ブログカテゴリ
外来

いびきと甲状腺の関係|機能低下の影響は?

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年02月17日

いびきは、甲状腺の機能が低下することで引き起こされる場合があります。

甲状腺は、体全体の代謝を調整する重要なホルモンを分泌しています。そのため、機能低下によりホルモンの分泌量が不足すると、さまざまな体調不良が現れ、いびきの原因になることがあります。

この記事では、いびきと甲状腺の関係、さらに治療による改善の可能性について解説します。

いびきのほか、「寝ても疲れが取れない」「日中の眠気が続く」といった症状がある方は、ぜひご一読ください。

1.いびきとは


いびきは、空気の通り道である気道が狭くなると生じます。通常より狭くなった気道を通り抜ける際に、空気に勢いがつくため、気道の粘膜が振動して音が出るのです。

いびきは、風邪や飲酒、疲れ、ストレスなどが原因で出ることがあります。このような場合は、例えば「風邪が治った」「アルコールが抜けた」といったように、原因が解消されると自然といびきも治まります。

しかし、毎晩のようにいびきが出る場合は、何らかの病気が隠れている可能性があるので注意が必要です。

【参考情報】『Snoring』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/snoring/symptoms-causes/syc-20377694

2.甲状腺とは何か


甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にある臓器です。蝶が羽を広げたような形をしており、気管を巻き込むようにして存在します。

大きさは約4cm、重さは15~20gほどの小さな臓器なので、通常は首を触っても確認できません。しかし、腫れている場合には触れて確認できることがあります。

甲状腺では、昆布やワカメなどの食材に含まれるヨウ素を材料にして、甲状腺ホルモンを作っています。作られたホルモンは貯蔵され、必要に応じて適量が血液中に分泌されます。

【参考情報】『ヨウ素について』環境省
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/current/03-07-16.html

甲状腺ホルモンの分泌は、脳下垂体によってコントロールされています。脳下垂体は「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」を分泌し、甲状腺ホルモンの分泌量が適切な範囲内に保たれるよう調整しています。

【参考情報】『Pituitary Gland』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/21459-pituitary-gland

甲状腺ホルモンは全身の臓器に働きかけ、エネルギーの産生や代謝、成長・発育、さらには循環器系の調整に重要な役割を果たしています。

具体的には、タンパク質や糖質、脂質を分解してエネルギーを生み出し、体を動かすためのエネルギーを供給しています。また、酸素の消費量を増やすことで基礎代謝を上げています。

【参考情報】『Thyroid Hormone』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/22391-thyroid-hormone

甲状腺ホルモンの分泌が不足すると、全身の代謝が低下するため、エネルギーが十分に作られず、基礎代謝も下がります。

その結果、寒さや疲れを感じやすくなり、食事量が変わらなくても体重が増えることがあります。さらに、消化管の働きが悪化し、便秘がちになることも少なくありません。

甲状腺ホルモンは、胎児や子どもの成長・発達を促す重要な役割を果たしています。そのため、このホルモンが不足したり過剰に分泌されたりすると、女性では、不妊や流産の原因になることがあります。

また、甲状腺ホルモンは心拍数を上げたり、心臓の働きを強化したりする作用もあります。そのため、ホルモンの分泌が不足すると、心拍数が下がったり、心臓の動きが弱まったりする症状が現れることがあります。

【参考情報】『Thyroid』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/23188-thyroid

3.甲状腺機能低下でいびきが出る理由


この章では、甲状腺の機能低下によって、いびきが出る理由を説明します。

3-1.筋肉の緊張がゆるんで気道が狭くなる

甲状腺の機能が低下すると、筋肉の代謝に影響が生じるため、筋肉がゆるみやすくなります。すると、気道周辺の筋肉もゆるむため、気道が狭くなります。

健康な人でも、寝ている間は筋肉がゆるむものですが、そこに甲状腺の機能低下が加わると、さらに筋肉がゆるんで気道が狭くなり、いびきをかきやすくなります。

3-2.舌が肥大して気道をふさぐ

甲状腺の機能低下により代謝がうまくできなくなると、ムコ多糖類という物質が皮下に蓄積されます。ムコ多糖類には水分を引き寄せる性質があるため、増えるとむくみを引き起こします。

【参考情報】『Mucopolysaccharides』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/002263.htm

また、甲状腺機能低下は循環器系にも影響を与えるので、心臓の働きが悪くなります。その結果、心臓が十分に血液を循環させられなくなると血流が滞り、水分や老廃物の回収ができなくなり、むくみが生じます。

このような影響で舌もむくむと、むくんだ舌が喉の奥に落ち込んでしまうことがあります。すると、気道が舌で塞がれて狭くなり、いびきを引き起こす原因になります。

3-3.肥満

甲状腺の機能低下が肥満を引き起こす理由はいくつかあります。

ひとつは、生きるために必要な最低限のエネルギーである基礎代謝の低下です。基礎代謝が低下すると、体内のエネルギーが消費されにくくなり、結果として肥満になることがあります。

【参考情報】『BMR (Basal Metabolic Rate)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/basal-metabolic-rate-bmr

さらに、代謝が低下すると、食べ物から摂取したカロリーを十分に消費できなくなるため、残ったカロリーが体に蓄積されていきます。すると、食べていなくても体重が増え、肥満になる可能性が高まります。

次に、脂質の代謝が悪くなることで、中性脂肪が増えます。中性脂肪が過剰になると体に蓄積され、やはり肥満の原因となります。

【参考情報】『中性脂肪 / トリグリセリド』e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-045.html

さらに、甲状腺の機能低下により胃腸の働きが弱まると、便秘が起こりやすくなります。便秘になると、老廃物が体内に長時間残り、腸内環境が悪化します。その結果、必要な栄養素の吸収が妨げられて代謝がさらに低下し、太りやすくなります。

【参考情報】『Constipation』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/constipation/symptoms-causes/syc-20354253

肥満が進行すると、体だけでなく首回りにも脂肪がつき、気道が圧迫されます。また、舌にも脂肪がつくことで、舌が喉の奥に落ち込んで気道が狭くなり、いびきが生じることがあります。

4.甲状腺の機能が改善すればいびきは治まるのか


甲状腺の機能低下が原因でいびきが発生している場合、治療を受けることでいびきが改善する可能性があります。

この章では、検査や治療の方法、いびきの改善についてくわしく説明します。

4-1.甲状腺の検査

甲状腺の機能を調べるためには、血液検査や超音波検査が行われます。

血液検査では、甲状腺ホルモン(FT3、FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定が行われます。これにより、甲状腺ホルモンが適切に分泌されているか、過剰または不足していないかを確認します。

また、甲状腺ホルモンの分泌は脳下垂体によって調整されているため、脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンを測定することで、間接的に甲状腺の機能を評価します。

超音波検査では、超音波診断装置(エコー)を使用して甲状腺の状態を確認します。これにより、甲状腺の大きさや形状、血流量などを調べ、診断に役立てます。

【参考情報】『超音波検査の実際』日本超音波検査学会
https://www.jss.org/general/general04.html

4-2.甲状腺ホルモン補充療法

検査により、甲状腺の機能が低下していると判断されたら、チラーヂンやチロナミンなどの薬剤を用いて、足りない甲状腺ホルモンを補う補充療法が行われます。

薬剤は、血液検査で甲状腺ホルモンの値を確認し、適切な量を調整しながら服用します。薬の量が多すぎると、発汗や手足の震え、動悸が現れることがあるので、このような副作用が出た場合は、早めに医師に相談することが大切です。

4-3.治療をしてもいびきが続くなら

治療により甲状腺ホルモンが適切な量でコントロールされると、エネルギー産生や代謝が正常に戻ります。

すると、甲状腺の機能低下によって現れていた筋肉のゆるみや体のむくみ、肥満などが徐々に改善されます。その結果、気道が圧迫されなくなり、いびきも改善されるでしょう。

ただし、治療を行ってもいびきが続く場合は、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする別の病気が隠れている可能性があります。

睡眠時無呼吸症候群が原因でいびきが発生している場合、ホルモン補充療法とは別の治療も必要となります。

5.睡眠時無呼吸症候群とは


睡眠時無呼吸症候群の主な症状に、毎日のように続く激しいいびきがあります。

5-1.どんな病気か

睡眠時無呼吸症候群とは、寝ている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。

医学的には、無呼吸とは呼吸が10秒以上止まることを指し、低呼吸は普段の呼吸より呼吸量が半分以下になる状態が10秒以上続くことを意味します。

無呼吸や低呼吸が1時間に平均5回以上繰り返される場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。

◆「睡眠時無呼吸症候群」についてくわしく>>

5-2.主な症状

睡眠時無呼吸症候群の主な症状にいびきがあります。いびきの音は大きく、しかも夜通し続くことも多いため、一緒に寝ている人を起こしてしまうこともあります。

さらに、日中の倦怠感や起床時の疲労感、中途覚醒、頭痛などの症状も現れることがあります。

また、無呼吸が頻繁に起こると睡眠の質が大きく低下し、日中ひどい眠気に襲われることがあります。そのため、運転中など寝てはいけない場面でも我慢できずに眠ってしまうことがあります。

◆「睡眠時無呼吸症候群と運転業務の関係性」>>

5-3.原因

睡眠時無呼吸症候群は、主に閉塞性と中枢性の2種類に分けられます。患者の多くは閉塞性です。

閉塞性は、肥満やあごの骨格、アデノイドの肥大などが原因で気道が狭くなることが原因で生じます。

◆「肥満による睡眠時無呼吸症候群の症状を改善する食事・栄養の摂り方」>>

一方、中枢性は、心臓や脳、神経などの病気により、呼吸を調整する脳の指令がうまく働かなくなることが原因で起こります。

5-4.検査

睡眠時無呼吸症候群の検査には、簡易検査と精密検査の2種類があります。

簡易検査は、自宅でアプノモニターという医療機器を装着して行います。この方法では、普段通りの睡眠環境で検査できるため、自然な状態での結果が得られます。

◆「簡易検査」についてくわしく>>

ただし、簡易検査で測定できる項目は限られているため、さらにくわしく調べたい場合は精密検査が必要です。

精密検査は、一般的には医療機関で一泊入院して行います。この検査では、より多くのデータを取得でき、くわしい診断が可能です。
 ※当院では自宅での精密検査が可能です

◆「精密検査」についてくわしく>>

5-5.治療

睡眠時無呼吸症候群の治療には、主にCPAP(シーパップ)を使用します。

CPAPは、気道が閉塞しないように強制的に空気を送り込む医療機器です。治療を始めると比較的早く効果が現れ、ぐっすりと眠れるようになり、睡眠の質が向上します。

◆「CPAP」についてくわしく>>

また、原因や症状の重さに応じて、ASV(自動調整陽圧呼吸療法)やマウスピース、手術などが検討されることもあります。

◆「ASV」についてくわしく>>

◆「マウスピース」についてくわしく>>

◆「手術」についてくわしく>>

6.おわりに

いびきは、甲状腺の機能低下が原因で発生することがあります。その場合、甲状腺ホルモン補充療法を受けることで、いびきが改善する可能性があります。

一方、いびきが生じる病気には、甲状腺の機能低下以外にも、睡眠時無呼吸症候群やアレルギー性鼻炎などがあります。

もし、ホルモン補充療法治療を受けてもいびきが改善しない場合は、睡眠時無呼吸症候群の疑いもあるので、検査ができる病院を探して受診してみましょう。

睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、心臓や血管に負担がかかり、さまざまな合併症が引き起こされる恐れがあります。

しかし、治療により合併症は予防でき、いびきも改善します。

◆当院の睡眠時無呼吸症候群治療について>>

電話番号のご案内
電話番号のご案内
横浜市南区六ツ川1-81 FHCビル2階