脂質異常症とはどんな病気?改善のためにできること
脂質は、炭水化物(糖質)やたんぱく質と並ぶ三大栄養素のひとつです。細胞の構成や内臓の保護、そしてエネルギー源として重要な役割を果たしています。
しかし、脂質が何らかの原因で増えすぎたり減りすぎたりする「脂質異常症」になると、体に良くない影響が及ぶことがあります。
この記事では、脂質や脂質異常症について説明します。健康診断などで脂質異常症と指摘された人は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.脂質異常症とはどのような病気か
脂質異常症とは、血液中の脂質が基準値より多すぎたり少なすぎたりする状態のことです。
1-1.血中脂質の役割
血液中に含まれる脂質のことを、血中脂質といいます。主な血中脂質には、コレステロール、トリグリセド(中性脂肪)、リン脂質、遊離脂肪酸があります。このうち、健康問題にかかわるのが、コレステロールとトリグリセドです。
コレステロールは、主に肝臓で作られる脂質で、細胞膜の構成成分やホルモンの材料として重要です。また、胆汁酸の原料となり、脂肪の消化・吸収を助ける役割も果たしています。
【参考情報】『コレステロール』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-012.html
コレステロールは、大きく分けてLDL(悪玉)コレステロールとHDL(善玉)コレステロールの2種類があります。
LDLコレステロールは、肝臓でつくられたコレステロールを全身に運ぶ役割があります。一方、HDLコレステロールは、血管の壁に付着した余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す役割を担っています。
この2つのバランスが崩れてLDLコレステロールが増え、HDLコレステロールが減ると、血管内にコレステロールがたまりやすくなり、動脈硬化の原因になります。
トリグリセリド(トリセグリライド)は、体脂肪の大部分を占める物質です。
【参考情報】『中性脂肪 / トリグリセリド』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-045.html
食事で摂取された糖質やたんぱく質、脂質は、まずエネルギーとして消費されますが、消費しきれずに余った分はトリグリセドに変換され、皮下脂肪や内臓脂肪として蓄えられます。
蓄えられたエネルギーは、必要に応じて分解され、不足時に活動エネルギーとして利用されます。
さらに、蓄えられた皮下脂肪や内臓脂肪は体温を保ったり、内臓を衝撃から守りその位置を安定させる役割も果たしています。
1-2.血中脂質が基準値から外れると
このように脂質は、体内で重要な役割を担っているのですが、コレステロールやトリグリセドが基準値から外れると、体に悪影響を及ぼすことがあります。
トリグリセドは、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ると体内に蓄積されます。この余った分がどんどん蓄積されることで、肥満や生活習慣病の原因となります。
さらに、トリグリセドが増えるとLDLコレステロールも増加するのですが、過剰に増えたLDLコレステロールは傷ついた血管の内側に入り込み、血管壁に蓄積されます。
こうして血管壁に溜まったLDLコレステロールは、次第に「プラーク」と呼ばれる、もろく柔らかいコブ状の塊を形成していきます。
このプラークが破れると、傷を修復するために血小板が集まり、血栓と呼ばれる血の塊が形成され、動脈硬化が進んでいきます。
【参考情報】『動脈硬化』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-082.html
特にトリグリセドが多い場合、LDLコレステロールの中でも小型で比重の高い「small dense LDL」が増加します。
このsmall dense LDLは通常のLDLコレステロールよりも小さいため、血管壁に入り込みやすく、動脈硬化のリスクを高めます。そのため「超悪玉コレステロール」とも呼ばれています。
このように、血中脂質の数値が外れることで動脈硬化が進み、その結果、心血管疾患や脳血管疾患など命にかかわる病気を発症するリスクが上昇するのです。
2.脂質異常症の原因
脂質異常症の原因は、生活習慣の乱れなどで起こる「二次性」と、遺伝や遺伝子が関与する「原発性」があります。
2-1.二次性の原因
二次性の原因には、以下のようなものが挙げられます。
・食べすぎ
・飽和脂肪酸の摂りすぎ
・飲みすぎ
・運動不足
・肥満
・喫煙
・ストレス
・糖尿病などの基礎疾患
・ステロイドなどの薬剤
二次性の脂質異常症は、生活習慣の乱れが大きく影響しています。特に食生活の影響が大きく、脂質や飽和脂肪酸の過剰摂取は、コレステロールやトリグリセドの増加につながります。
また、糖尿病や高血圧などの基礎疾患は脂質異常症と深く関連しており、動脈硬化を悪化させる原因となります。これらの病気を治療しながら、合併症の予防も同時に行うことが大切です。
2-2.原発性の原因
原発性の脂質異常症は、遺伝子異常や家族からの遺伝によって起こります。特に、家族性高コレステロール血症は遺伝の影響が大きいと言われています。
家族性高コレステロール血症は、比較的若い年齢から発症し、LDLコレステロールが大きく増加します。そのため、動脈硬化が進行しやすく、注意が必要です。
【参考情報】『家族性高コレステロール血症(FH)とは?』日本動脈硬化学会
https://www.j-athero.org/jp/general/6_fh/
3.脂質異常症の症状
脂質異常症にはほとんど自覚症状がなく、多くの人は健康診断で指摘されて初めて気づきます。
そのため、知らず知らずのうちに動脈硬化が進行し、気づいたときには狭心症や心筋梗塞、脳卒中といった重篤な病気を引き起こす可能性があります。
狭心症や心筋梗塞などの心疾患は、動脈硬化により心臓の血管が狭くなったり詰まったりするために起こります。発症すると、胸の痛みや圧迫感、息切れ、動悸、吐き気、冷や汗といった症状が現れます。
【参考情報】『急性心筋梗塞』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/coronary2/disease/acute_myocardial/index.html
脳卒中などの脳血管疾患は、やはり動脈硬化により、脳の血管が詰まったり出血したりして起こります。発症すると、頭痛や麻痺、失語症、めまい、意識障害などの症状が現れます。
【参考情報】『脳卒中』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/
心筋梗塞や脳卒中を発症すると、命にかかわることがあります。また、命はとりとめても麻痺などの障害が残り、日常生活が不自由になることがあります。
4.脂質異常症の検査
脂質異常症は、血液検査で血液中の脂質の値を調べると確認できます。
<基準値>
・LDLコレステロール 140mg/dL以上
・HDLコレステロール 40mg/dL未満
・トリグリセド 150mg/dL以上(空腹時採血)
・Non-HDLコレステロール 170mg/dL以上
Non-HDLコレステロールとは、総コレステロールからHDLコレステロールを除いた値です。
動脈硬化を引き起すコレステロールは、LDLコレステロールの他にも存在します。それらをすべて調べることで、動脈硬化のリスクを総合的に評価します。
【参考情報】『脂質異常症』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-004.html
5.脂質異常症の治療
治療には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。
まずは食事療法、運動療法を行い、効果が不十分な場合に薬物療法を追加します。
5-1.食事療法
脂質は食事によって増減するため、食事の管理は欠かせません。
まず、適切な摂取エネルギーと栄養素のバランスを保つことが重要です。その上で、中性脂肪が高い人とコレステロールが高い人、それぞれのポイントを押さえながら治療を進めていきます。
【コレステロールが高い人】
コレステロールを多く含む食事や飽和脂肪酸には気をつけ、摂り過ぎないようにしましょう。
<コレステロールが多い食材>
・卵
・たらこ、イクラなどの魚卵
・シシャモなど子持ちの魚
・塩辛など魚の内臓を用いた食品
・レバー、モツなどの内臓類
・マヨネーズ
・生クリーム
<飽和脂肪酸が多い食材>
・肉の脂身
・バター
・チーズ
・ココナッツオイル
・チョコレート
・インスタントラーメン
・ポテトチップス
反対に、不飽和脂肪酸や食物繊維、大豆製品はコレステロールを下げたり吸収を抑えたりしてくれます。
<不飽和脂肪酸が多い食材>
・サバ
・マグロ
・鮭
・ナッツ
・アボカド
油を使う際は、不飽和脂肪酸が多いオリーブオイルやひまわり油など植物性のものにしましょう。野菜や海藻、果物、きのこなど食物繊維が豊富な食材や、豆腐や納豆などの大豆製品を積極的に摂ることも大切です。
【トリグリセドが高い人】
マグロやサバなどの青魚に含まれるEPAやDHAを積極的に摂取しましょう。トリグリセドを下げてくれる効果があります。
また、糖質の摂り方にも注意が必要です。お菓子や清涼飲料水は控えつつ、主食や果物も食べ過ぎには注意して、適切な量を守りましょう。
アルコールの摂りすぎも、トリグリセドの分解が妨げられるため、気をつけましょう。
【参考情報】『脂質異常症の食事療法』日本栄養士会
https://www.dietitian.or.jp/assets/data/learn/marterial/eiyo-kanri-leaflet-H23.pdf
5-2.運動療法
運動すると代謝が良くなり、コレステロールやトリグリセドの値が改善します。
運動は、脂肪を燃焼する効果が高い有酸素運動を中心に行います。特に、ウォーキング、水泳、エアロビクスなど、大きな筋肉を動かす運動が推奨されています。
時間は、1日30分以上が目安です。1回で30分以上の運動が行えない場合は、短時間に分けて合計30分以上にするといいでしょう。
運動は、毎日続けることが重要です。毎日が難しければ、少なくとも週3日以上は行うようにしましょう。
強度は、中強度以上です。通常速度のウォーキング、あるいはそれ以上の強度で、ジョギング、サイクリング、水泳などを行う必要があります。
運動の習慣がない人は、最初から頑張りすぎるときつくなり、続けられなくなってしまいます。無理をせず、時間や頻度、強度を少しずつ上げて体を慣らしていくことが大切です。
高齢の方や基礎疾患がある方は、急に運動を始めると体に負担がかかることがあります。まずは、「いつも車で行く場所に自転車で行ってみる」「エレベーターの代わりに階段を使う」など、無理のない範囲から始めてみましょう。
【参考情報】『脂質異常症を改善するための運動』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-003.html
5-3.薬物療法
食事療法や運動療法を行っても、血中脂質の値が改善しない場合は、薬物療法を行います。また、糖尿病や高血圧などの基礎疾患がある方も、薬の服用を検討します。
薬物療法は、コレステロールが高い場合とトリグリセドが高い場合で、選択する薬が異なります。
コレステロールが高い場合は、スタチン系(HMG-CoA還元酵素阻害薬)が第一選択薬となります。
【参考情報】『Statins』NHS
https://www.nhs.uk/conditions/statins/
スタチン系の薬は、肝臓でのコレステロール生成を抑え、肝臓が血液中からLDLコレステロールを多く取り込むように促します。その結果、血液中のLDLコレステロールが低下します。
トリグリセドが高い場合の薬剤は、フィブラート系薬剤やニコチン酸誘導体、EPA製剤などです。
6.おわりに
脂質異常症は、気づかないうちに動脈硬化を進行させ、悪化させることがあります。その結果、心血管疾患や脳血管疾患のリスクが高まる可能性があります。
しかし、食事や運動で改善できることが多いので、健康診断で指摘された際は早めに病院を受診し、医師に相談しましょう。
脂質異常症と診断されたら、薬物治療だけではなく、食事と運動療法を合わせて進めてゆくことが大切です。