睡眠時無呼吸症候群はEDの危険因子!リスクを減らす治療とは?
ED(インポテンツ、勃起不全)はデリケートな問題なので、誰にも相談できずに悩んでいたり、病院への受診を躊躇している人も多いのではないでしょうか。
原因は、加齢やストレスなどさまざまですが、睡眠時無呼吸症候群という病気が引き金となり、発症することもあります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群とEDの関係や原因について解説します。「眠りが浅い」「いびきがひどい」など、睡眠の質量に問題を抱えている人は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が止まったり浅い呼吸になることを、毎晩のように繰り返す病気です。
この病気の原因は、大きく分けて「閉塞性」と「中枢性」がありますが、患者のほとんどは閉塞性です。
閉塞性は、何らかの原因によって、空気の通り道である気道が狭くなってしまうことで起こります。気道が狭くなる主な原因は、肥満です。
中枢性は、心臓や神経の病気によって、呼吸の指令が脳にうまく伝わらないことで起こります。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状は、激しいいびきです。あまりにも激しいいびきが続くため、家族から指摘されることも少なくありません。
また、呼吸が止まるたびに、無意識のうちに覚醒してしまうため、熟睡感が得られなかったり、日中の眠気に悩まされることがあります。
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放っておくと、さまざまな合併症が現れることがあります。
例えば、睡眠の質が低下すると、血糖を下げるインスリンというホルモンの働きが悪くなるため、糖尿病を発症することがあります。
また、呼吸が止まるたびに交感神経の働きが活発になり、夜間の血圧が上昇します。
たちの悪いことに、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、降圧剤ではなかなかよくならない「治療抵抗性高血圧」を合併しやすいという特徴があります。
その他、集中力の低下や倦怠感により仕事のパフォーマンスが落ちたり、抑うつや不安などの精神的な症状が続くことがあります。
2.EDとはどのような状態なのか
EDとは、勃起が不十分であることや、勃起を維持できないことで、満足な性行為ができない状態です。
【参考情報】『ED診療ガイドライン第3版』日本性機能学会/日本泌尿器科学会
https://www.jssm.info/guideline/files/EDguideine03_s.pdf
原因は大きく、「器質性」「心因性」「混合性」の3つに分けられます。
・器質性:神経の損傷や血流障害など、身体的な問題が原因
・心因性:性交に対するプレッシャーなど、心理的な問題が原因
・混合性:器質性と心因性、両方の原因が重なっている
多くの患者は、原因が複数ある混合性だと言われています。また、薬剤の副作用としてEDが生じる場合もあります。
治療には、「バイアグラ」「レビトラ」「シアリス」の3種類の薬剤を用います。併せて、生活習慣の改善により、心身を整えていくことも大切です。
【参考情報】『勃起力(ぼっきりょく)が低下した』日本泌尿器科学会
https://www.urol.or.jp/public/symptom/15.html
3.なぜ睡眠時無呼吸症候群だとEDのリスクが高まるのか
睡眠時無呼吸症候群になると、以下のような理由でEDを合併する率が高くなります。
3-1.テストステロンの低下
テストステロンとは、男性らしい骨格を作ったり、性欲を向上させる働きがある、重要なホルモンのひとつです。
テストステロンは、眠り始めると分泌され、眠りがグッと深くなる時に分泌量が多くなります。
睡眠時無呼吸症候群の人は、呼吸が中断されるために深く眠ることができず、睡眠の質が低下します。その結果、夜間にテストステロンの分泌が十分にできなくなります。
また、睡眠不足になると、さまざまなホルモンをコントロールする司令塔である下垂体の働きも低下します。
ホルモンのコントロールが上手くいかないことでも、テストステロンの分泌量が低下するため、EDのリスクが高まります。
【参考情報】『Obstructive Sleep Apnea and Testosterone Deficiency』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6305865/
3-2.自律神経の乱れ
自律神経には、心身の働きを活発にする交感神経と、リラックスさせる副交感神経があります。この2つの神経の働きにより、呼吸や血圧、体温などがコントロールされ、維持されています。
勃起はリラックスした状態で起こるため、副交感神経の働きが重要になるのですが、睡眠時無呼吸症候群により夜間の睡眠が妨げられると、本来は日中に活発になる交感神経が優位となります。
交感神経が優位になると、心身の緊張が高まり、勃起しにくくなります。また、陰茎に流れる血流量にも影響が及ぶことが分かっています。
【参考情報】『The Central Mechanisms of Sexual Function』Boston University Medical Campus
https://www.bumc.bu.edu/sexualmedicine/publications/the-central-mechanisms-of-sexual-function/
3-3.合併症
睡眠時無呼吸症候群による合併症である糖尿病や高血圧にも、EDのリスクがあります。
糖尿病による血糖コントロール不良によって自律神経が乱れると、神経伝達が上手くできなくなります。すると、性的刺激や興奮が伝わりにくくなってしまい、勃起しにくくなります。
【参考情報】『Erectile dysfunction and diabetes: Take control today』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/erectile-dysfunction/in-depth/erectile-dysfunction/art-20043927
また、高血糖や高血圧が続くと、血管が硬くなり、弾力が失われ、動脈硬化が進んでいきます。陰茎動脈は非常に細い血管なので、ダメージを受けやすく、動脈硬化により血流が低下すると勃起できなくなります。
【参考情報】『How to treat high blood pressure without ruining your sex life』European Society of Cardiology
https://www.escardio.org/The-ESC/Press-Office/Press-releases/how-to-treat-high-blood-pressure-without-ruining-your-sex-life
ちなみに、高血圧で服用する降圧剤によっても、EDが悪化する可能性があります。EDの人が降圧剤を処方してもらう際は、影響の少ない薬剤が使えないかどうか、医師に相談してください。
4.睡眠時無呼吸症候群の治療でEDのリスクは減らせるのか
ある報告によると、睡眠時無呼吸症候群の患者がEDを発症している割合は64.5%におよび、重症の睡眠時無呼吸症候群だった場合は73.0%とEDを発症する人が多くなります。
【参考情報】『Prevalence and Characteristics of Erectile Dysfunction in Obstructive Sleep Apnea Patients』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8896119/
しかし、睡眠時無呼吸症候群の治療により睡眠の質が上がると、EDのリスクは軽減します。
治療には、主にCPAP(シーパップ)と呼ばれる自宅で使用できる医療機器を用い、眠っている間の無呼吸や低呼吸を防ぎます。
以下の研究では、睡眠時無呼吸症候群の重症患者が、長期間CPAPを使用することでEDが改善したと報告されています。
【参考情報】『CPAP therapy improves erectile function in patients with severe obstructive sleep apnea』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29773460/
5.おわりに
いびきや昼間の眠気が激しい人は、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあります。
睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、EDのリスクが高まります。また、合併症である糖尿病や高血圧から、EDの発症につながってしまうこともあります。
睡眠時無呼吸症候群の症状が疑われる場合は、病院を受診して検査を受けましょう。適切な治療を行えば、睡眠の質量が上がってEDのリスクが下がり、健康的な生活が維持できます。