睡眠時無呼吸症候群の治療でうつ病の症状が改善?
睡眠時無呼吸症候群の症状として「日中の眠気」「集中力の低下」「やる気が出ない」などがありますが、これらの症状はうつ病の症状とよく似ています。
そのため、うつ病と診断された人が、実は睡眠時無呼吸症候群であることも少なくありません。また、睡眠時無呼吸症候群とうつ病を併発することもよくあります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群とうつ病の関係について解説します。
「最近、眠りが浅い」「朝起きた時に気分が悪い」「うつ病の治療をしてもよくならない」という方は、ぜひ読んでください。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に何度も呼吸が止まり、体が低酸素状態となることを繰り返す病気です。
肥満により空気の通り道である気道に脂肪がついて狭くなった人や、もともと下あごが小さい人がかかりやすい病気です。
この病気になると、日中の眠気や倦怠感、頭痛、激しいいびき、抑うつなどの症状などが現れます。
治療せずに放っておくと、血管や心臓、脳に負担がかかり、心筋梗塞や脳卒中など命にかかわる重大な合併症を引き起こす恐れもあります。
2.うつ病とはどんな病気か
うつ病とは、「気分が落ち込む」「やる気が出ない」などの精神的な症状とともに、「眠れない」「疲れやすい」などの身体的な症状が続く病気です。
健康な人でも、気分が落ち込んだり、なんだか疲れやすいと感じることはありますが、通常は時間とともに回復したり、休養や気分転換でリフレッシュすることができます。
しかし、うつ病の場合はなかなか症状が回復せず、不眠や疲労のほか、「何もする気がしない」「何をしても楽しくない」「ちょっとしたことで怒ったり自分を責めたりする」という気分の障害が続きます。
その結果、職場や学校に行けなくなったり、仕事や身支度ができなくなるなど、日常生活に支障をきたすようになります。
うつ病の原因は、まだはっきりとわかっていませんが、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳の神経伝達物質の働きにトラブルが起きることで発症するのではないかと考えられています。
親しい人の死や離婚、受験の失敗、いじめ、闘病などのつらい出来事が、うつ病を発症するきっかけとなることがあります。一方で、結婚や昇進などの喜ばしい出来事も、環境が大きく変わることがストレスとなり、やはり発症のきっかけとなることがあります。
【参考情報】『うつ病』こころの情報サイト|国立精神・神経医療センター 精神保健研究所
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
3.うつ病の患者さんは睡眠時無呼吸症候群になりやすい
うつ病などの精神疾患がある人は、睡眠時無呼吸症候群にかかるリスクが高いという研究結果があります。
【参考情報】『精神疾患と睡眠時無呼吸症候群』内村直尚
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1120090906.pdf
その理由のひとつとして、病気のため動くのがおっくうになることで体重が増え、気道に脂肪がついて狭くなることが考えられます。
また、精神疾患の治療薬や睡眠導入剤の作用で、舌の筋肉の緊張がゆるんで気道に落ち込み、気道が塞がれてしまうことも発症の原因となります。
4.睡眠時無呼吸症候群の患者さんはうつ病になりやすい
一方で、睡眠時無呼吸症候群の患者さんが、うつ病を発症するリスクが高いことも報告されています。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)と精神疾患 ― SASとうつ病との関係 ―』内村直尚,土生川光成
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100020094.pdf
睡眠不足が続くと、うつ病をはじめとした精神疾患の患者さんに似た脳機能の変化がみられ、抑うつや不安などの症状が強まるという報告もあります。
【参考情報】『Sleep Debt Elicits Negative Emotional Reaction through Diminished Amygdala-Anterior Cingulate Functional Connectivity』PLOS ONE
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0056578
睡眠時無呼吸症候群によって、睡眠の質や量が低下すると、日中の活動で疲れた脳が十分に休めなくなります。そのため、心の不調が起こりやすくなると考えられます。
5.睡眠時無呼吸症候群の治療でうつ病の症状が改善
睡眠時無呼吸症候群の治療をすることで、うつ病の症状が改善されることがあります。その理由は2つあります。
5−1.うつ病と睡眠時無呼吸症候群を併発していた場合
うつ病などの精神疾患の患者さんは睡眠時無呼吸症候群にかかりやすいことは、研究の結果明らかになっています。
しかし、自分が睡眠時無呼吸症候群であるという自覚がない人や、問診や検査で病気を発見されていない人は、適切な治療が受けられません。
うつ病の患者さんは、「眠れない」「寝つきが悪い」などの睡眠障害を訴えることが多いのですが、睡眠時無呼吸症候群を併発している場合、この病気の治療をすることによって睡眠の質が改善し、うつ病の症状が軽減することもあります。
家族やパートナーから激しいいびきを指摘されている人や、自分のいびきの音で目が覚める人、夜中に悪夢で目が覚めることが多い人は、睡眠時無呼吸症候群の検査ができる病院で相談してみることをおすすめします。
5−2.うつ病ではなく、睡眠時無呼吸症候群だった場合
うつ病と診断された人が、実はうつ病ではなく、睡眠時無呼吸症候群のためよく似た症状に悩まされている場合もあります。
その場合、抗うつ剤を服用してもなかなか効果を感じられないのですが、睡眠時無呼吸症候群の治療を開始すると、日中の眠気ややる気のなさが改善される可能性があります。
うつ病の治療を受けている人で、「激しいいびき」「肥満」「下あごが小さい」など、睡眠時無呼吸症候群のサインがある人は、念のため、医師に相談するといいでしょう。
6.おわりに
睡眠時無呼吸症候群とうつ病の症状は似ているため混同しやすい上に、併発することもあるので注意が必要です。
うつ病の患者さんは、睡眠時無呼吸症候群のリスクがあることを認識し、自分に当てはまる可能性があると思ったら、検査ができる病院を受診してください。
診断を受け、治療を開始すると、睡眠の質が上がることが期待できます。睡眠の質が上がれば、心身の疲労などの症状が改善しやすくなるとともに、心筋梗塞や脳卒中のリスクを下げることもできます。