肺サルコイドーシスについて
サルコイドーシスとは、肺や眼、皮膚、心臓、神経などに、イボやしこりのような肉芽腫(にくげしゅ)と呼ばれるものができる病気です。
肉芽腫ができると、できた部位の機能や働きが阻害され、さまざまな症状が現れます。一方、肉芽腫ができても自覚症状がなく、健康診断で発見されはじめて気づく人もいます。
この記事ではサルコイドーシス、特に肺のサルコイドーシスについて解説します。咳や息切れ、胸の痛みが続いている人、健康診断でサルコイドーシスと指摘された人、なんだか最近疲れやすいと感じている人は、ぜひ読んでください。
1.原因
サルコイドーシスの原因はまだわかっていませんが、体の中に何らかの異物が入ることで、免疫に関する細胞がアレルギー反応を起こし、肉芽腫ができると考えられています。
原因となる異物は、ニキビを引き起こすアクネ菌だという説が有力ですが、ほかの菌が原因だという説もあります。
【参考情報】『サルコイドーシスの病因論』東京医科歯科大学
https://www.tmd.ac.jp/med/pth1/hupathhp/kenkyu-sar.html
2.症状
肉芽腫ができた部位によって違う「臓器特異的症状」と、どの部位にできても共通の「非特異的症状(全身症状)」があります。
2−1.臓器特異的症状
肺に肉芽腫ができた場合、以下のような症状が現れることがありますが、無症状の患者さんもいます。
・咳
・痰
・胸の痛み
肉芽腫が眼にできると、ぶどう膜炎を発症し、眼のかすみや充血、視力の低下などの症状が現れることがあります。皮膚にできると発疹、心臓にできると不整脈や心不全などの症状が出ることがあります。
【参考情報】『ぶどう膜炎』日本眼科医会
https://www.gankaikai.or.jp/health/21/
2−2.非特異的症状
肉芽腫のできた部位にかかわらず、以下のような症状が現れることがあります。
・発熱
・疲れ
・痛み(頭痛、胸痛、関節痛、筋肉痛など)
・息切れ
このような全身症状だけが現れ、臓器特異的症状がない場合は、診断が難しくなります。また、臓器特異的症状がなくなった後も、非特異的症状だけが残ることがあります。
3.検査
サルコイドーシスが疑われる場合は、以下のような検査を行います。
・血液検査
特に、アンギオテンシン変換酵素(ACE)という酵素に注目します。
・画像検査:
胸部レントゲンやCTで病変を調べます
血液検査や画像検査でサルコイドーシスの疑いがあれば、組織の一部をとって肉芽腫の有無を確かめます。肺サルコイドーシスの場合は、気管支鏡検査で確認します。
【参考情報】『気管支鏡検査とはどのような検査ですか?』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q33.html
その他、尿検査、肺機能検査、心電図、放射性薬剤を投与して行うガリウムシンチという検査をすることがあります。
【参考情報】『核医学検査 (アイソトープ検査・RI検査)を お受けになる方々へ』日本アイソトープ協会
https://www.jrias.or.jp/pet/pdf/kakuigakukennsa_q_and_a_201501.pdf
また、サルコイドーシスを発症している場合、結核感染の検査であるツベルクリン反応が陰性になることが多いため、ツベルクリン反応検査を行うこともあります。
【参考情報】『ツベルクリン反応』日本薬学会
https://www.pharm.or.jp/words/word00286.html
4.治療
サルコイドーシスの患者さんの約半数は、治療をしなくても自然に治ります。自覚症状がない場合は経過観察とし、定期的に検査を行います。
軽症の患者さんも経過観察となりますが、眼や皮膚に症状があれば、ステロイド薬で治療を行います。肺サルコイドーシスの患者さんに咳が続いているときは、喘息治療で用いる吸入ステロイド剤を処方することもあります。
軽症の患者さんが多い一方、中には慢性化する人、再発する人、急に症状が悪化する人もいるので、定期検査は必ず受けてください。眼に肉芽腫ができると失明、心臓にできると命にかかわる恐れがあります。
ごくまれではありますが、肺が硬くなって呼吸がしにくくなる肺線維症や、肺動脈の血圧が高くなって息切れや呼吸困難が生じる肺高血圧症へと進み、肺移植が必要となることもあります。
重篤な症状がある場合や、3~5年経ってもよくならない患者さんには、副腎皮質ステロイド薬の全身投与を行います。ステロイド薬が効かない場合は、免疫抑制剤で治療することもあります。
サルコイドーシスが難治化した患者さんは、「指定難病」と診断されると、医療費補助を受けることができます。
【参考情報】『指定難病患者への医療費助成制度のご案内』難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460
5.妊娠・出産について
サルコイドーシスの患者さんでも妊娠・出産は可能ですが、前もって主治医に相談してください。男性の患者さんで子どもを希望する方も、やはり主治医に相談してください。
妊娠中は、ホルモンの影響で一時的に症状が良くなることがあります。逆に、出産後は症状が悪化することが多く、ステロイド剤による治療が必要になることがあります。治療でステロイド薬を服用することになったら、母乳育児は避けてください。
お腹の中の赤ちゃんにサルコイドーシスが遺伝することはほぼないのですが、ごくまれに親子やきょうだいなど家族で発症した例が報告されています。
【参考情報】『Familial aggregation and heritability of sarcoidosis: a Swedish nested case-control study』National Library of Medicine |PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29946010/
6.おわりに
肉芽腫ができる場所で一番多いのは肺です。咳や痰が続いている人のほか、「少し動いただけでも息切れがする」などの非特異的症状からサルコイドーシスを疑っている人は、まずは呼吸器内科を受診してください。
皮膚や心臓にサルコイドーシスが発症した患者さんも、循環器内科や皮膚科と共同して、呼吸器内科で治療を行うことがあります。