睡眠時無呼吸症候群の治療で耳鳴りやめまいが改善?メニエール病との関連とは
睡眠時無呼吸症候群とメニエール病を合併している患者さんは珍しくありませんが、メニエール病の症状である耳鳴りやめまいに対して、睡眠時無呼吸症候群の治療が有効な場合があります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群とメニエール病の関連性や、二つの病気の患者さんに共通する生活習慣について解説します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とメニエール病の関係
近年の研究で、睡眠時無呼吸症候群とメニエール病の関連性が報告されています。
1−1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは、就寝中に空気の通り道である気道が狭くなることで、呼吸が止まったり浅くなることを繰り返す病気です。
この病気になると、睡眠の質が低下して、いびきや寝汗、寝相の悪さ、起床時のむくみ、日中の眠気や倦怠感などの症状が現れます。
また、就寝中に体内の低酸素状態が続くため、高血圧や心筋梗塞など心血管系の病気になるリスクが高まります。
肥満のある人が発症するというイメージが強いかもしれませんが、痩せている人も発症する可能性があります。
原因は肥満のほかに、顎が小さい人、扁桃腺や舌が大きい人、飲酒、喫煙、就寝時の姿勢、睡眠薬の服用も原因となる病気です。
日中の眠気で日常生活に支障が出ることもあり、居眠り運転による交通事故を起こす例も報告されています。普段から運転する方は特に注意が必要です。
検査を行い、睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、就寝中に専用マスクを装着し空気を鼻から送り込むCPAP療法や、マウスピース、マスク式の人工呼吸器を使ったASV療法などで治療を行います。
1−2.メニエール病とは
メニエール病とは、めまいを伴う耳鳴りや難聴などが現れる病気で、内リンパ水腫が原因で発症します。
ボーっと低い耳鳴りが聞こえ、めまいを感じます。
メニエール病のめまいの特徴は、「回転性めまい」で自身や周りが動いたり、回転したりしているような感覚があります。めまいによる、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
そして、「キーン」「ジー」といった耳障りな音が常に聞こえたり、耳がふさがれるような圧迫感を感じるため、 日常生活に支障をきたします。
メニエール病の患者さんが、なぜ内リンパ水腫を起こすのかは、はっきりとはわかっていませんが、いびきや睡眠無呼吸症候群により、体がむくみやすくなり、内耳のリンパの流れが悪くなり発症するのではないかと言われています。他にもストレスや睡眠不足、気圧の変化などが原因ではないかと考えられています。
何度も繰り返し症状があると、聴力低下のリスクもあるため注意が必要です。
治療には、浸透圧利尿薬やステロイド薬、抗めまい薬などを用いますが、症状が改善しない場合には、中耳圧加圧装置という医療機器を使った治療や、過剰に溜まった内リンパを排泄するための内リンパ嚢解放術を行うことがあります。
【参考情報】『メニエール病』日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=24#menieru
1−3.二つの病気の関連性
メニエール病の患者さんは、止まらない耳鳴りやめまいのため不眠になったりうつ症状を起こして、睡眠薬や精神安定剤を服用することがあります。
睡眠薬や精神安定剤には、筋肉をゆるめる作用があります。そのため、睡眠中に舌やあごの筋肉がゆるんで気道が狭くなり 、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす可能性があるのです。
メニエール病の患者さんの睡眠状況に関する調査によれば、1〜2割の患者さんに睡眠時無呼吸症候群の併発が確認されていますが、 自覚症状がない人も多いようです。
【参考情報】『睡眠障害が内耳に及ぼす影響』中山明峰
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/igak.dir/P115-121_nakayama.pdf
また、メニエール病は末梢性の前庭機能障害ですが、睡眠時無呼吸症候群による酸素の欠乏でも、前庭機能障害が引き起こされる可能性が示唆されています。
これは、先ほど睡眠時無呼吸症候群の症状の一つとして「起床時のむくみ」があるとお伝えしましたが、この病気に伴ういびきによって身体がむくみやすくなり、聴覚や平衡感覚をつかさどる内耳のリンパの流れが悪くなることでめまいや耳鳴りといったメニエール病の症状が発生するということに関連します。
【参考情報】『Obstructive sleep apnoea syndrome (OSAS): effects on the vestibular system』NCBI
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3146317/
2.睡眠時無呼吸症候群とメニエール病の共通点
睡眠時無呼吸症候群とメニエール病の患者さんには、生活習慣や健康状態において、下記のような共通点があります。
2−1.睡眠障害がある
睡眠時無呼吸症候群の患者さんのほとんどが、不眠や眠気などの症状を訴えています。
また、メニエール病の患者さんも、耳鳴りがひどくて眠れないなどの睡眠障害に悩まされています。
睡眠障害は、両方の病気の患者さんに共通した症状だと言えるでしょう。
◆「昼間の眠気が耐えられないなら、睡眠時無呼吸症候群を疑いましょう」>>
2−2.飲酒や喫煙で症状が悪化する
睡眠時無呼吸症候群は、アルコールの摂取によって筋肉がゆるむことや、喫煙によって喉に慢性的な炎症が起こることによって、症状が悪化する可能性があります。
メニエール病も同様に、飲酒や喫煙がめまいを誘発する恐れがあるため、アルコールやタバコは控えた方がよいとされています。
2−3.過労やストレスによる影響を受けやすい
過労になると、就寝中に喉の筋肉がゆるみ、気道がふさがりやすくなるため、睡眠時無呼吸症候群を発症しやすくなります。
また、メニエール病も、過労やストレスがきっかけとなり、めまいや耳鳴りが起こると言われています。
どちらの病気も身体的・精神的ストレスによって病気が引き起こされたり、症状が悪化する可能性があるのです。
2−4.うつ病との関連がある
睡眠時無呼吸症候群もメニエール病も、うつ病との関連が深い病気です。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、睡眠の質が低下することにより、うつ病や不安障害などの精神疾患を発症しやすくなります。
メニエール病の患者さんも、耳鳴りやめまいなどの症状が長期間続くことによって、うつ病や神経症性障害などを発症することがあります。
特に、両耳にメニエール病を発症した場合には、半数以上の患者さんがうつ病や神経性障害を合併すると言われています。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)と精神疾患ーSASとうつ病の関係ー』第103回 日本精神神経学会総会シンポジウム
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100020094.pdf
『睡眠時無呼吸症候群とうつ病~両者の関連性を検討する~』行動医学研究 vol.23no.2(2018)P.58〜62
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbm/23/2/23_58/_pdf/-char/ja
『メニエール病の診断と治療―メニエール病の治療―』第119回 日本耳鼻咽喉科学会総会教育セミナー
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/121/8/121_1056/_pdf/-char/ja
3.おわりに
メニエール病と睡眠時無呼吸症候群を併発している患者さんに対して、CPAPの使用や体重の減量など、睡眠時無呼吸症候群に対する治療を行なった結果、耳鳴りやめまいなどの症状が改善したという事例があります。
『睡眠障害が内耳に及ぼす影響』第157回 名古屋市立大学医学会例会 特別講演Ⅲ(2013)
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/igak.dir/P115-121_nakayama.pdf
「耳鳴りやめまいの治療を受けているが、なかなか改善しない」「メニエール病の症状に加えて、日中の眠気や倦怠感などがある」という方は、一度呼吸器内科の専門医にご相談ください。