睡眠時無呼吸症候群による酸素不足が招く症状とは?
「昼間の眠気」「起床時の頭痛」「激しいいびき」が続いている人は、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあります。
この病気を治療せずに放っておくと、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が悪化したり、心筋梗塞や脳卒中が引き起こされることがあります。
これらの合併症が起こるのは、病気の影響で、寝ている間に血液中の酸素の量が減ってしまうからです。
この記事では、なぜ睡眠時無呼吸症候群になると血液中の酸素が減るのかを説明し、酸素不足によって生じるさまざまな合併症を紹介します。
1.睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気か
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に何度も呼吸が止まっては再開することを繰り返す病気です。
呼吸が止まるたびに、患者さんは自分では気づかなくても一瞬目が覚めています。重症の人だと、1分間に30回以上無呼吸になる瞬間があり、そのたびに目が覚めるので、睡眠の質や量が低下します。
この病気になると、毎晩のように睡眠が妨げられるため昼間に眠くなり、仕事中にウトウトしてしまったり、集中力が途切れてしまうことがあります。そのため、居眠り運転や労働災害が起きていることが、大きな社会問題となっています。
睡眠時無呼吸症候群になりやすいのは、肥満体型の人です。空気の通り道である気道に脂肪がつき狭くなると、吸った空気が通りにくくなり、寝ている間の呼吸が妨げられます。その影響で激しいいびきが出ることがあります。
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標準体型ややせ型の人でも、鼻づまりなどの鼻症状がある人、扁桃肥大がある人、舌が大きい人、のどが狭い人、下あごが小さい人は、睡眠時無呼吸症候群になりやすい傾向があります。
ほかにも、喫煙・飲酒習慣や睡眠薬の服用がこの病気を引き起こす可能性があります。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群/SAS』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html
2.なぜ酸素不足になるのか
睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、無呼吸になることで、体内に十分な酸素が取り込めなくなってしまうため、血液中の酸素量が減ってしまいます。
血液中の酸素濃度を表す動脈血酸素飽和度(SpO2)は、健康な人は通常95%以上ですが、無呼吸が発生している場合は、呼吸不全を起こしている状態とされる90%以下にまで低下することがあります。
医療機関では、問診で睡眠時無呼吸症候群の疑いがあると判断した人には、まずは睡眠ポリグラフィ装置やパルスオキシメーターなどの機器を用いて、寝ている間の動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定します。
その結果、動脈血酸素飽和度(SpO2)の値が90%以下の状態が続いていたり、繰り返していたなら、精密検査を行います。
3.全身の低酸素状態が続くとどうなるか
睡眠中、無呼吸状態になって体内の酸素濃度が低くなると、心臓が酸素不足を補おうとして強い力で働くので、心拍数が増え、血圧が高くなります。
さらに、無呼吸のたびに目が覚めることにより、通常は日中に働く交感神経が活発になるため、夜間の血圧が高くなります。
このような状態を毎晩繰り返していると、少しずつ血管にダメージが蓄積し、硬くもろくなっていきます。
すると、心血管疾患のリスクが上昇し、高血圧、心筋梗塞、心不全、脳梗塞などの病気になる可能性が高くなります。最悪の場合、寝ている間に突然死することもあります。
また、低酸素状態が記憶力の低下や認知症を引き起こす要因となることが指摘されています。
【参考情報】『Sleep apnea worsens heart disease, yet often untreated』American Heart Association
https://newsroom.heart.org/news/sleep-apnea-worsens-heart-disease-yet-often-untreated
4.治療について
治療では、病気による酸素不足を防ぐため、寝ている間の呼吸をサポートする機器を用います。
代表的な機器はCPAP(シーパップ)ですが、患者さんの健康状態や生活環境によっては、ASVやマウスピースを用いることもあります。
また、肥満や鼻・のどの病気など、睡眠時無呼吸症候群を悪化させる要因があれば、そちらの改善や治療も必要です。
治療と生活習慣の改善により、睡眠中の無呼吸が改善すると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが健康な人と変わらない程度になります。
また、昼間の眠気や倦怠感、いびきも改善されるので、朝の目覚めがよくなり、仕事や勉強にも集中できるようになるでしょう。
5.おわりに
睡眠時無呼吸症候群による酸素不足は、生活の質を下げるだけでなく、大きな病気を引き起こす要因となります。大きないびきを家族から指摘されたり、気になる症状があったりする場合は放っておかずに呼吸器内科で相談しましょう。
バス・タクシー・鉄道などの事業者は、居眠り運転による事故などを防ぐため、運転をする従業員に対し、3年に1回程度睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査を行うよう国土交通省から要請されています。
検査で動脈血酸素飽和度(SpO2)の値が90%以下だと指摘されたら、すぐに病院を受診して治療を開始してください。重症度が高い人ほど、治療の効果をすぐに実感できることが多いです。