ブログカテゴリ
外来

百日咳とはどんな病気?感染しない・広げないためにすべきこと

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年11月14日

咳や鼻水など、風邪のような症状から始まる百日咳。

予防接種で防ぐことができる病気ですが、ワクチンを接種していてもかかることはあります。また、ワクチンの効果が切れてしまった大人も感染します。

特に乳幼児は、重症化することもあるため注意が必要な病気です。

この記事では、百日咳とはどんな病気なのかを説明し、症状や予防方法についてもお伝えします。

1.百日咳とはどんな病気か


百日咳とは、百日咳菌に感染して発症する急性の呼吸器感染症です。咳が治まるまで、約100日間と長い時間がかかることから、百日咳と呼ばれています。

感染経路は、感染している人の咳などのしぶきから感染する「飛沫感染」と、感染している人の咳などで汚染されたものに触れる「接触感染」です。

患者の多くは乳幼児で、1歳以下の乳児が感染すると重症化することもあります。重症化により肺炎や脳症を合併するなど、命にかかわることもあります。

感染力はかなり強く、百日咳に対する免疫を持っていない集団の中に1人の感染者がいた場合、16~21人に感染させてしまうと言われています。

インフルエンザは2~3人、水痘は8~10人、おたふくかぜ(ムンプス)は11~14人ですから、百日咳の感染力の強さがうかがえます。

百日咳は、予防接種で感染を防ぐことができます。しかし、予防接種は子どもの頃に行うため、大人になると効果が弱まります。

【参考情報】『代表的な感染症の基本再生産数|細菌学総論 6 感染制御』大阪市立大学大学院医学研究科
https://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/b-online/btext/doc/bactext0B006.pdf

◆「インフルエンザの症状」について>>

百日咳は、ワクチンの普及によって感染者数は減少しているものの、世界中で流行が発生しており、日本でも1年を通して発生がみられます。
感染症法における取り扱いでは、2018年から「適切な検査診断で百日咳と診断された症例は年齢を問わず全数把握疾患として報告する」という改正が施行されました。

【参考情報】『発生動向調査別一覧(全数把握)』国立感染症研究所
https://www.med.osaka-cu.ac.jp/bacteriology/b-online/btext/doc/bactext0B006.pdf

2.百日咳の症状


感染後、5~10日の潜伏期間を経て、症状が出現してきます。

症状は、「カタル期」「痙咳期(けいがいき)」「回復期」を経て、変化していきます。

初期のカタル期には、軽い咳や鼻水、くしゃみなどが現れます。症状が進むにつれて、咳はひどくなっていきます。

この時期は、風邪とほとんど症状が変わらないため診断が難しいのですが、最も感染力が強いのがカタル期です。

痙咳期は、カタル期よりも咳が強く、特徴的な咳が出ます。コンコンと激しい咳(スタッカート)が続いた後、ヒューっと息を吸い込む音(フーピング)を繰り返します。

【参考情報】『Clinical Features of Pertussis|Whooping Cough (Pertussis)』CDC
https://www.cdc.gov/pertussis/hcp/clinical-signs/index.html

百日咳の咳はとても激しいので、息ができずに顔が真っ赤になることがあります。また、咳き込みが続くと吐いてしまうこともあります。

乳児の場合、突然息が止まってしまうこともあるので、保護者の方は咳や呼吸状態を注意深く観察してください。

一方、大人は百日咳の特徴的な症状が出ないことも多いです。そのため、病気に気づかず感染を拡大させてしまうことも少なくありません。

回復期は、徐々に咳が治まってきます。しかし、子どもの場合、咳が治まったからといって、すぐに学校に登校はできません。登校には、医師の診断書が必要となります。

◆「風邪の基本情報」について>>

◆「風邪が治らないときに疑われる病気」について>>

【参考情報】『百日咳』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-23.html

3.検査と治療


感染力の強い病気のため、迅速な検査と治療が重要です。

以下、百日咳の検査と治療について説明します。

3-1.検査

血清抗体検査、LAMP法、イムノクロマト法があります。

血清抗体検査は採血を行い、血中にある抗体を調べる検査です。

LAMP法は、遺伝子検査です。鼻や咽頭から検体を採取し、標的である遺伝子だけを増殖させます。そのため、偽陰性が出にくく短時間で結果が出ます。

イムノクロマト法は、検査キットに採取した検体を滴下させ、陽性であれば免疫反応によって色をつける検査法です。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などでも使われています。

3-2.治療

百日咳には、マクロライド系と呼ばれる抗菌薬が効きます。

代表的な薬剤は、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンです。

抗菌薬を内服すれば、数日後には百日咳菌を周囲にうつすことはなくなります。

また、熱などは薬で治まりますが、咳は落ち着くまで時間がかかります。

4.予防について


予防接種を受けると、百日咳にかかるリスクを80~85%程度減らせます。

予防接種は、生後2ヶ月から接種可能となっています。以前は生後3ヶ月からの接種でしたが、2023年4月より変更となりました。

0歳児のうちに、百日咳、破傷風、ジフテリア、ポリオの4つの病気を防ぐ四種混合ワクチンを接種し、1歳で追加接種を行います。

定期接種は上記のスケジュールとなりますが、5~7歳の時と、11~12歳の時の2回、三種混合ワクチン(百日咳、破傷風、ジフテリア)を接種しておくと、予防効果が高まります。

※2024年4月からは、4種混合ワクチンにHib(ヒブ)ワクチンをくわえた5種混合ワクチンの定期接種が開始となりました。

【参考情報】『五種混合(四種混合)予防接種について』横浜市
https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/yobosesshu/yobosesshu/yonsyukongou.html

大人は感染しても、軽症で済むこともありますが、子どもが感染すれば、重症化するリスクが高い病気です。

子どもへの感染を防ぐために、周りの大人が手洗いやうがい、マスクなどの基本的な感染対策もしっかりと行いましょう。

◆「咳エチケットをいまいちど見直そう!」>>

5.百日咳と似た症状のある病気

激しい咳が出る病気は、百日咳だけではありません。

以下、似た症状が現れる病気を紹介します。

5-1.喘息

空気の通り道である気道の慢性的な炎症により、咳や喘鳴(ぜんめい:ゼーゼーという呼吸音)、息苦しさが引き起こされる病気です。

ダニなどのアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)のほか、ホコリや煙、冷たい空気などさまざまな刺激に反応し、激しく咳き込みます。

治療には、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬を用います。

◆「小児喘息」について>>

5-2.咳喘息

喘息と似ていますが、喘鳴や息苦しさはなく、咳だけが長期間続く病気です。

原因ははっきりとわかっていませんが、アレルギー体質の人がなりやすいと言われています。

喘息治療に用いる吸入ステロイド薬や気管支拡張薬を使用すると、咳が落ち着いてきます。

◆「咳喘息」について>>

5-3.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマという特殊な細菌の感染によって起こる病気です。

発熱やだるさなどの症状が現れた後、痰が少ない乾いた咳が出ます。咳はだんだん激しくなり、1ヶ月程度続きます。

◆風邪と間違いやすい「マイコプラズマ肺炎」とは?>>

5-4.喘息性気管支炎


小さいお子さんは、気管支炎になると、まるで喘息のような症状が現れることがあります。

症状は同じに見えても、原因はまったく違うので、治療法も異なります。

◆「喘息性気管支炎」について>>

6.おわりに

咳の原因が百日咳だった場合、放っておくと周囲に感染が広がってしまいます。

風邪だと思っていても、次第に咳が激しくなったり、長引いている時は、呼吸器内科を受診して咳の原因を調べましょう。

呼吸器内科が近くになければ一般の内科、子どもは小児科を受診しても構いません。

早めの受診が、感染拡大を防ぐことにつながります。

◆横浜市で呼吸器内科をお探しなら>>

電話番号のご案内
電話番号のご案内
横浜市南区六ツ川1-81 FHCビル2階