新型コロナにも影響?喫煙の重篤なリスク
世界的パンデミックを起こした「新型コロナウイルス感染症」において、喫煙者が重症化・死亡する危険性は非喫煙者の3倍以上であると報告されています。
【参考情報】『Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China』The New England Journal of Medicine
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2002032
世界保健機関(WHO)も、COVID-19対策として禁煙を強くすすめる声明を出しています。
「吸うと気持ちが落ち着く」
「唯一の楽しみだから」
「やめたらストレスが溜まって、逆に体に悪い」
このようなセリフに、心当たりのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
でも、そのタバコがあなたやあなたの大切な人の健康を確実にむしばんでいると知っても、あなたはタバコを吸い続けますか?
目次
1.タバコは「百害あって一利なし」
2017年の世界保健機関(WHO)の報告によると、タバコが原因で亡くなる人は世界中で年間約700万人にも上ります。
喫煙は病気のリスクを高めます。例えば、心筋梗塞などの循環器の病気で亡くなった人のうち、タバコが主な原因となって発症した人は約300万人とみなされています。
【参考情報】『World No Tobacco Day: Tobacco and Heart Disease』WHO
https://www.who.int/news/item/31-05-2018-world-no-tobacco-day-tobacco-and-heart-disease
また、WHOの推計によると、喫煙による医療費の負担や生産性の低下などの経済的な損失は、年間約155兆円にもなるとされています。
1-1.タバコがもたらす体への害
(1)吸う人にとっての害
タバコの煙には、なんと約200種類もの有害物質が含まれており、そのうちの約40種類が発がん物質です。
その中でも有害性が高いのが、ニコチンです。
(2)周りにいる人への害(受動喫煙)
タバコを吸わない人でも、知らないうちに「喫煙」していることがあります。
タバコを吸わない人が、吸っている人の煙を吸い込んでしまうことを、「受動喫煙」と言います。
タバコの先から出る煙(副流煙)には、吸っている人が直接吸い込む煙(主流煙)よりも高い濃度の有害物質が含まれています。
先に、タバコが原因で、世界中で年間約700万人が循環器の病気で亡くなっていると伝えましたが、そのうち約89万人は、受動喫煙が原因の非喫煙者と報告されています。
「自分はタバコを吸わないから関係ない」と思っていても、受動喫煙により、以下のような病気のリスクが高まります。
・喘息
・肺がん
・脳卒中
・心筋梗塞
妊婦さんが受動喫煙にさらされると、流産や早産の恐れもあります。
また、生まれてきた赤ちゃんが乳幼児突然死症候群になるリスクが高くなることを覚えていてください。
【参考情報】『乳幼児突然死症候群 / SIDS』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-035.html
1-2.喫煙習慣がまねく主な病気
ここでは、喫煙を続けることで発症する恐れのある具体的な病気の例を見ていきましょう。
1-2-1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、これまで「肺気腫」や「慢性気管支炎」と呼ばれてきた病気の総称です。
タバコの煙などの有害物質を長年吸ったことにより、肺に炎症が起きて機能が低下し、息切れや咳、痰が慢性化する病気です。
COPD患者の約9割が喫煙者であり、10年以上タバコを吸い続けている人や、1日に何十本もタバコを吸うヘビースモーカーは、さらにリスクが高くなると言われています。
また、自分がタバコを吸わない人でも、長年の受動喫煙によってCOPDを発症してしまうことがあります。
COPDになっても、はじめは咳や痰、息切れなどのごくありふれた症状しかないため、気づくのは難しいでしょう。
しかし、一度COPDにかかったら、肺が元の健康な状態に戻ることはありません。
COPDはタバコを吸えば吸うほど悪化していくため、肺の残りの機能を維持していくためには禁煙が不可欠です。
1-2-2.肺がん
日本人の10大死因のうち、喫煙に関する病気はがん・心臓病・脳卒中・肺炎などが挙げられますが、中でも急上昇しているのが「肺がん」です。
肺がんの症状は、咳、痰、血痰、胸痛、倦怠感、体重減少などさまざまです。しかし、初期では無症状であることが多く、検診などで偶然発見されたり、症状を感じた時にはすでに進行していたりすることがあります。
【参考情報】『がん種別統計情報 肺』がん情報サービス|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/12_lung.html
タバコを吸っていない人と比較すると、発症率は男性で4.4倍 女性で2.8倍と言われています。
さらに、肺がんの中でも喫煙と関係の深い扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんのリスクは、男性で11.7倍、女性で11.3倍と言われています。
【参考情報】『喫煙と肺がんリスク』がん対策研究所 予防関連プロジェクト|国立がん研究センター
https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/783.html
1-2-3.喘息
空気の通り道となる「気道」が炎症を起こして狭くなり、呼吸が苦しくなったり激しい咳や痰が出たりする病気です。最悪の場合、呼吸困難で死に至ることもあります。
原因はアレルギーやストレス、ウイルス感染などさまざまですが、タバコも一因となります。
現代医学で、喘息は完治が難しい病気です。服薬や自己管理を継続し、発作が起きないように上手につきあっていく必要があります。
2.タバコはどうしてやめられないのか
やめようと思えばいつでもやめられるだろう・・・と思って軽い気持ちで吸い始めたのに、いつの間にかタバコと離れられなくなってしまうのはなぜでしょうか。
タバコに依存する原因は、2つあります。
2-1.タバコ依存(心理的依存)
生活習慣(朝起きたらまず一服、食後はとりあえず一服)や、気分的なもの(イライラした時はとりあえず一服)など、タバコがあれば安心できるという気持ちにとらわれていると、止めるのが難しくなります。
2-2.ニコチン依存(身体的依存)
タバコを吸うと、ニコチンが数秒で脳に届き、ドーパミンという物質が放出されます。すると、強い快感(タバコがおいしい、ホッとするなど)が得られます。
その快感が忘れられず、またタバコが吸いたい衝動にかられて、一本、もう一本…という悪循環に陥ると、依存しやすくなります。
【参考情報】『ニコチン依存症』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-052.html
~タバコ依存度チェック~
まずはあなたの依存がどの程度かチェックしてみましょう。
<3点以下>・・・タバコ依存
ニコチン依存度はまだ低いです。今のうちに生活習慣を改善すれば、禁煙できる可能性があります。
<4~5点>・・・タバコ依存+ニコチン依存
ニコチン依存度は中程度です。今やめないと、どんどんニコチン依存度が増加します。今すぐ禁煙を始めることをおすすめします。
<6点以上>・・・ニコチン依存
ニコチン依存度が高いです。禁煙を成功させるには治療が必要かもしれません。
2-3.タバコをやめられない5つの言い訳
(1)ストレス解消になる
「仕事が忙しい」「疲れた」「イライラする」…そんな時に、タバコを吸うとホッと一息つけると感じるかもしれません。
しかし、吸い終わって30分~1時間くらいすると、体内のニコチンが切れて、またイライラしたり落ち着かなくなってきます。
ニコチンが切れてイライラするの解消するために、またニコチンを補充する…つまり、タバコを吸っている限り、ニコチン切れというストレスから、一生逃れることはできません。
実は、ストレス解消のためのタバコが、逆にストレスを生み出しているのです。
(2)たまにしか吸わないから大丈夫
「毎日吸っているわけじゃないから」「1日1、2本しか吸わないし」などと思っていませんか。
しかし、たまに吸うタバコだからこそおいしく感じ、肺の奥にまで深く吸いこんだり、根本まで吸ってしまったりするのです。
本数が少ないからといって、健康上のメリットはあまり期待できないと言っていいでしょう。むしろ余計にタバコから離れることが難しくなってしまいます。
(3)喫煙所はコミュニケーションの場だから
タバコを吸う人にとって、喫煙所は仲間とのコミュニケーションや情報交換の場になることもあるでしょう。
でも、本当に必要なら、喫煙所以外でもそのような機会は作れるはずです。
(4)タバコをやめると太る
タバコをやめると、胃腸の働きが改善して消化吸収能力が良くなるため、体重が増えることがあります。
しかし、多少の体重増加よりも、タバコがもたらす健康被害のほうが、はるかにリスクが高いです。
(5)手持ち無沙汰になるのがいや
長い間、喫煙が当たり前になっていると、無意識にタバコに手を伸ばすことも多いと思います。
そのクセを見直して、本やスマホなど、タバコに置き換えるものを見つけることで解決しましょう。
3.あなたがタバコを本気でやめたいのなら
タバコの影響について見てきましたが、ここからは禁煙する上で注意したい点と禁煙治療について見ていきましょう。
3-1.新型タバコはカラダに良いのか?
新型タバコとは、乾燥したタバコの葉やリキッドと呼ばれる液体を加熱して、その成分を吸うものです。
何となく、普通のタバコより害がないような印象があるかもしれませんが、さまざまなデメリットが報告されています。
また、新型タバコに切り替えても、喫煙の習慣をなくすのは難しいです。
3-2.「1本だけなら」に注意
せっかく禁煙が順調にもかかわらず、「1本だけなら大丈夫」と、吸ってしまいたい気持ちになることもあるでしょう。
しかし、思い出してみてください。
初めてタバコを吸ったときも、「1本だけなら」という、軽い気持ちで始めたのではないでしょうか。
「今までちゃんと禁煙できているんだから、久しぶりに1本くらい吸ったって大丈夫だろう」と吸ってしまったがために、あっという間に禁煙前の状態に引き戻されたという失敗例が本当に多いのです。
喫煙は連鎖反応ですから、今までの苦労を水の泡にしないようにしましょう。
3-3.本気でやめたいなら「禁煙外来」へ
自力でタバコをやめる自信のない方には、医療機関で禁煙治療を受けることをおすすめします。
ただし、保険適用での禁煙治療にはいくつかの規定がありますのでご注意ください。
・1年以内に保険適用の禁煙治療を受けていない
・ニコチン依存症のスクリーニングテスト(質問表)で5項目以上あてはまる
・35歳以上の方で、1日の平均喫煙本数×喫煙年数が200以上
・直ちに禁煙を始めたいという意志がある
・禁煙治療受診に関する文書に同意している
3-3-1.治療のメインは薬物療法
保険適用の禁煙補助薬には、貼り薬の「ニコチンパッチ」と、内服薬の「チャンピックス」があります。
「ニコチンパッチ」は、ニコチンを含んだ貼り薬です。
1日1回、腕やお腹、背中などに貼ります。ニコチン量の多いタイプから始めて、だんだんと少ないものに減らしていきます。
長所は、人に気付かれにくいことや、いつでも使用できることです。
短所は、皮膚が弱い人はかぶれてしまう恐れがあることですが、毎日同じ場所に貼らず、貼る場所を変えると、かぶれにくくなります。
「チャンピックス」は、ニコチンを含まない飲み薬です。最初は1日1回を3日間、その後1日2回、食後に飲みます。
長所は、飲むだけなので服薬が簡単であることと、ニコチンが含まれていないことです。
短所は、眠くなる作用があるので車の運転や注意の必要な機械の操作を避けなければいけないことです。
※ドラッグストアなどで買える薬について
「ニコチンガム」はニコチンを含んだガムで、噛むと口の粘膜からニコチンが吸収されます。禁煙し始めてタバコを吸いたくなったら、ニコチンガムを噛みます。
通常のガムとは噛み方が違うので、使用方法をよく理解してから使いましょう。また、1回の使用量は必ず1個にしてください。
ニコチンパッチは、ドラッグストアなどでも購入することができます。しかし、医療機関で処方するものよりニコチンの用量が少ないものになります。
3-3-2.禁煙治療の流れ
当院で行なっている禁煙治療は、治療開始日を含んだ月から12週間の間に、約2週置きに5回通院し、薬物療法と併せて禁煙に対する疑問や不安などをカウンセリングしながら進めていきます。
禁煙治療で一番大切なことは、自分の判断で治療を途中でやめてしまわないことです。
おわりに
タバコは確実にあなたの体に害を及ぼします。どうか、一日でも早くタバコをやめることをおすすめします。
長年吸っていたとしても、いまさら禁煙しても遅いということは、決してありません。病気のリスクを減らすため、今からでもチャレンジしてください。