睡眠時無呼吸症候群の危険性とは?放っておくとどうなるのか
睡眠時無呼吸症候群は、いびきや寝不足だけが問題となる病気ではありません。
放っておくと、命にかかわる病気が引き起こされたり、イライラや集中力の低下により、仕事や生活に重大な支障が出てくる恐れもあります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放っておいた場合に起こりうる、さまざまな危険性について解説します。
1.睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が止まったり浅くなることを繰り返す病気です。
以下のような症状が続いている方は、この病気の疑いがあります。
・激しいいびき
・夜中に何度も目が覚める
・夜間に何度もトイレに行く
・寝汗が多い
・起床時の頭痛
・昼間の眠気
呼吸が止まるたびに、患者さんは無意識でも一瞬目が覚めているので、そのたびに睡眠が妨げられ、熟睡できなくなります。
そして、睡眠が妨げられることが続くと、心身にさまざまな悪影響が及びます。
注意したい5つのリスク
以下、睡眠時無呼吸症候群がもたらす危険について紹介します。
2-1.心血管疾患
毎晩のように無呼吸や低呼吸を繰り返していると、体内に酸素が十分に取り込めなくなるので、その分、心臓が過剰に働いて不足分を補おうとします。そのため、心臓や血管に負担がかかります。
さらに、呼吸が止まるたびに目が覚めてしまうことで、自律神経の働きが乱れます。すると、本来なら昼間に活発になる交感神経が刺激され、血圧が上がります。
このような負担が蓄積していくと、血管がだんだんもろくなり、狭くなっていきます。その結果、心筋梗塞や脳卒中になるリスクが高くなります。
心臓や血管にダメージを受けても、軽症のうちはなかなか症状が自覚できません。そのため、知らないうちに病気が進行して、突然、死に至ることもあります。
【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患』日本内科学会雑誌 第109巻 第6号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/6/109_1089/_pdf/-char/ja
2-2.生活習慣病
睡眠の質が大幅に低下すると、自律神経が影響を受け、ホルモンの分泌が乱れます。
睡眠時間が短いと、食欲を抑える「レプチン」というホルモンが減少し、反対に食欲を増進させる「グレリン」というホルモンが増加します。そのため、食べ過ぎで太りやすくなります。
そして、肥満になると、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンの働きが悪くなり、血糖値が高くなります。そのため、糖尿病を発症しやすくなります。
既に糖尿病になっている人は、症状がさらに悪化します。また、糖尿病になると、脂質異常症(高脂血症)や高血圧になるリスクも上がります。
特に肥満のある方は、睡眠時無呼吸症候群と生活習慣病の合併を防ぐため、食事や生活を見直す必要があります。
【参考情報】『睡眠と生活習慣病との深い関係』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html
2-3.仕事や学習への影響
無呼吸や低呼吸により、毎晩のように睡眠が妨げられると、熟睡できなかったり、起きた後になかなか寝付けなかったりして、睡眠の質が大幅に下がります。
その影響で、日中に眠くなってしまうと、仕事や学習に集中できず、普段ならあり得ないミスをしてしまうことがあります。
特に恐ろしいのが、居眠り運転や労災で命を落とすことや、他人に危害を加えてしまうことです。
昼間の眠気に悩まされている人は、過労や加齢のせいだと決めつけず、睡眠時無呼吸症候群にかかっている可能性も考えてみてください。
2-4.精神疾患との関係
睡眠時無呼吸症候群になると、うつ病のリスクも高くなることが報告されています。
【参考情報】『Depression, Obstructive Sleep Apnea and Psychosocial Health』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5836734/
また、うつ病と診断された人が、実はうつ病ではなく、睡眠時無呼吸症候群のため、似たような症状に悩まされていることもあります。
睡眠不足が続くと、イライラしやすくなったり、好きなことに興味がなくなるなど、うつ病のような状態に陥ることがあります。
そのような場合、睡眠時無呼吸症候群の治療によって熟睡できるようになると、症状が改善することもあります。
精神疾患のある人は、睡眠薬を利用することも多いのですが、薬の種類によっては、さらに睡眠時無呼吸症候群の症状が悪化する恐れもあります。
2-5.生存率について
睡眠時無呼吸症候群の患者さんを調べた研究では、重症でも治療せずにいた人の8年後の生存率は、約63%であったと報告されています。
また、口蓋垂咽頭形成術(UPPP)の手術のみで治療を受けた患者さんの生存率も、重症の患者さんとほとんど変わらなかったこと、そして、CPAPを使って治療した患者さんで死亡した人はいなかったことも報告されています。
無呼吸そのものが原因で死亡することはまずありませんが、心血管疾患による突然死や、生活習慣病が引き金となって健康を損なう可能性は大いにあります。
しかし、診断を受け、適切な治療を受ければ、健康な人と変わらない程度まで生存率は上がります。
【参考情報】『Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea. Experience in 385 male patients』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3289839/
3.検査と治療
気になる症状がある人は、まずは病院を受診して専門医に相談しましょう。病院では問診を行い、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあれば、検査へと進みます。
検査には、簡易検査と精密検査があります。検査により診断がつけば、CPAPをはじめとした医療機器を用いて治療を開始します。
4.おわりに
いびきや昼間の眠気があっても、病気のせいだと気づくのは難しいかもしれません。
しかし、一見なんでもない症状の裏で、命にかかわる事態が進行していくのが、睡眠時無呼吸症候群という病気の油断ならない点です。
家族やパートナー、友人などから、いびきや無呼吸を指摘されたら、嫌がらずに真摯に受け止め、一度病院を受診してください。
早くに気づいて治療を開始すれば、病気のリスクが下がり、睡眠の質も上がって目覚めがよくなります。