咳で嘔吐してしまう病気とは?
呼吸器の専門医として多くの咳症状の患者さんを診察していると、激しく咳き込むことで嗚咽が出たり、嘔吐してしまった(嘔吐しかけた)というケースをお聞きすることがあります。
小さい子どもが咳き込んで吐くことはよくあり、心配ない場合も多いのですが、激しい咳が続いているなら、喘息などの呼吸器疾患の可能性もあります。
そこでこの記事では、激しい咳と嘔吐がある病気についてお伝えします。
1.激しい咳で嘔吐する病気とは
咳が出て嘔吐する場合、以下のような病気が考えられます。
1−1.感染性胃腸炎
よくあるのは、感染性胃腸炎など消化器症状(吐き気や下痢など)を伴う病気です。
感染性胃腸炎は、俗に「おなかの風邪」「胃腸風邪」とも言われますが、ノロウイルスやロタウイルスなどの病原体に感染して起こる胃腸炎で、風邪ではありません。
しかし、感染性胃腸炎を発症すると、腹痛や吐き気のほか、下痢、発熱や咳、体の痛みなど、風邪のような症状を併発することが多いです。
感染性胃腸炎にかかっていれば、もともと嘔吐しやすい状態になっているため、咳で腹部(腹筋)に力が入ると吐き気を催しやすくなります。
特に乳幼児や子どもは、ちょっとした咳でも刺激となり、我慢できずに吐いてしまうことがよくあります。
感染性胃腸炎は、病原体が付着した手で口などを触ることによる感染(接触感染)や、病原体に汚染されたものを食べることによる感染(経口感染)で発症します。
治療としては、症状に応じた対症療法を行います。
嘔吐や下痢による脱水症状が起きることもあるため、乳幼児や高齢者は早めに医療機関へ受診しましょう。
【参考情報】『感染症による嘔吐』白クマ先生の子ども診療所|日本医師会
https://www.med.or.jp/clinic/sick_outo.html
1−2.喘息などの呼吸器疾患
気管支炎や喘息、咳喘息の患者さんは、時に呼吸ができないくらい激しい咳が出ることがあります。このような場合、息苦しさのあまり、吐き気を催すことも少なくありません。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんも、激しい咳で嘔吐してしまうことがありますが、その時に痰を吐くことが多いです。痰を吐いた後は、体がスッキリ楽になることもあります。
◆「COPD」について詳しく>>
いずれにせよ、もとの疾患である気管支炎や喘息の治療を受け、吐き気を催すほどの咳を防ぐことが大事です。激しい咳に悩まされている人は、できるだけ早めに呼吸器専門医の診察を受け、早期に治療を開始しましょう。
【参考情報】『急性気管支炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-03.html
1−3.激しい咳が出るその他の病気
その他、クループ症候群、マイコプラズマ肺炎、百日咳のような激しい咳が出る病気にかかると、咳き込んだ時に嘔吐してしまうことがあります。
特に乳幼児は、痰が絡んでもうまく出せないため、咳をして痰と一緒に食べ物を吐いてしまうことはよくあります。
【参考情報】『My Child Coughs So Hard, They Vomit. Should I Worry?』University of Utah Health
https://healthcare.utah.edu/the-scope/shows.php?shows=0_k0j0ptn1
2.乳幼児・小児が嘔吐した時のケア
大人であれば、咳き込んでしまう状況を自分から避けたり、仮に嘔吐しそうになっても、自分の意志で適切な行動(トイレを利用する、エチケット袋を利用するなど)を取ることができます。
しかし、お子さんは、自分で激しい咳の原因となる物質や場所を避けることが難しいため、保護者が適切にケアするようにしましょう。
嘔吐しても元気な場合は様子を見て、30分~1時間ほど経って吐き気が治まっていたら、経口補水液や乳幼児用のイオン飲料を少しずつ与え、水分を補給しましょう。
また、感染性胃腸炎で嘔吐した場合に備え、感染を広げないため、嘔吐物の処理方法を事前に学んでおくと安心です。
【参考情報】『ノロウイルスに関するQ&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
3.おわりに
お子さんが咳き込んで吐いてしまっても、吐いた後に元気にしているならそんなに心配ありません。
しかし、息もできないほど苦しそうな時や、水分を与えても吐いてしまって元気がない時は、病院を受診してください。
また、吐き気は治まっても咳が2週間以上続いている場合は、念のため呼吸器の機能を調べておくとよいでしょう。