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高齢者の睡眠時無呼吸症候群|加齢による影響とは?

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年01月27日

年齢を重ねるにつれ、いびきがひどくなったり、眠りが浅くなったりして、睡眠の質が低下していると感じる人は多いのではないでしょうか。

加齢の影響で、睡眠の質量が変化するのは自然なことではありますが、いびきがひどくなったり熟睡できなくなる原因として、睡眠時無呼吸症候群という病気が関係している場合もあるため注意が必要です。

この記事では、睡眠時無呼吸症候群と高齢者の睡眠について解説します。睡眠時無呼吸症候群を放置すると、さまざまな合併症を引き起こす可能性があるため、ぜひ参考にしてください。

1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か


睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に無呼吸や低呼吸を繰り返す病気です。

無呼吸とは、呼吸が10秒以上止まる状態を指し、低呼吸とは呼吸の50%以上が浅くなり、その状態が10秒以上続くことをいいます。

この病気の原因には「閉塞性」と「中枢性」の2種類がありますが、多くは閉塞性が原因です。

閉塞性は、肥満やあごの形状などの影響で気道が狭くなることで発症します。中枢性は心臓や脳の病気により、呼吸をコントロールする中枢が正常に働かなくなることが原因です。

【参考情報】『Sleep apnea』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sleep-apnea/symptoms-causes/syc-20377631

2.睡眠時無呼吸症候群の主な症状


睡眠時無呼吸症候群の症状は、主に睡眠中に現れるため、自分では気づきにくいかもしれません。

そのため、「いびきがうるさい」など、周囲の人から指摘されて初めて気づくこともあるでしょう。

以下、睡眠時無呼吸症候群を疑う症状のうち、高齢者に多くみられるものを紹介します。

2-1.いびき

気道が狭くなると、狭くなった気道を空気が勢いよく通り抜けるため、気道の粘膜が震えていびきが生じます。

睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、寝ている間に一瞬息が止まるため、いびきが突然止まったと思ったら、「ガガッ」「プシュー」という音とともに再開することもあります。

睡眠時無呼吸症候群によるいびきは、中高年よりも高齢者の方が、音は小さい傾向にあります。しかし、夜通し続くことが多いため、周囲で寝ている人の睡眠を妨げる場合も少なくありません。

◆「いびきは睡眠の質を下げる?原因と影響を解説します」>>

2-2. 昼間の眠気

睡眠時無呼吸症候群を発症すると、自分では気づかなくても呼吸が止まるたびに一瞬目が覚めているため熟睡できず、日中に眠気やだるさを感じるようになります。

ただし、昼間の眠気は加齢によっても起こることがあります。年齢とともに夜間の睡眠時間が短くなったり、体力が低下したりすることで、健康な人でも日中についウトウトしてしまうことは珍しくありません。

そのため、昼間の眠気が加齢のせいなのか、病気のせいなのか、区別が難しい場合もあります。

例えば、運転中など寝てはいけない場面でも眠ってしまったり、起こしてもなかなか目覚めないほど深く眠り込むことが多ければ、注意が必要です。

◆「睡眠時無呼吸症候群と運転業務の関係」>>

2-3.中途覚醒

睡眠時無呼吸症候群の場合、無呼吸や低呼吸による息苦しさで目が覚めることがあります。

高齢になると眠りが浅くなり、些細な物音や体の不調で目が覚めてしまうことが増えますが、睡眠時無呼吸症候群の場合、目が覚めるのは一瞬なので無自覚であることも多いです。

ただ、高齢者は一度目が覚めると再び眠りにつくのが難しいので、一瞬目が覚めた後もしばらく、起きたまま過ごしてしまうこともあります。その結果、睡眠の質がさらに低下しやすくなります。

【参考情報】『高齢者の睡眠』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html

2-4.夜間の頻尿

病気により無呼吸が起こると胸腔内圧が低下し、その影響で心臓に戻る血液の量が増え、心臓に負担がかかります。

この負担を軽減するために、体は利尿ホルモンを分泌し、尿をたくさん作って水分を排出しようとします。この仕組みが、夜間の頻尿につながる原因となります。

また、高齢になると膀胱の容量が低下し、若い頃よりも尿を溜めることが難しくなるため、排尿回数が増えたり尿失禁が起きやすくなります。

さらに、無呼吸による腹部や排尿筋への圧力、あるいはトイレが間に合わないといった状況が重なり、尿失禁を引き起こす場合もあります。

【参考情報】『夜間、何度も排尿で起きる』日本泌尿器科学会
https://www.urol.or.jp/public/symptom/03.html

2-5.口が渇く

いびきをかくときは、口を開けて寝ていることが多いので、口呼吸になりがちです。

通常、吸った空気は鼻を通って加湿され体内に入りますが、口呼吸だと、加温されていない空気が直接入ってくるので、口の中が乾燥しやすくなります。

そのため、朝起きた時や夜中に口や喉が渇くことがよくあります。さらに、加齢によって唾液の分泌量が減少することも、口の渇きを悪化させる原因となります。

また、口の中が乾燥して唾液の量が減ると、口腔内の細菌が繁殖するので、朝起きたときに、口がくさいと感じることがあります。

◆「いびきは口臭の元?その理由と防ぐための対策」>>

2-6.抑うつ

睡眠時無呼吸症候群を発症すると、慢性的な睡眠不足に陥ります。その結果、イライラしたり、物事に関心や興味がなくなったりするなど、精神的な影響が現れます。

また、無呼吸による低酸素状態が脳に影響を与え、やる気が出なくなったり、元気がなくなるなどの気分障害を引き起こすこともあります。

◆「睡眠時無呼吸症候群の治療でうつ病の症状が改善?」>>

3.気道が狭くなる原因


睡眠時無呼吸症候群の主な原因は、気道が狭くなることです。

以下、気道が狭くなる原因について説明します。

3-1.肥満

肥満体型になると、首回りや舌にも脂肪がつきます。すると、首回りの脂肪によって気道が外から圧迫され狭くなります。

また、舌にも脂肪がつくと、その重みで喉の奥に落ち込んで気道を塞ぐので、気道が狭くなって空気が通りにくくなります。

◆「睡眠時無呼吸症候群は減量で改善する?」>>

3-2.口呼吸

風邪や鼻炎などで鼻づまりが生じると、鼻での呼吸が苦しくなるため、寝ている間に自然と口が開きます。

このように口を開けて呼吸をすると、舌が喉の奥に落ち込みやすくなるので、気道の閉塞につながります。

また、加齢によって口周りの筋肉が衰えると、口がポカンと開きやすくなります。すると、睡眠中も口呼吸となり、いびきが生じることがあります。

◆「口呼吸がいびきにつながる理由と予防のためにできること」>>

3-3.飲酒

アルコールには筋肉を緩ませる作用があるため、お酒を飲むと気道の筋肉が緩んで狭くなります。

そのため、寝る前にお酒を飲むと、アルコールの成分によって気道の筋肉が緩み、狭くなります。

◆「睡眠時無呼吸症候群と飲酒の関連」>>

3-4.喫煙

タバコに含まれる化学物質によって喉が刺激されることが続くと、気道に炎症が起こります。

すると、炎症によって喉が腫れるため、気道が狭くなります。

◆「タバコで睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まる理由」>>

3-5.更年期

女性ホルモンの一種であるプロゲステロンには、気道を広げる働きがあります。

しかし、更年期以降はプロゲステロンが減ってしまうので気道が狭くなり、いびきをかきやすくなります。

◆「更年期以降の女性のいびきの原因は?改善のためにできること」>>

3-6.睡眠薬

ベンゾジアゼピン系と呼ばれる一部の睡眠薬には、筋肉を緩める作用があります。

このような睡眠薬を服用すると、喉の筋肉が緩んで気道が狭くなり、いびきが起こることがあります。

◆「睡眠時無呼吸症候群でも使える睡眠薬とは?」>>

4.睡眠時無呼吸症候群の合併症


睡眠時無呼吸症候群の本当の恐ろしさは、いびきのようなよくある症状の裏で、命にかかわる合併症が生じる点にあります。

以下、睡眠時無呼吸症候群の合併症を紹介します。

4-1.心不全

睡眠中は、自律神経が交感神経優位から副交感神経優位に切り替わるので、体を休めることができます。

しかし、睡眠時無呼吸症候群の人は、寝ている間に呼吸が止まるので、そのたびに覚醒して交感神経が優位になります。

このように、睡眠中に交感神経が活発になると、心拍数や血圧が上がって心臓に負担がかかります。

さらに、無呼吸によって体内の酸素が不足すると、心臓は酸素を補うために、いつもより速く動こうとします。

この過剰な活動により、心臓への負担が続くと、心臓の機能が低下して、心不全や不整脈を引き起こすことがあります。

さらに負担が続くと、動脈硬化が進行し、心筋梗塞などの虚血性心疾患を引き起こすリスクが高まります。

◆「いびきが心臓に負担をかける理由と心疾患につながるリスク」>>

4-2.脳卒中

睡眠中の無呼吸によって交感神経が刺激され、昼夜問わず血圧が高くなると、血管に負担がかかり続け、動脈硬化が引き起こされます。

動脈硬化が進んだ血管は硬くなり、さらに脆くなるため、破れたり詰まったりしやすくなります。

特に、脳の血管で破裂や閉塞が起こると、脳出血や脳梗塞、くも膜下出血などを引き起こし、場合によっては命にかかわる危険があります。

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4-3.生活習慣病

睡眠中の無呼吸により熟睡できず、睡眠の質が低下すると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが悪くなり、糖尿病のリスクが高まります。

また、睡眠の質が低下すると、食欲を抑えるホルモンであるレプチンの分泌が下がり、反対に食欲を高めるホルモンであるグレリンの分泌が増えるので食欲が増し、太りやすくなります。

このように、睡眠不足により肥満体型になると、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を発症する可能性が高くなります。

【参考情報】『睡眠と生活習慣病の深い関係』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html

◆「睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の関係」>>

4-4.認知症

睡眠中には、アルツハイマー型認知症に関するアミロイドβ(ベータ)という老廃物が脳から除去されます。

そのため、睡眠不足が続くとアミロイドβが脳に蓄積し、アルツハイマー型認知症を引き起こすことがあります。

また、睡眠時の無呼吸が続いて血圧が上昇すると、軽度の脳卒中を起こし、その結果として血管性認知症を発症することもあります。

◆「睡眠時無呼吸症候群になると認知症のリスクが上がる?」>>

5.睡眠時無呼吸症候群の検査


睡眠時無呼吸症候群の検査に、簡易検査と精密検査の2種類があります。

5-1.簡易検査

睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まず最初に簡易検査を行います。

簡易検査は、自宅で「アプノモニター」という小型の医療機器を使って実施します。この検査で、睡眠中の呼吸状態や酸素飽和度、心拍数などを測定できます。

◆「簡易検査」についてくわしく>>

5-2.精密検査

簡易検査の後、さらに詳しい検査が必要な場合は、ポリソムノグラフィー(PSG)という精密検査を行います。

ポリソムノグラフィーでは体に多くのセンサーを取り付けるため、一般的には医療機関で一泊の入院が必要です。※当院では自宅での精密検査も可能です

精密検査では、脳波や眼球の動き、心臓の動き、酸素飽和度、胸部や腹部の動きなど、簡易検査よりも多くの項目を測定できます。

入院して検査を受ける際は、センサーの装着は医療スタッフが行うため、高齢により認知機能が低下している方でも安心して受けることができます。

◆「精密検査」についてくわしく>>

6.睡眠時無呼吸症候群の治療


睡眠時無呼吸症候群の治療は、主にCPAP(シーパップ)という医療機器を用いて行います。

治療を受けると、睡眠の質が改善するのに加え、合併症を予防することもできます。

6-1.CPAP

CPAPは、睡眠中に空気を送り込むことで気道を広げ、塞がらないようにする医療機器です。これにより、寝ている間に呼吸が止まることなく、睡眠の質が保たれます。

CPAPは、寝る前に専用のマスクを着けてスイッチを押すだけで使用できます。ただし、マスクがしっかりと装着されていないと、空気が漏れて効果が減少します。

また、高齢により認知機能が低下している方や、装着がうまくできない方には、使用が難しい場合があります。

◆「CPAP」についてくわしく>>

6-2.ASV

ASVは、心不全などで呼吸のリズムが乱れる人が使用する人工呼吸器です。睡眠時無呼吸症候群の治療では、主に中枢性の患者さんに用います。

CPAPが一定のリズムで空気を送り込むのに対し、ASVは患者さんの呼吸に合わせて適切な量の酸素を送り込むのが特徴です。

ASVもCPAPと同様に、専用のマスクを装着するだけで使用できます。

◆「ASV」についてくわしく>>

6-3.マウスピース

マウスピースは、歯科治療で使用される歯型に合わせた装置で、口の中に装着して使用します。睡眠時無呼吸症候群の治療では、主に軽度の患者さんに用いられることが一般的です。

下あごの落ち込みを防ぎ、舌を定位置に維持することで、睡眠中に気道が狭くなるのを防ぎます。

ただし、総入れ歯の人や抜歯などで歯が少なくなっている人、歯周病の人は使用できません。

◆「マウスピース」についてくわしく>>

6-4.手術

口蓋垂(のどちんこ)が肥大して気道がふさがれている人は、口蓋垂やその周囲を切除する手術で気道を広げることもあります。ただし、手術には術後の出血や感染といったリスクが伴います。

特に高齢者の場合、高血圧や糖尿病などの持病があることが多いため、術後に合併症が起こるリスクは高いと認識しておきましょう。

◆「手術」についてくわしく>>

7.おわりに

睡眠時無呼吸症候群は、肥満体型の中高年男性に多い病気という印象を持つ人が多いかもしれません。しかし、高齢者の場合、肥満体型でなくても加齢による筋力低下が原因で発症することがあります。

睡眠時無呼吸症候群を未治療なまま放っておくと、最悪の場合、心筋梗塞や脳卒中を起こし、寝ている間に命を落とすこともあります。疑わしい症状があれば呼吸器内科を受診し、検査を受けましょう。

治療により、いびきや昼間の眠気は軽減します。それに加え、合併症も予防できるので、早めの対処が肝心です。

◆当院の睡眠時無呼吸症候群治療について>>

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