには重症化していることがあります。
検査により原因菌がわかった場合は、その原因菌に合った抗菌薬で治療します。
3-9.肺結核
肺が結核菌に感染して発症する病気です。
風邪のような咳が長く続き、病気の進行とともに血痰や倦怠感、体重減少などの症状も現れてきます。
治療には、複数の抗結核薬を用います。薬は6カ月以上飲み続ける必要があります。
3-10.肺MAC症
MAC(マック)菌が原因で起こる病気です。
長引く咳や痰などの症状が現れますが、時には10年以上かけてゆっくりと進行する病気のため、初期はほとんど症状が出ないことも多いです。進行すると、血痰や息切れなどが生じてきます。
軽症の場合は、経過観察のみで治癒することもありますが、自然治癒しない場合や重症化した場合は、複数の抗菌薬を長く服用する必要があります。
3-11.肺真菌症
肺が真菌(カビ)に感染することで引き起こされる病気です。
健康な人がかかることは少ないのですが、ステロイド薬や免疫抑制剤などを服用し、免疫力が低下している人はかかりやすくなります。
3-12.誤嚥性肺炎
食べ物や飲み物、唾液などが誤って肺に入ることを誤嚥(ごえん)といいます。誤嚥が起こると、飲食物などに付いていた細菌も肺に入り込んで炎症を引き起こすことがあります。
誤嚥性肺炎になると、発熱や咳、粘り気のある痰などの症状が現れます。主な治療は抗菌薬の投与ですが、飲み込む力が衰えた高齢者は、何度も繰り返し発症することがあります。
4.呼吸器感染症に似た症状のある病気
以下に紹介する病気は感染症ではありませんが、呼吸器感染症によく似た症状が現れます。
2週間以上咳が続いていたら、感染症ではなく、これらの病気の可能性もあるので、風邪だと決めつけずに病院を受診してください。
4-1.喘息
空気の通り道である気道に慢性的な炎症が起こっていることが原因で、咳や息苦しさ、
喘鳴(ぜんめい:ゼイゼイ・ヒューヒューという呼吸音)などが現れる病気です。
治療には吸入ステロイド薬や気管支拡張薬を用い、症状が出ない状態を保っていきます。
4-2.咳喘息
喘息とよく似た病気ですが、息苦しさや喘鳴は現れず、咳だけが長く続く病気です。風邪やコロナなどの呼吸器感染症がきっかけで発症することがあります。
治療には、喘息と同じく吸入ステロイドや気管支拡張薬を用います。咳喘息を未治療のまま放っておくと、喘息に移行することがあります。
4-3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
タバコなどに含まれる化学物質を長期間吸い続けることによって、肺に炎症が生じる病気です。しつこい咳や息苦しさ、痰などの症状が現れます。
炎症により、肺の奥にある肺胞が硬くなってしまうと、元の状態には戻りません。治療では、気管支拡張薬などで症状をやわらげて生活の質を保っていきますが、進行して息苦しさが強く場合は、在宅酸素療法を行うこともあります。
◆「咳がとまらない・しつこい痰・息切れは、COPDの危険信号」>>
4-4.アトピー咳嗽
咳に対する感受性が高くなりすぎて、健康な人なら反応しないわずかな刺激でも咳が出てしまう病気です。アレルギーを持っている人が発症しやすいといわれています。
主な症状は、コンコンという乾いた咳や、のどのイガイガやムズムズなどの違和感などです。治療には、抗アレルギー薬や吸入ステロイド薬を用います。
4-5.肺がん
肺にがんができても、初めは症状が現れにくいのですが、病状の進行とともに、咳や痰、血の混じった痰、息苦しさなどが生じてきます。
治療法には「手術」「放射線治療」「薬物療法」があります。がんの種類や進行度、患者さんの体調などを考慮して、最適な治療法を選択します。
5.呼吸器感染症の予防法
「たかが風邪」でも、乳幼児や高齢者、持病のある方などは重症化することもあります。
自分だけでなく周囲の人々を守るためにも、感染症にかからないよう、以下の予防策をしっかりと行うことが大事です。
5-1.手洗い
感染症予防の基本は手洗いです。特に、外出後や感染者の看病後は、必ず手を洗いましょう。
手洗いを徹底することで、ウイルスや細菌の拡散を防ぐことができます。
【参考情報】『正しい手洗い(手指衛生)の方法』国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/kansen/fusegu/tearai.html
5-2.マスク着用
感染症予防にはマスクの着用も重要です。人の多い場所に出かける時や、感染者と接触する際には、マスクで感染を防ぎましょう。
5-3.部屋の湿度を保つ
湿度が低くなると、ウイルスの動きが活発になります。また、体内に侵入してきたウイルスや細菌を体外に排出しようとする、体の防御反応も鈍くなります。
部屋の適正な湿度は、40〜60%とされています。特に、空気が乾燥しやすい冬は、加湿器や濡れタオルなどを活用して、湿度をコントロールしましょう。
5-4.流行時は人混みを避ける
呼吸器感染症が流行している時期は人混みを避け、人との接触を少なくしましょう。
人と距離を保つことでウイルスや細菌の拡散を防ぎ、感染のリスクを下げることができます。
5-5.生活習慣(食事・睡眠・運動)を整える
生活習慣の乱れにより免疫の力が低下すると、感染症にかかりやすくなり、症状も悪化しやすくなります。
バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、感染症にかかりにくい体をつくっていきましょう。
5-6.予防接種
以下の呼吸器感染症の予防には、予防接種が有効です。
・インフルエンザ
・新型コロナウイルス感染症
・RSウイルス感染症
・百日咳
・肺結核
・肺炎(肺炎球菌)
予防接種の種類によっては年齢制限がありますが、対象となる方は受けておきましょう。
予防接種を受けてもこれらの病気にかかることはありますが、もし発症しても、重症化を防ぐ効果があります。
6.おわりに
呼吸器感染症は、どれも初めは似たような症状が出るので、「ただの風邪かな?」と思うことが多いかもしれません。
しかし、症状が「激しい」「長引く」ようなら、風邪ではない可能性もあるので、呼吸器内科を受診してください。
風邪のような症状があっても、アレルギーなど別の原因が潜んでいる場合もあるので、症状が治まらなかったり、悪化したりする場合は、専門医に相談してみましょう。