運動誘発性喘息|アスリート喘息の症状・治療・予防法
運動すると、咳き込んだり息切れがすることはよくあります。
特に、激しいスポーツに挑戦したときや、普段あまり体を動かさない人が運動したときにはありがちなことです。
しかし、少し体を動かしただけで苦しくなったり、運動のたびに息苦しさが現れているのなら、運動によって喘息の発作が起こっているのかもしれません。
この記事では「運動誘発性喘息」についてくわしく解説します。
目次
1.運動誘発性喘息とは
運動誘発性喘息とは、運動により喘息の症状が引き起こされる病気です。アスリート喘息とも呼ばれています。
運動すると「ゼーゼー」「ハーハー」と呼吸が苦しくなったり、咳が止まらなくなったりします。
運動誘発性喘息は、症状が現れるタイミングによって2種類に分けられます。
・即時型反応:運動してすぐに症状が現れる
・遅延型反応:運動を終えてから6~12時間後に症状が現れる
即時型反応は、すぐに症状が現れるので異変に気づきやすいのですが、遅延型反応は、運動してから症状が現れるまでの時間にズレがあるため、運動が原因だとは分かりにくいことが多いです。
運動誘発性喘息は、もともと喘息を持っている人によく見られますが、これまで喘息と診断されたことがない人でも発症することがあります。
普段は喘息の症状がなくても、運動によって症状が出たり続いたりするなら、運動誘発性喘息を疑います。
【参考情報】『Exercise-induced asthma』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/exercise-induced-asthma/symptoms-causes/syc-20372300
2.運動誘発性喘息の原因
運動により喘息の発作が引き起こされる主な原因は、空気の通り道である気道が刺激に敏感になることと、呼吸の回数が増えることにあります。
運動時は、体が酸素を多く取り込もうとするので、呼吸の回数が増えます。そのため呼吸が激しくなると、気道が乾燥したり、冷たい空気を吸い込んで冷えてしまいます。すると、気道の粘膜が敏感となり、少しの刺激にも反応して咳や息苦しさが現れます。
さらに、戸外で行うスポーツの場合、グラウンドに舞うホコリや、花粉などのアレルギー物質を吸い込むことでも気道が刺激され、症状が引き起こされることがあります。
3.運動誘発性喘息が起こりやすい・起こりにくい種目
運動誘発性喘息が起こりやすいスポーツと、起こりにくいスポーツを紹介します。
3-1.運動誘発性喘息が起こりやすいスポーツ
例えば、マラソン、サッカー、テニス、バスケットボールなど長時間走り回るスポーツは、呼吸の回数が増えるので、運動誘発性喘息が起こりやすくなります。
さらに、マラソンやサッカーなど外で行うスポーツは、気温や湿度による環境要因も加わるため、発作が誘発されやすいです。
また、空気が冷たく乾燥している冬は、気道の粘膜が敏感になりやすいため、スキーをはじめとしたウインタースポーツでも症状が出やすくなります。
3-2.運動誘発性喘息が起こりにくいスポーツ
運動誘発性喘息が起こりにくいスポーツは、途中で休憩できるスポーツと、室内で行うスポーツです。
中でもおすすめなのは水泳です。室内のプールは水温が調整され湿度も高いので、気道が潤って刺激を受けにくくなります。
また、ウォーキングのような自分のペースで無理なくできる運動や、ゴルフのように休憩をはさみながら行える運動もよいでしょう。
4.運動誘発性喘息の検査
運動誘発性喘息の疑いがあれば、下記のような検査を行います。医療機関によっては、トレッドミルなどで運動負荷をかけてから検査を行うこともあります。
4-1.画像検査
X線(レントゲン)、CT(コンピューター断層撮影)などで肺の画像を撮影し、異常がないかどうかを調べます。
4-2.血液検査
血液中にある細胞や抗体を調べ、全身の状態を確認します。また、アレルギーに関する数値や炎症の有無などもわかります。
4-3.肺機能検査
肺活量や吐く息の速さなどを調べ、肺の状態を確認します。スパイロメトリーやモストグラフなどの種類があります。
5.運動誘発性喘息に用いる薬
運動誘発性喘息は、運動開始前に以下のような薬を服用しておくと、症状が出にくくなります。
なお、ドーピング検査を受けるようなアスリートの場合、ドーピング検査にひっかかってしまう薬もあるため注意が必要です。
医師に相談して、自分に合った薬を選んでもらいましょう。
5-1.短時間作用性吸入β2刺激薬
気道を拡げて呼吸をラクにしたり、咳を鎮める薬です。
・メプチン
5-2.クロモグリク酸ナトリウム
ヒスタミンやロイコトリエンなど、アレルギー症状を引き起こす化学物質が体内に放出されるのを抑える薬です。
5-3.ロイコトリエン受容体拮抗薬
アレルギーを引き起こす物質・ロイコトリエンの働きを妨げる薬です。
・オノン
6.運動誘発性喘息の予防法
運動誘発性喘息があっても、過度に運動を制限する必要はありません。
むしろ、普段から運動を行っていないと体力が不足して息切れなどの症状も起きやすくなるため、適度な運動で体を鍛えるのは、とてもいいことです。
症状をできるだけ予防しながら、自分に合った運動を続けていきましょう。
6-1.ウォーミングアップ
運動前には5~10分の準備運動を行い、ゆっくりと体を慣らしていきましょう。いきなり激しい運動を行うと、喘息発作が起きやすくなります。
ウォーミングアップは手足の運動から始め、徐々に全身の運動へと進めていくと、呼吸が乱れにくくなります。
6-2.マスクの着用
マスクを着用すると、冷たい空気や汚れた空気を吸い込むことを防いで、気道への刺激を抑えることができます。また、気道の乾燥も防ぐことができます。
ただし、マスクをつけていると、呼吸をしにくくなることもあるので、運動の長さや強度に応じて適宜外しましょう。
6-3.喘息の治療を継続する
医師から喘息だと診断された人は、喘息の治療を続けて発作が起こりにくい状態を保っていきましょう。
喘息の治療薬には、毎日続けて服用する長期管理薬(コントローラー)と、発作が起こったときに使う発作治療薬(リリーバー)があります。
喘息の人の気道は、症状がないときでも炎症が続いているので、自己判断で治療を止めてしまうと再び症状が現れ、さらに悪化する恐れがあります。
発作が起こったときや、運動する前にだけ薬を使用するのではなく、毎日長期管理薬を使うことで、運動しても症状が出にくい体をつくっていきましょう。
7.おわりに
運動すると咳や息苦しさが現れる人は、運動誘発性喘息の疑いがあります。当てはまる人は呼吸器内科を受診して相談してください。
また、ドーピング検査を受けるアスリートの方の場合、その旨を医師にしっかり伝え、薬を検討してもらいましょう。
運動誘発性喘息があっても、運動をしてはいけないわけではありません。症状をコントロールしたり、発作を予防しながら、スポーツを楽しんで健康的な体をつくりましょう。