新型タバコ(加熱式・電子)がもたらす健康被害
「禁煙しました!」という人の話を聞いてみると、実は従来の紙巻タバコから新型タバコに切り替えただけで、喫煙の習慣は続いていることがよくあります。
新型タバコには「加熱式タバコ」と「電子タバコ」の2種類があります。これらの製品は、紙巻タバコとは何が違うのでしょうか。
目次
1.「加熱式タバコ」とはどんなものか
加熱式タバコとは、タバコの葉を加工したものに熱を加えてエアロゾル(霧状の粒子)を発生させ、その中に含まれるニコチンを吸うための製品です。
タバコの葉に直接火をつけないため煙が出ないこと、また、髪や衣服ににおいがつきにくいことから、紙巻タバコから加熱式タバコに切り替える人も目立ちます。
形や機能は違っても、加熱式タバコの中身は紙巻タバコと同じ「タバコの葉」なので、れっきとした「タバコ」です。タバコに関する法律であるたばこ事業法でも「タバコ製品」として定められています。
【参考情報】『加熱式たばこ』e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-058.html
2.「電子タバコ」とはどんなものか
電子タバコとは、「リキッド」と呼ばれる液体を加熱して、その蒸気を吸うための製品です。リキッドの主な成分は、プロピレングリコールと植物性グリセリンで、どちらも食品添加物として広く使用されている物質です。
日本国内で販売されている電子タバコは、たばこ事業法では「たばこ類似製品」と定められ、法律上はタバコではありません。そのため未成年者への販売も可能ですが、業界団体が自主規制しているため、20歳以上の人にしか販売されません。
【参考情報】『電子たばこ』 e-ヘルスネット(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-059.html
3.健康への影響
加熱式タバコや電子タバコは、紙巻タバコと比べて健康への影響に差はあるのでしょうか。
3-1.加熱式タバコの健康への影響
加熱式たばこの中身は、紙巻タバコと同じタバコの葉ですから、やはりニコチンをはじめとした有害成分が含まれています。ニコチンは、血液の流れを悪くしたり、脳の発達に影響を与える物質で、強い依存性があります。
加熱式タバコの中には、紙巻タバコより有害性成分が少ないとうたっている製品もありますが、仮に有害性成分が少ないとしても、健康へのリスクが少なくなる、という意味ではありません。
加熱式タバコを吸っても煙は出ませんが、吐き出した呼気には目に見えない有害物質が含まれています。そのため、喘息や化学物質過敏症の患者さんが呼気を吸うと、有害物質に反応して体調を崩す恐れがあります。
【参考資料】『加熱式タバコや電子タバコに関する日本呼吸器学会の見解と提言』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/information/file/hikanetsu_kenkai_kaitei.pdf
3-2.電子タバコの健康への影響
電子タバコの成分は、食品添加物としても広く使われているプロピレングリコールと植物性グリセリンなので、人体への悪影響は少ないとされています。
しかし、これらの物質は、あくまで食品添加物として使用する分には安全性が高いとされているのであって、加熱して肺の奥に吸い込んだ時の安全性まで保証されているわけではありません。
アメリカでは、電子タバコによるものと疑われる肺疾患が次々と報告されています。原因はまだ明らかになっていませんが、製品に添加されているビタミンEアセテートという物質が関与している可能性が考えられています。
【参考情報】『電子たばこの注意喚起について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000623066.pdf
4.新型タバコのデメリット
新型タバコの広告を見て、「普通のタバコよりかっこいい」「おしゃれな気分が楽しめる」と思う人もいるかもしれません。しかし、その裏には見逃せないデメリットがあります。
4-1.独特のにおいが「くさい」という意見
紙巻タバコのにおいが周囲に迷惑をかけると思い、加熱式タバコに切り替えた人もいるでしょうが、製品によっては独特のにおいがあり、むしろ嫌っている人も多いようです。香りの好みには個人差がありますが、吸っている人は家庭や職場の人に嫌がられていないかどうか確認してみましょう。
4-2.バッテリーの爆発事故
電子タバコに内蔵されているバッテリーには、リチウムイオン電池が使用されています。このリチウムイオン電池が爆発する事故により、海外では死者が出ています。
4-3.乳幼児の誤飲
紙巻タバコの誤飲も大変危険ですが、たばこの葉は食べにくいので、間違って乳幼児が口にしても一度にたくさんは食べられません。
しかし、加熱式タバコのスティックやカートリッジは小さいため、うっかり口に入れると丸ごと飲み込んでしまう恐れがあります。
【参考情報】『乳幼児による加熱式たばこの誤飲に注意』国民生活センター
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20171116_2.pdf
4-4.化学物質や違法薬物の混入
電子タバコは法律上はタバコではないので、たばこ事業法の規制を受けません。そのため、これまでタバコを扱ったことのないメーカーの製品も多数販売され、品質にばらつきがあります。
ミントやフルーツなどの香りを加えた製品もありますが、これらの香り成分に含まれている化学物質が肺の奥まで吸い込まれた時にどのような影響があるか、現時点では明らかになっていません。
海外から輸入できる電子タバコの中には、日本では電子タバコへの配合が禁止されているニコチンが含まれているものがあります。また、電子タバコの中に大麻などの麻薬成分を混ぜて吸う人がいることも問題になっています。
【参考情報】『CBD(カンナビジオール)を含む電子タバコや健康食品等は大麻成分THCが含まれているおそれがあるため、ご注意ください』東京都生活文化局消費生活部 東京くらしWEB
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/sodan/kinkyu/20200430.html
5.新型タバコで禁煙できるのか
紙巻タバコから新型タバコに切り替えると、禁煙に成功しやすいと考える人もいます。しかし残念ながら、その考えを覆す報告があります。
加熱式タバコにもニコチンが含まれているので、喫煙者は血中ニコチン濃度が一定に達するまで、つまり自分が満足するまで吸い続けたくなります。そのため喫煙回数が増え、結局ニコチン接種量は変わらないことが多いという研究があります。
【参考情報】『Heat-not-burn tobacco products: a systematic literature review』Erikas Simonavicius 1, Ann McNeill 1 2, Lion Shahab 3, Leonie S Brose
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30181382/
それなら、ニコチンが含まれていない電子タバコなら禁煙できると思うかもしれません。しかし、国立がん研究センターの調査では、電子タバコを使用した人は、使用しなかった人より禁煙成功率が38%少ないことがわかっています。
【参考記事】『紙巻タバコの禁煙方法と有効性を調査』国立研究開発法人 国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2017/1212/index.html
世界保健機関(WHO)も、「電子タバコが入手できる大半の国において、電子タバコ使用者の大部分が従来型タバコを並行して使い続ける」と報告しています。
【参考情報】『Tobacco: E-cigarettes』WHO(世界保健機関)
https://www.who.int/news-room/q-a-detail/e-cigarettes-how-risky-are-they
残念ながら、新型タバコに切り替えても喫煙の習慣はなかなかなくせないのが実情のようです。
6.おわりに
新型タバコが健康にどのような影響を与えるのか、まだわかっていない部分もあります。しかし、加熱式タバコにはニコチンをはじめとする有害物質が含まれていることは事実ですし、電子タバコの蒸気からも、ホルムアルデヒドなど発がん性のある物質が検出されたという報告があります。
【参考情報】『電子タバコ蒸気に含まれる有害化学成分』国立保健医療科学院 生活環境研究部 欅田 尚樹
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000066481.pdf
紙巻タバコだけではなく、新型タバコも吸わないことが健康にとってベストの選択であることは現時点では明らかですし、今後も変わらないでしょう。
【参考文献】『新型タバコの本当のリスク アイコス、グロー、プルーム・テックの科学』田淵貴大/内外出版社