睡眠時無呼吸症候群と運転業務の関係性
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放っておくと、昼間に強烈な眠気に襲われる危険性があります。
強烈な眠気とは、重要な会議中や大切な試験、車の運転中でも意思に反して眠り込んでしまう症状です。
そのため、トラックドライバーやタクシードライバーなどの運転業務に関わる方は特に注意が必要です。
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中に気道が狭まり、無呼吸になってしまうことを繰り返す病気です。
医学的には、睡眠中に10秒以上の無呼吸(呼吸が止まった状態)または 低呼吸(呼吸が浅くなった状態)が平均して1時間あたり5回以上ある場合、この病気と診断されます。
睡眠が浅くなることで、日中の強い眠気や疲れ、頭痛などさまざまな症状が現れます。
中でも問題なのは、運転中に突然強い眠気に襲われ、居眠り運転をしてしまうことです。
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置している人の居眠り運転による交通事故は、健康な人の7倍高いという報告もあります。
事故発生時の状況はとくに、一人で運転中・高速道路などの直線道路を走行している時・渋滞での低速走行中の事故が多いといわれています。
また、無呼吸により酸素が不足することで、心臓や脳、血管に負担がかかってしまい、糖尿病や高血圧症などの持病への悪影響や、脳卒中や狭心症、心筋梗塞などの合併症を引き起こすリスクが高くなります。
2.大きな注目を浴びた事件・罰則について
2003年に起きたJR新幹線の事故により、睡眠時無呼吸症候群が大きな注目を浴びました。
運転士が居眠りをしてしまい、新幹線が最高時速約270㎞で約8分間走行し、自動列車制御装置により緊急停止したというものです。
運転士はその後の検査で、睡眠時無呼吸症候群と診断されました。
幸いこの事故でけが人はいませんでしたが、大事故を引き起こしかねない危険な状況であったことは言うまでもありません。
この事故をきっかけに、対策を強化する会社が増えましたが、その後も、事故はたびたび起きています。
2012年には、関越自動車道で高速ツアーバスが防音壁に衝突し、乗客45人が死傷しました。
【参考資料】『図解 睡眠時無呼吸症候群を治す!最新治療と正しい知識』白濱龍太郎 日東書院
https://tg-net.co.jp/tatsumi_book/8439/
このような事件がたびたび起きてしまったことで、2014年5月「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が施行されました。
この法律の第三条2項では、「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合」に、「人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。」とあります。
この「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」の中には睡眠時無呼吸症候群も該当します。
もちろん、法律で定められたからということではありませんが、一つの病気が自身のみにとどまらず、他人を巻き込む大きなリスクとなることをなにより理解し治療を受けることが大切です。
【参考資料】『自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律』法令検索
https://tg-net.co.jp/tatsumi_book/8439/
3.睡眠時無呼吸症候群の検査を受けましょう
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放っておくと、個人の健康が損なわれるだけではなく、居眠り運転で他人の命を危険にさらしてしまう恐れがあります。
そのため、トラックやタクシーのドライバーなど運転業務に関わる方は、会社で「SAS検診」が義務づけられている場合があります。
自分が病気だという自覚できないことも多いので、運転業務に関わる方は定期的に検査を受けることが大切です。
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4.睡眠時無呼吸症候群の治療
睡眠時無呼吸症候群は、適切な治療を受ければ、交通事故の危険性は健康な人と変わらなくなりますので、診断を受けた場合は、きちんと治療を続けることが大切です。
治療法には、CPAP(シーパップ)やASVという装置を用いて寝ている時の呼吸をサポートしたり、マウスピースを歯に装着して就寝中にアゴが下がるのを防ぐ方法があります。
5.おわりに
運転業務にかかわる方は、睡眠時無呼吸症候群を放置すると大きな事故を引き起こしてしまうことにつながります。
定期的に検査を受け、診断された場合はしっかり治療を続けることが大切です。