睡眠時無呼吸症候群の治療で夜尿症が改善?2つの病気の関連性について解説
睡眠時無呼吸症候群の患者さんのなかには、夜間の頻尿や夜尿に悩まされている人がいます。排尿に関するトラブルは周囲の人に相談しにくく、ひそかに苦しんでいる人もいるでしょう。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群と夜尿症の関連や、治療によって夜尿症が改善する可能性について解説します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。肥満体型の人や、あごが小さい人に多くみられます。
この病気になると、寝ている間に大きないびきをかいたり、寝相が悪くなって寝汗が増えることがあります。また、何度もトイレにいきたくなって目が覚めてしまう人もいます。
起床時の疲れや頭痛、眠気で日中の仕事や勉強に集中できないということがある人は、この病気の可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放っておくと、高血圧や糖尿病、脳梗塞などのリスクが高まることがわかっています。
また、この病気による居眠り運転での交通事故も報告されています。
治療は、睡眠中の呼吸をサポートする装置を使って行います。中でも代表的なものがCPAPです。ほかにも、患者さんの体調に応じて、マウスピースやASVと呼ばれる器具を使った治療も検討されます。
2.夜尿症とは
夜尿とは、いわゆる「おねしょ」のことで、睡眠中に無意識におしっこが出る症状です。5歳以上の方で、1ヶ月に1回以上の夜尿が3ヶ月以上続くと、夜尿症と診断されます。
子どもの夜尿は成長につれ減少する傾向にありますが、7歳以上でも約10%には夜尿症がみられ、大人になっても続いている人もいます。
治療としては、寝る前にトイレに行くことや夜間の水分摂取制限といった生活指導や行動療法を行い、効果があまり見られない場合、抗利尿ホルモン剤の投薬や夜尿アラーム療法といった治療が行われます。
3.夜尿症の原因
夜尿症の原因には、病気や加齢、生活習慣などがあります。
3−1.病気とその治療に関連したもの
夜尿症の原因となる病気のひとつに、過活動膀胱があります。過活動膀胱とは、何らかの原因で膀胱に尿をためておけず、頻尿や尿失禁などを引き起こす病気です。
【参考情報】『過活動膀胱』日本臨床内科医会
https://www.japha.jp/doc/byoki/039.pdf
過活動膀胱は、脳梗塞やパーキンソン病などの脳神経系の病気や、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症といった脊髄の病気、末梢神経障害を起こす糖尿病などで引き起こされることがあります。
◆「糖尿病」について詳しく>>
◆「睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の関係について」>>
高血圧や腎臓の機能障害で、夜間の尿量が増えることも夜尿症の原因となります。また、高血圧や狭心症の治療薬であるカルシウム拮抗薬を服用していると、夜間の頻尿が起こりやすくなることがあります。
3−2.加齢によるもの
男性は、加齢によって肥大した前立腺が膀胱や尿道を圧迫することで、夜尿症が引き起こされることがあります。
女性は、子宮を支える骨盤底筋が緩んで子宮の位置が下がり、膀胱を圧迫することが夜尿症の原因となることがあります。
3−3.生活習慣に関連したもの
「塩分の多い食事をしている」「寝る前に水分をたくさんとる」人は、これらの生活習慣が夜尿症の原因となる可能性があります。
【参考情報】『Effect of salt intake reduction on nocturia in patients with excessive salt intake』Tomohiro Matsuo, Yasuyoshi Miyata, Hideki Sakai
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192051/201911081A_upload/201911081A202008201456143740029.pdf
ほかにも、緊張やストレスから必要以上に水分を摂取してしまう心因性多尿など、夜尿症の原因は多岐にわたります。
4.睡眠時無呼吸症候群と夜尿症との関連
ところで、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、なぜ夜間の頻尿や夜尿を起こしやすいのでしょうか。ここでは、2つの理由を解説します。
4−1.交感神経が優位になりやすい
睡眠中は体を休めるため、通常は副交感神経が優位になります。しかし、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、無呼吸や低呼吸によるに低酸素状態が続くことにより、交感神経が優位となります。
交感神経が優位になると、膀胱の容量が減少するため頻尿になります。また、酸素不足で脳に十分な酸素が届かなくなるため、尿意があっても目が覚めにくくなり、夜尿につながる可能性があるのです。
4−2.利尿ホルモンが分泌される
睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりすると、心臓や肺などの臓器が位置する胸腔内の圧が低下して、心臓に大きな負荷がかかります。これにより、心臓の働きを保つために、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)というホルモンが分泌されます。
ANPは強い利尿作用をもつホルモンであるため、本来であれば夜間減少するはずの尿量が増加してしまい、夜尿の原因となることがあります。
ANPについて調べた研究によると、健康な人は覚醒時と睡眠時のANPの量に大きな差がないものの、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、睡眠時のANPの量が覚醒時よりも有意に増加することがわかっています。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群における心房性Na利尿ペプチド(ANP)の動態』日本胸部疾患学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs1963/27/Supplement/27_Supplement_324/_pdf
5.睡眠時無呼吸症候群の治療で夜尿症が改善する可能性
睡眠時無呼吸症候群になると、自律神経の働きが乱れたりホルモンバランスが崩れたりすることによって、夜尿症が引き起こされる恐れがあります。
しかし、治療によって夜間の呼吸状態が改善されると、自律神経の乱れやホルモンバランスも改善され、夜尿もなくなることが期待できます。
【参考情報】『夜尿症を合併した成人の閉塞型睡眠時無呼吸症候群例』耳鼻臨床 100:12;1001~1007, 2007
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/100/12/100_12_1001/_pdf
睡眠時無呼吸症候群の治療に用いる医療機器・CPAPによって、夜間の頻尿や切迫した尿意が改善したという研究もあります。
【参考情報】『夜間頻尿は睡眠時無呼吸症候群の治療で改善するのか(第95回日本泌尿器科学会総会)』日本泌尿器科学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol/98/2/98_KJ00004613972/_pdf/-char/ja
夜間の頻尿や夜尿とともに、「いびきがひどいと言われたことがある」「日中の眠気や倦怠感が強い」といった症状がある場合は、一人で悩まず医師に相談してみましょう。
5.おわりに
夜尿の原因はさまざまですが、睡眠時無呼吸症候群により、寝ている間の呼吸に問題が生じているため、引き起こされることがあります。
「毎晩のように激しいいびきが出る」など、睡眠時無呼吸症候群のサインが認められる場合は、呼吸器内科を受診して、一度検査を受けてみましょう。