過換気症候群について
極度の不安や緊張で突然息苦しくなり、なかなか治まらないという経験はありますか?
人間は呼吸により体内の二酸化炭素を体外に排出していますが、何らかの原因により呼吸の回数が必要以上に増え“過換気”の状態になると、血液がアルカリ性に傾き、体内の二酸化炭素濃度が正常より下がりすぎてしまいます。このような状態を過換気症候群といいます。
1.原因
過換気が起こる原因にはさまざまなものがありますが、一般的には臓器に異常はなく、心理的な要因(極度の不安、緊張、発熱・痛み・妊娠等によるパニック発作など)により誘発されるものを過換気症候群と呼んでいます。
心理的ストレスによる過換気症候群では、一時的にひどい呼吸困難を自覚しますが、命にかかわるものではありません。
10~20代の女性に多く、男女比は1:2~4といわれていて、過換気症候群を繰り返す方は精神疾患のある場合が多いです。
また、精神疾患を患っていなくても神経質な人や不安症な人、緊張しやすい人なども起きやすいとされます。
疲労や睡眠不足、激しい運動も原因となることがあります。
【参考資料】『Hyperventilation』University of Michigan Health
https://www.uofmhealth.org/health-library/hypvn
2.症状
過換気症候群では、以下のような症状が起こります。
[呼吸器症状]呼吸困難、不規則な呼吸、呼吸筋の疲労
[心臓・循環器の症状]頻脈、不整脈、動悸、胸痛
[末梢神経・筋肉の症状]テタニー(痛みのある筋肉のけいれん)、知覚異常、ふるえ、筋肉の過緊張、筋肉のけいれん
[中枢神経症状]頭痛、めまい、失神、意識障害
[精神症状]不安、恐怖、パニック障害
[消化器症状]吐き気、口の渇き、腹痛、お腹の張り
[その他]全身倦怠感、だるさ、汗が出る、不眠
通常、発作は30分~1時間ほどでおさまりますが、症状が強い場合は発作時間が長くなることがあります。
気管支喘息の持病がある方が過換気になると、気管支収縮を引き起こし、喘息症状を悪化させる原因になることがあります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の方が過換気になると、肺に空気がたまってしまい、息苦しさの悪化につながることもあります。
◆「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」について詳しく>>
3.検査
まずは、胸部レントゲン、心電図、スパイロメトリー(呼吸機能検査)などの検査により、心理面以外に呼吸器や心臓の病気がないかを確認します。
喘息など別の病気を疑った場合は、必要に応じて詳しい検査を行います。
また、精神疾患により症状が引き起こされている可能性もあるため、問診による聞き取りも重要となります。
4.治療
心理的なストレスが原因の過換気症候群と診断されれば、命にかかわる病気ではないことを説明し、患者さんの不安を取り除きます。
発作を繰り返し、不安が強い場合は、抗不安薬や抗うつ薬を処方することがあります。
ストレスや緊張が原因であれば、日頃から好きな音楽を聴いたり、好きなものを食べるといった自分なりのストレス解消方法を見つけるなど、セルフコントロールをしてリラックスする時間を持つことも効果的です。また、精神科や心療内科と連携し、心理カウンセリングなどを検討する必要があります。
治療法のひとつに、紙袋で鼻と口を覆い、吐いた息を再呼吸するペーパーバック法がありますが、体内の酸素濃度が下がりすぎたり、二酸化炭素濃度が上がりすぎたりと注意が必要なため、積極的に推奨されていません。
ペーパーバック法を行う場合には、体内の酸素濃度を測りながら慎重に行い、必要に応じて酸素吸入を行う場合もあります。
【参考資料】『新・呼吸器専門内科医テキスト』日本呼吸器学会/南江堂
https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524226894/?fbclid=IwAR3HXKhqiuker_02pE5wPuZPmoAa9Rg-6-g_RgcRMak8rjaAOvIDxZIXIMs
5.おわりに
過換気症候群は、心理的なストレスにより誰にでも起こる可能性がある病気です。
まずは落ち着いてゆっくりと呼吸することを意識し、改善がなければ迷わず医療機関を受診しましょう。