喘息の女性が気になる妊娠中の不安や疑問に答えます
喘息の治療中でも妊娠・出産することはできます。しかし「症状がひどくなるのでは?」「お腹の中の赤ちゃんに影響があるのでは?」と心配なこともあるでしょう。
この記事では、喘息の妊婦さんの不安や疑問にお答えするとともに、気をつけてほしいポイントを紹介します。妊娠中でも安全に使える薬はありますので、上手に症状をコントロールしながら体調を管理していきましょう。
目次
1.妊娠すると症状がひどくなるのか
妊娠すると、3分の1の人が喘息の症状が悪化します。しかし、逆に症状が改善する人も3分の1、変わらない人も3分の1います。
「どんな人が悪化するのか」「どのような原因で悪化するのか」は、いろいろな要素が複雑に作用して決まるため、妊娠前に予測するのは困難です。そのため病院では、症状に応じた対応を行います。
また、妊娠24週~36週では症状が悪化しやすく37週~40週では軽くなるという報告もあります。個人差がありますが、再び妊娠すると前回と同じ経過をたどることが多いようです。
2.薬を使っても大丈夫なのか
大人の喘息に使用される主な薬は吸入ステロイド薬ですが、妊娠中もこの薬を使用することができます。
「ステロイド」と聞くと、効果はあっても副作用が強い薬というイメージがあるかもしれませんが、喘息の治療で使う吸入ステロイドは、飲み薬のステロイドとは作用の仕方がまったく違います。
一般的な飲み薬は、その効果を長く持続させるため、肝臓ですぐに分解されないための工夫をして作られています。そのため、何時間にもわたって全身に効果を発揮しますが、多い量を長く飲み続けると、さまざまな副作用も出てきます。
しかし、たいていの吸入薬は、肺や気管支の粘膜にとどまって炎症を抑えるように作られているので、全身への影響はほぼありません。飲みこんだ分も、胃の粘膜の一部から吸収された後、すぐに肝臓で分解される工夫がされています。さらに、内服薬と比べると1/1000の量なので、医師の指示通りに正しく使用していれば問題ありません。
3.お腹の中の赤ちゃんに影響はあるのか
妊娠中に薬を使うのは不安かもしれませんが、母体や胎児への影響はほとんどないので安心して治療を続けてください。産まれた赤ちゃんに母乳をあげるのも問題ありません。
妊娠中はおなかが大きくなって横隔膜が持ち上げられるため、呼吸の機能に影響が出てきます。そこに喘息の発作が起きると、おなかの中の赤ちゃんが酸素不足になり、低酸素血症となる恐れがあります。すると、赤ちゃんは肺の機能が十分に発育しないまま生まれてしまい、呼吸障害が起きることがあります。
【参考情報】『喘息妊婦の臨床的特徴とその対応』日本産婦人科医会
https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/MEMBERS/TANPA/H11/990308
おなかの中の赤ちゃんへの影響を心配して、薬をなるべく使いたくないという気持ちはわかるのですが、赤ちゃんにとっては薬の影響より低酸素血症になる方がよほど危険なので、自己判断で薬をやめることは絶対にしないでください。
薬をやめたことで大きな発作が起こってしまうと、これまでより強い薬を使わざるを得ないこともあります。
【参考情報】『妊娠と気管支喘息』アレルギー63巻 2号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/63/2/63_KJ00009262743/_pdf
4.妊娠中も喘息の症状をコントロールするための3つのポイント
妊娠中は、体の変化が大きく心身に負担がかかります。また、免疫のシステムのはたらきにより普段より感染症にかかりやすくなるので、主治医や家族など周囲の人の力も借りて、上手に体調をコントロールしましょう。
4−1.喘息の治療は続けましょう
主治医に妊娠したことを告げ、これまで通り治療を続けましょう。妊娠中も上手に喘息のコントロールができていれば、赤ちゃんへの影響はほとんどありません。
逆に不十分だと、妊娠高血圧や妊娠中毒症のほか、早産、低出生体重児などのリスクが高まります。産婦人科の担当医にも、喘息があること、現在も薬を使用していることを告げてください。
4−2.風邪やインフルエンザを予防しましょう
風邪やインフルエンザにかかると、それをきっかけに喘息の発作が起こったり、症状がひどくなる恐れがあります。秋から冬にかけては冷えや乾燥を防ぎ、外出時はマスクを着用しましょう。家に帰ったら、手洗いも忘れずに。
◆「喘息発作やウイルス感染を予防する、マスクの付け方と選び方」>>
妊娠中は、免疫のシステムがお腹の中の赤ちゃんを「異物=敵」とみなして攻撃するのを防ぐため、体の中で特別な仕組みがはたらきます。その影響で菌やウイルスに対する抵抗力が弱くなるので、普段は丈夫な人でも感染症にかかりやすくなります。
妊娠中や授乳中でも、インフルエンザの予防接種を受けることはできます。ワクチン接種を希望する方は、主治医に相談しましょう。家族にも予防に協力してもらい、母体と胎児の健康を守ってください。
◆「インフルエンザを予防する方法とは~医師が解説する流行への備え」>>
4−3.「発作の元」を避けましょう
喘息には、ダニやカビ、ペットの毛など特定の物質(アレルゲン)が原因で発症する「アトピー型喘息」と、ウイルス感染や過労、ストレスなどがきっかけで発症する「非アトピー型喘息」があります。
アトピー型喘息の人は、アレルゲンを取り除くため、なるべくこまめに部屋や寝具を掃除しましょう。布製のソファは合成皮革のものに替えるなど、できれば部屋に布製の家具や雑貨を置かないようにすると、より効果的です。
アトピー型喘息の人も、非アトピー型喘息の人も、過労やストレスは発作の引き金となるので、休息や睡眠を十分にとってください。ただでさえ、妊娠中は心身の変化が大きく疲れやすくなりがちなので、仕事や家事の合間に休憩をはさむことを忘れないでください。
5.おわりに
喘息があっても、妊娠・出産・授乳をすることはできます。しかし、おなかの中の赤ちゃんへの影響が心配なあまり、自己判断で薬や治療をやめてしまうと大変危険です。
きちんと治療を続け、お腹の中の赤ちゃんに十分な栄養と酸素を与え、主治医の指示を受けながら、順調な生育を見守っていきましょう。
【参考情報】『Asthma and Pregnancy』American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/asthma/managing-asthma/asthma-and-pregnancy