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肺がんの咳と注意すべき特徴

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年04月07日

肺がんは、罹患率・死亡率ともに高い深刻ながんの一つです。しかし、初期の段階では風邪と似ているため、気づかないことも少なくありません。

病気が進行すると、咳や息切れ、胸の痛みなどの症状が現れますが、咳がなかなか改善しないようなら、医療機関を受診することが重要です。

この記事では、肺がんという病気について、そして主な症状の一つである「咳」の特徴についてくわしく解説します。

1.肺がんとはどのような病気か


肺がんは、肺の細胞が何らかの原因で異常に増殖し、腫瘍を形成する悪性のがんです。

1-1.がんとは

人の体は無数の細胞で構成されており、細胞は成長や生命維持のために分裂・増殖を繰り返します。

このとき、不要な細胞の増殖は抑制されますが、遺伝子の異常が原因で制御が効かなくなると、異常な細胞が増え、がん化します。

がん細胞は周囲の組織を破壊しながら増殖し、次第に大きくなります。さらに、進行すると血液やリンパを通じて全身に転移することもあります。

【参考情報】『Cancer』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/12194-cancer

1-2.肺がんの種類

肺がんは組織の特徴によって分類され、主に「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」の2種類に分けられます。

非小細胞肺がんには以下の3つのタイプがあります。

<腺がん>
肺がんの中で最も多く、肺の末端にできやすい。

<扁平上皮がん>
肺の入り口付近に発生しやすく、進行や転移が比較的遅い。喫煙との関係が深い。

<大細胞がん>
発症数は少ないが、進行や転移が速い。

小細胞肺がんは、進行や転移が速く、肺の入り口付近にできやすいがんです。特に喫煙との関連が強いとされています。

1-3.肺がんの原因

肺がんの最大の原因はタバコです。

喫煙者は、肺がんになりやすく、喫煙本数や年数によって、そのリスクも高くなってきます。

また、自分は吸っていなくても、喫煙者の吸ったタバコの煙を吸い込んでしまう受動喫煙の場合も肺がんのリスクが高まると言われています。

【参考情報】『タバコと肺がんとの関係について』国立がん研究センター
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/254.html

次に、建築などで多く使われていたアスベストの曝露も発症のリスクがあります。

アスベストを吸い込むと、繊維が肺に残ります。その繊維によって肺が傷つけられ、炎症を引き起こすことで発症することがあります。

【参考情報】『アスベスト(石綿)に関するQ&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/topics/tp050729-1.html

その他、大気汚染、女性ホルモンの影響、間質性肺炎やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患などが関係していることもあります。

1-4.肺がんの症状

初めのうちは無症状あるいは風邪のような症状しか現れません。そのため、肺がんの発症に気づかないことがあります。

そして、がんが大きくなったり転移したりすると、咳や痰、血痰、胸の痛み、息苦しさ、発熱などの症状が現れてきます。

がんが大きくなると肺や気管支を圧迫し、刺激となって咳が出ます。咳が出始めるとなかなか止まらないこともあり、体力消耗にもつながります。

また、がんが声帯を動かす反回神経に広がると、声がかすれる嗄声(させい)と呼ばれる症状がでたり、胸膜に広がると炎症を引き起こして胸に水が溜まったり(胸水)することもあります。

【参考情報】『胸部エックス線画像で異常があり、胸水がたまっていると言われました。』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q25.html

脳や骨、リンパ節に転移が起こると、頭痛や麻痺、背中や肩の痛みなども現れます。

肺がんの症状が現れるタイミングは、がんの種類によって違います。

肺の入り口付近にできる扁平上皮がんや小細胞がんは、比較的早期から咳や血痰が現れやすいです。

反対に、肺野(はいの:肺の中で空気が通る部分)や肺の末端にできる腺がんや大細胞がんは、進行してから症状に気づくことが多いです。

◆「肺がん」についてもっとくわしく>>

2.肺がんによる咳の特徴


肺がんの最も一般的な症状は「咳」です。しかし、咳は他の呼吸器の病気でもよく見られるため、すぐに肺がんとは気づきにくいかもしれません。

もし、以下のような症状が続く場合は注意が必要です。

2-1.長期間続く

ただの風邪なら、咳は1週間ほどで治まってくるでしょう。しかし、2週間以上続くようなら、風邪とは別の原因で咳が出ている可能性があります。

肺がんの場合、がんが大きくなると気管支が圧迫されたり、声帯を動かす反回神経や胸膜に広がったりして、咳がひどくなることがあります。

◆「長引く咳の原因|考えられる病気と受診の目安」>>

2-2.咳とともに血が混じった痰が出る

肺がんが進行すると、肺や気管、血管が傷つき、出血することがあります。その血液が痰に混じって出ることがあり、これを血痰(けったん)といいます。

血痰の量が増えると窒息の危険もあるため、長期間続いたり量が多くなったりした場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

◆「血痰」についてくわしく>>

2-3.安静にしていても咳が出る

肺がんによる咳は、特定の刺激が原因ではなく、がんそのものが引き起こします。そのため、安静にしていても咳が続くのが特徴です。

例えば、がんが大きくなって気道が狭くなると、常に息がしにくくなり、咳が出やすくなります。また、胸に胸水(きょうすい)が溜まると肺が圧迫され、咳や息苦しさを感じることがあります。

さらに、体力の低下によって咳が出やすくなったり、がん細胞がリンパ管を詰まらせることで咳を引き起こすこともあります。

2-4.市販薬では改善しない

がんによる咳は、市販の薬ではほとんど改善しません。

咳止めには、気管や気管支に作用する「末梢性鎮咳薬」と、脳の咳中枢に作用する「中枢性鎮咳薬」の2種類があります。

がんによる咳には、中枢性鎮咳薬の方が効果的とされ、医療機関で処方されることが多いです。

中枢性鎮咳薬には市販の製品もありますが、有効成分の配合量が少なく、十分な効果を感じにくいことがあります。また、末梢性鎮咳薬を服用した場合は、がんによる咳にはほとんど効果がありません。

もし、市販薬を使っても咳が治まらず悪化する場合は、肺がんを含む何らかの病気が原因の可能性があるため、早めに医療機関を受診しましょう。

◆「市販の咳止め薬は効く?効かない?」>>

3.肺がんの検査


肺がんが疑われた場合は、下記の検査を実施します。

3-1.画像検査

咳が続くなどして呼吸器の病気が疑われる場合、まず胸部X線(レントゲン)検査を行います。

◆「レントゲン写真から、呼吸器内科でわかること」>>

レントゲンでがんの疑いが強い場合は、CT検査も追加されます。肺がんがあると、レントゲンやCTではがんの部分が白く映るのが特徴です。

特にCT検査は、がんの大きさや位置、リンパ節への影響、他の臓器への転移などをくわしく調べるのに役立ちます。

【参考情報】『CT検査とは』がん情報サービス|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/ct.html

3-2.喀痰細胞診

痰を採取し、その中にがん細胞が含まれているかどうかを調べる検査です。痰を出すだけで行えるため、痛みを伴わず負担が少ない検査です。

特に、肺の入り口付近にできるがんは、がんが心臓や背骨の影に隠れてしまうため、レントゲンでは見つかりにくいのですが、喀痰細胞診では、痰に含まれるがん細胞を検出できるため、早期発見に役立ちます。

また、肺の入り口にできるがんは喫煙との関係が深いため、喫煙者は症状がなくても喀痰細胞診を受けることで、早期発見につながる可能性があります。

【参考情報】『喀痰細胞診』日本予防医学協会
https://www.jpm1960.org/jushinsya/exam/exam14.html

3-3.生検

細胞や組織を採取し、がん細胞の有無を調べる検査です。主な方法として、気管支鏡検査と経皮的針生検があります。

気管支鏡検査は、先端にカメラの付いた細い管を気管から挿入し、がんを直接確認しながら組織を採取する方法です。

経皮的針生検は、CTや超音波を使ってがんの位置を確認し、細い針を肺に刺して組織を採取します。

【参考情報】『肺がんかどうかを調べるための検査について教えてください』日本肺癌学会
https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2019/2020/Q6.html

これらの検査は痛みを伴うため麻酔を使用します。また、気胸(ききょう)や肺の出血などを引き起こすリスクもあるため、慎重に行います。

◆「気胸」についてくわしく>>

3-4.その他

その他の検査として、腫瘍マーカーやPET検査(陽電子放出断層撮影があります。

腫瘍マーカーは、血液などを調べることで、がんの有無を補助的に診断する検査です。

がんが発生すると、その種類や影響を受ける臓器によって特有のタンパク質が作られます。これらの数値を測定することで、がんの有無、治療の効果、再発の可能性などを評価します。

【参考情報】『腫瘍マーカー検査とは』がん情報サービス|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/marker.html

PET検査は、微量の放射線を放出する薬剤を体内に投与し、がん細胞が集まる場所を画像として映し出す検査です。

全身のがんを一度に調べることができ、転移や再発の有無を確認するのにも有効です。

【参考情報】『PET検査とは』がん情報サービス|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/pet.html

4.肺がんの治療


肺がんの治療方法は、がんの進行度を示すステージによって異なります。

ステージは、腫瘍の大きさや転移の有無によりⅠ期~Ⅳ期に分類され、数字が大きくなるほど進行している状態を示します。

4-1.薬物療法

薬物療法には、抗がん剤治療・分子標的薬治療・がん免疫療法の3つがあります。

<抗がん剤>
薬でがん細胞を攻撃し、増殖を抑えたり破壊したりする方法です。しかし、正常な細胞にも影響を与えるため、副作用が強く、患者の負担が大きくなることがあります。

【参考情報】『抗がん剤治療(化学療法)はどのような治療ですか』日本肺癌学会
https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2019/2020/Q40.html

<分子標的薬>
特定の遺伝子変異を持つがん細胞だけを狙って攻撃する治療法です。正常な細胞への影響が少ないため、副作用が比較的軽いのが特徴です。

【参考情報】『「分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)」とは、なんですか。』日本製薬工業協会
https://www.jpma.or.jp/about_medicine/guide/med_qa/q48.html

<がん免疫療法>
体が本来持っている免疫機能を活性化させ、がん細胞を攻撃する治療法です。

小細胞肺がんは薬が効きやすいため、薬物療法が中心となります。非小細胞肺がんでは、主にⅣ期に行われます。

【参考情報】『免疫療法』がん情報サービス|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/index.html

4-2.放射線療法

放射線療法は、がん細胞に放射線を当てて死滅させる治療法です。治療の目的には以下の2種類があります。

<根治的治療>
がん細胞を完全に死滅させることを目的とする。

<緩和的治療>
がん細胞を縮小させ、症状を和らげることを目的とする。

放射線はがん細胞だけを狙って照射するため、患者の体への負担が比較的少ないのが特徴です。しかし、がんが広範囲に広がっていたり、転移していたりすると、十分な効果が得られないこともあります。

非小細胞肺がんの場合は、Ⅰ期~Ⅲ期で手術ができない場合に行われます。

小細胞肺がんの場合、がんが一部にとどまっている場合に行われます。

【参考情報】『放射線治療』がん情報サービス|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/radiotherapy/index.html

4-3.手術

がんを切除して取り除く治療法です。手術の適応は、組織型・ステージ・患者の全身状態を考慮して決定されます。

手術の方法は、がんの大きさや位置によって異なります。また、がんが転移しやすいリンパ節も同時に切除する「リンパ節郭清」を行うことで、根治や再発予防を目指します。

【参考情報】『リンパ節郭清』がん情報サービス|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/lymph_setsukakusei.html

非小細胞肺がんの場合、Ⅰ期~Ⅱ期、Ⅲ期の一部で手術が行われます。小細胞肺がんは進行が早く、手術が適応となるケースは少ないですが、早期に発見された場合には手術が選択されることがあります。

5.肺がんと似た症状が現れる病気


肺がんの初期症状は、他の呼吸器疾患とよく似ているため、見分けがつきにくいことが多くあります。

この章では、肺がんと似た症状が現れる病気について説明します。

5-1.喘息

空気の通り道である気道に慢性的な炎症が生じる病気です。炎症によって敏感になった気道は、ホコリや冷たい空気などのわずかな刺激にも反応し、激しい咳や息苦しさなどの症状が現れます。

特に夜間や朝方に症状が悪化しやすく、花粉が飛ぶ時期など特定のタイミングで症状が現れることもあります。

◆「喘息」についてくわしく>>

5-2.肺炎

細菌やウイルスなどの病原体が肺に侵入し、炎症を引き起こす病気です。主な症状は、咳・膿の混じった痰・高熱・倦怠感・食欲不振などです。

肺炎では38度以上の発熱がみられることが一般的ですが、高齢者は熱が出にくい場合もあります。

◆「肺炎の症状・検査・治療の基本情報」>>

5-3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)

肺や気管支に慢性的な炎症が起こる病気です。原因のほとんどは長期間の喫煙です。

主な症状は、咳、息切れ、痰です。炎症によって気管支が狭くなったり、肺胞が壊れたりすることで呼吸がしづらくなります。

初期のうちは階段や坂道を上るときに息切れを感じますが、進行すると平坦な道を歩いていても息苦しさが現れるようになります。

◆「咳がとまらない・しつこい痰・息切れは、COPDの危険信号」>>

5-4.非定型抗酸菌症

土や水の中に生息する抗酸菌が、肺などに感染して発症する病気です。主な症状は長引く咳や痰ですが、初期症状がほとんどなく、無症状のこともあります。

症状が軽い場合は、自然に治ることもあり、経過観察のみで生活できる人もいますが、進行すると血痰や息切れが現れることがあります。

◆「肺MAC症」についてくわしく>>

5-5.間質性肺炎

肺の間質(肺の奥にある肺胞の壁)に炎症が起こる病気です。

初期は自覚症状がほとんどありませんが、進行すると乾いた咳や息切れ、ばち指などの症状が現れます。

多くの場合、病状はゆっくりと進行しますが、突然症状が悪化する「急性増悪」を引き起こすこともあります。

◆「間質性肺炎とはどんな病気?」>>

6.おわりに

肺がんの症状のひとつに「咳」があります。しかし、咳はさまざまな病気で見られるため、すぐに肺がんを疑う人は少ないかもしれません。

咳が長引いていると、不安になるかもしれませんが、早めの検査が安心につながります。肺がん以外の原因も考えられるため、一度呼吸器内科を受診し、咳の原因を調べてみましょう。

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