ブログカテゴリ
外来

喘息の定期通院はいつまで必要?

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月29日
定期通院トップ

なぜ喘息の患者さんには、定期的な通院が勧められるのでしょうか?

症状が落ち着いている状態が続くと、「もう治ったのではないか」「このまま通院を続ける必要があるのだろうか」と疑問に思う人は少なくありません。

しかし喘息は、症状が出ていないときでも気道の炎症が完全に消えているとは限らない病気なので、自己判断で通院や治療を中断すると、再び悪化したり、発作が強く出たりする恐れもあります。

この記事では、定期通院で実際に何を確認しているのか、通院回数を減らしたり薬を調整したりできるのはどのような場合かを整理します。

1.喘息は「症状がない=治った」ではない病気


喘息は、自覚症状だけでは正確に状態を判断できず、落ち着いたと思っていた症状が再び現れることがあります。

1-1.症状がなくても気道の炎症は続いている

喘息は、咳や息苦しさ、喘鳴(ぜんめい)といった症状が出ていない時期でも、気道の炎症が完全に消えているとは限らない病気です。

治療によって炎症が抑えられると症状は改善されますが、気道そのものは刺激に敏感な状態のままであることが多く、自覚症状だけでは病状を正確には判断できません。

そのため、「最近は症状が出ていないから大丈夫」と症状の有無だけを基準に通院や治療をやめてしまうと、気づかないうちに炎症が再燃し、ある日突然発作が起こることがあります。

悪化してから治療を再開すると、元の安定した状態に戻すまでに時間がかかるケースも少なくありません。

◆「気道の炎症」についてくわしく>>

1-2.治療の目的は症状のコントロール

ここで大切なのは、「症状が落ち着いている状態」と「治った状態」は同じではないという点です。

喘息では、薬によって症状が出ず、日常生活に支障がない状態を保てることはありますが、これは病気が治ったことを意味するわけではありません。

現在の医療では、喘息を完全に治すのは難しいため、多くの場合は「症状を良好にコントロールした状態を維持する」ことを治療の目標としています。

そのため、症状が出ていない期間が続いていても、通院や管理が必要とされるのです。

【参考情報】『Regular follow-up visits reduce the risk for asthma exacerbation requiring admission in Korean adults with asthma』Springer Nature
https://aacijournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13223-018-0250-0

◆「喘息は完治する?」>>

1-3.薬物治療を正しく続けるために

喘息で定期通院が必要とされる理由の一つに、治療を正しく継続するための医療的な確認と処置があります。

重症喘息の治療では、人によっては生物学的製剤の注射を病院で受ける必要があります。これらは、治療効果や安全性を確認しつつ継続することが重要なため、定期受診が前提となります。

◆「重症喘息と生物学的製剤」について>>

また、吸入薬の手技の確認も定期通院の重要な目的です。

吸入薬は、正しく使えてはじめて効果を発揮しますが、慣れてくるほど自己流になり、吸入のスピードやタイミング、息の止め方がずれてしまうことがあります。本人はちゃんと使っているつもりでも、実際には薬が十分に気道に届いていないケースも少なくありません。

【参考情報】『Inhaler Technique for People with Asthma or COPD』National Asthma Council Australia
https://www.nationalasthma.org.au/living-with-asthma/resources/health-professionals/information-paper/hp-inhaler-technique-for-people-with-asthma-or-copd

定期通院では、医師や医療スタッフが吸入の様子を確認し、必要に応じて修正します。これにより、薬の効果を最大限に引き出し、無駄な増量や不要な治療強化を避けることにつながります。

2. 定期通院で何を確認しているのか

定期通院 検査
喘息の定期通院では、その時の症状の有無だけを確認しているわけではありません。

症状が出ていない時期でも、治療が適切に機能しているか、今後の悪化リスクが高まっていないかを判断するため、複数の視点から状態を評価しています。

2-1.喘息のコントロール状態を確認する

まず確認されるのが、発作の頻度や程度です。強い発作がなくても、軽い息苦しさや咳、胸の違和感がどのくらいの間隔で起きているかは重要な情報になります。

次に、夜間や早朝の症状です。喘息は夜から明け方にかけて悪化しやすく、日中に問題なく過ごせていても、寝ている途中で咳き込むといった症状があるなら、気道の炎症が十分に抑えられていないサインである場合があります。

【参考情報】『Why Is My Asthma Worse at Night?』Cleveland Clinic
https://health.clevelandclinic.org/asthma-worse-at-night

また、薬の使用状況も重要です。特に発作時に使う薬の使用回数は、喘息のコントロール状態を反映しやすい指標です。使用回数が増えている場合、症状としては軽くても、悪化の前触れであることがあります。

2-2.薬の量や通院間隔を調整する

通院時、必要に応じて呼吸機能検査を行うこともあります。自覚症状がほとんどない場合でも、検査によって気道の狭まりが見つかることがあり、症状だけでは分からない変化を早めに把握でするためです。

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>

これらの情報を総合して、医師は薬が十分に効いているかだけでなく、量が多すぎないか、今後減らせる余地があるかを判断します。定期通院は薬を続けるためのものではなく、状態に応じて治療や通院間隔を調整し、安定した状態を維持するための場でもあります。

3.喘息の定期受診の間隔はどれくらい?

定期通院の間隔
喘息の定期受診の間隔は、すべての人で同じではありません。病状の安定度や治療内容によって調整されるのが基本です。

状態が良くなるほど受診間隔は延ばせますが、受診間隔や治療内容の調整は、必ず医師と相談しながら進めることが重要です。

3-1.治療開始直後や不安定な時期

治療を始めたばかりの時期や、薬の内容を変更した直後、症状が不安定な場合は、2〜4週間に1回程度の受診が一般的です。

この段階では、発作の有無や症状の変化、薬が適切に効いているか、副作用が出ていないかを早めに確認する必要があります。

◆「喘息治療に使う吸入ステロイド薬の副作用は?」>>

3-2.症状が安定してきた場合

症状が落ち着いてきた場合は、受診間隔を1〜2か月に1回へ延ばすことが検討されます。

夜間や早朝の症状がないか、発作時の薬をどのくらい使っているかなどを確認しながら、治療が安定して続けられているかを判断します。

3-3.長期間安定している場合

さらに、発作がなく、良好なコントロール状態が長期間続いている場合には、2〜3か月に1回、状態によっては3か月以上間隔を空けて受診することもあります。

ただし、これは「治った」からではなく、安定した状態を維持できているかどうかを定期的に確認するための受診です。

【参考情報】『Summary Guide for Asthma Management and Prevention』GINA(Global Initiative for Asthma)
https://ginasthma.org/wp-content/uploads/2025/11/GINA-Summary-Guide-2025-WEB_FINAL-WMS.pdf

4. 自己判断で通院をやめた場合に起こりやすいこと


喘息は、自己判断で治療を中断したときに、思わぬ形で悪化することがある病気です。

4-1.症状が再び現れ悪化する

喘息は、自己判断で治療や受診を中断すると再び不安定になりやすい病気です。治療によって抑えられていた気道の炎症は、薬をやめることで徐々に再燃し、知らないうちに気道の過敏性が高まっていきます。

この変化は急激に現れるとは限らず、初期には軽い咳や息苦しさ、疲れやすさといった曖昧な変化として現れることが多いため、「大きな問題ではない」と見過ごしてしまうケースも少なくありません。

しかし、そのまま炎症が進行すると、風邪や季節の変わり目、ストレスなどをきっかけに、突然強い発作が起こることもあります。

◆「ストレスが喘息に及ぼす影響とは?」>>

さらに、悪化してから治療を再開した場合、元の安定した状態に戻すまでに時間がかかることがあります。

薬の量を増やしたり、治療内容を見直したりする必要が生じ、結果的に通院や治療の負担が大きくなることもあります。

こうしたリスクを避けるためにも、調子が良い時期こそ、医師の管理のもとで治療を継続し、状態に応じて薬を「やめる」かではなく「減らせるか」を判断していくことが重要です。

4-2.重症化のリスク

炎症が進んだ状態で、風邪やアレルゲンなどの刺激が加わると、急激に症状が悪化し、発作時の薬だけでは対応できなくなることがあります。

その結果、夜間や休日に呼吸が苦しくなり、救急受診や入院が必要になるケースもあります。

これまで大きな発作を経験したことがない人ほど、悪化のサインを見逃しやすい傾向があります。

◆「重症の喘息」について>>

4-3.軽かった喘息が「治療しにくい状態」に

さらに注意すべきなのが、もともとは軽い喘息だった人でも、治療を中断することで病状が不安定になり、治療が難しくなる可能性がある点です。

炎症を繰り返すことで気道の状態が変化し、以前と同じ薬や量では十分に症状を抑えられなくなることがあります。

通院を続けていれば、悪化する前の段階で治療を調整できますが、自己判断でやめてしまうと、その機会を逃すことになります。

【参考情報】『Asthma Controller Medication Adherence, Risk of Exacerbation, and Use of Rescue Agents Among Texas Medicaid Patients with Persistent Asthma』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10401995/

5.通院が負担なときに考えてよいこと


定期通院が必要だと分かっていても、仕事や家庭の事情、時間や費用の問題から、「正直、負担が大きい」と感じることは珍しくありません。

そうした場合は、我慢したり自己判断で通院をやめたりする前に、まず医師に状況を伝えることが重要です。

例えば、「通院間隔をもう少し延ばしたい」「症状が安定しているので薬を減らせないか」といった要望は、遠慮せずに話して問題ありません。

また、「忙しくて定期的に通えない」「通院の時間を確保するのが難しい」といった生活上の事情も、治療を考えるうえで重要な情報です。

自己判断で治療を中断すると、悪化のリスクを高める一方で、医師と相談しながら進めれば、負担を抑えつつ安全に治療を続ける選択肢が見えてきます。通院の負担を減らすためにも、まずは相談することが現実的な対応です。

6.いつまで通院が必要なのか?


喘息の通院に「ここまで来たら終わり」という明確な期限はありません。

喘息は、一定期間通えば必ず治療が完了する病気ではなく、体質や生活環境の影響を受けやすいため、その時々の状態に合わせた管理が必要とされます。年齢や季節、感染症、ストレス、生活リズムの変化などによって気道の状態は変わるため、同じ人でも経過は一様ではありません。

治療の目的は、発作を起こさず、仕事や家事、運動、睡眠などの日常生活を支障なく送れる状態を維持することです。咳や息苦しさが出ていない期間が続いている場合でも、それは治療によって気道の炎症や過敏性が適切に抑えられている結果であり、病気そのものがなくなったことを意味するわけではありません。

喘息の通院は「病気を治すため」だけでなく、「悪化させないため」「再発や重症化を防ぐため」の役割を担っています。状態が落ち着いている時期にこそ定期的な確認を行うことで、大きな発作や治療の後戻りを避け、結果的に通院や治療の負担を抑えながら、長く安定した状態を保つことが可能になります。

◆「喘息治療のゴールと治療法」>>

7.おわりに

喘息では、症状が落ち着いているからといって、通院が不要になるわけではありません。症状が出ていない状態は、治療や管理がうまくいっている結果であり、自己判断で通院をやめてよい状態とは異なります。

定期通院は、単に薬を続けるためのものではなく、状態に応じて治療内容や通院間隔を見直し、負担を軽くするための調整の場でもあります。安定している時期だからこそ、薬を減らせるか、通院の間隔を延ばせるかを検討できます。

通院をやめたいと感じたときは、いきなり中断するのではなく、「どこまで減らせるか」「どうすれば負担を下げられるか」を医師に相談することが重要です。それが、長く安定した状態を保つための現実的な選択になります。

◆横浜市で呼吸器内科をお探しなら>>

電話番号のご案内
電話番号のご案内
横浜市南区六ツ川1-81 FHCビル2階