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職業性喘息とは|職場で咳が出る人は要注意!

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)

家では問題ないのに、職場にいる時だけ咳が出る人は、「職業性喘息」の疑いがあります。

喘息は、アレルギーの原因となる物質や、気道を刺激する物質を吸い込むことで発症・悪化する恐れがあります。もし、職場に粉塵や刺激の強い物質などが多ければ、喘息のリスクが高い環境であると考えられます。

この記事では、職業性喘息の原因や治療についてくわしく説明します。思い当たる人は、ぜひ読んでください。

1.職業性喘息とは


職業性喘息とは、職場での業務中に特定の物質にさらされることで引き起こされる喘息のことです。

症状は一般の喘息と同じで、咳や息苦しさ、喘鳴(ぜんめい:ゼイゼイ・ヒューヒューという特有の呼吸音)などが現れます。

職業性喘息の場合、職場で原因物質にさらされている間に症状が強くなります。一方、仕事が休みの日は症状が軽くなる傾向にあります。

発症時期は、人によってさまざまです。その仕事に就き始めてすぐに発症することもあれば、発症までに数年かかることもあります。

【参考情報】『さまざまなぜん息 職業性ぜん息』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/job.html

◆「喘息」についてくわしく>>

2.職業性喘息の原因物質


職業性喘息の原因となる物質には、刺激物質と感作物質があります。

刺激物質は、直接気道を刺激して症状を引き起こす物質です。原因となる物質の濃度が高ければ、1回吸い込んだだけでもすぐに症状が現れることがあります。

【主な刺激物質】

 ・煙

 ・塩素

 ・酢酸

 ・粉塵

感作物質は、高分子量物質と低分子量物質に分類され、どちらもアレルギーの作用により症状を引き起こします。

高分子量物質は、さらに動物性物質と植物性物質に分けられます。

 ・動物性:動物の毛やフケ、カイコのサナギなど 

 ・植物性:小麦粉、花粉、コーヒー豆、ラテックス(ゴムの木由来)など 

低分子量物質には、化学物質や薬品、金属などがあります。

 ・化学物質:イソシアネート、過硫酸アンモニウム、洗剤など

 ・金属:ニッケル、クロムなど

職業性喘息のほとんどが、感作物質が原因で発症します。また、さらされる原因物質の量や頻度に比例して、発症する可能性も高くなります。

【参考情報】『Occupational Asthma』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/asthma/occupational-asthma

3.職業性喘息が引き起こされる可能性がある仕事


この章では、職業性喘息が引き起こされる可能性がある仕事を紹介します。

3-1.動物に触れる職業


動物と接する機会が多い職業に従事している人は、動物のフケや毛などのアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)に頻繁に触れるため、職業性喘息を発症する恐れがあります。

(例)
獣医師、トリマー、動物園職員、実験用動物を扱う研究者

【参考情報】『Preventing Asthma in Animal Handlers』CDC
https://www.cdc.gov/niosh/docs/97-116/default.html

3-2.小麦粉・そば粉を扱う職業

小麦粉やそば粉が原因となり、アレルギーが引き起こされることがあります。

パンやそば、うどん、ピザなど、小麦粉やそば粉を原料とする食べ物を作っている人は、粉を吸い込む機会が多いため、職業性喘息のリスクがあります。

【参考情報】『Baker’s asthma: Still among the most frequent occupational respiratory disorders』Journal of Allergy and Clinical Immunology
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(98)70337-9/fulltext

3-3.ゴム手袋をつける職業

業務上、ゴム手袋をつける機会が多い人は、「ラテックス」として知られる天然ゴム製品に含まれる成分がアレルゲンとなり、喘息が引き起こされることがあります。

(例)
医師、看護師、清掃業、製造加工業、建設業

【参考情報】『NIOSH ALERT: Preventing Allergic Reactions to Natural Rubber Latex in the Workplace』CDC
https://www.cdc.gov/niosh/docs/97-135/pdfs/97-135.pdf

3-4.化学物質にさらされる職業

業務で扱う素材や薬品に含まれる化学物質に反応し、喘息が引き起こされることがあります。

(例)
 ・塗装業:ウレタンに含まれるイソシアネート

 ・美容師:髪の脱色剤に含まれる過硫酸アンモニウム

 ・クリーニング業:洗剤や漂白剤

【参考情報】『Preventing Asthma and Death from Diisocyanate Exposure DHHS』CDC
https://www.cdc.gov/niosh/docs/96-111/default.html

3-5.金属を加工する職業

合金製造業、溶接業など金属を加工する職業の人は、金属の粉塵によって症状が引き起こされることがあります。

原因となる金属の例

 ・タングステン

 ・コバルト

 ・ニッケル 

【参考情報】『Occupational asthma caused by nickel sulfate』Journal of Allergy and Clinical Immunology
https://www.jacionline.org/article/0091-6749(82)90088-4/fulltext

4.職業性喘息の検査


職業性喘息の診断には、検査のほか、問診も非常に重要です。

医師が職業性喘息を疑うためには、患者さんの仕事内容や職場の環境を把握し、症状がいつどのような状況で現れるのかを確認する必要があります。

4-1.画像検査

胸部X線(レントゲン)やCTで肺の画像を撮影して確認します。

喘息の場合、通常は画像上で明らかな変化は見られませんが、他の呼吸器疾患と区別するために必要な検査です。

◆「レントゲン写真から、呼吸器内科でわかること」>>

4-2.血液検査

血液を採取して、アレルギーの有無や、どんな物質に対してアレルギーがあるのかを調べます。

4-3.肺機能検査

以下のような検査で、肺の機能や気道の状態などを確認します。

 ・呼気NO検査:吐いた息の中に含まれる一酸化窒素の量を測定する

 ・スパイロメトリー:肺活量など、肺の機能を調べる

 ・モストグラフ:息が吐きだしにくくなっているかどうかを調べる

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査」についてくわしく>>

5.職業性喘息の治療


職業性喘息の治療は、一般の喘息の治療と同様に、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などを使った薬物療法が中心となります。

吸入ステロイド薬は、気道の炎症を抑える薬です。気管支拡張薬は、気道や気管支を広げて、呼吸をしやすくする薬です。

◆「喘息治療に使う吸入薬の種類と特徴、副作用」>>

ただし、病気の原因となる物質を職場で吸い込み続けていれば、薬物治療だけでは症状が改善しづらいため、原因物質を避けることも重要です。

6.職業性喘息の予防法


症状の悪化を防ぐためには、喘息の原因となる物質を避けることが最善ですが、仕事上、難しいこともあるかもしれません。

なるべく原因物質を遠ざけることができるよう、以下の方法を参考に、できる範囲で試してみてください。

6-1.原因物質を吸い込まない

粉塵などの原因物質を吸い込むことが多い仕事では、通常、その物質を吸い込まないようにするための対策が職場で定められています。

マスクや防護服の着用など、職場で指定された対策があれば、規則を守って毎回手順通りに行いましょう。

また、原因物質を吸い込む量を少しでも減らすため、可能なら換気をすることもおすすめです。

6-2.環境を変える

可能であれば、原因物質にさらされない部署への配置転換を相談してみましょう。社内に産業医がいれば、産業医に相談するのもいいでしょう。

【参考情報】『産業医とは』東京都医師会
https://www.tokyo.med.or.jp/sangyoi/whats

7.おわりに

職場で業務中に咳や息苦しさが現れるなら、職業性喘息を発症している可能性があります。思い当たる人は、呼吸器内科を受診して相談してください。

職業性喘息は、原因となる物質を避け、適切な治療を行えば症状は改善します。しかし、仕事上、原因物質を避けるのが難しい場合は、その物質に触れない環境での仕事が可能かどうか、検討してみてください。

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